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横浜地方裁判所 平成5年(行ウ)23号 判決 1999年9月08日

原告

道脇昭司

右訴訟代理人弁護士

西村隆雄

藤田温久

三嶋健

南雲芳夫

根本孔衛

杉井厳一

篠原義仁

児嶋初子

岩村智文

被告

川崎南税務署長 黒澤政夫

右指定代理人

日景聡

木上律子

長谷川良則

宇山聡

佐藤大助

荒川政明

栗原牧彦

主文

一  被告が原告に対し平成三年三月八日付けでした原告の次の所得税に関する処分の取消しを求める訴えのうち、次の部分の取消しを求める部分をいずれも却下する。

1  昭和六二年分

(一)  更正処分のうち、納付すべき税額六万〇四〇〇円以下及び六七万一五〇〇円を超える部分

(二)  過少申告加算税の賦課決定処分のうち、六万六五〇〇円を超える部分

1  昭和六三年分

(一)  更正処分のうち、納付すべき税額一万四八〇〇円以下及び二八万一〇〇〇円を超える部分

(二)  過少申告加算税の賦課決定処分のうち、二万六〇〇〇円を超える部分

3  平成元年分

(一)  更正処分のうち、納付すべき税額二二万二四〇〇円を超える部分

(二)  過少申告加算税の賦課決定処分のうち、二万二〇〇〇円を超える部分

二  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告が原告に対し平成三年三月八日付けでした原告の昭和六二年分、同六三年分及び平成元年の所得税の各更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分を取り消す。

第二事案の概要

一  事案

本件は、特定貨物自動車運送業を個人で営む原告の所得税について、被告がした推計課税が違法であるとして、原告が更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分の取消しを求めたものであり、主要な争点は、調査の適法性の有無、推計の必要性の有無及び推計の合理性の有無である。

二  基礎となる事実(証拠の掲記のない事実は当事者間に争いのない事実である。)

1  原告

原告は、特定の荷主との契約に基づき自動車(軽自動車を除く。)により貨物の運送を行う者(いわゆる特定貨物自動車運送業を営む者)であり、個人事業者である。

2  本件申告

(一) 原告は、昭和六二年分、同六三年分及び平成元年(以下「本件各係争年分」という。)の所得税の確定申告書に次のとおり記載し、いわゆる白色申告の方法により、法定申告期限までに申告した(以下「本件申告」という。)。

(1) 昭和六二年分

事業所得 一〇九万二一九〇円

納付すべき税額 六万〇四〇〇円

(2) 昭和六三年分

事業所得 六七万円

納付すべき税額 一万四八〇〇円

(3) 平成元年分

事業所得 三四万〇九一二円

納付すべき税額 〇円

(二) 本件申告の際の確定申告書には、事業所得に係る収入金額欄に記載がなく、収支計算書も添付されていなかった。また、原告は、昭和六二年分及び同六三年分の確定申告書の職業欄に、「土建」業と記載していた(甲三、四)。

3  本件処分

被告は、本件申告に対し、平成三年三月八日付けで、事業所得及び納付すべき税額を次のとおりとする更正処分並びに次のとおりの過少申告加算税の賦課決定処分(以下、これらの処分を「本件処分」という。)を行った。

(一) 昭和六二年分

事業所得 五九八万二三一二円

納付すべき税額 八九万五二〇〇円

過少申告加算税 九万九五〇〇円

(二) 昭和六三年分

事業所得 四五四万三一五一円

納付すべき税額 五〇万四二〇〇円

過少申告加算税 四万八〇〇〇円

(三) 平成元年分

事業所得 三三七万四五五三円

納付すべき税額 二八万六九〇〇円

過少申告加算税 二万八〇〇〇円

4  異議決定及び裁決

原告は平成三年五月七日被告に対し異議を申し立て、被告は同年七月三一日これを棄却する決定をした。原告は同年八月二六日国税不服審判所長に対し審査請求をし、国税不服審判所長は、平成五年二月二六日付けで、事業所得、納付すべき税額及び過少申告加算税を次のとおりとする本件処分の一部取消しの裁決を行い、同年三月六日、原告に対し、裁決書謄本を送達した。

(一) 昭和六二年分

事業所得 四九八万二〇三九円

納付すべき税額 六七万一五〇〇円

過少申告加算税 六万六五〇〇円

(二) 昭和六三年分

事業所得 三三三万二七六六円

納付すべき税額 二八万一〇〇〇円

過少申告加算税 二万六〇〇〇円

(三) 平成元年分

事業所得 二七三万〇一四五円

納付すべき税額 二二万二四〇〇円

過少申告加算税 二万二〇〇〇円

三  主要な争点及び当事者の主張

1  調査の必要性の有無について(争点1)

(一) 被告の主張

調査は、確定申告に係る課税標準又は税額等に誤りがある疑いが客観的に存在している場合に限って認められるものではなく、申告に係る課税標準又は税額等の内容、特にその算定根拠が明らかでない場合にも認められるものであり、原告の確定申告書の内容等に照らせば、本件では調査の必要性は認められる。

(二) 原告の主張

調査は、確定申告にかかる課税標準・税額等が過少である等の合理的な疑いがある場合等に認められるものであるが、本件ではそのような事情は存在せず、調査の必要性(所得税法二三四条一項)はなかった。

2  事前通知の必要性の有無について(争点2)

(一) 被告の主張

質問検査の実施の日時及び場所の事前通知、調査の理由及び必要性の個別的、具体的な告知等は、質問検査を行う上で法律上一律に要求されるものではない。仮に、本件の調査を担当した川崎南税務署の寺島哲郎係官(以下「寺島係官」という。)が平成二年一一月五日及び同月一六日に事前の通知なく原告宅に赴いたとしても、これによって本件処分が違法となるものでない。

(二) 原告の主張

調査日時の事前通知は、被調査者の防御にかかわる前提的な事項であるから、適正な質問検査の実施のため、被調査者に対する事前通知を行うことが不可欠である。

3  調査理由の具体的な告知の要否について(争点3)

(一) 被告の主張

調査理由の開示は、相手方の私的利益との衡量において社会通念相当な程度にとどまる限り、権限ある税務職員の合理的な選択、裁量に委ねられ、質問検査を行う上での法律上の要件ではない。本件では、原告が調査の理由を具体的に開示することを要求したところ、寺島係官は、本件各係争年分の所得税の調査のためということ以上に理由を告げなかったのであるが、これにより本件の調査が違法となるものではない。

(二) 原告の主張

被調査者の防御を実効化し、適正な課税を行うためには、調査の具体的理由を告知することが必要である。

4  立会人の存在を理由に調査を打ち切ることの適否について(争点4)

(一) 被告の主張

実定法上特段の定めのない税務調査の実施の細目については、質問検査の必要があり、かつ、右必要と相手方の私的利益との衡量において社会通念上相当な限度にとどまる限り、権限ある税務職員の合理的な選択に委ねられているものであり、調査の場に第三者の立会いを認めるか否かについても同様である。本件で第三者である立会人が存在することを理由に調査を打ち切ったことが違法と認められるような事情はない。

(二) 原告の主張

第三者を調査に立ち会わせることは、被調査者にとって、自己の権利を防御するために必要不可欠であり、立会人の排除が許されるのは、立会いを認めることによる以上の不利益があることが明白な場合に限られる。本件では、そのような事情はない。

5  推計の必要性の有無について(争点5)

(一) 被告の主張

原告が立会人のいない場所での調査に応じず、このため被告は原告の総収入金額、必要経費の具体的な数額を把握することが不可能だったのであるから、推計の必要性があったことは明らかである。

(二) 原告の主張

寺島係官は、立会人の排除に拘泥することなく、原告の提示した帳簿書類等を調査することによって、原告の所得を収入、仕入れ、経費等から実額で算定することに何ら障害はなかったのである。したがって、推計の必要性はなかった。

6  推計の合理性の有無について(争点6)

(一) 被告の主張1(主位的主張)

別紙1の1のとおり、その時点において把握し得た原告の総収入金額に、比準同業者(別紙1の2ないし4)の平均特前所得率を乗じて算出した金額(特前所得金額)をもって、原告の事業所得の金額を推計する。

なお、特前所得金額とは、青色申告に係る特典の控除前の所得金額であり、総収入金額から必要経費の合計額を控除した金額をいい、平均特前所得率とは、比準同業者の売上(収入)金額に対する特前所得金額の割合の平均をいう。また、被告が抽出した比準同業者は、川崎南税務署管内に住所及び事業所を有し、本件各係争年分において次の要件をすべて満たす者である。

(1) 青色申告の承認を受けている者

(2) 本件各係争年分の各年分ごとにそれぞれ売上(収入)金額が原告の二分の一以上二倍以下の者

(3) 年を通じて「特定貨物運送業」を営んでいる者

(4) 青色事業専従者がいない者

(5) 給与支払のある者

(6) 次の<1>及び<2>のいずれにも該当しない者

<1> 災害等により経営状態が異常であると認められる者

<2> 更正又は決定処分がされている者のうち、次のイ又はロに該当する者

イ 当該処分について国税通則法又は行政事件訴訟法の規定による不服申立期間又は出訴期間の経過していない者

ロ 当該処分に対して不服申立てがされ、又は訴えが提起され現在審理中の者

(二) 被告の主張2(予備的主張)

別紙2の1のとおり、その時点において把握し得た原告の総収入金額に、比準同業者(別紙2の2ないし4)の平均特前所得率を乗じて算出した金額(特前所得金額)をもって、原告の事業所得の金額を推計する。

被告が抽出した比準同業者は、本件各係争年分において、原告の納税地を管轄する川崎南税務署長及び同署に隣接する神奈川県下の各税務署長に所得税の確定申告書を提出している者のうち、本件各係争年分において次の要件をすべて満たす者である。

(1) 青色申告の承認を受けている個人の事業所得者

(2) ダンプカーを用いて、年を通じて「特定貨物運送業」を営んでいる者

(3) 本件各係争年分の各年分毎にそれぞれ売上(収入)金額が原告の二分の一以上二倍以下の者

(4) 給与賃金又は外注費(台車料を含む。)の支払のある者

(5) 青色事業専従者のいない者

(6) 次の<1>及び<2>のいずれにも該当しない者

<1> 災害等により経営状態が異常であると認められる者

<2> 更正又は決定処分がされている者のうち、次のイ又はロに該当する者

イ 当該処分について国税通則法又は行政事件訴訟法の規定による不服申立期間又は出訴期間の経過していない者

ロ 当該処分に対して不服申立てがされ、又は訴えが提起され現在審理中の者

(三) 原告の主張

(1) 本件処分(原処分)、裁決及び本訴において用いられている比準同業者は著しく変遷し、また、ダンプカーを用いて砂利、砕石など残土を運ぶ原告と同様の事業をしている者の数と較べ比準同業者の数が著しく少なく、本件での比準同業者の抽出が不合理なものであることは明らかである。本件では、比準同業者の抽出の条件に、トラック等の運送車両の使用台数、右運送車両の償却期間、従業員数、従業員の雇用月数、運送する物の種類、運輸大臣の許可の有無、元請業者か下請業者かという条件を付加しなければ、比準同業者の抽出方法として合理性がない。現に、被告の抽出した比準同業者の特前所得率を見ると、二二・五〇パーセントから五八・四三パーセントと二倍以上の開差がある。また、被告の主位的主張と、これに「ダンプカーを用いて」との限定を比準同業者の抽出条件に付した予備的主張とを比較すると、右のような条件を付したのみで比準同業者が大きく減少しているから、右のような条件を付した場合には、結果がさらに大きく変わることが推測される。

(2) 原告は、ぜん息によって三か月にわたって売上げを欠いたことがあり、被告が比準同業者の条件とした「年を通じて」との要件を満たしていない。

(3) (被告の主張2に対して)

被告は、川崎南税務署長及び同署に隣接する神奈川県下の各税務署長に所得税の確定申告書を提出している者から比準同業者を抽出したというが、被告がその管内を比準同業者の抽出地域の一つとした川崎西税務署は、比準同業者に関する資料の作成及び報告を求める通達である乙六の1ないし5が発遣された平成七年四月四日当時、川崎南税務署に隣接していなかった。それにもかかわらず、川崎西税務署管内を抽出地域としたため、平均特前所得率は高いものとなっており、被告の抽出方法は不合理である。また、被告は、川崎南税務署に隣接する蒲田税務署を抽出地域から除外しているが、経済的類似性、一体性の観点からすれば、これを除外することは不合理である。

(四) (三)の主張に対する被告の反論

(1) 原告の主張(三)(1)のような条件は、推計自体を全く不合理とするほど顕著な営業条件上の差異とはいえないから、これを考慮しなかった被告の推計が不合理であるとはいえない。

(2) 原告の主張(三)(2)の事実は、医師の診断書や基礎となる帳簿による立証がない。

(3) 蒲田税務署管内を抽出地域に入れなかったのは、東京都と神奈川県では経済圏が異なることによる。

7  他事目的による違法性の有無について(争点7)

(一) 原告の主張

本件の調査及び本件処分は、民主商工会弾圧の目的という違法な意図をもってされたものであり、本件処分は取り消されるべきである。

(二) 被告の主張

右原告の主張は争う。

8  本件処分の適否について(争点8)

(一) 被告の主張

本件処分における原告の納付すべき税額(いずれも裁決により一部取り消された後のもの。)は、二4のとおりであり、主位的主張における別紙1の1又は予備的主張における別紙2の1の納付すべき税額の範囲内であるから、本件処分は適法である。

(二) 原告の主張

右(一)は争う。

第三当裁判所の判断

一  訴えの利益の存否

原告は、本件処分の全部の取り消しを求めているが、裁決で本件処分(原処分)の一部が取り消された部分については、取消しを求める対象を欠くことになるから、その部分に係る原告の訴えは不適法というべきである。また、本件訴えのうち、確定申告の額以下の取消しを求める部分については、原告の自認する部分の取消しを求めるものであって、訴えの利益を欠き、不適法というべきである。

したがって、本件訴えのうち、次の部分の取消しを求める部分は不適法である。

1  昭和六二年分

(一) 更正処分のうち、納付すべき税額六万〇四〇〇円以下及び六七万一五〇〇円を超える部分

(二) 過少申告加算税の賦課決定処分のうち、六万六五〇〇円を超える部分

2  昭和六三年分

(一) 更正処分のうち、納付すべき税額一万四八〇〇円以下及び二八万一〇〇〇円を超える部分

(二) 過少申告加算税の賦課決定処分のうち、二万六〇〇〇円を超える部分

3  平成元年分

(一) 更正処分のうち、納付すべき税額二二万二四〇〇円を超える部分

(二) 過少申告加算税の賦課決定処分のうち、二万二〇〇〇円を超える部分

二  本件処分に至る経緯

前記基礎となる事実、証拠(甲六、二八、乙一、一一、証人寺島哲郎、証人石田吉友、原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

1  本件申告の内容と調査の必要性

原告は、いわゆる白色申告の方法により、法定申告期限までに本件申告を行ったが、本件申告の確定申告書には、事業所得に係る収入金額欄の記載がなく、収支計算書も添付されていなかったから、本件各係争年分の所得金額の算出経過が不明であった。また、昭和五九年分ないし同六一年分の所得税に係る税務調査に基づく修正申告があった後、確定申告に係る事業所得の金額が低下していた。

2  調査日の取り決め等

(一) 寺島係官の直属の上司であった渡邊統括官は、本件申告の内容が、前記1のとおりであったため、寺島係官に対し、原告の調査を指示した。

(二) 寺島係官は、平成二年一一月五日、確定申告書記載の原告の電話番号に電話をかけたが、留守のようで連絡は取れなかった。寺島係官は、同日午前一一時三〇分ころ、原告方に赴いたが、原告は不在であったので、原告宅の入口ドアに、不在票(以下「不在票(一)」という。)を差し込み、帰署した。不在票(一)には、同月一六日午前一〇時ころ再度赴く予定である旨及び当日都合が悪い場合には連絡してほしい旨が記載されていた。

(三) 原告からは、同月一六日まで、寺島係官に対し、何の連絡もなかった。

寺島係官は、同日午前一〇時ころ、原告宅に赴いたが、原告は不在であったので、不在票(以下「不在票(二)」という。)を原告宅の入口ドアに差し込み、帰署した(争いがある。)。不在票(二)には、本件各係争年分の所得税の確定申告等の内容について尋ねるため同日午前一〇時ころ原告宅に赴いたが会えなかった旨、同月一七日午前九時ころ、寺島係官あてに連絡してほしい旨及び連絡がない場合には独自の調査を行う旨が記載されていた。

(四) 寺島係官が同日原告宅から帰署した後、原告から寺島係官に電話があり、このとき、寺島係官は、原告に所得税の調査に赴きたい旨を告げた。原告は、調査の日として、同月二七日午後一時を指定し、寺島係官はこれを了解した(争いがない。)。

3  平成二年一一月二七日の臨場調査の状況

(一) 寺島係官は、平成二年一一月二七日午後一時ころ、原告宅に赴いた。原告は、寺島係官を、テーブルが置かれている六畳間へ案内した。寺島係官は、原告に対し、自らの官職及び氏名を明らかにし、身分証明書及び質問検査章を提示し、所得税の調査の目的で臨場した旨を告げた。

(二) 寺島係官が案内された右六畳間には、川崎幸民主商工会(以下「幸民商」という。)の会員(税理士資格は有していない。)四名が待機していた。その四名の中では、当時、幸民商の事務局次長であった石田吉友(以下「石田」という。)のみが、本件各係争年分の原告の申告事務に関与していた。右六畳間のテーブルの上には、収支決算書や原資料が、茶封筒のようなものの中に入れて置かれていた。

(三) 寺島係官が、原告に対し、右四名と原告の関係を質問したところ、原告は、これらの者は民主商工会の関係者であり、原告の依頼によってその場に立ち会っている旨を述べた。寺島係官は、原告に対し、税務職員には法律によって守秘義務が課せられており、調査に関係のない第三者を立ち会わせた状況では調査を行うことができない旨を説明し、右四名をその場から退出させること、その上で確定申告書記載の所得金額の算出の起訴となる書類を提示することを求めた。これに対し、原告は、「立会人は自分が呼んだのだからいいではないか、貴殿たちは勝手なことばかりやっている、だから、立会人が必要なんだ、守秘義務は、貴殿にあっても自分にはない、そんなものは貴殿が守ればいいことだ、今日はせっかく仕事を休んだのだから、今日の日当をもらいたいぐらいだ。」と述べた(おおむね争いがない。)。

(四) 立会人のうち一名は、「貴殿が勝手なことをしないように見張っているのだ。」との趣旨のことを述べた。さらに、原告及び石田は、原資料については用意してあるので調査を進めてほしいと述べ、テーブルの上の資料を示した。

寺島係官は、「調査に立ち会う資格のない人がいる状態で調査を行うことは、守秘義務に反することになってしまうので、そういうことはできません。ですから、この人達にお帰りいただいて帳簿等を見せてください。」、「せっかく仕事を休んでもらったのだから、係官において調査ができるような状態で調査させてください。」と数回にわたって原告に説明した。原告は、「何度も同じことを言うものではない。立会人のいる状態で調査をしてほしいと言っているのだ。」、「令状でも持って来ない限り、何度同じことを言っても絶対に調査には応じない。」旨を述べた。

そこで、寺島係官は、右六畳間のテーブルの上に置かれていた茶封筒のようなものの内容を確認することもなく、午後一時三〇分すぎ、原告宅を辞去した(おおむね争いがない。)。原告宅において、寺島係官は、原告に対し、所得の確認であるという程度の調査理由の説明はした。

4  平成二年一一月二七日の臨場調査後の状況

寺島係官は、3と同じ平成二年一一月二七日、川崎信用金庫加瀬支店における原告名義の預貯金等及びこれに関連する銀行取引について、いわゆる反面調査を行った。

また、その後、一か月ほどして、寺島係官は、原告に電話をかけ、原告に対し、再度調査で伺いたい旨を話すとともに、立会人を呼ぶつもりであるかどうかを尋ねたところ、原告が呼ぶと回答したので、そうであれば原告宅には赴かない、こちらで調査をする旨を告げた(争いがない。)。

5  平成三年二月二六日の訪問

寺島係官は、取引先等の調査に基づき原告の事業所得の金額を算定したところ、本件申告の所得金額は過少と認め、平成三年二月二六日、修正申告の意思の有無を確認するため、原告に対し電話をかけたが連絡は取れず、同日、原告宅に赴いた。しかし、原告が不在であったため、不在票(以下「不在票(三)」という。)を、原告宅の入口ドアに差し込み、帰署した。不在票(三)には、調査結果が出たので同月二八日までに電話連絡又は来署してほしい旨及び連絡がない場合には更正処分となる旨が記載されていた。しかし、原告は、寺島係官に連絡をしなかった。

以上のとおり認められ、これに反する証人寺島哲郎及び証人石田吉友の証言並びに原告本人の供述は、客観的証拠及び弁論の全趣旨に照らし、採用することができない。

三  調査の必要性の有無(争点1)

1  所得税法二三四条一項は、「国税庁、国税局又は税務署の当該職員は、所得税に関する調査について必要があるときは、次に掲げる者に質問し、又はその者の事業に関する帳簿書類その他の物件を検査することができる。」と規定するが、その必要性の認定は税務職員の自由な裁量に委ねられているものではなく、その客観的な必要性が認められなければならないと解される(最高裁昭和四八年七月一〇日第三小法廷決定・刑集二七巻七号一二〇五頁参照)。

そこで、本件についてこの点を見ると、原告の行った本件申告に際しての確定申告書には、事業所得に係る収入金額欄に記載がなく、収支計算書の添付もなかったことは前示のとおりである。ところで、所得税法一二〇条一項は確定申告書に記載すべき内容について規定し、また、同条四項は、確定申告書に「所得に係るその年中の総収入金額及び必要経費の内容を記載した書類を当該申告書に添付しなければならない。」と規定し、所得税法施行規則四七条の三第一項柱書きは、所得税法一二〇条四項の規定により確定申告書に添付を要する書類には「不動産所得、事業所得又は山林所得のそれぞれについて(中略)これらの所得の金額の計算上総収入金額及び必要経費に算入される金額を、次の各号に規定する項目の別に区分し当該項目別の金額を記載しなければならない。」と規定している。したがって、前記のとおりこれらの規定が遵守されていなかった本件申告について、被告としては原告の申告に係る課税標準ないし税額等の算定根拠が不明であり、調査をする客観的な必要性があったと認めることができる。

2  原告は、所得税法二三四条一項の定める調査の必要性は、確定申告にかかる課税標準・税額等が過少である等の合理的な疑いがある場合等に認められると主張する。しかし、調査の必要性については1前段の解釈によるべきであり、原告の右主張は採用することができない。

また、原告は、「川崎南税務署ないし被告と幸民商の交渉によって、被告は従前から確定申告書の事業所得に係る収入金額欄への記載や収支計算書の添付は不要である旨を言明しており、実際の運用においても、これらを請求されたことは一度もなかった。」と主張する。しかし、事実関係の真偽及び仮にそれがあったとした場合におけるその趣旨は定かではないが、仮に右のような事情があったとしても、そのことと調査の必要性とは別問題であり、そのことにより調査の必要性が排除されるものとは解されない。

よって、原告の右の点に関する主張は、理由がない。

四  事前通知の必要性の有無(争点2)

1  所得税法二三四条一項の定める質問検査については、その範囲、程度、時期、場所等実定法上特段の定めのない実施の細目につき、質問検査の客観的な必要性があり、かつ、これと相手方の私的利益との衡量において社会通念上相当な限度にとどまる限り、権限ある税務職員の合理的な選択に委ねられているものと解され、また、実施の日時場所の事前通知、調査の理由及び必要性の個別的、具体的な告知も、質問検査を行う上での法律上一律の要件とされているものではない(前記最高裁昭和四八年七月一〇日決定)。

本件についてこれを見ると、寺島係官は、平成二年一一月一六日、不在票(二)を原告宅の入口ドアに差し込み、この不在票(二)を見た原告からの電話において、調査の日時を決め、これに従い同月二七日の調査に赴いていることは前示のとおりであるから、このような調査の方法は、原告の私的利益との衡量においても、社会通念上相当な限度にとどまっているといえる。

2  原告は、調査日時の事前通知は、被調査者の防御にかかわる前提的な事項であるから、適正な質問検査の実施のため、被調査者に対する事前通知を行うことが不可欠であると主張するが、1前段のとおりに解すべきであり、原告の右主張は採用することができない。

また、原告は、平成二年一一月五日に寺島係官が不在票(一)を原告に交付していないこと又はその方法が不適切であったこと並びに同日及び同月一六日に寺島係官が原告宅に赴く前に電話や手紙等の手段によって原告と連絡を取らなかったから、本件においては事前通知が行われなかったと主張するようである。

しかし、原告が、少なくとも同月一六日に不在票(二)を見て寺島係官に電話したことが契機となって同月二七日を調査日とする合意ができたわけであるから、現実にされた調査については事前に合意がされていたものである。そして、原告が問題とする事前通知なしの調査は、寺島係官が原告方に臨場しても原告が不在であったため、現実には行われなかったのであるから、仮に事前通知の一般論について原告主張の考え方を採ったとしても、本件における具体的状況下では原告の主張は理由がない。

五  調査理由の具体的な告知の要否(争点3)

1  原告は、被調査者の防御を実効化、適正な課税を行うためには、調査の具体的理由を告知することが必要であると主張し、被告は、そのような告知は必ずしも必要ではないと反論するので、この点について判断する。

2  所得税法二三四条一項の定める質問検査については、質問検査の客観的な必要性があり、かつ、これと相手方の私的利益との衡量において社会通念上相当な限度にとどまる限り、権限ある税務職員の合理的な選択に委ねられているものと解され、また、調査理由の告知も、質問検査を行う上での法律上一律の要件とされているものではない(前記最高裁昭和四八年七月一〇日決定)。

本件においてこれを見ると、寺島係官は、原告宅に臨場した際には、原告に対し、所得の確認であるという程度の調査理由の説明はしたこと、原告が目にした不在票(二)には、本件各係争年分の所得税の確定申告等の内容についてお尋ねするためと記載されていたことは前示のとおりであるから、右の調査理由の告知が、原告の私的利益との衡量において社会通念上相当な限度をこえると認めることはできない。

よって、原告の主張は、理由がない。

六  立会人の存在を理由に調査を打ち切ることの適否(争点4)

1  原告は、第三者を調査に立ち会わせることは、被調査者にとって、自己の権利を防御するために必要不可欠であり、立会人の排除が許されるのは、立会いを認めることによる以上の不利益があることが明白な場合に限られるから、本件で立会人の存在を理由に調査を打ち切ったことは違法であると主張する。

2  調査における立会人の許否について定めた明文の規定はないところ、このように実定法上特段の定めのない質問検査の実施の細目については、質問検査の客観的な必要性があり、かつ、これと相手方の私的利益との衡量において社会通念上相当な限度にとどまる限り、権限ある税務職員の合理的な選択に委ねられているものと解されることは前示のとおりである。そして税務調査においては、調査の内容が、被調査者のみならず、その取引の相手方である第三者の営業上の秘密にも及ぶこともあることから、税務職員には守秘義務が課されているのであり(国家公務員法一〇〇条一項、所得税法二四三条)、税務職員が、右のような守秘義務を遵守し得るような状況の下で調査を遂行しようとすることは、もとより正当なことである。とりわけ、調査に際しては、被調査者の取引先について被調査者に尋ねるような状況が生じると予想されるところ、第三者がこれに立ち会っていると右取引先の情報が立会第三者に伝わってしまい、結局係官は守秘義務を果たせないことになる。もっとも、被調査者以外の第三者が主導的に申告書類を作成し、被調査者が申告の中身を全く理解していないといったような場合には、そのような者の立会いを認めるべき実際上の必要性が生じるかもしれない。したがって、第三者たる立会人の排除は、右のような観点に照らし、その違法性の有無を判定すべきである。

本件についてこれを見ると、原告が、寺島係官に対し、調査に立ち会わせることを要求した四名のうち、石田を除いては、原告の申告事務に関与していたわけではないことは前示のとおりである。そして、本件全証拠及び弁論の全趣旨に照らして見ても、石田が主導的に原告のために申告書類を作成し、原告が申告の中身を全く理解していないといったような事情までは認めることはできない。このことからすると、少なくとも本件については、寺島係官が立会人を排除したことは、原告の私的利益との衡量において、社会通念上相当な限度にとどまるということができ、これについて違法をいう原告の主張は、理由がない。

七  推計の必要性の有無(争点5)

1  前示のとおり、原告が立会人排除の要請に応じなかったため、寺島係官は調査を進めることができなかったものである。したがって、推計課税の必要性が生じたといわざるを得ない。

2  原告は、寺島係官が立会人の排除に拘泥することなく、原告の提示した帳簿書類等を調査することによって、原告の所得を収入、仕入れ、経費等から実額で算定することに何ら障害はなかったのであるから、推計の必要はなかったと主張する。しかし、寺島係官が第三者の立会いを認めなかったことが相当であることは前記六のとおりであるから、原告の右主張は前提において採用することができない。

八  推計の合理性の有無(争点6)

1  被告の主張1(主位的主張)について検討するが、別紙1の1の本件各係争年分の収入金額については当事者間に争いがなく、証拠(乙二ないし五、証人佐野占)によれば、被告は、別紙1の2ないし4のとおりの比準同業者(被告の主位的主張の条件を満たす同業者)を抽出し、平均特前所得率を算出し、原告の総収入金額にこの比準同業者の平均特前所得率を乗じて、事業専従者のいない原告の事業所得を推計した事実を認めることができる。

そして、右の比準同業者抽出のための方法に偏りがないことは、証人佐野占の証言から明らかである。さらに、本件における比準同業者の抽出基準の骨子は、原告が住所及び事業所を有する川崎南税務署管内を抽出地域とし、売上(収入)金額の規模についていわゆる倍半基準を満たしている「年を通じて特定貨物運送業を営んでいる者」というものであり、営業地域、業務の規模及び業務の内容において原告と著しい格差を示す特殊な同業者を排除しようとするものであって、おおむね首肯し得るものである。

なお、被告は、「特定貨物運送業」という基準を使用するが、これは、特定の荷主との契約に基づき自動車(軽自動車を除く。)により貨物の運送を行う事業のことをいうとされる(被告の自認するところである。)。もっとも、被告内部において作成している業種別名簿において、「特定貨物運送業」という分類基準はなく、それに代わるものとして、特定貨物自動車運送業がある(証人遠藤喜男)ところ、原告が訴状において「特定貨物運送業」の用語を使用したので、被告は、それに合わせて「特定貨物運送業」の用語を本訴において使用したものであり、その意味するところ、特定貨物自動車運送業と同一である(被告の自認する事実)。そこで、以下、「特定貨物運送業」の用語を、特定貨物自動車運送業と意味においては特に区別をせず、括弧を付けて使用する。

2(一)  これに対し、原告は、ダンプカーを用いて砂利、砕石など残土を運ぶ事業をしているから、トラック等の運送車両の使用台数、右運送車両の償却期間、従業員数、従業員の雇用月数、運送する物の種類、運輸大臣の許可の有無、元請業者か下請業者かという条件を付加していない1の同業者の抽出方法は不合理であると主張する。

確かに、原告の営業の実態に近いものを抽出して推計を行った方が、原告の実際の収益等にも近いものを推計することができると一般論としてはいえよう。しかし、納税者と比準同業者の類似性を過度に要求すると、推計の方法による課税自体を不可能としてしまう。法が推計による課税を認める以上、業種及び業態、事業所の近接性、事業規模等の基本的な要因において比準同業者の抽出が合理的であれば、比準同業者間に通常存在する程度の個別的な営業諸条件の差異は、それが推計を不合理ならしめる程度に顕著なものでない限り、その平均値を算出する過程で捨象され、右推計値をもって真実の所得金額と認定することも許されるべきである。

これを本件について見ると、「年を通じて『特定貨物運送業』を営む者」という基準により抽出されるのは、自動車の種類を問わないから、ダンプカーを用いる事業も他のいわゆるライトバンのような運送車両(軽自動車を除く。)を用いる事業も含まれることになる。実際に、被告の予備的主張における抽出結果(乙七ないし九の各1ないし5)によれば、被告の主位的主張における抽出基準に、「ダンプカーを用いて」という条件を付加すると、主位的主張においては本件各係争年分(三年分)で一九名抽出されていた比準同業者が、予備的主張においては一名を除いて比準同業者から除外される結果となり、このことからも、右のことは裏付けられている。ところで、右のように1の基準に「ダンプカーを用いて」との条件を付加すると、比準同業者の数が減少し、抽出地域を拡げなければ比準同業者の特前所得率を算出できなかったのであるが、このように抽出地域を広げることには、類似性を減少させるとの問題がある。もっとも、1の基準に右のように「ダンプカーを用いて」を付加し、さらに「青色申告の承認を受けている者」の条件を除外すると、川崎南税務署管内だけでも同業者が複数得られるのではないかと思われるが、平均特前所得率を算出するための正確なデータを収集するためには、記帳に法定の様式が要求されている青色申告の承認を受けている者を対象にせざるを得ないので、青色申告の承認を受けている者に限ることは、やむを得ないものであると考えられる。

そもそも、ダンプカーを用いているかどうかだけでなく、原告の主張するトラック等の運送車両の使用台数、右運送車両の償却期間、従業員数、従業員の雇用月数、運送する物の種類、運輸大臣の許可の有無、元請業者か下請業者かという条件を考慮した上、他の推計の条件(例えば、業務内容の実態が砂利、砕石等の運送をする運輸大臣の許可を受けていない者)までも共通にしようとすると、そのような青色申告の同業者の抽出が困難となる。反面それらの条件は、いずれも比準同業者間に通常存在する程度の個別的な営業諸条件の差異にすぎないというべきである。

よって、(一)冒頭の原告の主張は、理由がない。

(二)  原告は、本件処分(原処分)、裁決及び本訴において用いられている比準同業者は著しく変遷し、本件での比準同業者の抽出が不合理なものであることは明らかであると主張する。

しかし、本件処分(原処分)、裁決及び本訴において用いられている比準同業者が著しく変遷していたとしても、推計の必要があって、抽出基準が合理的なものであり、同業者抽出のための方法に偏りがない限り、複数の抽出基準によること自体は、問題はない。

(三)  また、原告は、ダンプカーを用いて砂利、砕石など残土を運ぶ原告と同様の事業をしている者の数と較べ、比準同業者の数が著しく少なく、本件での比準同業者の抽出が不合理であり、右のように比準同業者の数が著しく少なくなったのは、被告に備え置かれている業種別名簿に、原告と同様の事業をしている者が、「特定貨物運送業」として分類されていないことによるのではないか、また、このような事業をしている者は、運輸大臣の許可を得ていないことが多く、確定申告書の「職業」欄に運送業と記載すると公的融資の申請において不利となるので、「建材業」又は「土建業」と記載するのが通例であり、「特定貨物運送業」として分類されていない可能性があるというのである。

原告は、その印象上、1による抽出同業者数が実態よりも少ないというが、「青色申告の承認を受けている者」という条件があるので、そもそも比準同業者の数が必ずしも少ないとは思えない。また、証拠(証人遠藤喜男)及び弁論の全趣旨によれば、被告は、「建材業」及び「土建業」という業種名を右の業種別名簿に設けていないが、そのような業種名を記載した確定申告書を提出する事業者については、青色申告決済書の仕入勘定に金額の記載がないかを調べ、その記載がなければ「特定貨物運送業」に分類することが認められる。したがって、原告の同業者が被告の業種別名簿に「特定貨物運送業」として分類されていないために抽出者数が少ないとの原告の右主張は、理由がない。

(四)  原告は、ぜん息によって三か月にわたって売上げを欠いたことがあり、被告が比準同業者の条件とした「年を通じて」との要件を満たしていないと主張する。しかし、そもそも右事実について、医師の診断書や基礎となる帳簿等の客観的な証拠がない。また、仮に右のような事実があるとして、それに類似した同業者を抽出するために年に三か月間売上げを欠く事業者といった条件を付そうとしても、実際問題として抽出が困難となる。被告が、推計を行うための比準同業者を抽出する際には、年の途中で廃業になった者など、特殊事情のある者を排除することがむしろ必要なことであり、実際問題として把握が不可能な原告の一時的な事情までを考慮して比準同業者を抽出することはできないし、また、その必要はないばかりか、無理にそうしようとすると、特殊事情のある同業者の特殊な数値を使用することにもなって、かえって合理性を欠くことになる。そして、本件では、原告が問題とする休業の月は、昭和六三年八月、一一月、一二月の三か月にすぎず、この昭和六三年について、被告は、少なくとも九か月分の原告の売上げに、比準同業者の平均特前所得率を乗じて原告の事業所得を推計しているのであるから、多少の誤差(原告の稼働の有無に無関係な固定費用に関して誤差が生じることになる。)があるとしても、その誤差は、推計課税の手法として法の認める許容範囲内にあるということができる。

よって、原告の右主張は採用することができない。

(五)  そうすると、他に明らかに優る抽出方法がないことになるので、本件においては、1の基準によることもあながち不合理ではないということができる。

九  他事目的による違法性の有無(争点7)

原告は、本件の調査及び本件処分が民主商工会弾圧の目的という違法な意図をもってされたから、本件処分は違法であると主張する。

前記二4の臨場調査から反面調査に切り替わる経緯及び時期等に関する事情等から見ると、寺島係官が、所詮原告の協力は得られないとの予測の下に作業を進めていたものと推認することができ、それは、原告側からすると、寺島係官が何らかの目的をもってのことではないかのように感じさせる原因となるのかもしれない。

しかし、本件において、それ以上に被告が特定の団体(民主商工会)を弾圧する目的をもって本件処分を行った等という事実を認めるに足りる的確な証拠はない。よって、本件処分に標記の違法があるということはできない。

一〇  本件処分の適否(争点8)

被告の主位的主張における推計が合理性を有するものであることは前記のとおりであるが、その結果として算出された納付すべき税額(別紙1の1)は、本件処分における納付すべき税額(ただし、前記第二、二4の裁決により取り消された後のもの。)を上回っているから、結局、本件処分に過大認定の違法はない。

一一  結論

以上の次第であり、原告の訴えのうち、次の部分(1 昭和六二年分 (一) 更正処分のうち、納付すべき税額六万〇四〇〇円以下及び六七万一五〇〇円を超える部分、(二) 過少申告加算税の賦課決定処分のうち、六万六五〇〇円を超える部分、2 昭和六三年分 (一) 更正処分のうち、納付すべき税額一万四八〇〇円以下及び二八万一〇〇〇円を超える部分、(二) 過少申告加算税の賦課決定処分のうち、二万六〇〇〇円を超える部分、3 平成元年分 (一) 更正処分のうち、納付すべき税額二二万二四〇〇円を超える部分 (二) 過少申告加算税の賦課決定処分のうち、二万二〇〇〇円を超える部分)の取消しを求める部分はいずれも不適法であるからこれらを却下し、原告のその余の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岡光民雄 裁判官 近藤壽邦 裁判官 弘中聡浩)

別紙1の1 主位的主張

昭和六二年分

収入金額 一六一〇万七四六四円

比準同業者(別紙1の2)の特前所得率 三九・四四パーセント

特前所得金額 六三五万二七八三円

事業所得の金額(原告には事業専従者がおらず、特前所得金額から控除すべき金額はないので、特前所得金額と同額。以下同じ。) 六三五万二七八三円

納付すべき税額 九八万七七〇〇円

昭和六三年分

収入金額 一一二一万七六五七円

比準同業者(別紙1の3)の特前所得率 三四・四六パーセント

特前所得金額 三八六万五六〇四円

事業所得の金額 三八六万五六〇四円

納付すべき税額 三六万八六〇〇円

平成元年分

収入金額 六七六万二八〇六円

比準同業者(別紙1の4)の特前所得率 四一・八八パーセント

特前所得金額 二八三万二二六三円

事業所得の金額 二八三万二二六三円

納付すべき税額 二三万二六〇〇円

別紙1の2

比準同業者(昭和62年分)

<省略>

別紙1の3

比準同業者(昭和63年分)

<省略>

別紙1の4

比準同業者(平成元年分)

<省略>

別紙2の1 予備的主張

昭和六二年分

収入金額 一六一〇万七四六四円

比準同業者(別紙2の2)の特前所得率 三八・四三パーセント

特前所得金額 六一九万〇〇九八円

事業所得の金額 六一九万〇〇九八円

納付すべき税額 九四万七〇〇〇円

昭和六三年分

収入金額 一一二一万七六五七円

比準同業者(別紙2の3)の特前所得率 三六・四三パーセント

特前所得金額 四〇八万六五九二円

事業所得の金額 四〇八万六五九二円

納付すべき税額 四一万二八〇〇円

平成元年分

収入金額 六七六万二八〇六円

比準同業者(別紙2の4)の特前所得率 四一・六〇パーセント

特前所得金額 二八一万三三二七円

事業所得の金額 二八一万三三二七円

納付すべき税額 二三万〇八〇〇円

別紙2の2

比準同業者(昭和62年分)

<省略>

別紙2の3

比準同業者(昭和63年分)

<省略>

別紙2の4

比準同業者(平成元年分)

<省略>

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