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横浜地方裁判所 平成2年(ワ)3241号 判決 1991年11月21日

原告

齋藤正人

ほか二名

被告

三和富士交通株式会社

主文

一  被告は、原告齋藤正人に対し、金三〇三〇万二七六六円及びこれに対する平成三年一月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は、原告齋藤喜三九及び同齋藤節子に対し、各金一五五万円及びこれに対する平成三年一月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用はこれを三分し、その一を被告の、その余を原告らの各負担とする。

五  この判決一項及び二項は仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  原告齋藤正人の請求(一部請求)

被告は、原告齋藤正人に対し、金九六〇〇万円及びこれに対する平成三年一月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告齋藤喜三九及び同齋藤節子の各請求

被告は、原告齋藤喜三九及び同齋藤節子に対し、各金六二〇万円及びこれに対する平成三年一月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、タクシーと衝突事故を起こして重傷を負つたバイクの運転者とのその両親がタクシー会社に対し自賠法三条に基づき損害賠償請求した事案である。

一  争いのない事実

1  本件事故の発生

(一) 日時 昭和六〇年六月二一日午前〇時三五分ころ

(二) 場所 横浜市緑区鴨居町四七七番地先交差点内

(三) 加害車両 事業用普通乗用自動車(横浜五五う五〇七五、タクシー)

右運転者 北村優

(四) 被害車両 自動二輪車(横浜る五五四一)

右運転者 原告正人

(五) 事故態様 別紙図面の交差点を東本郷団地方面から中山町方面に左折しようとした被害車両と、小机方面から中山町方面に直進しようとした加害車両が衝突した。

2  原告正人の受傷及び後遺傷害

(一) 受傷

本件事故により、原告正人(男、昭和三九年一一月一〇日生、予備校生)は、右大腿骨骨折、左大腿骨開放骨折、左恥骨骨折、頭部打撲傷、左大腿筋広範囲汚染挫滅創、脳・肺脂肪栓塞の傷害を負つた。

(二) 治療経過

(1) 昭和六〇年六月二一日、竹山病院に通院

(2) 同日、牧野病院に通院

(3) 同日から同年八月五日まで、昭和大学藤が丘病院整形外科に入院(四六日間)

(4) 同年八月五日から平成元年八月九日まで、横浜旭中央総合病院に入院(一四六六日間)

(5) 平成元年八月一〇日から同二年六月三〇日まで、横浜市総合リハビリテーシヨンセンターに入所

(三) 後遺障害

原告正人は、平成元年一〇月一一日、症状固定と診断されたところ、後遺障害の内容は次のとおりであり、後遺障害等級一級に該当する。

(1) 両下肢の用を全廃(一級八号該当)

(2) 両上肢関節機能障害(九級該当)

両手とも自動できず、他動で背屈マイナス八〇度、掌屈二〇度の障害を残し、両肩とも自動できず、他動で外展一〇〇度、伸展〇度の障害を残した。

(3) 知能低下、動作性IQ六八、高次機能障害、失認、失行(三級三号該当)

(4) 言語障害、麻痺性講音障害(四級二号該当)

(5) 膀胱直腸障害、尿器・おむつ使用(七級五号該当)

(6) 視力低下、右眼〇・〇四、左眼〇・〇五(四級一号該当)

3  責任原因

被告は、加害車両を所有し、自己のためにその運行の用に供していたものであるから、自賠法三条により、原告らに生じた損害を賠償する責任がある。

二  争点

1  原告らの被つた損害額

2  過失相殺の割合

被告は、原告正人に赤信号を無視して交差点内に進入した重大な過失があると主張するのに対し、原告らは、赤信号を無視して交差点内に進入したのは加害車両であると主張する。

第三争点に対する判断

一  原告正人の損害額

1  治療費 六一三万三四六三円

当事者間に争いがない。

2  入院雑費 一五一万一〇〇〇円

入院雑費は、一日当たり一〇〇〇円と認めるのが相当であるところ、入院期間は一五一一日間であるから、右金額となる。

3  入院付添費 五九七万七七二〇円

(一) 昭和六〇年八月二五日から同年九月二五日までの三二日間の職業付添人のための実費相当額として、三二万一七二〇円を要したことは、当事者間に争いがない。

(二) 証拠(原告喜三九、弁論の全趣旨)によれば、同年九月二六日から平成元年八月九日までの一四一四日間、原告正人の父原告喜三九又は母原告節子が付添看護をしたことが認められるところ、原告正人の受傷内容に照らすと、右近親者の付添看護が必要であつたと認められ、近親者の入院付添費(付添看護するための通院交通費等を含む。)は、一日当たり四〇〇〇円と認めるのが相当であるから、右期間の近親者の入院付添費は、五六五万六〇〇〇円となる(請求額一四二四日間分五六九万六〇〇〇円)。

4  通院交通費 六万七一六〇円

原告正人は、入院期間中、同原告の父母のいずれかが毎日病院に通つたとして、そのための通院交通費を損害として主張する(請求額平成元年八月一日までの分六二万二二八〇円)が、昭和六〇年九月二六日以後の分は、右のとおり近親者の入院付添費に含まれているので、それ以前の分のみ損害として認めるのが相当であるところ、証拠(甲二の一から三まで、原告喜三九、弁論の全趣旨)によれば、次のとおり認められる。

(一) 昭和大学藤が丘病院通院の昭和六〇年六月二一日から同年八月五日までの四六日間分(ただし、最終日は片道) 二万一八四〇円

〔(一六〇+八〇)円×(四五×二十一)〕

(二) 横浜旭中央総合病院通院の同年八月五日から同年九月二五日までの五二日間分(ただし、初日は片道) 四万五三二〇円

〔(一六〇+一二〇+一六〇)円×(一+五一×二)〕

5  将来の付添看護費(介護料) 二五七四万七二〇〇円

原告正人は、介護料として月額一二万円(一日当たり約四〇〇〇円)、四六年間分(そのライプニツツ係数一七・八八)の右金額(一二万円×一二×一七・八八)を主張するところ、同原告の後遺障害の内容に照らすと、将来に渡つて常時近親者の付添看護を要するものと認められるので、右金額が相当である。

6  家屋改造費 一四万三三二二円

証拠(甲四の一から四まで、原告喜三九)によれば、原告正人は、その後遺障害により車椅子での生活を余儀無くされたため、自宅の便所、廊下の改造等を要することになり、そのための自己負担額として一四万三三二二円を支出(他は公費負担)したことが認められるから、右金額を損害として認める(請求額一九万七二二九円)。

7  休業損害 五五九万〇七〇〇円

原告正人が本件事故当時アルバイトをしていたこと及びその日当が三七〇〇円程度であつたことは、当事者間に争いがないところ、原告正人は、休業損害として日額三七〇〇円、一五一一日間分の右金額を主張するが、この金額は、本訴提起前に被告が休業損害額として原告らに対し提示したものであり(甲七)、症状固定日までの休業損害として相当なものと認められる。

8  逸失利益 八四一三万七八五四円

原告正人は、本件事故による後遺障害により、労働能力を一〇〇パーセント喪失したところ、本件事故にあわなければ、症状固定日である平成元年一〇月一一日(二四歳)から六七歳に達するまでの間、賃金センサス平成元年第一巻第一表、産業計・企業規模計・男子労働者・学歴計・全年齢平均年間給与額四七九万五三〇〇円を得ることができたと推認されるので、この額を基礎として、ライプニツツ方式により中間利息を控除して四三年間(ライプニツツ係数一七・五四五九)の逸失利益の右症状固定日における現価を算出する(原告正人は、遅延損害金について症状固定日より後の日を起算日として請求しているので、このように算出する。)と、八四一三万七八五四円となる(請求額六八二六万〇九五八円)。

9  慰謝料 一八〇〇万円

以上認定の諸般の事情及び後記二の損害額を考慮すると、原告正人について、入通院慰謝料として五〇〇万円及び後遺障害慰謝料として一三〇〇万円が相当である(請求額六〇〇万円及び一九〇〇万円)。

10  合計金額 一億四七三〇万八四一九円

二  原告喜三九及び同節子の損害額 各四〇〇万円

原告正人の両親である原告喜三九及び節子は、原告正人に前記後遺障害が残存したことにより、死亡に比肩すべき精神的苦痛を受けたものと認められるところ、以上認定の諸般の事情を考慮すると、その慰謝料として右金額が相当である。

三  過失相殺

1  証拠(甲一、五の三から一一まで、六、乙一、証人北村優、同仲地功、原告喜三九本人)によれば、本件事故の状況について、以下の事実が認められる。

(一) 本件事故現場の状況は、別紙図面(乙一の実況見分調書の交通事故現場見取図)記載のとおりであり、最高速度が時速四〇キロメートルと規制されており、両側駐車禁止と指定されていた。

本件事故現場は、街路灯の照明や商店の各種照明によつて、夜間でも明るい場所であるが、小机方面と東本郷団地方面との間の交差点角(万能板と記載してある部分)は、建設工事のために高さ約二・五メートルの鉄板で囲われており、右各方面相互間の見通しは悪かつた。

(二) 加害車両運転者北村優は、小机方面から中山町方面に向けて本件交差点を直進しようとし、被害車両(排気量四〇〇CCのバイク)運転者原告正人は、東本郷団地方面から中山町方面に向けて本件交差点を左折しようとして、×地点付近で加害車両の前部左角が被害車両の後部右側(後輪付近)に衝突した。

そして、衝突時の信号は、加害車両側が青色、被害車両側が赤色であつた。

(三) 北村優は、交差点の対面信号が赤色であつたので、交差点手前の<2>地点(運転席、以下同じ)に停車し、その後、再発進して加速していき(衝突時時速一五ないし二〇キロメートル程度)、<4>地点に至つて初めてア地点に被害車両を発見したがどうすることもできず、<5>地点で被害車両に衝突し、<6>地点に停止した(加害車両の破損の程度は小さい)。

北村優は、対面信号が青色に変わつてから発進したと証言するが、対向車線に停止していた先頭車両(タクシー、運転者仲地功)が青色信号に従つて再発進しようとしたところ、本件事故が発生したものである(仲地功は、対面信号が変わるのを注視しており、脇見等をして発進が遅れたものではないと思料される。)こと、北村優は、先頭車両で停止したときは通常交差方向の信号を見るといいながら、本件時は「見ていないと思います。」と証言するなど、同人の信号機の所在、表示についての証言があいまいなことなどに照らすと、北村優は、交差方向の信号が赤色に変わつたが、自己の対面信号の表示がまだ赤色の時点で見込み発進したことが疑われる。また、北村優は、<3>地点でP地点方向を見たが、進行してくる車両がいなかつたこと指示説明し、証言するが、車両相互の位置関係等に照らすと、加害車両が<3>地点に至つた時点で、被害車両は既にP地点よりア地点寄りにいたものと認められるから、右指示説明及び証言は採用できない。

(四) 原告正人は、ア地点付近に至つて初めて<4>地点付近に加害車両を発見したがどうすることもできず、加害車両と衝突、車体左側を下にして転倒し、被害車両にまたがつたまま滑走して、イ地点の信号柱に衝突して停止した(被害車両は大破した。)。

甲六には、原告正人が交差点に進入しようとしたとき対面信号は青色でしたとの記載があるが、本件事故時には、交差方向の信号が既に青色に変わつていたもので、原告正人が交差点に進入する手前で、その対面信号は既に黄色か赤色に変わつていたものと認められるから、右記載は採用できない。また、甲六には、衝突する直前の被害車両の速度は自転車が走る程度でしたとの記載があるが、車両相互の位置関係、衝突後の状況等に照らすと、時速三〇キロメートル前後程度であつたものと推認され、右記載も採用できない。原告正人は、交差点の左折角度が直角よりかなり緩いことや、対面信号の表示が変わつたので、交差方向の車両が交差点に進入してくる前に交差点を左折通過しようとして、速度を余り落とさずに交差点に進入したものと推認される。

2  右認定の事実によれば、北村優には、信号の表示に従い一旦停止後交差点を直進進行するに当たり、漫然と発進して(赤信号のうちに見込み発進したことが疑われる。)、交差方向から交差点への進入車両の有無の安全確認を怠つた過失があるものと認められる。

そして、原告正人は、信号の表示に従つて交差点手前で停止すべきであつたのに、交差方向の車両が交差点に進入してくる前に交差点を左折通過しようとして速度を十分に落とさずに交差点に進入し、かつ、その際、交差方向から交差点への進入車両の有無の安全確認を怠つた過失があるものと認められる。

3  そして、双方の過失を対比すると、過失割合は原告正人が六・五、北村優が三・五と認めるのが相当であるから、原告らの損害額から六割五分を減額するのが相当である。

したがつて、被告が原告正人に対して賠償すべき損害額は、五一五五万七九四六円となり、原告喜三九及び同節子に対して賠償すべき損害額は、各一四〇万円となる。

四  損害の填補 二三九五万五一八〇円

原告正人が損害の填補として右金額(自賠責保険金一七五〇万円の外に治療費六一三万三四六三円及び入院付添費実費分三二万一七二〇円)を受領したことは、当事者間に争いがないので、これを控除すると、被告が原告正人に対して賠償すべき損害額は、二七六〇万二七六六円となる。

五  弁護士費用

本件事故と相当因果関係のある損害額として、原告正人について二七〇万円(請求額四〇〇万円)、原告喜三九及び同節子について各一五万円(請求額五〇万円)が相当である。

(裁判官 杉山正己)

別紙〔略〕

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