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横浜地方裁判所 平成3年(ヨ)179号 決定 1991年7月05日

債権者 加藤初代

<ほか二名>

右三名代理人弁護士 松田壯吾

債務者 小山定廣

<ほか五名>

右六名代理人弁護士 杉山一

右当事者間の平成三年(ヨ)第一七九号通行妨害禁止仮処分申立事件について、当裁判所は、債権者らに代わり第三者松田壯吾に債務者らのため金三〇万円(支払保証委託契約に基づく協和埼玉銀行横浜支店支払保証)による担保を立てさせて、次のとおり決定する。

主文

一  債務者らは、債権者らが別紙物件目録記載の各土地を通路として使用することを妨害してはならない。

二  債務者らは、別紙物件目録二記載の土地上にある別紙図面一に図示された工事用バリケード三個及びロープを撤去せよ。

理由

一  債権者の申立て

主文同旨

二  当裁判所の判断

1  (事実関係)

(一)  債権者加藤初代は、相模原市《番地省略》の土地を所有し、債権者石井キミ江及び同石井政美は、同《番地省略》の土地を共有し、債権者らは、これらの土地を従来畑として耕作し使用してきたが、平成二年一二月二一日ころまでに、これらの土地を合わせて一個の駐車場(以下これを「本件駐車場」という。駐車予定台数約三〇台。)として整地し、債権者加藤の夫名義の賃貸アパートの入居者及び近隣住民のための駐車場として経営する予定である。

(二)  債務者小山定廣、同曽根キミエ及び同横山昌平は、別紙物件目録一及び三記載の各土地を共有し、債務者金子周次は、別紙物件目録二記載の土地を所有し、債務者五十嵐喜徳及び同大杉勝は、別紙物件目録四記載の土地を共有している。

(三)  右のように債務者らが所有ないし共有する別紙物件目録記載の各土地(別紙図面二中の斜線部分の土地。以下「本件道路」という。)は、昭和五一年七月一〇日の相模原市の都市計画法に基づく開発許可に係る幅員約四メートルの道路であり、登記簿上の地目は公衆用道路とされ、固定資産税は賦課されていない。

(四)  別紙図面二の網目部分の土地は、幅員四メートル余の位置指定道路(建築基準法四二条一項五号の道路)である。この道路の上には二台の放置自動車があり、そのそばを自動車で通行する際にはやや注意を要するが、普通自動車による通行は困難というほどではない。

(五)  債務者らは、本件道路のほか、本件道路に沿接する宅地をそれぞれ所有しており、債務者小山を除く債務者らは、それぞれその宅地に住居を有する。

なお、債務者らのうち四名は、自家用車を右自宅に駐車させ、本件道路に通行させている。

(六)  債務者らは、平成二年一二月二〇日ころ、本件道路上の本件駐車場に接する部分(別紙図面一参照)に、工事用バリケード三個を木杭で固定して設置し、これらをロープで繋ぎ、通行禁止の看板を掲げ、本件駐車場から本件道路への車両による出入りを不可能にしたほか、債権者らの本件道路についての通行権の存在を争っている。

2  (被保全権利)

(一)  都市計画法による道路は、たとえ私人の所有するものであっても、一般公衆の通行が妨げられることのない道路であり、ただ、その所有者は、その所有権に基づき、道路の維持管理のため合理的に必要な限度で、一般公衆の通行を制限することができるというべきである。

(二)  債務者らは、本件駐車場の契約車両が本件道路を通じて出入りするようになると、騒音、粉塵の発生、道路の毀損のおそれがあるので、本件駐車場からの車両の出入りを禁止することは、右合理的に必要な限度の制限であると主張する。

確かに本件道路は、未舗装の、一端が行き止まりの道であるから、従来その沿接宅地所有者(債務者ら)と無関係な者が通行することの少ない、比較的静かな道路であったと考えられる。しかし、債務者らのうち四名は、従前から自動車を所有し、本件道路に沿接する自己の宅地内にこれを駐車させ、本件道路に自動車を通行させていること、債権者らは本件駐車場には大型トラック等は駐車させない予定であると述べていること、本件駐車場の駐車予定台数は特定の三〇台程度であることからすると、契約車両が本件道路を通行するようになっても、騒音、粉塵の発生、道路の毀損のおそれが特に高まるということはできず、仮にそのおそれが多少あるとしても、これら損害の防止手段として、関係当事者の間で通行の方法、態様に関する協定を結ぶなど、より制限的でない他の選びうる手段があるものと考えられるのであるから、契約車両の通行を全面的に禁止することは、本件道路の維持管理のために合理的に必要な限度の制限であると認めることはできない。

(三)  なお、債務者らは、本件道路は、債務者らが自己の宅地に住居を建築するために、債務者らがローンで購入した零細な土地の中からやむなく捻出した土地であるのに、債権者が無償でそれを利用して駐車場経営を行い利益を挙げようとするのは、権利の濫用であると主張する。

しかし、道路設置の経緯がどうであろうと、いったんそれが都市計画法による道路とされた以上は、一般公衆の通行を妨げることができないことは前述のとおりであり、このような道路の性質からすると、これを通行しようとする者の通行の目的が何であったとしても、その目的が明白に違法であるなど特別の事情がない限り、その通行を制限する理由とはなしえないというべきであり、右主張は採用することができない。

(四)  以上のとおりであるから、債権者らは本件道路を通路として使用する権利があるものというべきであり、債務者らが設置したバリケード及びロープについては、その撤去を求めることができるというべきである。

3(保全の必要性)

本件駐車場からは、公道に至るための道路として、本件道路のほかに位置指定道路があることは前記のとおりであり、そこには放置自動車が二台あるけれども、注意して通行すれば、自動車による通行にさほど支障を与えるものではないと思われることも前記のとおりである。そこで、本件仮処分の必要性を認めうるかが問題となりうる。

しかし、右位置指定道路は、幅員が四メートル余しかない道路であり、右放置自動車が存する状態であればもちろん、後日それらが撤去された場合であっても、対向車や他の駐車車両があれば、自動車により通行することに多少不便することがあると思われ、また、通勤時間帯などには、本件駐車場を出入りする車両などにより一時的に渋滞の生じることも考えられること、本件駐車場に出入りする車両が右位置指定道路のほか本件道路を通行することができるようになれば、右不便や渋滞は相当程度緩和されることが予想できること、本件申立てに係るバリケード及びロープの撤去は、債務者らに特に経済的損失をもたらすものではないこと、本件駐車場の設置は、債権者らにとっては経済的利益の獲得が主たる目的であるとしても、大都市及びその近郊における駐車場の不足を解消し、違法な路上駐車を防止するという一応の公共性のあることも否定できないこと、契約車両の通行を許容した場合に、騒音、粉塵の発生、道路の毀損のおそれがあるとしても、前記のとおり、それが深刻な程度のものとなるとは思われないこと、また、本件道路は、前記のとおり何人も通行することが許されるべきものであることなどの諸事情を考慮すると、本件仮処分の必要性を認めることができるというべきである。

(裁判官 針塚遵)

<以下省略>

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