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横浜地方裁判所 平成11年(レ)40号 判決 1999年11月10日

控訴人

福田昭男こと福田修

被控訴人

日本テレコム株式会社

右代表者代表取締役

村上春雄

右訴訟代理人弁護士

永石一郎

土肥將人

渡邉敦子

主文

一  原判決を取り消す。

二  川崎簡易裁判所平成一〇年(ロ)第三三九二号支払督促に対する異議申立てを却下する。

三  訴訟費用は、第一、二審とも控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人の請求を棄却する。

3  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

第二  争いのない事実及び当裁判所に顕著な事実

一  被控訴人は、平成一〇年八月二一日、被控訴人を債権者、福田昭男を債務者とする支払督促申立書(以下「本件申立書」という。)を、川崎簡易裁判所に提出して、支払督促を申し立て(川崎簡易裁判所平成一〇年(ロ)第三三九二号)、同裁判所書記官により、同年九月一六日付で支払督促(以下「本件支払督促」という。)が発せられた。その内容は、被控訴人と福田昭男との間で成立した電話サービス契約に基づき、福田昭和男に対し、未払通話料金を支払えというものであった。

二  本件支払督促の正本は、右同日、受送達者を福田昭男として発送され、同月一七日、控訴人がこれを受け取ったが(以下「本件送達」という。)、送達報告書の受領書の「受領者の押印又は署名」欄には福田の丸い印影が押捺され、「送達の住所」欄には控訴人の住所が記載され、「送達方法」欄には「1受領送達者本人に渡した。」に丸が付されていた。

三  控訴人は、平成一〇年九月二三日、債務者欄に「福田昭男」と記載した上で、異議申立書を作成し、同月二九日、川崎簡易裁判所がこれを適式なものとして受け付けた(以下「本件異議申立て」という。)。

四  平成一〇年一二月一日、原審の第一回口頭弁論期日が開かれ、控訴人は、「福田昭男こと福田修」として出頭して、事実関係は、異議申立書に記載してあるとおりであり、被控訴人の請求にかかる通話料金の負担がある電話を使用しているのは控訴人であると述べた。

五  被控訴人は、平成一一年一月一九日の第二回口頭弁論期日において、被告を「福田昭男」から「福田昭男こと福田修」に訂正する旨の訴変更申立書を陳述した。

六  川崎簡易裁判所は、平成一一年三月二日に弁論を終結し、同月二二日、被告を「福田昭男こと福田修」として、左記のとおり、原告の請求を全て認容する判決を言い渡した。

1  被告は、原告に対し、金六万二二三二円及び内金五万二〇三〇円に対する平成一〇年八月一日から完済に至るまで年14.5パーセントの割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  この判決は仮に執行することができる。

七  控訴人は、平成一一年四月一三日、右判決正本の送達を受け、同月二六日、控訴状を提出して、本件控訴を申し立てた。

第三  当裁判所の判断

一  本件控訴の適法性

本件控訴の適法性を判断するに際し、控訴人に控訴適格があるかを検討する必要があるが、本来、控訴適格は、原審の当事者にのみ認められるのが原則であるから、まず、原審の当事者を確定した上で、控訴人が控訴適格を有するかを検討する。

1  原審の当事者

(一) 被告の選択は原告に委ねられているところ、原告の意思は訴状に現われているのであって、誰が当事者であるかは、訴え提起後直ちに確定されることが必要で、かつ、その基準も明確であるべきだから、当該訴訟の当事者は、訴状に記載されたところを合理的に解釈して確定するのが相当であり、この趣旨に照らすと、督促異議により支払督促の申立て時に訴えの提起があったものとみなされる本件においては、支払督促申立書の記載から当事者を確定すべきものと解するのが相当である。そこで、本件申立書を見ると、福田昭男が債務者として記載されているだけでなく、福田昭男との間で成立した電話サービス契約に基づき未払通話料金を請求する旨が記載されているから、これらの記載を合理的に解釈すると、原審における当事者(被告)は福田昭男であると言わざるを得ない。

(二) しかし、被控訴人は、原審において、訴変更申立書なる書面を提出し、被告を「福田昭和男こと福田修」に変更する旨申し立てているため、これにより、原審の被告が福田昭男から控訴人に変更されたのかどうかを検討する。

(1) この点、まず、被告を福田昭男から福田昭男こと福田修に変更することが、当事者欄の表示の訂正(民事訴訟法一三三条二項一号)で足りるのか、それとも当事者の変更の手続を要するのかが問題となるところ、甲第一号証及び弁論の全趣旨によれば、福田昭男は控訴人の兄であり、控訴人とは別個の実在する人物であることが認められるし、本件記録上、控訴人が福田昭男という氏名を通称として使用していたというような事情も窺われないから、変更前の被告である福田昭男と変更後の被告である控訴人との間には、同一性がないものと言わざるを得ない。したがって、被告を福田昭男から「福田昭男こと福田修」に変更するには、単に被告の表示を訂正するだけでは足りず、別途、被告を変更する手続を経なければならないものと解する。

(2) そこで、右訴変更申立書により、適式に被告の変更がなされたかを検討するに、訴訟係属後に被告とすべき者を誤ったことが判明した場合には、これを補正するため、新被告に対する新訴の提起と旧被告に対する訴えの取下げという複合的訴訟行為をとることによって、被告を変更しうると解されるから(いわゆる任意的当事者変更)、右訴変更申立書を、任意的当事者変更を申し立てた趣旨の書面であると解釈することは可能である。しかし、任意的当事者変更の効果が認められるためには、新訴提起と旧訴取下げのそれぞれの要件を満たすことが必要であると解されるところ、福田昭男に対する訴え取下げ部分について、福田昭男の同意が必要であるにもかかわらず、本件記録上、福田昭男の同意はなく、また、他に黙示の同意が認められるような事情も存しないから、任意的当事者変更としての要件を欠き、右訴変更申立書によって、被告が控訴人に変更されたと解することはできない。

2  控訴適格の有無

このように、原審における被告が福田昭男であるとすると、原審の当事者ではなく、本件訴訟への参加手続も踏んでいない控訴人には、控訴適格が認められないようにも思われる。しかし、控訴人は、控訴人を名宛人として下された原判決により、事実上、強制執行を受ける危険にさらされるのであって、この危険を除去するために、控訴人が新訴の提起又は強制執行に対する異議の申立てなど別個の手続を採らなければならないとするのは、極めて不合理であるから、このような者にも控訴適格を認めて、本件控訴手続の中で、原判決の不当性を争う機会を保障すべきであると解する。したがって、控訴人に控訴適格を認めるのが相当である。

3  結論

以上のように、控訴人には、控訴適格が認められるから、本件控訴は、適法である。

二  本件異議申立ての適法性

前記のように、原審は、適式な手続を経ずに当事者を福田昭男から控訴人へと変更をして、当事者以外の者を名宛人として判決を下しているから、本来であれば、判決手続の違法を理由に原判決を取り消した上、原審に差し戻すのが相当であるところ、前認定によれば、控訴人は、本件支払督促の債務者ではないのに、本件支払督促の正本を受け取り、さらに、福田昭男の名を記載して、本件異議申立てを行っているから、そもそも本件一連の訴訟の前提たる本件異議申立てが適法であるかが問題となる。

1 異議の適法性の審査の可否 民事訴訟法(以下「民訴法」という。)三九四条は、督促事件が係属する簡易裁判所に、督促異議の適法性を審査すべき義務を課しているところ、簡易裁判所によって適法と判断された督促異議の適法性を事後の裁判所が審査できるかについては、争いのあるところである。しかし、適正な手続のもとで訴訟を進行させることは、裁判所の責務であるし、不適法な異議申立てによって、簡易迅速な手続で債務名義を取得できなくなる債権者の不利益も無視できないものであるから、簡易裁判所による異議の適法性の認定は、事後の裁判所を拘束せず、その後の訴訟手続で異議の適法性を審査できるものと解するのが相当である。

2 本件送達の有効性

前認定のとおり、受送達者ではない控訴人が、本件支払督促の正本を受け取っているから、本件送達を、交付送達(民訴法一〇一条)として有効と解する余地は全くない。したがって、本件支払督促は、そもそも債務者に送達されていないようにも思えるが、念のため、補充送達(同法一〇六条一項)として有効と解することができないかを検討する。

この点、補充送達の制度が認められている趣旨は、同条掲記の使用人その他の従業者又は同居者に送達書類を交付すれば、通常、遅滞なく受送達者にこれが届られることが期待されるので、これらの者に対する送達をもって、受送達者への送達の効果を生じさせるものであると解せられるから、当該送達が補充送達として有効か否かは、同条掲記の使用人その他の従業員又は同居者への送達書類の交付という外形的事実のみから判断するのではなく、実質的に受送達者への遅滞なき送達を期待できるか否かを検討すべきである。そして、前認定及び弁論の全趣旨によれば、本件は、福田昭男の名前を使って、被控訴人と電話サービス契約を締結し、その後電話を使用し続けていた控訴人が、通話料金の支払を怠ったことから、被控訴人に、未払通話料金の請求をされた事案であること、控訴人は、本件支払督促の正本を、受送達者本人と偽って受領したこと、福田昭男の名前を冒用して、本件異議申立てを行い、通常訴訟に移行するや、本件電話を使用しているのは控訴人である旨弁論した上、原審において当事者として振る舞っていたことが各窺われるから、これらの事情に照らすと、本件支払督促の正本を受領した控訴人が、本来の受送達者たる福田昭男へ、右正本を遅滞なく送達することは到底期待できず、仮に、本件送達が、同法一〇六条一項掲記の要件を満たしていたとしても、補充送達として有効であるとは解することができない。

そうすると、本件支払督促は、債務者に対して有効に送達されていないことになるから、支払督促の効力も生じていないと言わざるを得ない。

3 本件異議申立ての適法性

したがって、このような不適法な送達を前提とし、しかも異議申立権限のない控訴人によって為された本件異議申立てもまた、不適法であることは言うまでもない。

三 結論

このように、控訴人による本件異議申立ては不適法であるから、被控訴人の請求について原審に訴えを提起したものとみなされないことは明らかである。そして、本来であれば、督促異議を受け付けた川崎簡易裁判所は、本件異議申立てを不適法であると認め、これを却下すべきであったにもかかわらず、同裁判所は、適法なものとして督促異議を受理して、通常訴訟へ移行したために、本件においては、さながら訴訟が係属するかのような外観を呈するに至っている。したがって、この形式上の訴訟係属を排除するために、民訴法三九四条の規定の趣旨に則り、かかる不適法なる異議申立てを却下するのが相当であるところ、これと異なり、実体判断を行った原判決は不当であるから、同法三〇五条に基づきこれを取り消し、訴訟費用の負担につき、同法六七条二項を適用し、かつ、同法七〇条、六九条二項を類推適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官・末永進、裁判官・高橋隆一、裁判官・平城文啓)

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