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横浜地方裁判所 平成4年(ワ)800号 判決 1993年12月16日

原告

葉澤大吉

被告

山岸洋一

主文

一  被告は、原告に対し、六九二万一四六三円及び内六一六万一四六三円に対する平成三年八月一四日から、内七六万円に対する平成五年三月一七日から、いずれも支払済みまでの年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを二分し、その一は原告の負担とし、その余は被告の負担とする。

四  右一は、仮に執行することができる。

事実

一  当事者の求めた裁判

1  原告

(一)  被告は、原告に対し、二二五〇万五四二八円及び内二〇三〇万五四二八円に対する平成三年八月一四日から、内二二〇万円に対する平成五年三月一七日から、いずれも支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

(二)  訴訟費用は被告の負担とする。

(三)  仮執行宣言

2  被告

(一)  原告の請求を棄却する。

(二)  訴訟費用は原告の負担とする。

二  当事者の主張

1  請求原因

(一)  交通事故の発生

原告は、次の交通事故(以下「本件事故」という。)により受傷した。

(1) 事故発生日時 平成三年八月一四日午前一一時三〇分ころ

(2) 事故発生場所 神奈川県横浜市瀬谷区二ツ橋町三〇三番地先

(3) 事故当事者 被害者・原告、加害者・被告

(4) 事故発生態様 右日時・場所において、原告運転の原動機付自転車(登録番号・瀬谷区う一三二二。以下「原告車」という。)に、路外から出てきた被告運転車両(登録番号・横浜七七な三七五二。以下「被告車」という。)が側面衝突した。

(二)  被告の責任

被告は、本件事故当時、被告車の運行供用者であつたから、本件事故による損害について自動車損害賠償保障法三条に基づく賠償責任がある。

(三)  原告の損害

(1) 原告は、本件事故により、顔面・口腔内挫創、門歯折損、両膝打撲擦過創、両手・背打撲擦過創、胸部打撲挫傷、鼻骨骨折、頭部挫傷挫創、意識障害の傷害を(以下「本件傷害」という。)受け、その治療のため、平成三年八月一四日から同月二八日まで医療法人社団桐峰会横浜桐峰会病院に入院し、平成三年八月二九日から同年九月二八日まで同病院に通院した(実通院日数二二日)。また、同病院に通院中には右膝外傷性のう腫(遅発性)等が新たに発生した。さらに、原告は、歯の欠損傷害により、平成三年一〇月一一日から平成四年三月六日まで浜中歯科クリニツクに通院(実通院日数一一日)して治療を受けたが、歯科後遺障害(以下「本件後遺障害」という。)が残り、同後遺障害は、平成四年四月二〇日、自動車損害賠償保障法施行令別表所定の後遺障害等級第一一級四号と認定された。

(2) 右による具体的損害は次のとおりである。

<1> 治療関係費 一一三万八九六二円

<2> 入院雑費 一万九五〇〇円

日額一三〇〇円の一五日分である。

<3> 通院交通費 七〇四〇円

<4> 休業損害 四六九万九一九七円

原告は、「そば処八十一」の屋号で飲食店を営んでいるところ、本件事故のため、平成三年八月一四日から同年九月二八日まで、一日開店しただけで残る四五日間は閉店せざるを得なかつた。その後も右閉店に伴う影響として半年以上にわたつて売上の減少があつた。したがつて、原告は、本件事故により、右の間(平成三年八月から平成四年五月まで)、営業上の損害を被つたことになる。

右の損害は、本件事故の影響を受けていない平成三年一月から六月までの売上総利益とその前年である平成二年一月から六月までの売上総利益の上昇率を算定し、本件事故による影響を受けた平成三年八月から平成四年五月までの現実の売上総利益と右上昇率によつて算定される売上総利益との差額をもつて相当とする。

原告の平成二年度上期の月平均売上総利益は一二七万一〇〇〇円であり、平成三年度上期のそれは一五一万円である。したがつて、平成二年度と平成三年度とを各上期で比較すると、平成三年度は月平均一八・八パーセントの利益上昇があつたことになる。ところで、平成二年八月から平成三年五月までの売上総利益は、

二三七四万二六八〇円(売上合計)-九一八万九五六円(原価合計)=一四五六万一七二四円……A

であり、右の売上上昇率一八・八パーセントをAに乗じたものから、平成三年八月から平成四年五月までの現実の売上総利益を控除すると、

一四五六万一七二四円×一・一八八-(二〇〇八万七七二〇円〔売上合計〕-七四八万七五八九円〔原価合計〕)=四六九万九一九七円

となる。

右により、本件事故による原告の休業損害(営業損害)は四六九万九一九七円である。

<5> 傷害慰藉料 八〇万円

<6> 後遺症慰藉料 三五〇万円

<7> 逸失利益 一一四二万八六七九円

原告には本件後遺障害による味覚障害が生じ、それは飲食業を営むうえで重大な支障となつている。本件後遺障害によつて原告は労働能力の二〇パーセントを喪失したものというべきである。したがつて、本件後遺障害による原告の逸失利益は、次のとおりとなる。

五〇六万八六〇〇円(男子労働者学歴計全年齢平均年収額)×〇・二(労働能力喪失率)×一一・二七四(六七歳までのライプニツツ係数)=一一四二万八六七九円

<8> 将来の歯科補綴費用 六九万三四九〇円

原告は、今後少なくともあと二回は歯科補綴治療を受ける必要がある。一回の費用は七〇万円を下ることはなく、その各現価は、次のとおりであり、合計六九万三四九〇円となる。

ア 一〇年後の歯科補綴費用

七〇万円×〇・六一三九=四二万九七三〇円

イ 二〇年後の歯科補綴費用

七〇万円×〇・三七六八=二六万三七六〇円

<9> 弁護士費用 二二〇万円

原告は、本件訴訟の提起・遂行を原告訴訟代理人に委任した。その費用は二二〇万円を下ることはない。

(3) 損害の填補

原告は本件事故による損害について一九八万一四四〇円の支払を受けた。したがつて、原告の残損害は(2)の<1>ないし<9>の合計二四四八万六八六八円からこれを差し引いた二二五〇万五四二八円となる。

(四)  よつて、原告は、自動車損害賠償保障法三条に基づき、被告に対し、本件事故による損害賠償として、二二五〇万五四二八円及び内二〇三〇万五四二八円(弁護士費用を除くもの)に対する本件事故日である平成三年八月一四日から、内二二〇万円(弁護士費用)に対する本件訴状送達の翌日である平成五年三月一七日から、いずれも支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払うことを求める。

2  請求原因に対する被告の答弁

(一)  請求原因(一)は認める。

(二)  同(二)は否認する。

(三)  同(三)(四)は不知ないし争う。

3  被告の主張

(一)  過失相殺(抗弁)

本件事故の発生状況は次のようなものである。すなわち、被告は、被告車を運転して、路外の駐車場から県道に進入すべく歩道付近で待機のうえ、車両の流れが切れたので発進し、時速一五キロメートルで徐行しながら県道に進入したところ、右方から走行してきた原告車が被告車に衝突した。したがつて、本件事故は、原告にも軽度の前方注視義務違反があつたことにより発生したものであり、原告の損害については原告に五パーセントの過失があるものとして過失相殺がなされるべきである。なお、本件事故の物損に関する示談では、原告もこれを認めていた。

(二)  原告主張の損害について

(1) 休業損害

原告の算定方法は、次のとおり、何ら根拠のない独断である。休業損害の算定は、前年の売上から経費を控除した所得を基礎とすべきである。

<1> 原告は、平成二年上期と平成三年上期を選択して売上上昇率を算定し、それを平成三年下期から平成四年上期にかけての売上上昇率にスライドさせるのであるが、右の選択自体何ら根拠のない恣意的なものであるし、そば屋のような客商売においては売上に繁閑があるのであるから、過去一回の、しかも半年分の売上の比較だけで当然に休業期間も同じ売上が見込まれるというのは十分な根拠に欠ける。

<2> 事故後の平成三年八月から平成四年五月までについて、事故前年の平成二年八月から平成三年五月までと同様の売上があつたと仮定するのも恣意的である。

<3> そもそも、閉店の影響で半年以上売上が減少したということ自体恣意的である。四五日間の閉店が何故六か月の売上減少に結びつくのか、両者間の相当因果関係を示す根拠は何もない。

<4> 実際、原告の平成二年(事故前年)の年間売上は二六七四万五七九〇円であり、平成三年(事故年)も、原告の主張等によれば、四五日間休業したうえ平成四年七月まで正常業務ができなかつた(甲第二〇号証)にもかかわらず、年間売上は二五一八万三五三〇円である。その差は一五六万二二六〇円であり、五・八パーセントの減少にすぎない。この程度の売上の増減は正常業務を営んでいるときでもあり得ることであつて、平成三年下期から平成四年上期にかけての売上減少もこの差の範囲内のものであり、それが本件事故という特別事情に基づくものであることを示す根拠はない。

(2) 傷害慰藉料

入院は横浜桐蜂会病院の一五日だけである。通院は、期間としては、同病院三四日、浜中歯科クリニツク約五か月であるが、その実日数は、前者は二二日、後者は一一日である。右によれば、八〇万円は多額にすぎる。

(3) 逸失利益

<1> 原告に味覚障害の後遺障害はない。第一一級四号という後遺障害の等級認定は歯科補綴についてのみなされたものである。医師も味覚障害の後遺障害を認定しているわけではない。

<2> そして、原告に歯科補綴の後遺障害による労働能力の喪失はない。すなわち、後遺障害の認定がなされたからといつて当然に労働能力の喪失が肯定されるわけではない。いわゆる「後遺障害別等級表・労働能力喪失率」の一覧表は、本来、労災補償用であつて、被災労働者の最低限度の生活保障の観点から作成されている。したがつて、交通事故被害者の将来における労働能力喪失の程度については、右の一覧表は当て嵌まるものではなく、それは、その後遺障害の内容が当該被害者に具体的にいかなる影響をもたらすかを検討して算定されるべきである。しかるところ、歯科補綴は、そば屋という商売を続けていくうえで長期間にわたつて多大の障害をもたらすとは考えにくい。同じ第一一級の後遺障害でも一号などと比較すれば軽度であるし、後記のように原告は既に第一四級二号の歯科補綴の後遺障害があつたにもかかわらず、支障なく営業を続けてきていたのであり、それは原告の日常の業務遂行に当たつて労働能力の喪失や低下をもたらすものではない。原告自身、味覚障害は強調しているが、歯科補綴による労働能力の低下は訴えていない(甲第二〇号証)。

<3> なお、原告には、本件事故前既に後遺障害等級第一四級二号の歯科補綴の後遺障害があり、本件後遺障害の第一一級四号という等級は加重障害である。本件事故のみによつて第一一級四号の歯科補綴の後遺障害が生じたのではなく、既存の第一四級の歯科補綴が加重されて第一一級四号となつたのである。既存の後遺障害が本件事故による後遺障害の拡大に寄与している。本件後遺障害による損害については右の点も斟酌されるべきである。

(4) 将来の歯科補綴費用

原告に対しては外見的満足と味覚に影響を及ぼさない治療が施されており、一〇年後・二〇年後に補綴を要するとの所見はないし、その他これを必要とする資料もない。しかも、将来における歯科補綴の要否・時期は個人差が大きく、そのための費用も定かではないから、現時点においてこれによる損害は具体化しているとはいえない。

4  被告の主張に対する原告の答弁・反論

(一)  過失相殺(抗弁)について

原告の過失が五パーセントであるとの主張に関しては強いてこれを争うものではない。

(二)  原告の損害について

(1) 休業損害

原告が平成二年と三年の各上期を比較して売上上昇率を算定したのは、右各期間が本件事故による影響を受けていない期間であり、かつ、平成三年の上期は事故直前であるという合理的な根拠に基づいているものである。原告のような自営業者の休業損害を算出するにはこれ以上の方法は存在しないと考える。また、原告の営む飲食店は、売上の七〇パーセントが出前によるものであることから、四五日間の閉店がその後約六か月の売上に影響を及ぼしたことは明らかである。

被告は、原告の事故年度の売上は事故前年の売上と比較して一五六万二二六〇円の減少にすぎないとし、この程度の差は正常に業務を営んでいたとしてもあり得る旨主張する。しかし、四五日間も休業し、その後も本件傷害の治療のため通院し、十分な営業活動ができなかつたことは誰の目にも明らかであり、それにもかかわらず前年比で右程度の売上減少で済んだのは、まさしく事故前の上期の売上がその前年を大きく上回つていた蓄えによるものである。

(2) 逸失利益

原告は、味覚を売り物とする仕事をしているのであつて、通常人の何倍もの味覚を要求されている。微妙、かつ繊細な味付けに命をかけている者にとつて、舌との接触の最も多い前歯六本を補綴されたことは、味覚や歯ごたえなどの点で多くの障害が生じている。営業時間の短縮や妻の手助けを借りなければ十分な仕事ができないなど、現に逸失利益が発生している。

三  証拠関係

記録中の書証目録・証人等目録のとおりである。

理由

一  請求原因(一)の事実(本件事故が発生し、それにより原告が受傷したこと)は当事者間に争いがなく、成立に争いのない乙第二号証、第四号証及び弁論の全趣旨によれば、被告は、本件事故当時、自己のために被告車を運行の用に供する者であつたことが認められる。

二  そこで、本件事故による原告の損害について判断する。

1  入・通院と後遺障害

成立に争いのない甲第三号証、第八ないし第一〇号証、乙第一号証の一ないし三、第五号証、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によると、原告は、本件事故により本件傷害を受け、その治療のため、平成三年八月一四日から同月二八日まで横浜桐蜂会病院に入院し、平成三年八月二九日から同年九月二八日まで同病院に通院したこと、右通院の実日数は二二日であること、同病院に通院中、右膝外傷性のう腫(遅発性)等が新たに発生したこと、本件傷害中の門歯欠損の治療のため、平成三年一〇月一一日から平成四年三月六日まで浜中歯科クリニツクに通院したこと、その間の実通院日数は一一日であること、原告には本件傷害による後遺障害として歯牙障害が残り、いわゆる後遺障害等級事前認定において自動車損害賠償保障法施行令別表所定の第一一級四号に該当するものと認定されたこと、ただし、原告は、本件事故前、既に欠損歯四歯について第一四級に該当する歯科補綴を加えており、右の第一一級四号というのは加重障害として取り扱われたことによるものであること、以上のとおり認められる。この認定に反する証拠はない。

2  右を踏まえて原告が本件事故によつて被つた具体的損害を検討すると、次のとおりである。

(一)  治療関係費

成立に争いのない甲第四ないし第七号証、第一一号証、第一三号証及び弁論の全趣旨を総合すると、本件事故による原告の治療関係費は原告主張の一一三万八九六二円を下ることはないものと認められる。

(二)  入院雑費

入院期間一五日につき、一日当たり一二〇〇円の入院雑費を要したものと認めるのが相当であり、一万八〇〇〇円となる。

(三)  通院交通費

前掲甲第一一号証及び弁論の全趣旨によれば、原告は通院のため少なくとも七〇四〇円の交通費を要したことが認められる。

(四)  休業損害

(1) 官署作成部分は成立に争いがなく、その余の部分は原告本人尋問の結果により成立を認める甲第一四ないし第一七号証、同本人尋問の結果により成立を認める甲第一八号証、第二〇号証、同本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。

<1> 原告は、肩書住所で「そば処八十一」の屋号で飲食店(そば屋)を営んでいる。売上の約七割は出前によるものであるが、店舗も満席で三四人が入れる規模を有している。原告が調理と出前を行い、妻がこれを手伝つている。ほかにパートの従業員二名を使用している。

<2> 原告が本件事故による受傷、入院、通院等で働くことができず、妻と使用人だけでは出前ができないため、店を開けてもほとんど利益が出ないことから、原告は、事故日の平成三年八月一四日から同年九月二八日まで、一日(これは、退院後、やれるかと思つて試しに開けたものであるが、翌日膝に水が溜まる外傷性のう腫が生じるなど、まだ無理であつた。)を除く四五日間にわたつて店を開けることができず、休業を余儀なくされた。

<3> 原告店のように出前に主力をおく飲食店においては、相当期間休業して営業を再開するに当たつては、出前メニユーのチラシを配布するなどの宣伝方法を講じ、地域住民等に営業の再開を知つて貰う必要があるが、原告は、営業再開後も、外傷性のう腫による膝の痛みなどから十分な業務を行う自信が得られず、右の宣伝方法をとることを控えざるを得なかつた。原告が正常に業務に当たれると考え、チラシを配布するなどしたのは平成四年七月であつた。

<4> ところで、平成二年及び平成三年における原告店の売上金額・所得金額等は、所得税の確定申告書によつてみると、次のとおりである。

<省略>

また、平成二年から平成四年までの各上期(一月から六月まで)の月次損益の月平均は、次のような数値となつている(単位・一〇〇〇円)。

<省略>

ちなみに、平成三年一月から平成四年六月までの各月の純売上高と売上総利益は、次のとおりである(単位:一〇〇〇円)。

<省略>

以上のとおり認められる。この認定を動かすに足りる証拠はない。

(2) 右事実によれば、原告の営む飲食店は主として原告の労働によつて維持されており、原告が働かなければ営業として成り立たない状況にあつたところ、原告は本件事故による受傷、入院、通院等のため働くことができなかつたため、事故後四五日間にわたつて右飲食店を休業せざるを得なかつたのであるから、原告は、右四五日間について、開店していれば得られたであろう利益を得られなかつたという点において営業上の損害(休業損害)を被つたことになる。また、原告の営業が、店舗はあるにしても、売上の約七割を出前に依存するというものであることからすると、四五日間に及ぶ休業は、その間の得べかりし利益を失つたことに止まらず、その後も客離れなどによる損害をもたらした可能性があり得ることは推測に難くない。

そこで、右四五日間の休業とその後のそれに伴う影響による損害額如何を考えるに、当裁判所は、二〇一万三九八五円をもつて相当と認める。すなわち、原告のようないわゆる自営業者における休業損害は、要するに、その休業がなかつたならば得られたはずの利益であるから、それは、基本的には、得られたはずの売上額からこれを得るために必要としたはずの原価と経費を差し引いたものである。そして、右の売上額等は証拠上認められる休業前の実績の平均的数値に基づいてこれを判断するのが相当である。この観点から原告の営業について、休業前の実績の一日当たりの平均値をみると、売上は約七万五九四二円(平成二年の売上二六七四万五七九〇円と平成三年一月から七月までの売上一七〇七万三〇〇〇円の合計額を日数五七七日で除したもの。)、原価は約二万八七二二円(平成二年の原価一〇二一万二五〇四円と平成三年一月から七月までの合計額一六六〇万一五〇四円を五七七日で除したもの。)、経費(専従者給与を含めたもの)は約三万八九六六円(平成三年一月から七月までの具体的数値は明らかでないため、平成二年の経費と専従者給与の合計一四二二万二七九六円を三六五日で除したもの。)、である。したがつて、一日当たりの所得は八二五四円となる。ところで、右の経費には、例えば、人件費のように、所得を上げるための対価的性質を具体的に帯びているものと、例えば、一定期間休業をしていても、それが一時的なもので、その後の再開と継続的営業が予定されていることなどから、所得との具体的対応関係がなくても事業の維持等のため当然に出捐を要するものとがある。休業及びそれに伴う損害を算定するに当たつては、後者はこれを経費として斟酌するのは相当でない。前掲甲第一五号証によると、平成二年の経費で後者に属することが明らかなものとしては、広告宣伝費六万円、接待交際費八万二九〇〇円、損害保険料一八万一三三〇円、修繕費九万六四九五円、減価償却費二五七万八九七五円、福利厚生費四万九〇八九円、諸会費一三万四〇〇〇円、地代家賃二〇二万九〇六〇円、合計五二一万一八四九円が認められる。そこで、これに見合う分を前記の経費約三万八九六六円から差し引くこととして計算すると、一日当たりの経費は約二万四六八七円であり、所得は二万二五三三円となる。したがつて、四五日間の休業自体による損害は一〇一万三九八五円である。また、四五日間にわたる休業に伴う影響による損害としては、原告店が出前を主力とする営業方法をとつていること、事故前は売上高・売上利益ともに上昇傾向にあつたのに、再開後は相当期間にわたつていずれも減少していること(ちなみに、事故前の平成二年一月から平成三年七月までの月平均売上高は約二三九万円、売上利益は約一四九万円であり、再開後の平成三年一〇月から平成四年六月までの月平均売上高は約二〇八万円、売上利益は約一二六万円、である。)等、前記認定の諸般の事情を勘案すると、一〇〇万円をもつて相当と認める。結局、原告の休業損害は二〇一万三九八五円となる。

(3) 原告は、平成二年上期の月平均売上利益と平成三年上期のそれとを対比した売上利益上昇率に依拠して四六九万九一九七円の休業損害を主張する。確かに、前記認定事実によれば、右の売上利益上昇率は主張のとおりである。しかし、被告も指摘しているように、原告店のような客商売において、過去一回の、しかも半年分の売上利益の比較だけで当然に休業期間中も同じ程度の売上利益が見込まれるというのは、「社会通念上、そのように推測して、ほとんど間違いはない」といえる程度の蓋然性を要求せざるを得ない損害額算定の場面では、未だ十分な説得力があるとはいえない。それに係る経費の関係を顧慮していない点においても失当である。ちなみに、原告の平成二年の所得は二三一万四九〇円である。仮に、本件事故後、休業四五日に加えて原告の主張する平成四年五月まで本件事故による影響があつたにしても、その期間は一〇か月であり、その間にいわばまともに事業を営んだ一年分の倍以上の利益を取得し得たはずであつたなどというのは、到底人を頷かせるものではない。原告の右主張は採用できない。

(五)  傷害慰藉料

傷害慰藉料(入・通院慰藉料)としては、入院期間(一五日)及び通院実日数(三三日)等に照らし、七〇万円をもつて相当と認める。

(六)  後遺症慰藉料

後遺障害として歯牙障害が残り、いわゆる後遺障害等級事前認定において第一一級四号の該当するものと認定されているところ、それは既存の第一四級相当の後遺障害の加重障害であるにしても、右の歯牙障害が味覚に何らかの影響を及ぼすことがあり得るかもしれないことなど次の(七)で説示する点など諸般の事情に鑑みると、後遺症慰藉料としては四〇〇万円をもつて相当と認める。

(七)  逸失利益

原告は、本件後遺障害による味覚障害が生じ、それは飲食業を営むうえで重大な支障となつている旨主張し、前掲甲第二〇号証、弁論の全趣旨により成立を認める甲第二一号証及び原告本人尋問の結果中にはこれに沿う部分がある。また、弁論の全趣旨により成立を認める甲第一九号証によると、浜中歯科クリニツクの浜中猛夫医師は、「補綴治療は、あくまで人工物を口腔内に装着するものですので、味覚には何らかの影響がでても不思議ではありません」との意見を述べていることが認められる。しかし、本件証拠上、歯と味覚との関係についての医学的・科学的メカニズムは何ら明らかでないだけでなく、例えば、総入歯の者が完全に味覚を失つているなどとは思えないし、欠損歯が数本あるからといつて、それ故に味覚を云々している話は聞いたこともない。原告に歯牙障害が残り、それが味覚に何らかの影響があり得るかもしれないとしても、また、原告が「そば屋」を業としており、通常人以上に味覚に鋭敏でなければならないにしても、歯牙障害の故にその労働能力の一部を喪失したとまで認めるのは無理であり、右のような事情は後遺症慰藉料の算定において斟酌することをもつて足りるというべきである。原告の主張は採用できない。

(八)  将来の歯科補綴費用

前掲甲第一九号証によると、本件事故による原告の歯科補綴は、一般的には六、七年もつ程度のものであり、再治療の費用は少なくとも今回の費用(前掲甲第一一号証、第一三号証及び弁論の全趣旨によれば、七〇万円を下らないことが認められる。)を下回らないことが認められる。また、成立に争いのない甲第一号証によれば、原告は昭和一七年一一月生まれで、前掲甲第一〇号証によつて認められる右の歯科補綴の終了した平成四年三月当時四九歳であつたことが認められる。

右事実を総合すると、原告主張のように、原告は今後少なくともあと二回は歯科補綴治療を受ける必要があり、その一回の費用は七〇万円を下ることはなく、その各現価の合計は六九万三四九〇円を下回ることはないものと認めるのが相当である。

(九)  弁護士費用

原告が本件訴訟の提起・遂行を原告訴訟代理人に委任したことは記録上明らかであり、事案の性質、審理の経過及び認容額等諸般の事情に鑑みると、本件事故と相当因果関係のある原告の損害としての弁護士費用は八〇万円をもつて相当と認める。

(一〇)  以上のとおりであるから、原告の損害の合計は九三七万一四七七円である。

三  被告は、原告にも五パーセントの過失があるとして過失相殺を主張するところ、成立に争いのない乙第二号証、第四号証及び弁論の全趣旨から窺われる本件事故の発生状況からすると、本件事故の発生については原告にも前方注視が必ずしも十分ではなかつたきらいがないとはいえないこと加えて、原告は、原告に五パーセントの過失があることを強いて争うものではないとの姿勢を表明していることに照らすならば、右主張を肯認し、五パーセントの過失相殺をするのが相当である。そうすると、原告の損害は、八九〇万二九〇三円(円未満、切捨て)となる。

四  損害の填補

原告が本件事故による損害について一九八万一四四〇円の支払を受けたことは原告の自陳するところであるから、原告は、同金額の損害の填補を受けたものとしてこれをその損害から差し引くのが相当である。

五  結論

以上によれば、原告が被告に請求し得る損害は六九二万一四六三円であり、被告は自動車損害賠償保障法三条に基づきこれを支払うべき義務がある。よつて、原告の本訴請求は、六九二万一四六三円及び内六一六万一四六三円(右の六九二万一四六三円から弁護士費用八〇万円について過失相殺をした後の七六万円を差し引いた金額)に対する本件事故日である平成三年八月一四日から、内七六万円(過失相殺後の弁護士費用)に対する本件訴状送達の翌日であることが記録上明らかな平成五年三月一七日から、いずれも支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払うことを求める限度において理由があり、その余は失当であるから、民事訴訟法八九条、九二条、一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 根本眞)

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