大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

横浜地方裁判所 昭和33年(カ)3号 判決 1959年6月25日

横浜市神奈川区栗田谷三六番地

再審原告

佐々木清

同市同区五六番地

再審被告

松本ウメ承継人松本八五郎

外四名

右再審被告五名訴訟代理人弁護士

青木三代松

同市神奈川区栗田谷三六番地

再審引受参加人

豊島揚

右再審引受参加訴訟代理人弁護士

井原邦雄

長尾憲治

藤本博光

右当事者間の昭和三三年(カ)第三号土地明渡請求再審事件について、次のとおり判決する。

主文

本件再審の訴を却下する。

再審の訴訟費用は再審原告の負担とする。

事実

再審原告は、横浜地方裁判所が、昭和二六年二月三日同庁昭和二四年(ワ)第一九号土地明渡請求事件について言渡した確定判決はこれを取消す。再審被告等の請求を棄却する。本訴および再審の訴訟費用は再審被告等の負担とする旨の判決を求め、再審の事由として、横浜地方裁判所は昭和二六年二月三日亡松本ウメを原告、再審原告とする同庁昭和二四年(ワ)第一九号土地明渡請求事件について、亡松本ウメ勝訴の判決を言渡し、これに対し再審原告は、右判決を不服として、同年二月二〇日、弁護士柿原幾男を代理人として東京高等裁判所に控訴を提起したが、右代理人は同裁判所から同年四月一六日午前一〇時の口頭弁論期日につき適式の呼出を受けたにもかかわらず、右期日に出頭せず、なお期間指定の申立をしなかつたため、三ケ月の期日の経過により控訴を取下げたものとみなされ、右判決は再審原告敗訴のまま確定した。

右は柿原弁護士が訴訟委任の本旨に反し、再審原告に財産上の損害を加える目的(未必的故意)をもつて、任務に背き不作為により再審原告敗訴の第一審判決を確定せしめ、再審原告に財産上の損害を加えたものというべきで、右柿原弁護士の行為は背任罪に当り、再審原告は民事訴訟法第四二〇条第一項第五号の「刑事上罰すべき他人の行為」により判決に影響を及ぼすこと明らかな前記判決の違法即ち(イ)罹災都市借地借家臨時処理法第二条第一項による再審原告の「賃借権設定の申出」を「使用貸借」と誤認し、(ロ)強行法規である同法第二条第三項に違反する特約を有効と認定した違法に対する防禦方法の提出を妨げられたものである。そして右柿原弁護士は、昭和二九年一〇月八日死亡しているため、同人に対する有罪の確定判決を得ることができない場合に当るから再審の申立に及ぶと述べ、なお再審原告は、昭和三〇年一一月四日、横浜地方裁判所において、同庁昭和二四年(ワ)第一九号土地明渡請求事件の記録を閲覧して始めて右の再審事由を知つたものであると附陳し、再審乙第一号証の一、二、三の成立を認めた。

再審被告等訴訟代理人及び再審引受参加訴訟代理人は、いづれも主文第一、二項同旨の判決を求め、答弁として再審原告主張の判決がその主張の経緯により確定したことは認めるが、その余は否認し、再審原告主張の事実が再審事由にあたるとしても、再審原告は、昭和二六年一〇月上旬頃、横浜地方裁判所執行吏により右の確定判決に基く強制執行をうけているのであるからすくなくともその際本件再審事由を知つたものである。従つてその後三〇日以上を経過した昭和三〇年一二月二日に提起された本件再審の訴は不適法として却下されるべきものである。仮りにしからずとするも前記判決には何ら違法がないから、本件再審の訴の却下を求めると述べ、再審被告等訴訟代理人は立証として再審乙第一号証の一、二、三を提出した。

理由

横浜地方裁判所が亡松本ウメを原告、再審原告を被告とする同裁判所昭和二四年(ワ)第一九号土地明渡請求事件につき昭和二六年二月三日右松本ウメ勝訴の判決を言渡し、再審原告が弁護士柿原幾男を訴訟代理人として東京高等裁判所に控訴を申立てたが、右柿原弁護士が適式の呼出をうけながら控訴審における同年四月一六日午前一〇時の口頭弁論期日に出頭せず、また期日指定の申立をしなかつたため、三ケ月の期間の経過により控訴を取下げたものとみなされ、再審原告敗訴の前記第一審判決が確定したことは、当事者間に争がない。

再審原告は、右柿原弁護士の訴訟行為の懈怠をもつて背任行為とし、民事訴訟法第四二〇条第一項第五号の再審事由に当ると主張するけれども、当事者双方が控訴審の口頭弁論期日に出頭せず、かつ三月内に期日指定の申立をしないため控訴を取下げたものとみなされた結果、第一審判決が確定するに至つた場合は、たとえ控訴代理人の訴訟行為の懈怠が所論のように背任行為に当る場合であつても、再審原告主張の再審事由には該当せず、かつ同条所定の再審事由のいづれにも該当しないものと解するを相当とする。けだし、然らずとせんか、かかる場合、控訴人は、さきに終結した第一審手続になんらの瑕疵なきにかかわらずその後新たに再審として開始する第一審手続において、新たな攻撃防禦方法を提出して第一審裁判所の判断を求め得ることとなりかくのごときは再審により確定判決に対する不服申立の途を開いた法意にそわないものと解せられるからである。

よつてその余の判断をするまでもなく、本件再審申立を却下すべきものとし、訴訟費用につき民事訴訟法第八九条第九五条を適用して主文のとおり判決する。

横浜地方裁判所第一民事部

裁判長裁判官 大場茂行

裁判官 高井清次

裁判官 惣脇春雄

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例