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横浜地方裁判所 平成5年(ワ)295号 判決 1993年6月30日

横浜市旭区柏町五八-一

原告

河野禮通

東京都中央区新冨二丁目六番一号

京橋税務署内

被告

富田一男

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

一  原告は、「被告は、原告に対し、二一三〇万円及びこれに対する平成四年三月五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決並びに仮執行宣言を求め、次のとおり請求原因を述べた。

1  原告は保土ヶ谷税務署管内において各種の設計を営む個人事業者であり、昭和四六年七月以来、右税務署長から青色申告の承認を得て、青色申告者として所得税の確定申告及び納税を行ってきた。

2  被告は、保土ヶ谷税務署の職員として、原告の昭和六一年分から平成二年分までの各年分の所得税に関する調査(以下「本件調査」という。)を行ったが、その際、次のとおりの違法行為を行った。

(一)(1)  原告は、昭和六一年分から平成二年分までの五年間に、必要経費である旅費交通費として合計二二〇万四八一〇円の申告をし、本件調査の際にも、被告に対して高速道路の通行料金や時間貸しの駐車場料金の領収書等を示して右金額の必要経費の支払があったことを説明したにもかかわらず、被告は、これを認められないとした

(2)  しかし、手形の集金や製品の納入等に鉄道等の交通機関を利用するのは当然であり、その際鉄道の切符を買うたびに領収書をもらうことは不可能であるから、鉄道を利用した経費について領収書がないことを理由に必要経費として一切認めないというのは不合理であるし、まして、原告には、大阪、名古屋等の遠方の取引先があり、五年もの間、原告の事業遂行上、全く鉄道を利用しなかったというのも不合理である。

また、事業のために自動車を使用する場合に高速道路を利用することや、出先において時間貸しの駐車場を利用することも当然であるから、これらの費用が必要経費となることは明らかである。

(3)  ところが、被告は、前述のとおり右領収書等を根拠とした費用を必要経費と認めなかったため、これにより原告の所得及び税額が増加することとなった。

(二)(1)  原告は、訴外有限会社チームテクニカディムとの間で売上金額について交渉していたところ、昭和六三年末に同社が倒産したため、これに対する右売掛金一三一万七八〇〇円を売上に計上しなかったが、被告の本件調査において、これを指摘されたことから、原告は平成元年分の申告においてこれを貸倒損失金として処理した。

(2)  ところが、被告は反面調査の結果、右有限会社チームテクニカディムが倒産していることを確認したにもかかわらず、右売掛金を貸倒損失金と認めなかった。

(3)  そのため、原告は、右有限会社チームテクニカディムに対する売掛金に対して課税されたうえ、重加算税の賦課決定及び青色申告承認の取消処分を受けた。

(三)  原告は訴外株式会社ワコムに対し、平成元年八月一日、一一〇万円を支払っており、被告は右株式会社ワコムの小原正本部長と会って右事実を確認しているにもかかわらず、右支払は存在しないとして処理した。これによって、課税の対象となる原告の所得が増大し、税額も増額された。

(四)  被告は、本調査における転記を誤り、その確認も怠ったため、そのまま課税された。

3(一)  原告は、本件調査の際の被告の右各違法行為によって、保土ヶ谷税務署長から、違法な所得税の更正処分、重加算税賦課決定処分及び青色申告承認の取消処分を受けた。

(二)  原告は、平成四年二月から同五年二月までの一三か月間、被告の右違法行為を関係機関に正すために、伝票、領収書、その他関係書類の検討等を行わざるを得ず、そのため原告の前記事業を遂行することができなかったので、これによって一一三〇万円の損害を受けた。

(三)  また、被告の右違法行為により、原告は二〇年以上も取引のあった訴外日立精工株式会社など数社との取引ができなくなって、廃業せざるを得なくなり、これによって多大な精神的損害を受けたが、その慰謝料は一〇〇〇万円を下らないというべきである。

4  よって、原告は、被告に対し、不法行為に基づき二一三〇万円及び平成四年三月五日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  被告は、本件口頭弁論期日に出頭しないが、その陳述されたものとみなされる答弁書には、左のような記載がある。

1  原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。

仮執行免脱の宣言

2  請求原因第一項は認める。被告は保土ヶ谷税務署長から、原告の昭和六一年分ないし平成二年分までの各年分に係る申告所得金額が適正であるか否かについて調査するよう命ぜられ、平成三年四月から同四年二月までの間、原告の右各年分の所得税に関する調査に従事した。

原告の本訴請求は、国の公権力の行使に当る公務員である被告がその職務として行った本件税務調査に関し、その公務員個人の責任を追及するものであるから許されない。

三  原告主張の請求原因は必ずしも明確でない部分もあるが、その趣旨は、保土ヶ谷税務署において所得税に関する調査等の事務に従事していた国家公務員である被告が、その職務として本件調査を行った際、前記の各違法行為をなしたとして、これにより原告が被った損害の賠償を求めるというものであると解され、したがって、原告は、要するに国の公権力の行使に当る公務員である被告がその職務を行うについて違法行為を行った故を以って本訴請求の根拠としているものである。

しかしながら、国家賠償法一条によれば、国の公権力の行使にあたる公務員がその職務を行うについて、故意又は過失によって違法に他人に損害を与えた場合には、国がその被害者に対して賠償の責任を負い、当該公務員個人はその責任を負わないものと解されるから、公務員である被告がその職務を遂行するうえで行った不法行為を理由に、公務員個人に対して損害賠償を求める本訴請求は主張自体失当であるというべきである。

四  以上のとおり、原告の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大喜多啓光 裁判官 片桐春一 裁判官 杉山順一)

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