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横浜地方裁判所 平成5年(ワ)2904号 判決 1996年1月29日

神奈川県藤沢市湘南台五丁目三六番地の五

原告

元旦ビューティ工業株式会社

右代表者代表取締役

舩木元旦

右訴訟代理人弁護士

鳥海哲郎

押野雅史

梅野晴一郎

右輔佐人弁理士

島田義勝

東京都新宿区西新宿七丁目一〇番三号

被告

株式会社日建板

右代表者代表取締役

瀧森清

右訴訟代理人弁護士

大場正成

尾崎英男

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  原告の請求

一  被告は、別紙目録(一)記載の横葺き屋根板を用いた屋根の接合部構造を有する屋根板の製造、販売、貸渡し及び譲渡若しくは貸渡しのための展示をしてはならない。

二  被告は、別紙目録(一)記載の横葺き屋根板を用いた屋根の接合部構造を有する屋根板を廃棄せよ。

三  被告は、原告に対し、金三〇五万円及びこれに対する平成四年一〇月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  訴訟費用は被告の負担とする。

第二  事案の概要

一  本件は、原告が、別紙特許公報記載の特許権を有しているところ、被告の製造販売する別紙目録(一)記載の横葺き屋根板が、原告の特許権を侵害するとして、その製造販売等の差止め、廃棄及び損害賠償を求めたものである。

二  争いのない事実及び証拠上明らかな事実

1  原告は、以下の特許権(以下「本件特許」といい、その発明を「本件特許発明」という。)を有している。

特許番号 第一六一〇四七一号

発明の名称 横葺き屋根板を用いた屋根の接合部構造

出願年月日 昭和六〇年七月二四日

(特願昭六〇-一六二一三三号の分割特許出願のため出願日遡及)

出願公告年月日 平成二年八月三一日

登録年月日 平成三年七月一五日

2  本件特許発明の「特許請求の範囲」の記載は、別紙特許公報の該当欄記載のとおりである。

3  本件特許発明は、左記のAないしEの五つの構成要件から成立している(以下「構成要件AないしE」という。番号は、別紙特許公報の図面参照)。

A 長手方向の中央部に面板部32、この面板部32の一側部に軒側成形部33、同他側部に棟側成形部34を形成した横葺き屋根板31を有し、前段側横葺き屋根板31の棟側成形部34に、次段側横葺き屋根板31の軒側成形部33を相互に係合接続させて構成する横葺き屋根の接合部構造であって、

B 前記軒側成形部33には、立下り部36を立下げて下部折り返し縁37を形成させ、この下部折り返し縁37を内側に折り返して端部に縁曲げ部39をもつ折り返し部38とし、

C 前記棟側成形部34には、内側へオーバーハング状に突出する立上り部40を立上げて、その立上り基部に水捌き空間部50を抱え込んだ突出形状部を形成させた上で、前記下部折り返し縁37を突き合わせる上部折り返し縁41を形成させ、

D この上部折り返し縁41を外側に折り曲げて、前記縁曲げ部39を含む折り返し部38を受け入れる受け入れ部42とし、

E この受け入れ部42から前記折り返し部38を覆うようにして、下向きの山形部43をもつ折り返し抱持部47を形成させたことを特徴とする横葺き屋根板を用いた屋根の接合部構造。

4  これに対し、被告は、別紙目録(一)記載の横葺き屋根板を用いた屋根の接合部構造(以下「イ号物件」という。)を有する屋根板に「日輪段葺」なる名称を付して製造・販売している。

イ号物件は、以下の構成からなる(以下「イ号物件の構成aないしe」という。番号は、右目録第3図参照)。

a 長手方向の中央部に面板部32、この面板部32の一側部に軒側成形部33、同他側部に棟側成形部34を形成した横葺き屋根板31を有し、前段側横葺き屋根板31の棟側成形部34に、次段側横葺き屋根板31の軒側成形部33を相互に係合接続させて構成する横葺き屋根の接合部構造であって、

b 前記軒側成形部33には、立下り部36を立下げて下部折り返し縁37を形成させ、この下部折り返し縁37を内側に折り返して端部に縁曲げ部39をもつ折り返し部38とし、

c 前記棟側成形部34には、内側へオーバーハング状に突出する立上り部40を立上げて、その立上り基部に水捌き空間部50を抱え込んだ突出形状部(第一折り返し部)を形成させた上で、前記下部折り返し縁37と前記縁曲げ部39のほぼ中間の位置において折り返し部38と突き合わされる上部折り返し縁41を形成させ、

d この上部折り返し縁41を外側に折り曲げて、折り返し部38の前記突き合わせ位置から前記縁曲げ部39に至る部分と接する受け入れ部42を形成し、

e この受け入れ部42から前記折り返し部38を覆うようにして、下向きの山形部43をもつ折り返し抱持部47を形成させたことを特徴とする横葺き屋根板を用いた屋根の接合部構造。

5(一)  原告は、昭和六〇年七月二四日に本件特許に係る出願をしたが(以下「本件親出願」という。)、本件特許発明部分を同六二年一一月二七日に本件親出願から分割出願をした。それに対して、平成元年一〇月三一日付けで、特許庁審査官からの拒絶理由通知(以下「本件拒絶理由通知」という。)を受け、同二年一月二四日付けで手続補正(以下「本件手続補正」という。)をし、同三年七月一五日に登録された。

(二)  本件拒絶理由通知には、拒絶の理由につき、「1 特許請求の範囲第1項の記載と、同第2~5、7項の記載とが対応しない点で不明瞭である。(第1項に「係合突き合せ部」の記載がない。)」、「2 特許請求の範囲第7項の記載が不明瞭である。(構成を明確に把握できない。)」、「3 第4図の記載が不明瞭である。(符号「40b」は「40e」の誤記ではないか?)」との記載がある(乙三号証の二)。

(三)  原告は、本件手続補正において、明細書の全文と、特許公報の図面中、第4図のb、c、dを補正した(乙三号証の三)。

三  争点

本件の争点は、被告の製造・販売するイ号物件が、本件特許発明の技術的範囲に属し、原告の特許権を侵害するか否かにあるが、その具体的争点及び当事者双方の主張は以下のとおりである。

1  本件特許発明の構成及び作用効果は公知技術と同一か。

(一) 被告の主張

(1) 本件特許発明の構成及び作用効果は、本件特許出願日より前の昭和四八年一一月二七日に出願公開された、別紙実用新案公報(昭四八-一〇〇三一〇号)に記載された横葺き屋根接合構造と同一である(以下これを「公知技術」という。)。

(2) 本件特許発明と公知技術とを、別紙「本件特許と公知技術の対比」(以下「別紙対比」という。)に基づき、構成要件AないしEにつき、それぞれ比較対比すると、以下のとおりである(以下の対比の記述における公知技術の各部で、それぞれ本件特許と対比されたものの名称及び番号は、別紙対比においてそれぞれ示されているが、それらは、本件特許発明との対比において便宜なように、被告において、本件特許発明の構成要件の各部に相当する公知技術の各部にそれぞれ名称及び番号を付したものである。)。

構成要件Aについては、公知技術もこれを満たす屋根の接合構造である。

構成要件Bについては、別紙実用新案公報の第2図においては、本件特許の折り返し部38の端部に相当する部分(同図の4b)に、本件特許の縁曲げ部39に相当する部分が描かれていない点で相違するだけであるが、公知技術では縁曲げ部39の記述を省略したにすぎないから、実質的な相違ではない。

構成要件Cについては、公知技術で本件特許の棟側成形部34に相当する部分(右公報の係合突脈2)にも立上り部40(別紙対比において番号40が付せられている部分)が存在し、それは折り返し抱持部47(別紙対比において番号47が付せられている部分であり、右公報の内方折曲部3に相当)によって内側へオーバーハング状に突出している。また、公知技術でも、立上り基部には水捌き空間部50(別紙対比において番号50が付せられている部分)が形成されている。構成要件Cと公知技術とでは、構成要件Cでは、突出形状部を形成させた上で下部折り返し縁37を突き合わせる上部折り返し縁41が形成されているのに対し、公知技術では、下部折り返し縁(別紙対比において番号47が付せられている部分であり、前記公報の係合溝の前片4cの下端に相当)と上部折り返し縁(別紙対比において番号41が付せられている部分)が離れていることに相違点がある。

構成要件Dについては、前記縁曲げ部39の記載の有無以外に公知技術との実質的な相違点はない。

構成要件Eについても、相違点はない。

(3) 以上のとおり、公知技術において、既に本件特許発明とほとんど合致する構成が開示されており、公知技術には、本件特許発明における、棟側成形部34に内側にオーバーハング状に突出する立上り部40を設け、上側屋根板と下側屋根板の突き合わせ部を面板部から立上げた構成が開示されているから、当然そのような屋根接合構造では屋根板の面板部に沿って吹き上げられる風雨が突き合わせ接合部に直接吹き当たらず、風雨が水捌き空間によって捌かれるという、本件特許発明と同じ作用効果を達成する。

(4) 結局、本件特許発明の構成及び主要な作用効果は、ほとんど公知技術に属するものであるから、原告はこのような公知技術を本件特許の権利として主張することはできない。

(5) また、本件特許と公知技術との構成上の唯一の相違点は、前述のとおり、本件特許においては、下部折り返し縁37と上部折り返し縁41が突き合わされているのに対し、公知技術では、両者が離れている点にあるところ、後述のように、イ号物件も同様であるから、この点からすれば、イ号物件は、むしろ公知技術に近いものである。

(二) 原告の主張

(1) 被告の主張は、本件特許発明の構成要件Cの「内側へオーバーハング状に突出する立上り部40を立上げて」なる文言の解釈を誤っている。

すなわち、「オーバーハング」とは、「かぶさるように差し掛かる」、「おおいかぶさるように伸びる」という意味であり、本件特許発明の「内側へオーバーハング状に突出する立上り部40を立上げて」の具体的形状は、別紙特許公報記載の実施例図の第2図で示す<省略>状のものから、第3図のa、b、cで示す\状のもの及び第4図のa、b、c、dで示す<省略>状のものを含む形状である。

これに対し、公知技術は、単なる|状の垂直の立上り部であり、本件特許発明でいう「内側へオーバーハング状に突出する立上り部40」を構成していない。

(2) また、別紙実用新案公報によれば、公知技術の考案の要旨は、金属屋根板の係合突脈2(右公報記載の名称及び番号のとおり。以下同じ。本件特許の棟側成形部34に相当)に「上方へ凹の上凹部3aと後方へ凹の後凹部3bとを連結して設け」、係合溝4(本件特許の軒側成形部33に相当)に「上方へ凸な上凸部4aと下片の先端4b」をへの字状に折曲して係合させる構成にあり、この点からすると、公知技術が本件特許発明と根本的に構造上相違する点は、軒側成形部の先端部の上凸部4aと下片の先端4bが、軒側成形部の下側、すなわち、上凹部3aと後凹部3bの下面と当接する構成にある。

また、本件特許発明の軒側成形部33の折り返し部38の先端部は、あくまでも棟側成形部34の上に位置し、かつ、棟側成形部34の受け入れ部42の上で折り返し抱持部47と係合する構成になっているのであるが、公知技術においては、係合突脈2(棟側成形部34に相当)の折り返し抱持部47に相当する内方折曲部3、上凹部3a及び後凹部3bの下面に、係合溝4(本件特許の軒側成形部33に相当)の上凸部4aと下片の先端4bとが係合する構成となっている。

このため、公知技術においては、「下片の先端4b」から、「後凹部3b」によって形成された棟側への折り曲げ部にたまった雨水を、毛細管現象によって内部へ吸い上げてしまうという欠点のある構造となっている。

これに対し、本件特許発明は、この欠点を解消したものである。

(3) なお、本件特許発明の作用効果がイ号物件のそれと同じであることは、イ号物件と同一構造の屋根板について、すでに拒絶査定となった被告の関連会社(株式会社不動テクニカル)の実用新案登録出願における効果の記載を参照すれば、明らかである。

2  イ号物件が本件特許発明の構成要件を充足するか。

(一) 原告の主張

イ号物件の構成aないしeは、本件特許発明の構成要件AないしEに該当するので、イ号物件は、本件特許の技術的範囲に属し、本件特許権を侵害する。

(二) 被告の主張

本件特許においては、本件特許発明の構成要件Cにおいて、下部折り返し縁37と上部折り返し縁41とを「突き合わせる」ことが必須の要件となっている。

これに対し、イ号物件においては、別紙物件目録(一)の第3図からも明らかなごとく、下部折り返し縁37と上部折り返し縁41とは、距離を置いて隔てられており、「突き合わせる」関係にない。

したがって、イ号物件は、本件特許の構成要件Cを充足せず、本件特許を侵害しない。

(三) 原告の反論

(1) 被告は、イ号物件においては、下部折り返し縁37と上部折り返し縁41とを「突き合わせる」関係にないと主張する。しかし、「突き合わせる」とは、縁と縁との間に少しばかりの間隔があるものを含むものであり、必ずしも縁と縁との接触を要求するものではない。このことは、最近の各種実用新案公報に記載された「突き合わせる」という用語の使用例などからみても、明らかである。そして、イ号物件の構成cと本件特許発明の構成要件Cとでは、前者において、後者にいう下部折り返し縁37と上部折り返し縁41との突き合わせの位置が縁曲げ部39のほぼ中間の位置にあるという点で異なるといえるが、それはわずかの差であり、右「突き合わせる」関係にあるといえるから、イ号物件の構成cは本件特許発明の構成要件Cを充足するというべきである。なお、その他のイ号物件の構成が、本件特許発明の構成要件を充足することについては、争いがないところである。

したがって、イ号物件は、本件特許の特許請求の範囲第1項だけからしても、本件特許の技術的範囲に属するというべきである。

(2) また、本件特許の実施態様項の第7項には、その請求の範囲を、「棟側成形部の立上り部に形成される突出形状部は、下部折り返し縁に近付けた部分に平坦面部を残して、その立上り基部側に少なくとも一つの立上り段部を有する構成とし、前記棟側成形部の平坦面部に対し、軒側成形部の立下り部内側の下端部に沿って形成した起立部を軒側から覆うように突き合わせたことを特徴とする特許請求の範囲第1項に記載の横葺き屋根板を用いた屋根の接合部構造。」とする実施例(以下「第7実施例」という。)が開示されており、その実施図は別紙特許公報の第4図cのとおりである。

この第7実施例を参照すれば、下部折り返し縁37と上部折り返し縁41との間に間隔のあるものも前記「突き合わせる」関係にあるといえ、それは本件特許発明の技術的範囲に含まれることが明らかである。したがって、いずれにしろ、イ号物件は、本件特許の権利範囲に含まれるというべきである。

(3) なお、被告は、後記再反論において、原告が本件手続補正において、第7実施例の第4図cの下部折り返し縁37と上部折り返し縁41の位置を密かに変えたなどと主張する。しかし、右補正は、特許庁審査官の本件拒絶理由通知を受けて、第4図cの右両縁の位置関係を本件特許における実施例を記載した他の図と整合するように訂正したものにすぎない。すなわち、他の図では、下部折り返し縁37は、軒側成形部の立下がり部が立下がってきて最初に棟側に曲がる角を示し、また、同様、上部折り返し縁41は、棟側成形部が立上って行き最上部において棟側に折れ曲がる角を示しているので、第4図cでも同様にしたものであって、何ら当初の技術内容を拡張するものではない。被告の主張は、右補正の内容を認識した審査官により、それが適正かつ整合性あるものとして認定された結果、本件特許が出願公告されたことを否定するものであって、およそ理由がないというべきである。

(四) 被告の再反論

(1) 原告は、本件手続補正において、本件第7実施例の第4図cの下部折り返し縁37と上部折り返し縁41の位置を、引き出し線の位置を変えることにより、密かに変えており、これにより、原告は、イ号物件を特許発明の技術的範囲に含めることを意図したものである。

(2) すなわち、本件特許の分割出願当時の、第4図cにおいては、他の実施例と同様、下部折り返し縁37と上部折り返し縁41は、係合突き合せ部46a(現在の第7実施例記載の係合突き合せ部46aと同じ位置)で突き合わされていた。

そして、これに対し、本件拒絶理由通知が発せられると、原告は、本件手続補正をし、意見書中では「第4図bの誤記を訂正しました」とだけ述べながら、第4図cの下部折り返し縁37と上部折り返し縁41の位置を密かに変えて、本件特許公報の第4図cと同じ位置とした。

(3) この変更は、原告がイ号物件の存在を知った上で、本件特許を出願当初の技術内容より拡張して主張しようとする意図のもとに、審査官に気づかれないように、されたものである。

原告が、本件手続補正より前の昭和六三年二月二五日に、被告を債務者とし、本件のイ号物件を対象として、不正競争防止法に基づき、その製造・販売の差止めを求める仮処分を東京地方裁判所に対して申請しているところからみても、本件手続補正はイ号物件を本件特許請求の範囲に含ませるための不当な権利拡張の目的をもってされたことが明らかである。

(4) そして、このような経過による本件手続補正後の第7実施例及び第4図cに基づいて、本件特許発明につき、下部折り返し縁37と上部折り返し縁41との「突き合わせ」について、両者の間に距離の置かれたものまでも本件特許発明の技術的範囲に含まれるとするならば、それは許されざる拡大解釈であり、本件手続補正は、要旨変更に当たるものとなる。

3  仮にイ号物件が本件特許発明の構成要件を充足しないとしても、均等物か。

(一) 原告の主張

(1) 仮に、イ号物件が、本件特許発明の構成要件の一部を充足しないとしても、均等物と評価すべきである。

均等と評価すべき要件としては、

<1> 解決すべき技術課題及びその基礎となる技術思想が特許発明と対象物品において変わるところがないこと。

<2> 対象物品が特許発明の奏する中核的な作用効果をすべて奏すること。

<3> 対象物品の一部の異なる構成は、それに基づいて顕著な効果を奏する等の格別の技術的意義が認められないこと。

<4> 出願当時の技術水準に基づくとき、その一部の異なる構成に置換することが可能であること。

の四つである。

(2) 右<1>、<2>については、本件特許発明とイ号物件の目的は同一であり、またその中核的な作用効果も同一である。

また、右<3>、<4>についても、イ号物件がたとえその一部において本件特許発明と異なる構成を有したとしても、格別の技術的意義が認められないこと、及び出願当時の技術水準よりして、たとえ構成の一部が異なったとしても、当業者であれば容易に置換し得ることは自明である。

よって、イ号物件は、本件特許発明の技術的範囲に属し、本件特許を侵害する。

(二) 被告の主張

均等論は極めて例外的に特許請求の範囲の文言を超えて発明の技術的範囲を認める考え方であるところ、本件特許発明は公知技術とわずかしか差がないものであり、均等論で保護するに値する発明ではない。

4  本件特許の侵害に基づく損害賠償請求について

(一) 原告の主張

被告は、新宿区立総合体育館二号館(分館)(東京都新宿区大久保三-一-二所在、平成四年一〇月一〇日完成)の屋根(面積一五三八・二平方メートル)に、被告製造にかかる、別紙目録(一)記載の横葺き屋根板を用いた屋根の接合部構造を有する屋根板を使用した。

これによって、被告が得た利益は、被告の特許侵害品の価格及び利益率(荒利)が原告のものとほぼ同一と推定されることから、

五六七〇円(一平方メートル当たりの代理店への販売価格)×一五三八・二平方メートル(対象面積)

×〇・三五(利益率)

=三〇五万二五五七・九(円)

となり、約金三〇五万円に相当する。よって原告は被告の行為により金三〇五万円相当の損害を被った。

(二) 被告の主張

被告が原告主張の新宿区立体育館の屋根板にイ号物件を使用したことは認めるが、被告の施工した屋根の面積一五三八・二平方メートルのうち、イ号物件を使用したのは、八八五平方メートルであり、残りは「アトムルーフ」と呼ばれる別の構造の屋根板である。

第三  争点に対する判断

一  本件特許が公知技術に属するとの被告の主張について

1  被告主張の公知技術の実用新案登録請求の範囲は、別紙実用新案公報該当欄記載のとおりであり(争いがない。)、その作用効果は、同じくその考案の詳細な説明の項によれば、

(一) 係合突脈2(名称及び番号は、別紙実用新案公報記載のとおり。以下同じ。)と係合溝4とは、係合溝4の下片の先端4bを係合突脈2の後凹部3bに当接係合させ、次いでこの両者の当接箇所を軸として上方の金属屋根瓦を、後方に回動させることにより、接合が完了するものであるから、施工が簡単迅速に行え、

(二) 下方の金属屋根瓦Aの係合突脈2の前片2aと上方の金属屋根瓦Aの係合溝4の前片4cとの間に形成した間隙により毛細管現象が防止でき雨仕舞いが良好なものとなり、

(三) 係合溝4の上凸部4aが係合突脈2の上凹部3aに係合しているので、係合溝4の下片が係合突脈2より外れにくく、さらに係合溝4の下片の先端4bが係合突脈2の後凹部3bに係合されていることにより、係合溝4の下片が係合溝4の前片4cに対して変形しにくくなり、係合突脈2と係合溝4との接合が強固に行われる。したがって、風に対して強い接合が行われ、風による屋根の吹上が良好に防止できる

点にあることが認められる。

2  これに対し、本件特許発明の構成要件は、前記第二・二・3のとおりであり、「棟側成形部34には、内側へオーバーハング状に突出する立上り部40を立上げて、その立上り基部に水捌き空間部50を抱え込んだ突出形状部を形成させた」ことが構成要件Cとなっている(争いがない。)ところ、甲九、一〇号証によれば、英語の「オーバーハング」については、「覆いかぶさるように突出する、張り出す、上にかかる」等の意味であること、また、甲二号証の一によれば、本件特許の作用効果のうち、前記構成要件の突出形状部を形成させたことに係わる部分は、「突出形状部が形成されているために、吹き当てられる風雨に上方への方向性が与えられることになって、係合突き合わせ部を越えて容易に上方へ流れ易くなり、立下り部に上方への押し開き作用を与えないために、吹き当てられる風雨を適切に捌き得て、これらの砂、泥、塵埃などの堆積、ならびにその堆積に伴なう腐食の進行、汚れなどをも防止できる」点にあることがそれぞれ認められる。

3  右によれば、公知技術は、その実用新案登録請求の範囲の記載において、本件特許の棟側成形部34に相当する公知技術の係合突脈2には、内方折曲部3に、上凹部3a、後凹部3bとを形成し、それぞれの凹部を、係合溝4に形成された上凸部4aと下片の先端4bとに係合する構成が開示されているが、その記載内容自体から、上凹部3a、後凹部3bとはいずれも、上凸部4aと下片の先端4bとに係合されるために形成されたものであることが明らかである。この点について、甲一一号証の実用新案公報の考案の詳細な説明を斟酌しても、それら上凹部3aと後凹部3bとが、係合突脈2と係合溝4とを強固に接合する目的以外に、さらに水捌き空間部を抱え込んだ突出形状部を形成させる目的で形成されたものとまでは認めることができない。

結局、公知技術には、本件特許発明における、内側へオーバーハング状に突出する立上り部を立上げて、その立上り基部に水捌き空間部を抱え込んだ突出形状部を形成させるという構成は開示されていないというべきである。

4  また、作用効果についても、公知技術においては、施工の簡易性や、係合溝に形成される間隙による毛細管現象の防止、接合の強固性について明らかにされているものの、本件特許発明におけるように、突出形状部の形成によって風雨に上方への方向性を与え、それによって、風雨を係合突き合わせ部を越えて上方へ流し、吹き当てられる風雨を適切に捌き、砂等の堆積、腐食の進行を防ぐという作用効果については、明らかにされていない。また、別紙実用新案公報の記載によっても、公知技術における係合突脈2の前片2aと係合溝4の前片4cとの間に形成される間隙と、右公報の第2図に示された、係合突脈2と係合溝4との接合により、上凸部4a、下片の先端4bの下方に形成された空間とにより、右の作用効果を実現できるものとは認めがたく、また他にこれを認めるべき証拠もない。

したがって、公知技術が本件特許と同一の作用効果を有すると認めることもできない。

5  被告は、本件特許発明の構成要件の、「オーバーハング状に突出する」の意義につき、立上り部40が延びて形成される全体的形状を意味するから、公知技術においても、別紙対比において付された番号でいう40(本件特許でいう立上り部40)から47(本件特許でいう折り返し抱持部47)に至って形成される全体的形状が前記「オーバーハング状に突出する」に当たると主張し、あるいは「内側にオーバーハング状に突出する」という表現は、立上り部40が屋根板から立上がる部分のことを述べているのではなく、立上り部40が立上がった先でオーバーハング状に突出していることを述べているにすぎないとも主張する。

しかし、本件特許における「オーバーハング状に突出する立上り部40を立上げて」の意義については、右2記載のとおり本件特許発明の特許請求の範囲の記載及び「オーバーハング」の意味内容からすれば、立上り部40を立上げることで、その基部に水捌き空間部50を抱え込む形で突出形状部を設けることを意味するものと認められ、単に立上り部40が立上がった先がオーバーハング状に突出していることを意味するものとは認められない。

また、別紙実用新案公報によれば、公知技術には、後凹部3bから内方折曲部3にかけての形状は、全体としては突出した立上り部であると認められるものの、立上りの基部自体は直線状に立上がっており、また、公知技術の後凹部3bから内方折曲部3にかけての突出させた部分自体には、水捌き空間部を形成し、それを抱え込むことまでは開示されていない。

したがって、被告の右主張は採用することができない。

6  以上によれば、本件特許発明の技術的範囲を画するに当たって、公知技術を斟酌する必要はないから、この点に関する被告の主張は理由がない。

7  また、被告は、イ号物件は、本件特許よりむしろ公知技術に近いと主張しているところ、その趣旨とするところは必ずしも明確ではないが、イ号物件と公知技術との同一性ないし類似性について、被告は何ら構成要件・作用効果を対比しての主張、立証をしないから、右主張は、その余の点を判断するまでもなく採用することができない。

二  イ号物件が本件特許を侵害するかについて

1  本件特許請求の範囲第1項との関係について

(一) 原告は、本件特許発明の構成要件Cの「下部折り返し縁37と上部折り返し縁41とを突き合わせる」の意義につき、そもそも「突き合わせる」とは必ずしも縁と縁との接触を要求するものではなく、その間に少しばかりの間隔のあるものも含むから、本件特許請求の範囲の第1項との関係からしても、イ号物件の構成aないしeは、本件特許発明の構成要件AないしEのすべてを満たすと主張するので、まずこの点について判断する。

(二) 本件特許の特許請求の範囲第1項に開示された下部折り返し縁37と上部折り返し縁41を「突き合わせる」ことの意義について判断するには、両者(37・41)がそれぞれどのような性質を有するかを検討しなければならない。

ところで、本件特許の特許請求の範囲の記載(争いがない。)によれば、構成要件Cにおいては、<1>下部折り返し縁37(番号は、別紙特許公報と同じである。以下も同じ。)と上部折り返し縁41とを「突き合わせる」関係にあること、<2>下部折り返し縁37は、軒側成形部33中に、立下り部36を立下げて形成するものであり、かつ、この下部折り返し縁37を内側に折り返して、さらに折り返し部38を形成すること、<3>上部折り返し縁41は、棟側成形部34中に、立上り部40を立上げて、突出形状部を形成させた上で形成されるものであり、かつ、この上部折り返し縁41を外側に折り曲げて、折り返し部38を受け入れる受け入れ部42を形成するものであることが明らかである。

したがって、右本件特許の特許請求の範囲の記載からすれば、下部折り返し縁37は、立下り部36を立下げた後、さらに折り返して折り返し部38を形成するための、その立下り部36と折り返し部38とを折り返して分かつ縁に形成されたものであり、一方上部折り返し縁41は、突出形状部の後に、受け入れ部42を形成するための折り返しの位置に形成された縁であるということになる。

そうすると、「突き合わせる」関係になる、折り返しの結果形成された縁同士というのは、いずれも縁を形成した前後には、受け入れ部42や、折り返し部38等の、それぞれ名称の付された構成要件の一部分を形成するものであるから、いずれの縁(37・41)も、棟側成形部34と軒側成形部33の中で、その形成している範囲は明確である。しかも、右縁(37・41)を形成した前後に形成される受け入れ部42等の構成要件Cの他の部分については、それらが互いに「突き合わされる」ものでないことは、本件特許の特許請求の範囲の第1項の記載から明らかである。

さらに、前記一・2のとおり、本件発明は、構成要件Cの突出形状部を形成させることで下部折り返し縁37と上部折り返し縁41が突き合わされる係合突き合せ部46からの風雨、砂、泥などの侵入の防止を目的としていることが明らかである。

以上によれば、本件特許請求の範囲第1項においては、下部折り返し縁37と上部折り返し縁41とを互いに「突き合わせる」ことで、その縁と縁とが接触されることが予定されているものというべきである。

(三) 原告は、「突き合わせる」という言葉は、甲一五ないし一八号証(辞典)によれば、通常「向かい合わせる」の意味で使用され、さらに「向かい合わせる」という概念は、「接触」あるいは「隣接」を求める概念ではなく、むしろ、ある程度の距離を置くことを当然に予定ないし包摂した概念であると主張し、また、甲二四号証の一ないし一五(実用新案公報)によれば、「突き合わせる」という言葉の意味につき、「少しばかりの間隔がある場合」、「介在物を介しての間隔を有する場合」及び「突き合わせる各部材間に間隔があり、かつ、文字どおり向かい合う関係にない場合」を含む広い概念であると主張する。

しかし、甲一五ないし一八号証によれば、「突き合わせる」という言葉が「向かい合わせる」ことを意味することは認められるものの、その「向かい合わせる」という言葉自体から、これが、ある程度の距離を置くことを当然に予定ないし包摂した概念であるとするには飛躍があり、他にそのように認めるべき証拠もない。

また、甲二四号証の一ないし一五は、いずれも本件特許発明とは発明の対象を異にするものの実用新案公報であるから、これに基づき本件特許発明における「突き合わせる」という言葉の意味内容を直ちに同じものとすることはできないばかりか、それはひとまず置くとしても、それらは、いずれも棟換気構造や建屋の棟構造の換気口(甲二四号証の一及び二)、パネルや永久磁石付ガスケットの目地隙間(甲二四号証の三及び五)、あるいは外装パネルの出隅部構造(甲二四号証の八)等の、いずれも「突き合わせる」物同士を隔てる物ないし空間の存在を当然に予定したものばかりであり、また、文字通り向かい合う関係にない場合には、「略直角に突き合わされる」(甲二四号証の四)あるいは「棟の長さ方向において突き合わせ接続される」(甲二四号証の六)等の、「突き合わせる」の言葉の前後にその旨を説明する文言が付加されている。

これに対し、本件特許の特許請求の範囲の記載にはそのような文言はないばかりか、前記のとおり、本件特許発明は、軒側成形部33と棟側成形部34とを、縁同士を「突き合わせる」ことによって密着させ、それにより雨水の侵入を防ぐという作用効果を達成することを目的としているから、「突き合わせる」対象同士の間に少しばかりの間隔を置くことや、そもそも向かい合う関係にない場合を予定しているとは認めがたい。

さらに、前記一・2で認定した「オーバーハング」の意味内容によれば、立上り部40をオーバーハング状、すなわち覆いかぶさるように突出して立上げて、軒側成形部33中に、立下り部36を立下げて形成された下部折り返し縁37を「突き合わせる」と、下部折り返し縁37と上部折り返し縁41との方向は、それぞれ別方向になるから、これを向かい合わせるということはできなくなるが、縁同士を接触させれば、向かい合う状態を形成し得ることになる。

したがって、本件特許発明の構成要件Cでいう「突き合わせる」の意味が、単に少しばかりの間隔を隔てて向かい合わせるという意味であると考えることはできない。

以上によれば、本件特許請求の範囲第1項から、イ号物件は本件特許発明の構成要件を充足するとの原告の主張は理由がないというべきである。

2  第7実施例との関係について

(一) 原告は、第7実施例の特許請求の範囲の記載ないし第4図cを参照すれば、下部折り返し縁37と上部折り返し縁41との間に間隔のあるものも「突き合わせる」場合に当たり、したがって、これと同様のイ号物件は本件特許を侵害すると主張するので、この点について判断する。

(二) 甲二号証の一によれば、本件特許の特許請求の範囲を「棟側成形部の立上り部に形成される突出形状部は、下部折り返し縁に近付けた部分に平坦面部を残して、その立上り基部側に少なくとも一つの立上り段部を有する構成とし、前記棟側成形部の平坦面部に対し、軒側成形部の立下り部内側の下端部に沿って形成した起立部を軒側から覆うように突き合わせたことを特徴とする特許請求の範囲第1項に記載の横葺き屋根板を用いた屋根の接合部構造。」とする第7実施例が開示されていることが認められる。

そして、特許法施行規則二四条の二第二号(昭和六二年通商産業省令第七三号による改正前のもの)によれば、実施例は、独立請求項を技術的に限定して具体化したものであることから、本件特許発明の技術的範囲を確定するに当たっては、第7実施例をも斟酌して、独立請求項たる本件特許の請求の範囲第1項の解釈を行うことが必要である。

(三) そこで、第7実施例には、下部折り返し縁37と上部折り返し縁41との間に間隔のあるものも含む発明が開示されているか否かを検討する。

まず、第7実施例の特許請求の範囲の記載からみると、それは、突出形状部に平坦面部40cを形成し、その平坦面部40cと軒側成形部33に形成した起立部36cを軒側から覆うように突き合わせたことを特徴とするものであることが認められる。

ところで、甲二号証の一による本件特許の発明の詳細な説明及び同号証の二の本件特許公報図面中の第4図cを参照すれば、この第7実施例は、係合突き合わせ部46aを下向きにすることによって、直接的な風雨の吹き込みを避けて雨水のはけをよくするとともに、美観の向上を図ることに、実施例とした目的があることが認められるから、それは、元来、殊更に下部折り返し縁37と上部折り返し縁41との間に距離を置いた構成をも開示することを意図したものではなく、係合突き合わせ部46aを下向きにすることで美観上の効果を付与し得ること及びその場合の構成を開示したものにとどまるというべきである。

そして、以上の第7実施例の達成しようとした作用効果に、その特許請求の範囲の記載とを合わせ考えれば、それは、下部折り返し縁37と上部折り返し縁41との間に特に間隔を置いた構成を開示したものとは認められないというべきである。

(四) なお、原告は、第4図cを参照すれば、下部折り返し縁37と上部折り返し縁41とが離れた構成が開示されていると主張し、右図面を参照すれば、確かに下部折り返し縁37と上部折り返し縁41とは接触していないことが認められる。

しかし、第4図cは第7実施例の説明図であるところ、第7実施例の特許請求の範囲の記載によれば、第7実施例においては、平坦面部40cと起立部36cとを軒側から覆うように突き合わせることを特徴とし、それにより右(三)のとおり、係合突き合わせ部46aを下向きにして風雨の直接的な吹き込みを避けるとともに美観の向上を図ることを目的としたものであり、しかもこの第7実施例の平坦面部40cと起立部36cとを軒側から覆うように突き合わせることについては、そもそも本件特許発明の第1項(独立請求項)及び同第2項ないし6項の本件特許発明の他の実施例にも開示されていないのであって、甲二号証の二の第3図aないしc、第4図a、b及びdの各図面によれば、他の実施例においては、下部折り返し縁37と上部折り返し縁41とはいずれも接触する関係にあることが明らかである。

以上によれば、右(三)のとおり、第7実施例は、係合突き合わせ部46aを下向きにし、所与の作用効果を達成することを目的とした構成が開示されているにとどまり、下部折り返し縁37と上部折り返し縁41との間に間隔を置く構成を開示したとみることまではできないというべきである。

(五) 以上によれば、第7実施例によっても、本件特許発明には、下部折り返し縁37と上部折り返し縁41との間に殊更に間隔を置いた構成が開示されているとはいえない。したがって、別紙物件目録(一)の第3図のように、下部折り返し縁37と上部折り返し縁41との間に相当の間隔があり、上部折り返し縁41が折り返し部38のほぼ中間で突き合わされている構成のイ号物件は、右第7実施例とは異なるものであって、本件特許の構成要件Cを充足するとはいえない。そうすると、第7実施例に係る本件手続補正に関する被告の主張について判断するまでもなく、原告の前記主張は理由がない。

三  イ号物件が、均等物であるとの原告の主張について

1  前記一、二によれば、イ号物件が、本件特許発明の構成要件の一部を充足しないことが明らかである。

原告は、仮にイ号物件が、本件特許発明の構成要件の一部を充足しない場合であっても、イ号物件は均等物であるとして、本件特許の技術的範囲に属すると主張するので、以下この点につき判断する。

2  原告の主張する均等の要件の当否、また充足しないとする構成要件が何であるかは、判然としないが、それらの点をともかくとしても、イ号物件が本件特許発明と均等であるというためには、少なくとも、イ号物件が充足しない本件特許発明の構成要件につき、その構成とイ号物件との構成の置換が可能であって、かつそれが容易であったことの主張、立証が必要というべきである。

しかし、前記二で述べたとおり、イ号物件は本件特許発明の構成要件Cを充足しないものであるが、イ号物件の構成cが、本件特許発明の構成要件Cと置換が可能であって、かつ、それが容易であるとの点について、原告は自明であると主張する以上に、何ら主張、立証をしないから、原告の均等の主張はいずれにしろ採用することができない。

四  結論

以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求は理由がないからいずれもこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 浅野正樹 裁判官 秋武憲一 裁判官 今井弘晃)

目録(一)

左記横葺き屋根板を用いた屋根の接合部構造

一、屋根構造の名称

日輪段葺

二、別紙図面の説明

第1図は、横葺き屋根板31の一部切欠斜視図、第2図は同上の側面縦断面図、第3図は横葺き屋根板の接合部構造を示す拡大側面縦断面図である。

三、別紙図面における符号の説明

A……アスファルト系防水紙 31……横葺き屋根板

32……面板部 33……軒側成形部

34……棟側成形部 36……立下り部

37……下部折り返し縁 38……折り返し部

39……縁曲げ部 40……立上り部

40d…立上り段部 41……上部折り返し縁

42……受け入れ部 43……山形部

45……減圧空間部 46……突き合せ接合部

47……折り返し抱持部 50……水捌き空間部

14……下地材

四、横葺き屋根板を用いた屋根の接合部構造の形状及び構成

第1図ないし第3図に示す通りである。すなわち、

横葺き屋根板31の長手方向の中央部に面板部32、この面板部32の一側部に軒側成形部33、同他側部に軒側成形部34を形成した横葺き屋根板31を有し、前段側横葺き屋根板31の棟側成形部34に、次段側横葺き屋根板31の軒側成形部33を相互に係合接続させて構成する横葺き屋根の接合部構造である。

上記屋根板31の前記軒側成形部33には、立下り部36を立下げて下部折り返し縁37が形成され、この下部折り返し縁37を内側に折り返して端部に縁曲げ部39をもつ折り返し部38が形成されている。

更に、上記屋根板31の前記棟側成形部34には、内側ヘオーバーハング状に突出する立上り部40を立上げて、その立上り基部に水捌き空間部50を抱え込んだ突出形状部(第一折り返し部)が形成され、更に、前記下部折り返し縁37と前記縁曲げ部39のほぼ中間の位置において折り返し部38と突き合わされる上部折り返し縁41が形成されている。

更に、この上部折り返し縁41を外側に折り曲げて形成された受入部42は折り返し部38の前記突き合わせ位置から前記縁曲げ部39に至る部分と接している。

そして、この受け入れ部42から前記折り返し部38を覆うようにして、下向きの山形部43をもつ折り返し抱持部47が形成されている。

イ号物件

<省略>

<省略>

(符号の説明)

31---横葺き屋根板

32---面板部

33---軒側成形部

34---棟側成形部

36---立下り部

37---下部折り返し縁

38---折り返し部

39---縁曲げ部

40---立上り部

40d---立上り段部

41---上部折り返し縁

42---受け入れ部

43---山形部

45---減圧空間部

46---突き合せ接合部

47---折り返し抱持部

50---水捌き空間部

14---下地材

A---アスファルト系防水紙

<19>日本国特許庁(JP) <11>特許出願公告

<12>特許公報(B2) 平2-38730

<51>Int. Cl.3E 04 D 3/362 識別記号 庁内整理番号 G 7540-2E <24><44>公告 平成2年(1990)8月31日

発明の数 1

<54>発明の名称 横葺き屋根板を用いた屋根の接合部構造

<21>特願 昭62-297412 <65>公開 昭63-147051

<22>出願 昭60(1985)7月24日 <43>昭63(1988)6月20日

<62>特願 昭60-162133の分割

<72>発明者 船木元旦 神奈川県藤沢市下土棚430番地

<71>出願人 元旦ビューテイ工業株式会社 神奈川県藤沢市湘南台5丁目36番地の5

<74>代理人 弁理士 島田義勝

審査官 山田忠夫

<57>特許請求の範囲

1 長手方向の中央部に面板部、この面板部の一側部に軒側成形部、同他側部に棟側成形部を形成した横葺き屋根板を有し、前段側横葺き屋根板の棟側成形部に、次段側横葺き屋根板の軒側成形部を相互に係合接続させて構成する横葺き屋根の接合部構造であつて、前記軒側成形部には、立下り部を立下げて下部折り返し縁を形成させ、この下部折り返し縁を内側に折り返して端部に縁曲げ部をもつ折り返し部とし、また、前記棟側成形部には、内側へオーバーハング状に突出する立上り部を立上げて、その立上り基部に水捌き空間部を抱え込んだ突出形状部を形成させた上で、前記下部折り返し縁を突き合せる上部折り返し縁を形成させ、かつこの上部折り返し縁を外側に折り曲げて、前記縁曲げ部を含む折り返し部を受け入れる受け入れる受け入れ部とし、さらに、この受け入れ部から前記折り返し部を覆うようにして、下向きの山形部をもつ折り返し抱持部を形成させたことを特徴とする横葺き屋根板を用いた屋根の接合部構造.

2 棟側成形部の立上り部に形成される突出形状部は、立上り基部から上部折り返し縁に向い次第に彎曲してコンケーブ状に立上るコンケーブ部を有する構成にした特許請求の範囲第1項に記載の横葺き屋根板を用いた屋根の接合部構造.

3 棟側成形部の立上り部に形成される突出形状部は、立上り基部から上部折り返し縁に向い前傾して立上る立上り傾斜部を有する構成にした特許請求の範囲第1項に記載の横葺き屋根板を用いた屋根の接合部構造.

4 棟側成形部の立上り部に形成される突出形状部は、立上り基部から上部折り返し縁に向い次第に前傾して立上る立上り傾斜部とすると共に、軒側成形部の立下り部は、下部折り返し縁に向つて後傾する立下り傾斜部とした特許請求の範囲第1項に記載の横葺き屋根板を用いた屋根の接合部構造.

5 棟側成形部の立上り部に形成される突出形状部は、立上り基部から上部折り返し縁に向い次第に前傾して立上る立上り傾斜部とすると共に、軒側成形部の立下り部のほゞ下半部は、前記立上り傾斜部での傾斜度合に做つた立下り傾斜部とし、これらの立上り傾斜部と立下り傾斜部とを、共に前傾状態で面一に連接させるようにした特許請求の範囲第1項に記載の横葺き屋根板を用いた屋根の接合部構造.

6 棟側成形部の立上り部に形成される突出形状部は、下部折り返し縁に近付けた部分に平坦面部を残して、その立上り基部側に少なくとも一つの立上り段部を有する構成にした特許請求の範囲第1項に記載の横葺き屋根板を用いた屋根の接合部構造.

7 棟側成形部の立上り部に形成される突出形状部は、下部折り返し縁に近付けた部分に平坦面部を残して、その立上り基部側に少なくとも一つの立上り段部を有する構成とし、前記棟側成形部の平坦面部に対し、軒側成形部の立下り部内側の下端部に沿つて形成した起立部を軒側から覆うように突き合せたことを特徴とする特許請求の範囲第1項に記載の横葺き屋根板を用いた屋根の接合部構造.

発明の詳細な説明

〔産業上の利用分野〕

この発明は、金属鋼板製の横葺き屋根板を用いた屋根の接合部構造に関し、さらに詳しくは、防錆用焼付け塗装などを施した所定幅による長尺金属鋼板の両側端部に、予め相互係合のための所定の軒側、棟側成形部をそれぞれに賦形成形させて横葺き屋根板とし、この横葺き屋根板の複数枚を前段軒側と次段棟側とで相互に係合接続させて葺き上げるようにした横葺き屋根の接合部構造、特にこれらの軒側、棟側相互の各成形部形状の改良に係るものである.

〔従来の技術〕

従来から、この種の長尺金属鋼板による横葺き形式の軒側、棟側各成形部を賦形成形させた屋根板については、様々な形式、態様のものが数多く提案されており、なかでも主として雨仕舞い、すなわち相互に係合接続される軒側、棟側の各成形部からの雨水などの浸入防止を意図した組合せ係合部形状の開発が盛んである.

こゝで、このような長尺金属鋼板製の横葺き屋根板にあつて、一般的に採用されている軒側、棟側各成形部における接続形状の各別的の従来例構造を第5図a、bおよび第6図に示す.

すなわち、第5図aは第1の従来例の構成による横葺き屋根板を示す断面斜視図、第5図bは同上横葺き屋根板での軒側、棟側各成形部の接続係合状態を拡大して示す断面図であり、また、第6図は第2の従来例の構成による横葺き屋根板での軒側、棟側各成形部の接続係合状態を拡大して示す断面図である.

これらの各従来例の構成において、前者の第1の従来例の場合、第5図aに示すように、横葺き屋根板1は、例えば、防錆用焼付け塗装などを施した所定幅の長尺金属鋼板を用い、この金属鋼板をロール成形機などにより、長手方向に沿つた中央部に面板部2残して、その一側部側に軒側成形部3を、他側部側に棟側成形部4をそれぞれに連続して賦形成形させると共に、これを所定の単位長さに切断して、図示省略したが、通常では、長さ方向接続のために、その切断端部の一方には、表面側への折り返し接続部を、他方には、裏面側への折り返し接続部をそれぞれに形成する.

前記軒側成形部3には、前記面板部2の一側部側から、頭頂部5をやゝ斜め外側下方に所定の長さで折曲させ、また、その突端より下方に立下り部6を立下らせると共に、その下端縁7を内側に上向き弧状に折り返し彎曲させて折り返し部とし、かつこの折り返し端を縁曲げ部9に形成してある。

前記棟側成形部4には、前記面板部2の他側部側から、前記縁曲げ部9を抱持し得るように、抱持部10を斜め内側上方に折曲させ、また、その突端より上方に突出片部11を立上らせた上で、その突縁12を内側下方に突出させてある.

そして、この第1の従来例の構成では、被葺き上げ対象部としての垂木13もしくは野地板面上にあつて、まず、軒先側、こゝでは前段側となる横葺き屋根板1を、その内側空間部内に適宜パツクアツプ材としての木毛板14などを配した状態で、例えば、よく知られているように、図示省略した吊子部材などで取付けておき、ついで、この前段側横葺き屋根板1の棟側成形部4に対して、棟側の次段側横葺き屋根板1の軒側成形部図示通りに係合接続させ、この係合を軒側から棟側、つまり、下方から上方へ順次に繰返して、葺き上げることにより、所期の横葺き屋根構造を得るのである.

すなわち、より一層具体的には、第5図bに示す通りに、前段側棟側成形部4に次段側軒側成形部3を被嵌させるようにして、抱持部10内に折り返し部8の一部を含む縁曲げ部9を装入係合させると共に、立下り部6の内面を突縁12に突当てゝ接続させるものであり、この係合接続状態では、縁曲げ部9が抱持部10内に抱持されて、折り返し部8の上向き彎曲によつて第1の減圧空間部15が形成され、抱持部10内にあつて第2の減圧空間部16が形成され、かつ立下り部6および突出片部11、突縁12間内にあつて第3の減圧空間部1.7が形成されるのである.

次に、後者の第2の従来例の場合、第6図に示すように、軒側成形部3については、前記と同様に頭頂部5および立下り部6を形成させ、かつその下端縁7を内側に折り返して折り返し部18にすると共に、この折り返し端を縁曲げ部19に形成してあり、また、棟側成形部4についても、前記と同様に抱持部10を形成させ、かつその突端部を折り返して折り返し部19、およびこれを上方に立上げて屈曲させた屈曲部20とし、さらに、これを内側に取付け座21を延長して構成させたもので、この第2の従来例の構成においても、抱持部10に縁曲げ部19を含む折り返し部18を挿入して係合させると共に、立下り部6の内面を折り返し部19の突端に突き当てゝ接続させ、この接続状態で抱持部10内に第1の減圧空間部22が形成され、かつ折り返し部19の上方内部に第2の減圧空間部23が形成されるのである.

つまり、これらの第1、第2の各従来例の構成から明らかなように、従来での軒側、棟側各成形部における接続構造の基本的な概念としては、前段側の面板部2から立上げた棟側成形部4に対して、次段側の面板部2から立下げた軒側成形部3を、その外部に露出される係合突き合せ部が、面板部2の面上に位置されるように被嵌して係合接続させ、各成形部相互の係合面からの雨水などの浸入阻止、および各減圧空間部での雨水などの浸入圧の減圧を図るようにしているのである。

〔発明が解決しようとする問題点〕

しかしながら、前記のように構成される各従来例での長尺金属鋼板製の横葺き屋根の接合部構造においては、軒側、棟側各成形部の係合突き合せ部が、面板部の面上に直接、接触するように位置して構成され、しかも、この係合突き合せ部は、必然的に同面板部からほゞ直角に立上る内角部の隅角に存在するために、強い風雨時などにあつては、例えば、第5図bに矢印で示すように、面板部に与えられた屋根勾配に沿つて吹き上げられる風雨が、至極当然のことではあるが、前記内角部の隅角に露出されている係合突き合せ部に集中して吹き当てられることになり、特にこの係合突き合せ部に強力な風雨圧が加えられて、同係合突き合せ部における毛細管現象に基づいた浸水圧が大きく高められると共に、こゝでは、この係合突き合せ部に続く立下り部への下方からの風雨圧により、同係合突き合せ部が押し開かれる作用も加えられて、この係合突き合せ部での面板面との間の隙間が大きくなる傾向を有し、相互に係合接続される軒側、棟側各成形部の内部への浸水などの惧れが一層増加すると云う不利がある。

そしてまた、前記の係合突き合せ部に集中して吹き当てられる強力な風雨は、一般的に砂、泥、塵埃などを伴なつていることが多く、雨水と一緒にこれらも屋根内部に浸入し、砂に含まれた鉄分による赤銹の発生とか、のちにこれが流れ出して面板面、ひいては屋根面を汚損する惧れが、また、特に寒冷地などでは、浸入した雨水、雪片などが凍結して膨張し、係合面の隙間をより一層大きくして、益々雨水の浸入の機会を高めるなどの問題点を有するものであつた.

従つて、この発明の目的とするところは、従来例での前記のような問題点に鑑み、前記した軒側、棟側各成形部の外部に露出される係合突き合せ部での風雨、ならびに砂、泥、塵埃などの浸入を効果的に防止し得る成形部形状を備えている.この種の横葺き屋根板を用いた屋根の接合部構造を提供することである.

〔問題点を解決するための手段〕

前記目的を達成させるために、この発明に係る横葺き屋根板を用いた屋根の接合部構造は、長手方向中央部に面板部、この面板部の一側部に軒側成形部、同他側部に棟側成形部を形成したき屋根板を有し、前段側横葺き屋根板の棟側成形部に、次段側横葺き屋根板の軒側成形部を相互に係合接続させて構成する横葺き屋根の接合部構造であつて、前記軒側成形部には、立下り部を立下げて下部折り返し縁を形成させ、かつこの下部折り返し縁を内側に折り返して端部に縁曲げ部をもつ折り返し部とし、また、前記棟側成形部には、内側へオーバーハング状に突出する立上り部を立上げて、その立上り基部に水捌き空間部を抱え込んだ突出形状部を形成させた上で、前記下部折り返し縁を突き合せる上部折り返し縁を形成させ、かつこの上部折り返し縁を外側に折り曲げて、前記縁曲げ部を含む折り返し部を受け入れる受け入れ部とし、さらに、この受け入れ部から前記折り返し部を覆うようにして、下向きの山形部をもつ折り返し抱持部を形成させたことを特徴としている.

〔作用〕

すなわち、この発明に係る横葺き屋根板を用いた屋根の接合部構造においては、前段軒側の横葺き屋根板の棟側成形部に対し、次段棟側の横葺き屋根板の軒側成形部を被嵌させて、立上り部の上部折り返し縁に立下り部の下部折り返し縁を突き合せるように、かつ縁曲げ部を含む折り返し部を受け入れ部に接圧させて折り返し抱持部内に受け入れるように係合接続させることで、立上り部と立下り部との上部、下部の各折り返し縁の突き合せ接合部が、面板部から立上つた部分に位置されることになつて、面板部に沿つて吹き上げられる風雨が、この突き合せ接合部に直接吹き当てられず、しかも立上り部には、その立上り基部に水捌き空間部を抱え込んだ突出形状部を形成させてあるために、吹き当てられる風雨を水捌き空間部の存在により適切に捌き得るのであり、かつ突き合せ接合部での折り返し部と受け入れ部との内部側にあつては、下向きの山形部を含む折り返し抱持部により減圧空間部が構成されて、突き合せ接合部を通した雨水の浸入圧を効果的に減圧できるため、横葺き屋根板の取付け固定を容易になし得るほか、この横葺き屋根板、ひいては面板部の寒暖差による伸縮を効果的に吸収できるのである。

〔実施例〕

以下、この発明に係る横葺き屋根板を用いた屋根の接合部構造の各別の実施例につき、第1図ないし第4図を参照して詳細に説明する。

第1図は第1実施例による横葺き屋根板を示す断面斜視図、第2図は同上横葺き屋根板における軒側、棟側各係合部での接続係合状態を拡大して示す断面図である.

すなわち、この第1図、第2図に示す第1実施例において、横葺き屋根板31は、前記従来例の場合と同様に、例えば、防錆用焼付け塗装などを施した所定幅の長尺金属鋼板を用い、この金属鋼板をロール成形機などにより、長手方向に沿つた中央部に面板部32を残して、その一側部側に軒側成形部33を、他側部側に棟側成形部34をそれぞれに連続して形成形させると共に、これを所定の単位長さに切断して、図示省略したが、通常では、長さ方向接続のために、その切断端部の一方には、表面側への折り返し接続部を、他方には、裏面側への折り返し接続部をそれぞれに形成する.

前記軒側成形部33には、前記面板部32の一側部側から、頭頂部35をやゝ斜め外側下方に所定の長さで折曲させ、また、その突端より下方に立下り部36を立下らせると共に、その下部の折り返し縁37を内側へほゞ直角に折り返して折り返し部38とし、かつこの折り返し端を下部側へ縁曲げして縁曲げ部39に形成してある.

前記棟側成形部34には、前記面板部32の他側部側から立上り部40を立上げて、この立上り部40に内側へオーバーハング状に突出させることで、立上り基部に水捌き空間部50を抱え込んだ突出形状部、この第1実施例においては、コンケーブ部40aを形成させると共に、その上部の折り返し縁41を外側へ折り曲げて、前記縁曲げ部39を含んだ折り返し部38を受け入れる受け入れ部42とし、さらに、この受け入れ部42からは、上方内側へ向けて前記折り返し部38を覆うように折り返し抱持部47を折り返して、下向きの山形部43を形成させた上で、これを二重になるように折り返して前記面板部32面に対応する位置まで立下げて折り曲げ、取付け固定のための取付け部49を折曲形成させたものである.

そして、この第1の実施例の場合、各横葺き屋根板31を屋根構造に組み上げるのには、前記従来例の場合と同様に、被葺き上げ対象部としての垂木13もしくは野地板面上にあつて、ま軒先側、こゝでは前段側となる横葺き屋根板31を、その内側空間部内に適宜バツクアツプ材としての木毛板14などを配した状態で、取付け部49を図示省略した止め釘などにより取付け固定させておき、ついで、この前段側横葺き屋根板31の棟側成形部34に対し、棟側での次段側横葺き屋根板31の軒側成形部33を、その立上り部40に立下り部36が連続して連接され、それぞれの両折り返し縁41、37が相互に突き合わされて突き合せ接合部46を形成するように、しかも、縁曲げ部39を含む折り返し部38を、受け入れ部42と折り返し抱持部47との内部に受け入れるようにして係合接続させ、この係合接続を軒側から棟側、つまり下方から上方へ順次に葺き上げて、所期の横葺き屋根構造を得るのである.

前述のように組み上げた横葺き屋根構造にあつては、立上り部40と立下り部36との上部、下部の各折り返し縁41、37の突き合せ接合部46が、面板部32から立上つた部分に位置されると共に、これらの立上り部40と立下り部36とが相互に連接されていて、しかも、立上り部40には、これを内側へ向けてオーバーハング状に突出させてコンケーブ部40aを形成させてあるために、その立上り基部に水捌き空間部50が形成され、かつ係合部の内部においては、下向きの山形部43と折り返し抱持部47とによつて減圧空間部45が構成されることになる。

こゝで、この第1実施例の場合、相互に係合接続される軒側前段、棟側次段の各横葺き屋根板31にあつて、面板部32に沿つて吹き上げる風雨に対し、その受圧面としての相互に係合接続された軒側、棟側各成形部33、34の全体の立上り高さは、とりも直さず相互に連接されて一連となつた立上り部40と立下り部36との高さに等しく、また、これらの両者での外部に対して露出される接合部分は、立上り部40での上部折り返し縁41と、立下り部36での下部折り返し縁37との係合突き合せ部46に相当しており、この係合突き合せ部46は、前記した従来例の場合のように、面板部32の面上に直接、接してほゞ直角に立上る内角部の隅角には存在せず、全体としての立上り受圧面のほゞ中間部に位置され、しかも、立上り部40の立上り基部には、次第に彎曲状にオーバーハングして立上げられた突出形状部、すなわちこの第1実施例の場合、コンケーブ部40aによつて、水捌き空間部50が存在することになる。

従つて、この第1実施例による構成では、面板部32に沿つて吹き上げられる風雨は、先に従来例の構成で述べたのと同様に、こゝでも必然的に同面板部32からほゞ直角に立上つた内角部の隅角に集中されることになるが、この場合、第2図からも明らかなように、同隅角に対応する部分が棟側成形部34の立上り部40の基部に該当しており、しかもこの基部からは、コンケーブ部40aが立上げられて、水捌き空間部50を構成しているために、この立上り部40の基部、ひいては水捌き空間部50に集中して吹き当てらる風雨は、同基部に何等の係合突き合せ部も存在していないために、吹き当つたのちは、一方において突出形状部、こゝではコンケーブ部40aに沿い上方に方向付けされて円滑に流れると共に、他方において立上り部40の基部に沿い長手方向に流れて、これを係合突き合せ部46に対して殆んど影響を与えることなく適切に捌き得るのであり、このように係合突き合せ部46に対する風雨の影響を十分に緩和し得るのである。

つまり、この第1実施例による構成の場合、立上り部40の基部には、係合突き合せ部46が存在しておらず、かつ立上り部40と立下り部36とが、一連に連接されると共に、立上部40にコンケーブ部40aが形成されているためにき当てられる風雨には、コンケーブ部40aによる上方への方向性が与えられることになつて、係合突き合せ部46を越えて容易に上方へ流れ易く、従つて、立下り部36に上方への押し開き作用を与えず、同時に係合突き合せ部46の存在しない基部に沿い長手方向に流れることゝなつて、同係合突き合せ部46からの風雨、それにこの風雨に伴なつた砂、泥、塵埃などの浸入を効果的に排除できるのである。

また併せて、立上り部40の基部には、常に吹き当てられた風雨が集中して流れるために、同基部への砂、泥、塵埃などの堆積も考えられず、その結果、風雨が止まつたのちの砂、泥、塵埃などの流れ出しも全くあり得ず、このために屋根面の汚れをも良好に防止できるのであり、かつまた、たとえ係合突き合せ部46から毛細管現象にて幾分かの雨水の浸入があつたとしても、この僅かな雨水は、係合突き合せ部46の内側に連なつて構成される減圧空間部45により、その浸入圧が十分減圧されて緩和され、以後、より以上の内部にまで浸入することはない。

さらに、この軒側、棟側各成形部33、34の係合態様、換言すると、この第1実施例による接合部の構造においては、軒側成形部33における立下り部36の下部折り返し縁37を、内側へ折り返して折り返し部38としてあり、かつこの折り返し部38を受け入れ部42に接圧させているために、これらの両部間には十分な弾性が付与されることゝなつて、この与えられている弾性によつて、棟側成形部34での立上り部40の上部折り返し縁41に対する立下り部36の下部折り返し縁37の接圧力を継続して確実に保持できると共に、折り返し部38の折り返し端を上部側へ縁曲げした縁曲げ部39を、受け入れ部42と折り返し抱持部47とになじみ良く受け入れさせることができ、併せて、このように棟側成形部34での受け入れ部42と折り返し抱持部47とに、軒側成形部33での縁曲げ部39を含んだ折り返し部38を、挟み込むようにして受け入れているために、各横葺き屋根板31の相互間に剥がれなどの作用を生ずる惧れもない。

そしてまた、こゝでは、折り返された折り返し抱持部47をさらに折り返すようにして、これを面板部32の面上に対応する位置まで立下げて折り曲げることにより、取付け固定のための取付け部49を形成してあるために、この取付け部49を止め釘などで垂木13もしくは野地板面上に極めて容易に取付け固定させることができ、このように二重に折り返されて弾性的な折曲態様とされた部分の存在により、外部気温の寒暖差に基づいた各横葺き屋根板31の幅方向の伸縮を十分に吸収し得て、軒側、棟側各成形部33、34の係合態様が、この幅方向の伸縮によつて崩形したりせず、長期に亘つて良好な係合態様を保持し得るのである。

次に、第3図aないしcには、前記した第1実施例の構成における立上り部40での突出形状部の変形例として、第2ないし第4の各実施例の構成を示してある。

すなわち、第3図aに示す第2実施例の構成では、前記立上り部40での突出形状部を、その立上り基部から前記下部折り返し縁41、ひいては係合突き合せ部46に向つて前傾する立上り傾斜部40bを形成させたものであり、前記第1実施例の構成におけるコンケーブ部40aと全く同様な作用、効果を得ることができ、また、第3図bに示す第3実施例の構成では、第2実施例の構成において、前記軒側成形部33での立下り部36を、係合突き合せ部46に向つて後傾する立下り傾斜部36aとすることによつて、偶々係合突き合せ部46に向う風雨が生じた場合にあつても、同部での水の流れおよび水はけを良好にし得るものであり、さらに、第3図cに示す第4実施例の構成では、軒側成形部33での立下り部36のほゞ下半部を、前記立上り傾斜部40bの傾斜度合に做つた立下り傾斜部36bとすることによつて、これらの立上り傾斜部40bと立下り傾斜部36bとを、共に前傾状態で面一に連接させ得るようにしたものであり、前各実施例と同様な作用、効果を得られるほかに、上方に案内される水の流れを一層円滑にして、係合突き合せ部46への水の浸入を積極的に阻止できるのである。

また次に、第4図aないしdには、前記した第1実施例の構成における立上り部40での突出形状部の変形例として、第5ないし第8の各実施例の構成を示してある。

すなわち、第4図aおよびbに示す第5および第6実施例の構成では、前記立上り部40突出形状部として、前記下部折り返し縁41、ひいては係合突き合せ部46に近付けた部分に平坦面部40cを残して、その立上り基部側に第1の立上り段部40d、および第1の立上り段部40dと第2の立上り段部40cを形成させたものであり、これらの各実施例の構成においても、前各実施例と同様な作用、効果を得られるほかに、基部に集中して吹き当てられる風雨の跳ね返りを可及的に抑えて、係合突き合せ部46への水の浸入を積極的に阻止し、併せて、同基部での水の流れを一層円滑に助長し得るのである。

また、第4図cに示す第7実施例の構成では、前記第1の立上り段部40dを形成した立上り部40に対し、前記立下り部36内側の下端部に形成される起立部36cを軒側から覆うように突き合せることにより、係合突き合せ部46をきにしたもので、こゝでも前各実施例と同様な作用、効果を得られるほかに、下向きの係合突き合せ部46としたので、同係合突き合せ部46への直接的な風雨の吹き込みを避けて雨水のはけを良くし、併せて、この係合突き合せ部46を外部側から隠蔽して外観体裁を改善し得るのである。

さらに、第4図dに示す第8実施例の構成は、前記第4図aに示す第5実施例の構成において、前記下向きの山形部43をもつた折り返し抱持部47からの取付け部49を省略し、これに代えて同各部を例えば図示しない吊子などで取付けるようにしたもので、同第5実施例の構成とぼゞ同様な作用、効果が得られるのである。

〔発明の効果〕

以上詳述したように、この発明によるときは、長手方向の中央に面板部、この面板部の一側部に軒側成形部、同他側部に棟側成形部を形成した横葺き屋根板を有し、前段側横葺き屋根板の棟側成形部に、次段側横葺き屋根板の軒側成形部を相互に係合接続させて構成する横葺き屋根の接合部構造であつて、軒側成形部には、立下り部を立下げて下部折り返し縁を形成させ、かつこの下部折り返し縁を内側に折り返して端部に縁曲げ部をもつ折り返し部とし、棟側成形部には、内側へオーバーハング状に突出する立上り部を立上げて、その立上り基部に水捌き空間部を抱え込んだ突出形状部を形成させた上で、下部折り返し縁を突き合せる上部折り返し縁を形成させ、かつこの上部折り返し縁を外側に折り曲げて、縁曲げ部を含む折り返し部を受け入れる受け入れ部とし、この受け入れ部から前記折り返し部を覆うように下向きの山形部をもつ折り返し抱持部を形成させたので、前段軒側の横葺き屋根板での取付け固定された棟側成形部に対して、次段棟側の横葺き屋根板の軒側成形部を被嵌させ、その立上り部の上部折り返し縁に立下り部の下部折り返し縁を突き合せると共に、縁曲げ部を含む折り返し部を受け入れ部に接するようにして、これらを受け入れ抱持部内に受け入れさせるだけの簡単な操作により、これらの両者を係合接続させて所期の横葺き屋根構造を構成させることができ、また、このように構成された横葺き屋根構造では、上部、下部の各折り返し縁での突き合せ接合部が、面板部から立上つた部分に位置されて、面板部に沿つて吹き上げられる風雨が、この突き合せ接合部に直接吹き当てられることがなく、従つて、同係合突き合せ部からの風雨、それにこの風雨に伴なう砂、泥、塵埃などの浸入を効果的に排除でき、また、この立上り部には、突出形状部が形成されているために、吹き当てられる風雨に上方への方向性が与えられることになつて、係合突き合せ部を越えて容易に上方へ流れ易くなり、立下り部に上方への押し開き作用を与えないために、吹き当てられる風雨を適切に捌き得て、これらの砂、泥、塵埃などの堆積、ならびにその堆積に伴なう腐食の進行、汚れなどをも防止できるのであり、さらには、突き合せ接合部の内部に減圧空間部が構成されるために、雨水の浸入圧を効果的に減圧して、より以上内部への雨水の浸入をも良好に阻止し、かつ相互に突き合わされた立上り部と立下り部とは、十分な耐圧強度を有いて積雪荷重にも強く、寒冷地に多いすが漏れも未然に防止できるのである。

また、これらの軒側、棟側各成形部での係合態様では、軒側成形部における立下り部の下部折り返し縁から、折り返し部を折り返し形成させ、この折り返し部を受け入れ部に接圧させているために、これらの両部間には十分な弾性が付与され、この与えられている弾性によつて、棟側成形部での上部折り返し縁に対する軒側成形部での下部折り返し縁の接圧力を継続して確実に保持できると共に、折り返し部での内部側における減圧空間部の形成が容易になり、かつまた、折り返し抱持部からは、取付け固定のための取付け部を面板面に対応する位置まで立下げて折り曲げ形成してあるので、止め釘などによる横葺き屋根板の取付けを容易になし得るほか、外部気温の寒暖差に基ずいた各横葺き屋根板の幅方向の伸縮を十分に吸収できて、軒側、棟側各成形部の崩形を防止し、その係合接続態様を長期に亘つて保持し得られ、しかも、全体構造自体についても、これを単なる金属鋼板側部のフオーミング成形により形成できるため、製造が極めて容易であり、従来と変りない価格で提供できるなどの優れた特長がある。

図面の簡単な説明

第1図、および第2図はこの発明に係る横葺き屋根板を用いた屋根の接合部構造の第1実施例による横葺き屋根板の構成を示す断面斜視図、および同上各横葺き屋根板相互間での軒側、棟側形部の接続係合状態を拡大して示す断面図、第3図aないしcは同上屋根の接合部構造の第2ないし第4の各実施例による軒側、棟側各成形部の接続合状態をそれぞれ拡大して示す断面図、第4図aないしdは同上屋根の接合部構造の第5ないし第8の各実施例による軒側、棟側各成形部の接続係合状態をそれぞれに拡大して示す断面図であり、また、第5図a、bは第1従来例による横葺き屋根板の構成を示す断面斜視図、および同上各横葺き屋根板相互間での軒側、棟側各成形部の接続係合状態を拡大して示す断面図、第6図は第2従来例による同上軒側、棟側各成形部の接続係合状態を拡大して示す断面図である。

31……横葺き屋根板。32……面板部、33……軒側成形部、34……棟側成形部。36……軒側成形部の立下り部、36a、36b……立下り傾斜部、36c……起立部、37……下部折り返し縁、38……折り返し部、39……縁曲げ部。40……棟側成形部の立上り部、40a……コンケーブ部、40b……立上り傾斜部、40c……平坦面部、40d、40c……立上り段部、41……上部折り返し縁、42……受け入れ部、43……山形部、45……減圧空間部、47……受け入れ抱持部、49……取付け部。50……水捌き空間部。

第1図

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第2図

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第3図a

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第3図b

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第3図c

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第4図a

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第4図b

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第4図c

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第4図d

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第5図a

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第6図

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第5図b

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<19>日本国特許庁

<32>日本分類 86(6)A 241.1 86(6)A 213 公開実用新案公報 <11>実開昭48-100310

庁内整理番号 7260-22 7260-22 <43>公開 昭48(1973).11.27

審査請求 未請求

<34>金属屋根瓦の接合構造

<21>実願 昭47-24033

<22>出願 昭47(1972)2月25日

<72>考案者 森岡忠司

門真市大字門真1048松下電工株式会社内

同 山本英臣

同所

同 川上顧利

同所

<71>出願人 松下電工株式会社

門真市大字門真1048

<74>代理人 弁理士 石田長七

<57>実用新案登録請求の範囲

板状体の後端近くを全長に亘り上方と前方へ折曲して中空で断面略L字状に形成せる係合突脈の内方折曲部に上方へ凹の上凹部と後方へ凹の後凹部とを連結して設け、板状体の前端部を下方と後方へ折曲して係合溝を形成し、この係合溝の下片を断面略へ字状に折曲して上方へ凸な上凸部を設けて金属屋根瓦を形成し、下方の金属屋根瓦の係合突脈に上方の金属屋根瓦の係合溝を係合し、係合突脈の内方折曲部の上凹部と後凹部とにそれぞれ係合溝の下片の上凸部と下片の先端とを係合し係合突脈の前片と係合溝の前片との間に間隙を設けて成る金属屋根瓦の接合構造。

図面の簡単な説明

第1図は本考案金属屋根瓦の接合構造の一実施例の一部切欠施工状態斜視図、第2図は第1図のⅡ-Ⅱ線による拡大断面図、第3図は同上の施工順序概略図であつて、Aは金属屋根瓦、1は板状体、2は係合突脈、2aは係合突脈の前片、3は内方折曲部、3aは上凹部、3bは後凹部、4は係合溝、4aは上凸部、4bは下片の先端、4cは係合溝の前片を示すものである。

第1図

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第2図

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第3図

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特許公報

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公開実用新案公報

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