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横浜地方裁判所 平成4年(行ウ)18号 判決 1995年7月19日

神奈川県川崎市中原区小杉陣屋町一-四-一

原告

吉岡克己

右訴訟代理人弁護士

黒木芳男

山田勝利

右黒木芳男訴訟復代理人弁護士

松田壮吾

神奈川県川崎市高津区久本二六九-一

被告

川崎北税務署長 伊勢知郎

右指定代理人

松村玲子

北川益雄

田部井敏雄

近藤晃

中澤彰

新居克秀

大島収

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告は原告の相続税について、平成二年一月三一日付けでした相続税の更正のうち一二二四万二四〇〇円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定を取り消す。

第二事案の概要

一  本件は、亡父を相続した原告が、共同相続した賃貸用マンションは貸家用に建てられたものであるから、その敷地及び建物の全部が貸家建付地及び貸家として課税評価すべきであるのに、被告は、相続開始日に現実に貸し付けられていた部屋に対応する土地及び建物部分についてのみ、貸家建付地及び貸家としての課税評価をなし、その余の部分については、自用地及び自用家屋として評価した更正処分をしたのは違法であるとして、その取消しを求めている事案である。なお、審理の途中で、被告から、更正処分のうち原告主張に係る土地の評価に誤りがあったが、他に相続財産に加えるべき株式及び被相続人から原告に贈与された金員があることが認められたので、これらを加えて相続税額を計算すれば本件更正性分はその範囲内となるから、、本件更正処分は適法であるとの主張がされ、これに対して原告から、右株式は、生前に原告が亡父から買受けたもので相続財産ではなく、右贈与もされていないから、これらを求めて相続税額を算出するのは誤りであるばかりか、右株式に関する相続税の賦課権は、除斥期間を経過して消滅しており、被告が、本件訴訟において、右株式を相続財産であると主張することは許されないなどと反論している。

二  争いのない事実

1  原告は、昭和六一年八月二五日に死亡した吉岡又二郎の相続人であり、同人の相続人は、原告の外、吉岡又二郎の妻である吉岡スミ江、子である柿本範子及び小貫民江(以下「本件相続人ら」という。)である。

2  原告は被告に対し、右相続に係る相続税について課税価格を四六七〇万六〇〇〇円、納付税額一四〇三万三九〇〇円として申告し、その後、課税価格を四二七七万七〇〇〇円、納付税額を一二二四万二四〇〇円とする更正請求をしたが、これにつき理由がない旨の通知処分を受け。ところが、被告は原告に対し、課税価格を五一二〇万三〇〇〇円、納付税額を一六〇八万四五〇〇円とする更正(以下「本件更正処分」という。)をし、過少申告加算税をを一〇万二五〇〇円とする賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。右の経緯及びその後の異議申立て、審査請求の結果等は、別紙「本件課税処分の経緯」のとおりである。

3  別紙物件目録一記載の建物は、マンション型式の建物であり、その敷地部分は同目録二記載の土地(以下「本件土地建物」という。)であるところ、これらは、相続財産であり、被告はその価額を評価算定するに当たって、本件建物については、相続開始日に本件建物の一部(二一室のうち一七室)が貸し付けられていない空き室であるとして、この部分の評価を自用の家屋に係る評価をし、本件土地については本件建物の敷地部分を、相続開始日における利用区分に応じて自用地と貸家建付地とにあん分して評価した。

三  争点

1  本件の争点は、本件相続によって原告が取得した財産等の内容及びその評価額であり、具体的には、本件土地建物の評価方法はどうあるべきか、被告主張の有価証券及び被相続人からの贈与は、本件相続税の評価額に含めて計算されるべきかである。

2  被告の主張

(一) 本件更正処分の根拠について

(1) 本件相続人らの課税評価の合計額三億一九三〇万三〇〇〇円(別表1「課税価額等の計算明細表」順号14の「本件相続人らの合計額」欄記載)

これは、本件相続人らが相続により取得した財産の総額四億八八三七万一二五四円(別表1順号7の「本件相続人らの合計額」欄の金額)から、その債務総額一億八〇八八万九〇二三円(別表1順号11の「本件相続人らの合計額」欄の金額)を控除した金額(純資産価額)に、被相続人から原告が贈与を受けた贈与財産価額一一八二万四〇〇〇円(別表1順号13の「本件相続人らの合計額」欄の金額)を加算した後の金額(国税通則法一一八条一項により、各相続人の課税価格の一〇〇〇円未満の端数を切捨て後のもの。以下同じ。)である。すなわち、

<1> 相続により取得した財産の総額四億八八三七万一二五四円(別表1順号7の「本件相続人らの合計額」欄の金額)は、次のAないしFの合計である。

A 土地の価額三億三五三二万六三四二円(別表1順号1の「本件相続人らの合計額」欄の金額)

これは、別表3「土地の明細表」記載の土地の合計額である。なお、別表3の順号2ないし8の金額は申告額と同額であり、別表3の順号1が本件土地であるところ、その価額を算定するに当たっては、租税特別措置法六九条の三(昭和六三年法律第一〇九号による改正前のもの。以下「措置法」という。)に規定する小規模宅地について相続税の課税価格の計算の特定を適用し、本件建物の全室に係る敷地部分をその対象となる小規模宅地等とした。

B 家屋の価額一億二一一七万二五八六円(別表1順号2の「本件相続人らの合計額」欄の金額)

これは、別表4「家屋の明細表」記載の本件建物の価額である。

C 有価証券の価額一〇七二万五九九七円(別表1順号3の「本件相続人らの合計額」欄の金額)

これは、別表5「株式の明細表」記載の有価証券の合計額である。なお、別表5記号1ないし6の金額及び順号7のうち六八万七六九〇円(一四一五株×四八六円)は申告額と同額である。

D 現金及び預貯金の額二〇七八万九四八二円(別表1順号4の「本件相続人らの合計額」欄の金額)

これは、別表6「現金及び預貯金の明細表」記載の預貯金の合計額であり、申告額と同額である。

E 既経過利子の額三〇万六八五〇円(別表1順号5の「本件相続人らの合計額」欄の金額)

これは、別表6記載の預貯金の既経過利子の合計額であり、申告額と同額である。

F 電話加入権の額五万円(別表1順号6の「本件相続人らの合計額」欄の金額)

これは、電話加入権の額であり、申告額と同額である。

<2> 控除すべき債務の総額一億八〇八八万九〇二三万九〇二三円(別表1順号11の「本件相続人らの合計額」欄の金額)は、次のAないしCの合計である。なお、これは相続税法一三条及び一四条(昭和六三年法律第一〇九号による改正前のもの)の規定により、本件相続人らが相続により取得した財産から控除すべき債務の総額であり、申告額と同額である。

A 未払金額六九二三万〇二〇〇円(別表1順号8の「本件相続人らの合計額」欄の金額)

これは、被相続人が支払うべき未払金の額であり、その内容は別表7「未払金の明細表」記載のとおりである。

B 借入金の額一億〇九二五万円(別表1順号9の「本件相続人らの合計額」欄の金額)

これは、被相続人が住宅金融公庫から借り入れた八八二五万円及びさくら銀行(自由が丘支店)から借り入れた二一〇〇万円の合計額である。

C 葬式費用の額二四〇万八八二三円(別表1順号10の「本件相続人らの合計額」欄の金額)

<3> 純資産価額に加算される贈与財産価額一一八二万四〇〇〇円(別表1順号13の「本件相続人らの合計額」欄の金額)

被相続人は、昭和六一年二月一〇日、同人名義の東京急行電鉄株式会社の株式二万株を売却した代金一一八二万四〇〇〇円の小切手を、三井銀行(現在さくら銀行)自由が丘支店に持ち込み、同月一二日、原告名義で同額の定期預金を設定しているから、原告は同額の贈与を受けたことになり、これは相続税法一九条により純資産価額に加算される。

(2) 原告の納付すべき税額

<1> 本件相続人らの課税価格の合計額三億一九三〇万六〇〇〇円(別表2順号1の「本件相続人らの合計額」欄の金額)

これは、右(一)の金額である。

<2> 遺産に係る基礎控除額三六〇〇万円(別表2順号2の「本件相続人らの合計額」欄の金額)

これは、課税価格の合計額から控除すべき基礎控除の額であり、四〇〇万円に本件相続人らの数である四を乗じて算出した金額と二〇〇〇万円を合計した金額である。

<3> 課税遺産総額二億八三三〇万六〇〇〇円(別表2順号3の「本件相続人らの合計額」欄の金額)

これは、右<1>の金額から<2>の金額を控除した残額である。

<4> 法定相続分に応ずる取得金額(別表2順号5の金額)

これは、相続税法一六条に基づき、本件相続人らが法定相続分に応じて取得したとした場合の課税遺産額であり、右<3>の金額にそれぞれの法定相続分を乗じて算出した金額(一〇〇〇円未満の端数切捨て)である。

A 原告分(六分の一) 四七二一万七〇〇〇円

B 吉岡スミ江分(二分の一) 一億四一六五万三〇〇〇円

C 柿本範子、小貫民江分(各六分の一) 各四七二一万七〇〇〇円

D 合計額 二億八三三〇万四〇〇〇円

<5> 相続税の総額一億〇六三五万二二〇〇円(別表2順号6の「本件相続人らの合計額」欄の金額)

これは、右<4>のAないしCに応ずる相続税額として、相続税法一六条の規定を適用して算出した金額の合計額(一〇〇円未満の端数切捨て)である。

<6> 原告の納付すべき相続税額二一〇〇万七二〇〇円(別表1順号15、別表2順号7の各「原告分」欄の金額)

これは、被相続人の遺産について、本件相続人らの間において遺産分割がされていないことから、相続税法五五条の規定を適用し、同法一七条の規定に基づき、右<5>の金額に、あん分割合(別表1順号14欄の原告分欄の金額六三〇七万一〇〇〇円を同順号欄の合計額の金額三億一九三〇万六〇〇〇円で除いた割合)を乗じて算出した金額(一〇〇円未満の端数切捨て)である。なお、相続開始の年において被相続人から贈与により取得した財産で純資産価額に加算されるものについては、相続税法二一条の二第四項の規定により贈与税の課税価格に算入されないから、同法一九条かっこ書(贈与税額控除)の規定により控除される金額はない。

(二) 本件更正処分の適法性について

右(一)(2)<6>のとおり、原告の納付すべき相続税額は二一〇〇万七二〇〇円となるところ、本件更正処分に係る原告の納付すべき相続税額(別紙「本件課税処分の経緯」の<4>更正・賦課決定欄の納付税額欄記載の金額)は一六〇八万四五〇〇円であり、右金額の範囲内であるから、本件更正処分は適法である。

(三) 本件賦課決定処分の適法性について

原告に課せられるべき過少申告加算税の額は、本件更正処分により新たに納付すべき税額(二〇五万〇六〇〇円)について、国税通則法六五条一項の規定により右税額(同法一一八条三項により一万円未満の端数切捨て後のもの)に一〇〇分の五の割合を乗じて算出した金額(一〇万二五〇〇円)となるところ、本件賦課決定処分により原告に賦課決定された過少申告加算税は同額であるから、本件賦課決定処分は適法である。

(四) 本件土地建物の評価額について

(1) 本件建物の価額一億二一一七万二五八六円(別表1順号2の合計額欄の金額)

これは、相続開始時における本件建物の自用家屋としての評価額から、本件建物に存在すると認められる借家権の価額を控除して算出したものであり、その詳細は次のとおりである。なお、相続開始時において賃貸されていたのは、本件建物の二一室のうち四室であり、一七室についてはいまだ賃貸には供されていなかったから、本件建物全体が借家権の目的となっているとして評価すべきではなく、二一室のうち四室のみが借家権の目的となっているものとして評価すべきである。

<1> 本件建物の自用家屋としての評価額一億二八六〇万二二〇二円

これは、本件建物に付された固定資産税評価額に相続税財産評価に関する基本通達(昭和三九年四月二五日付け直資五六、直審(資)一七国税庁長官通達、平成三年一二月一八日付け課評二-四、課資一-六による改正前のものをいい、以下「評価通達」という。)の別表1に定められた倍率一・〇を乗じて算出した金額である。

<2> 本件建物の各部屋の合計面積一一九三・三一平方メートル

これは、昭和六三年三月一二日に原告が被告に提出した昭和六二年分所得税の確定申告書に添付されていた「マンション(イナヤハイム境町)収入内訳明細書」と題する書面に記載された各部屋の床面積の合計である。

<3> 賃貸されていた四室の合計面積二二九・八〇平方メートル

これは、右書面に記載されていた相続開始時において賃貸されていた四室の床面積の合計である。

<4> 賃貸されていた四室の自用家屋としての評価額二四七六万五三八八円

これは、相続開始時において賃貸されていた四室の自用家屋としての評価額であり、右<1>の金額から右<3>の<2>に占める割合(以下「貸付割合」という。)を乗じて算出した額である。

これは、右<4>の金額に、借家権割合三〇パーセントを乗じた金額である。なお、右借家権割合は、東京国税局長が定めた昭和六一年分相続税財産評価基準(以下「評価基準」という。)の評価倍率において定められている同局管内の建物に係る借家権の価額を評価する場合の割合である。

(2) 本件土地の価額一億一四五三万三二六六円(別表3順号1の金額)

これは、相続開始時における本件土地の自用家屋としての評価額から、現に賃貸されていた四室に応ずる敷地の自用地としての標準額を控除した額に、右四室に応ずる敷地の貸家建付地としての評価額を加算して算出した。なお、右四室に応ずる敷地については、措置法六九条の三に規定する小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例(以下「本件特例」という。)の適用があるため、課税価格に算入する貸家建付地としての評価額は同特例の適用後の金額となる。その詳細は次のとおりである。(被告は、本件土地の価額の算定をするに当たり、当初、右特例の適用の対象となる小規模宅地等を、本件建物のうち、相続開始時において賃貸されていた四室に応ずる敷地の貸家建付地の評価額についてのみ適用していたが、本件建物の全室に係る敷地部分について右特例を適用して本件土地の価額を算定する方が合理的であるので、そのように算定した。)

<1> 本件土地の自用地としての評価額一億二九七三万二六三九円

これは、本件土地の自用地としての評価額であり、本件相続に係る相続税申告書に添付された「宅地及び宅地の上に存する権利の評価明細書(単記用)」記載の金額と同額である。

<2> 賃貸されていた四室に応ずる敷地の自用地としての評価額二四九八万三〇八一円

これは、相続開始時において現に賃貸されていた四室に応ずる敷地の自用地としての評価額であり、右<1>の金額に左(1)<4>の貸付割合を乗じて算出した金額である。

<3> 賃貸されていた四室に応ずる敷地の貸家建付地としての評価額二〇四八万六一二七円

これは、賃貸されていた四室に応ずる敷地の貸家建付地としての評価額であり、右<2>の金額に、借地権割合六〇パーセントと借家権割合三〇パーセントの相乗積を乗じて算出した金額を、右<2>の金額から控除して算出した金額である(評価通達二六項)。なお、右借地権割合は評価基準の路線価図に定められた割合であり、本件では六〇パーセントである。

<4> 賃貸されていなかった一七室に応ずる敷地の自用地としての評価額一億〇四七四万九五五八円

これは、相続開始時において賃貸されていなかった一七室に応ずる敷地の自用地としての評価額であり、右<1>の金額から右<2>の金額を控除して算出したものである。

<5> 本件特例適用<5>の本件土地の評価額一億二五二三万五六八五円

これは、本件特例適用前の本件土地の評価額であり、右<3>の金額に右<4>の金額を算出したものである。

<6> 本件特例の適用対象となる本件土地の価額一六〇五万三六二七円

これは、本件土地の敷地面積九三六・一三平方メートル(登記簿と異なる。)のうち、本件特例の適用の対象となる二〇〇平方メートル相当部分の評価額であり、右<5>の金額を九三六・一三で除し、これに二〇〇を乗じて算出した二六七五万六〇四五円に、措置法六九条の三第一項一号に規定する割合一〇〇分の六〇を乗じて算出した金額である。なお、本件相続人らは相続税の申告において同項一号を適用して申告しているため、被告において本件特例を適用して本件課税処分の適法性を主張するものである。

<7> 本件特例の適用対象となる本件土地の価額九八四七万九六三九円

これは、本件土地の敷地面積のうち、本件特例の適用の対象とならない七三六・一三平方メートル(九三六・一三平方メートルから二〇〇平方メートルを控除したもの)相当分の価額であり、右<5>の金額を九三六・一三で除し、七三六・一三を乗じて算出した金額である。

<8> 本件特例適用後の本件土地の価額一億一四五三万三二六六円

これは、本件特例適用後の本件土地の価額であり、右<6>の金額に右<7>の金額を加算した金額である。

(五) 有価証券の価額について

相続財産である有価証券については、別表5の順号1ないし6は申告額と同額であるところ、順号7の鐘紡株式会社の株式のうち四六九株、順号8及び9の東陶機器株式会社の株式六六株及び株式会社東急百貨店の株式二三一七株も相続財産に当たる。なお、上場株式の価額については、評価通達一六九項の定めるところにより、当該株式が上場されている証券取引所の公表する課税時期の最終価額によって評価することを原則とし、それが課税時期の属する月以前の三か月間における、毎日の最終価格の各月ごとの平均額(最終価格の月平均額)のうち最も低い価格を超える場合には、その最も低い価額によって評価することとされている。

(1) 鐘紡株式会社の株式について

本件相続人らは、鐘紡株式会社の株式について一四一五株が相続財産であるとして相続税の申告をしたが、被相続人は相続開始直前において一八八四株を所有していたから、その差四六九株を加算した一八八四株が相続財産となる。

(2) 東陶機器株式会社の株式について

本件相続人らは、東陶機器株式会社の株式についてまったく申告をしていなかったが、被相続人は相続開始直前において六六株を所有していたから、これを相続財産に加算すべきである。なお、その評価額は、課税時期が昭和六一年八月二五日であるため、同日の最終評価と、同年六月から八月おける右株式の各月の平均額のうち、最も低い同年六月の月平均額一株当たり一四〇四円とした。

(3) 株式会社東急百貨店の株式について

本件相続人らは、株式会社東急百貨店の株式についてまったく申告をしていなかったが、被相続人は相続開始直前において二三一七株を所有していたから、これを相続財産に加算すべきである。なお、その評価額は、右のとおり、昭和六一年八月二五日の最終評価と、同年六月から八月おける右株式の各月の平均額のうち、最も低い同年六月の月平均額一株当たり九〇六円とした。

3  原告の主張

(一) 本件土地建物の価額について

被告は、本件建物の価額を算定するに当たり、相続開始時にその一部が貸し付けられていないとして、この部分を自用家屋として評価し、また、本件土地の価額算定についても、相続開始時における利用区分に応じて自用地と貸家建付地とにあん分して評価しているが、これは相続財産の評価を誤るものであって違法である。本件土地建物については、その全体を貸家建付地及び貸家として評価すべきである。すなわち、<1>被相続人は、もともと本件建物全体を貸家目的として建築計画を立案していた、<2>本件建物は、その建築費用を住宅金融公庫から借り入れているから、設計から賃貸料までのすべてを管理されており、賃貸目的以外の用に供することはできない、<3>被相続人は、本件建物の賃借人の募集について、不動産業者に委託する旨の委託契約を締結しており、しかも賃借人の募集は既に開始されていた、<4>右委託契約は、原告において一方的に契約することはできず、賃借希望者に対して、原則として賃貸する義務を負っている、<5>本件相続人らは、順次賃貸借契約を締結し、昭和六三年三月には、一室を残してすべて賃貸の用に供している、<6>仮に本件建物全体を売買目的のものに変更しようとしても、これをするには、多額の費用と労力を要するもので、容易にはなし得ない、<7>評価通達によれば、建物の評価は、原則として一棟の建物ごとにすべきことになっている、<8>評価通達によれば、評価は、財産の価額に影響を及ぼすすべての事情を考慮すべきこととされており、単に相続開始時における状態のみを考慮すべきではなく、建築計画から資金手当及び完成後の利用状況等を考慮すべきである、などの諸事情を勘案すれば、本件建物全体を貸家として評価した上、本件土地全部を貸家建付地として評価すべきである。

(二) 有価証券の価額について

被告主張の、鐘紡株式会社の株式四六九株、東陶機器株式会社の株式六六株及び株式会社東急百貨店の株式二三一七株は、いずれも、原告が被相続人から、他の株式とともに、昭和五八年六月一五日ころ、代金合計八二九万九二七三円で買い受けたものであり、それがたまたま被相続人名義のまま残っていたにすぎない。

なお、被告は、本件更正処分において、右株式が相続財産であると主張しておらず、右各株式に関する課税賦課権についての除斥期間は既に徒過しているから、これを本件訴訟において、相続財産であると主張するのは、国税通則法七〇条に違反し、許されない。

(三) 原告が被相続人から一一八二万四〇〇〇円を贈与されたことについて

この事実については、否認する。

第三当裁判所の判断

一  第二の二「争いのない事実」に加え、別表3の順号1ないし8の各土地が本件相続財産であり、別表3の順号2ないし8の各土地の価額が同表の各価額欄のとおりであること、本件建物、別表5の順号1ないし6及び7のうち一四一五株六八万七六九〇円(一株四八六円)各株式の合計金八三〇万六一九七円、別表6の順号1ないし8の預貯金合計金二〇七八万九四八二円、既経過利子三〇万六八五〇円及び電話加入権五万円がいずれも相続財産であること、本件相続財産から控除すべき債務の総額が一億八〇八八万九〇二三円(別表1記載の未払金額六九二三万〇二〇〇円、借入金額一億〇九二五万円(住宅金融公庫からの借入分八八二五万円及びさくら銀行からの借入分二一〇〇万円)、葬式費用二四〇万八八二三円)であることについては、当事者間において争いがない。

したがって、以下においては、本件土地建物の評価方法はどのようにすべきか、鐘紡株式会社の四六九株、東陶機器株式会社の株式六六株及び株式会社東急百貨店の株式二三一七株は相続財産に当たるか、原告が被相続人から、一一八二万四〇〇〇円の贈与を受け、それが純資産額に加算される贈与財産価額に当たるかについて、検討する。

二  相続税法二二条によれば、相続税における相続財産の価額評価は、相続開始時における時価によりなすべきであるが、課税実務においては、納税者の公平及び課税事務の迅速かつ統一的処理等の要請から、課税庁において評価通達を定め、これにより画一的に評価することとされている。

そして、評価通達二六項、九三項、九四項(乙一号証)は、貸家建付地及び貸家の価額について、貸家の目的に供されている宅地の価額は、自用地としての価額から、自用地としての価額にその宅地に係る借家権割合と貸家に係る借家権割合との相乗積を乗じて計算した価額を控除した価額により評価し、借家権の目的となっている家屋については、建物価額から借家権の価額を控除した金額により評価し、借家権価額は、その借家権の目的となっている建物借家権が設定されていないものとした場合における価額に、借家権割合を乗じて計算した金額によって評価すると定めている。これは、建物が借家権の目的となっている場合には、賃借人は一定の正当事由がない限り、建物賃貸借契約の更新拒絶や解約申し出ができないため、立退料等の支払いをしなければ、右借家権を幻滅させられず、また借家権が付いたままで貸家及びその敷地を譲渡する場合にも、譲受人は、建物及び敷地利用が制約されることなどから、貸家建付地及び貸家の経済的価値がそうでない土地及び建物に比較して低下することを考慮したものと解され、合理的なものと認められる。

三  本件建物の価額について

本件建物に付された固定資産税評価額が一億二八六〇万二二〇二円であること、本件建物は二一室あり、相続開始時において賃貸されていたのは、そのうち四室であり、一七室についてはいまだ賃貸には供されていなかったこと、本件建物の各部屋の合計面積が一一九三・三一平方メートル、賃貸されていた四室の床面積の合計が二二九・八〇平方メートルであることは、いずれも当事者に争いがなく、乙一、二号証によれば、家屋の相続税財産評価は固定資産税評価額に倍率一・〇を乗じて計算した金額であることが認められる。

ところで、本件のように、相続開始時点において、いまだ賃貸されていない部屋がある場合の建物全体の評価については、前述のように、建物の自用家屋としての評価額から、賃貸されている部屋に存在すると認められる借家権の価額を控除して算出するのが相当である(評価通達九三項、九四項)。すなわち相続税法二二条所定の相続開始時の時価とは、相続等により取得したとみなされた財産の取得日において、それぞれの財産の現況に応じて、不特定多数の当事者間において自由な取引がされた場合に通常成立すると認められる価額をいうものと解するのが相当であるから(評価通達一項(2)項参照)、相続税始時点において、いまだ賃貸されていない部屋が存在する場合は、当該部屋の客観的交換価値はそれが借家権の目的となっていないものとして評価すべきである。そして、乙二号証によれば、本件において、借家権割合は、三〇パーセントであると認められる。

原告は、本件建物の価額を算定するに当たり、前記第二の3記載のように、被相続人は、本件建物全体を貸家目的とする建築計画を立案し、本件建物については、建築費用を借り受けた住宅金融公庫によりすべて管理され、賃貸目的以外の用に供し得ないばかりか、被相続人は、不動産業者との間で賃借人募集の委託契約を締結し、右募集は既に開始されているところ、原告においてこれを一方的に解約することはできず、また、本件建物は、昭和六三年三月には、一室を残してすべて賃借されており、かつ、本件建物全体を売買目的のものに変更するには、多額の費用と労力を要し、容易になし得ないなどの諸事情を挙げて、本件建物全体を貸家として評価すべきである、と主張する。しかし、たとえ右のような事情があっても、相続開始時点において、本件建物のうち四室以外は借家権の目的となっていない以上、残りの一七室の相続開始時点における客観的交換価値は借家権のないものと認めざるを得ないのであり、これが住宅金融公庫又は不動産業者等との契約の内容及び相続開始時点の後に生じた事情等により左右されるとはいえない。

そこで、相続開始時点における本件建物の自用家屋としての評価額から、現に賃貸されていた四室に応ずる借家権の価額を控除して算出すると、一億二一一七万二五八六円(別表1順号2の「本件相続人らの分」欄記載の金額)となる。

すなわち、本件の自用家屋としての評価額一億二八六〇万二二〇二円から、現に賃貸されていた四室に応ずる借家権の価額七四二万九六一六円(一億二八六〇万二二〇二円×一・〇×二二九・八〇÷一一九三・〇・三)を控除すると、一億二一一七万二五八六円となる。

四  本件土地の評価額について

本件土地の自用地価額が一億二九七三万二六三九円であること、本件土地の敷地面積が九三六・一三平方メートルであることは、当事者間に争いがなく、弁論の全趣旨によれば、本件土地の借地権割合は六〇パーセントであると認められる。

ところで、貸家の目的に供されている宅地の価額は、自用地としての価額から、右価額にその宅地に係る借地権割合と貸家に係る借家権割合との相乗積を乗じて計算した価額を控除した価額により評価するのが相当である(評価通達二六項)。そこで、相続開始時点における本件土地の自用地としての評価額から、現に賃貸されていた四室に応ずる敷地の自用地としての評価額を控除した額に、右四室に応ずる敷地の貸家建付地としての評価額を加算して算出すると、一億一四五三万三二六六円(別表3順号1の金額)となる。

すなわち、本件土地の自用地としての評価額一億二九七三万二六三九円から、賃貸されていた四室に応ずる敷地の自用地としての評価額二四九八万三〇八一円(一億二九七三万二六三九円×二二九・八÷一一九三・三一)を控除すると、賃貸されていなかった一七室に応ずる敷地の自用地としての評価額一億〇四七四万九五五八円が算出されるから、これに賃貸されていた四室に応ずる敷地の貸家建付地としての評価額二〇四八万六一二七円(二四九八万三〇八一円-二四九八万三〇八一円×〇・六×〇・三)を加算すると、本件特別適用前の本件土地の評価額一億二五二三万五六八五円が算出される。

なお、右四室に応ずる敷地については、措置法六九条の三に規定する本件特例(小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例)が適用され、課税価格に算入する貸家建付地としての評価額は同特例の適用後の金額となる。その計算は、本件特例の適用対象となる本件土地の価額は、本件土地の敷地面積九三六・一三平方メートルのうち、本件特例の適用の対象となる二〇〇平方メートル相当部分の評価額であるから、右一億二五二三万五六八五円を九三六・一三で除し、二〇〇を乗じて算出した二六七五万六〇四五円に、措置法六九条の三第一項一号に規定する割合一〇〇分の六〇を乗じて算出すると一六〇五万三六二七円となり、一方、本件特例の適用対象とならない本件土地の価額は、本件土地の敷地面積のうち、本件特例対象とならない七三六・一三平方メートル(九三六・一三平方メートルから二〇〇平方メートルを控除したもの)相当分の価額であり、右一億二五二三万五六八五円を九三六・一三で除し、七三六・一三を乗じて算出すると九八四七万九六三九円となる。したがって、本件特例適用後の本件土地の価額は、右一六〇五万三六二七円に九八四七万九六三九円を加算した一億一四五三万三二六六円ということになる。

五  有価証券の価額について

乙一一号証によれば、上場株式の価額については、評価通達(一六九項)の定めるところにより、当該株式が上場されている証券取引所の公表する課税時期の最終価格によって評価することを原則とし、それが課税時期の属する月の以前の三か月間における毎日の最終価格の各月ごとの平均額(最終価格の月平均額)のうち最も低い価格を超える場合には、その最も低い価額によって評価することとされる。

(1)  鐘紡株式会社について

乙五号証、弁論の全趣旨によれば、本件相続人らは、鐘紡株式会社の株式について一四一五株が相続財産であるとして相続税の申告をしたが、被相続人は相続開始直前において一八八四株を所有していたことが認められるから、その差四六九株の評価額二二万七九三四円(四六九株×四八六円)も相続財産に加算すべきである。

(2)  東陶機器株式会社の株式について

乙六号証、八号証の三、七、九号証の三、一〇号証の三、弁論の全趣旨によれば、本件相続人らは、東陶機器株式会社の株式についてまったく申告をしていなかったが、被相続人は相続開始直前において六六株を所有していたから、その評価額は、課税時期が昭和六一年八月二五日であるところ、同日の最終評価が一六七〇円、同年六月から八月おける右株式の各月の平均額がそれぞれ一四〇四円、一五〇九円、一六五五円であることが認められるから、六六株の評価額九万二六六四円(同年六月の月平均額一四〇四円×六六株)も相続財産であると認められられる。

(3)  株式会社東急百貨店の株式について

乙七号証、八号証の五、七、九号証の三、一〇号証の三、弁論の全趣旨によれば、本件相続人らは、株式会社東急百貨店の株式についてまったく申告をしていなかったが、被相続人は相続開始直前において二三一七株を所有していたこと、その評価額は、課税時期が昭和六一年八月二五日であるところ、同日の最終価格が九八五円、同年六月から八月おける右株式の各月の平均額がそれぞれ九〇六円、九七四円、九九四円であるから、二三一七株の評価額二〇九万9202円(同年六月の月平均額九〇六円×二三一七株)も相続財産であると認められる。

なお、原告は、被相続人から、昭和五八年六月一五日ころ、東京急行電鉄株式会社の株式二万株の外、鐘紡株式会社の株式四六九株、株式会社東急百貨店の株式二三一七株及び東陶機器株式会社の株式一〇六六株を、代金合計八二九万九二七三円で買受けたが、被相続人名義のままであったにすぎないと主張し、原告は本人尋問において、これに沿う供述をし、甲一一号証によれば、同月一五日に原告名義の定期預金六二九万九二七三円が解約されていること及び同日原告名義の普通預金口座から二〇〇万円が引き出されていることが認められる。しかし、右供述の内容は、当日、資金が潤沢だったので、被相続人に対して株式を買う話をしたところ、被相続人が、現金が入り用なので、その所有する株式を渡すから我慢しろということで右各株式を購入することにしたが、買い受ける際、売買契約書等は作成しておらず、どの銘柄を何株購入したかもすべて記憶に基づくものであり、しかも既にそれも必ずしもはっきりしないというもので、かなり曖昧なものであること、甲一二号証によれば、原告主張の購入額は、いずれも、昭和五八年六月における各株式の最高値より高額であり、時価よりも相当高いものと推認され、親子間においての売買としては不自然であること、乙三号証、一三号証、一四号証、一五号証の一、二によれば、原告は右同日後、本件相続開始時まで右各株式の名義変更をしておらず、他方、被相続人は、東京急行電鉄株式会社の株式(右の二万株を含む。)について、右同日後である昭和六〇年に受領した配当を自己の所得として確定申告し、原告は自己名義になっているもの以外はこれをしていないことが認められることなどからすると、右供述はにわかに信用できず、他に前記認定を覆すに足る証拠はない。

また、原告は本件更正処分において、右各株式が相続財産であるとは主張しておらず、右各株式に関する課税賦課権の除斥期間は既に徒過しているから、これを本件訴訟において、相続財産であると主張するのは、国税通則法七〇条に違反し許されない、と主張する。しかし、被告の主張は、本件訴訟における攻撃防御方法として、本件更正処分により確定された税額が、総額において、関係法規により客観的に定まる税額を超えないことを明らかにするためにされたものであって、原告に対して新たな課税処分をするためにされたものでないから、原告の右主張は理由がない。

六  その他の相続財産について

乙三号証、四号証の二によれば、被相続人は、昭和六一年二月一〇日、同人名義の東京急行電鉄株式会社の株式二万株を売却した代金一一八二万四〇〇〇円を小切手で、三井銀行(現在さくら銀行)自由が丘支店に持ち込み、同月一二日、原告名義で同額の定期預金を設定したことが認められ、これを左右するに足る証拠はないから、原告は同額の贈与を受けたことになり、これは相続税法一九条により純資産価額に加算されるべきである。

七  結論

以上によれば、原告の課税価格等の計算明細(相続分は、原告が六分の一、吉岡スミ江が二分の一、柿本範子及び小貫民江が各六分の一であることは当事者に争いがない。)は、別表1、2記載のとおりとなり、その納付すべき相続税額は別表1の順号15、別表2の順号7の各原告分欄記載の二一〇〇万七二〇〇円となる。本件更正処分はその範囲内であるから、本件更正処分は適法であり、これに伴う本件賦課決定処分も適法である。

よって、原告の請求はいずれも理由がないから、これらを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 浅野正樹 裁判官 秋武憲一 裁判官 小河原寧)

(物件目録)

一 所在 川崎市川崎区境町七番地一五

家屋番号 七番一五

種類 共同住宅 店舗 車庫

構造 鉄筋コンクリート造陸屋根三階建

床面積 一階 四〇四・一三平方メートル

二階 四六四・七二平方メートル

三階 四〇六・四〇平方メートル

二 所在 川崎市川崎区境町

地番 七番一五

地目 宅地

地積 九三四・五〇平方メートル

別紙

本件課税処分の経緯

<省略>

別表1

所得計算書

<省略>

別表2

税額算出表

<省略>

別表3

土地の明細表

<省略>

別表4

家屋の明細表

<省略>

別表5

株式の明細表

<省略>

別表6

現金及び預貯金の明細表

<省略>

別表7

未払金の明細表

<省略>

別表8

昭和58年6月14日の東京市場第1部の終値を基に算定した本件株式の価額の合計額

<省略>

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