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横浜地方裁判所 平成10年(モ)2679号 決定 1998年10月27日

神奈川県茅ヶ崎市<以下省略>

申立人

右訴訟代理人弁護士

杉崎明

東京都中央区<以下省略>

相手方

野村証券株式会社

右代表者代表取締役

右訴訟代理人弁護士

星野健秀

右申立人から、当庁平成一〇年(ワ)第四〇号損害賠償請求事件について、文書提出命令の申立てがあったので、当裁判所は、次のとおり決定する。

主文

相手方は、申立人が相手方に対しコスモ石油ワラント五〇ワラント購入を発注した旨の記載がある平成六年三月一一日付注文伝票を提出せよ。

理由

第一申立ての趣旨及び理由並びに相手方意見

別紙文書提出命令申立書及び平成一〇年一〇月一九日付申立人意見書並びに平成一〇年一〇月六日付相手方意見書記載のとおり。

第二当裁判所の判断

一  本件各申立ての理由の要旨は、「申立人は、申立人がワラントの商品性について十分な説明を受けておらず、本件ワラント発注時においても具体的な価格、数量、具体的代金等の説明を受けなかったことを立証するため、申立てに係る注文伝票が必要であり、また、右注文伝票は民訴法二二〇条四号イ、ロ、ハのいずれにも該当しないから、同号に基づき相手方には提出する義務がある。」というにある。

二1  民訴法二二〇条四号該当性について

(一) 相手方は、本件文書は、専ら社内の内部的連絡のため、相手方の社内の内部統制の必要性から作成され、所持者以外の第三者に対する開示や第三者による利用を想定されていない文書であるから、同号ハに該当すると主張する。

(二) そこで検討するに、同号ハは、およそ外部に開示することが予定されていない文書について、提出を義務づけることにより所持者や第三者のプライバシーを侵害し、あるいは文書作成を不自由ならしめるのは適当でないことから、提出義務の対象から外したものと解される。してみれば、右に該当するか否かの判断は、文書の記載内容のほか、それが作成され、現在の所持者が所持している経緯や理由等を総合考慮し、それが専ら内部の者の利用に供する目的で作成され、外部の者に見せることが予定されていない文書であるか否かという観点から検討すべきである。

(三) この点、本件文書は、証券取引法一八八条、証券会社に関する省令一三条一項一号により、同省令一三条所定のその他の帳簿類とともに証券会社にその作成及び保存が義務づけられている文書である。そして、これらの文書の作成及び保存が証券会社に義務付けられた趣旨は、大蔵省職員による証券会社の検査を実効的なものとし、もって国民経済の適切な運営及び投資者の保護を図るという同法の目的を達成することにあると考えられる。よって、本件文書は内部の連絡のみならず、後日の行政上の監督の用に供するためにも作成され、外部の者に見せることが予定されている文書であるといえるのであって、単に証券会社の内部的な自己使用の目的で作成された文書であるとはいえない。

2  必要性について

(一) 一件記録によると、申立人は、本件訴訟において、「相手方従業員が、ワラントが新株引受権証券であり、その権利行使期間、権利行使価格、一ワラントの権利行使による取得株数、権利行使する場合に必要な株式取得代金の額のほか、権利行使期間が経過すると価値がなくなること、為替相場の変動によるリスクがあること、また、店頭・相対取引という形態をとること、さらに価格情報の入手方法、入手した価格情報の意味、予想される売買価格の構造、ポイントの意味、価格の計算方法についての説明義務があることを前提に、本件では、相手方は申立人に対し行使期間があることと外貨建であることの説明しかしていないから右説明義務の違反がある」旨主張し、それに対し、相手方は、「右従業員において、価格変動リスク、権利行使期限の存在、為替リスク等に関してワラント取引説明書に即して説明を行ったから、説明義務違反の事実はない」旨主張している。

(二) 以上により、本件訴訟の争点は、相手方従業員が申立人に対し、右ワラントの商品性について必要な説明をしたか否かにあることとなる。

(三) 申立人は、本件申立てに係る注文伝票(以下「本件文書」という)の必要性につき、「相手方が主張、立証しようとする説明過程、原告の購入意思決定過程、その意思に基づく注文過程等について、相手方の立証を弾劾するために必要である」旨主張し、これに対し、相手方は、「本件ワラントの受注の事実は当事者間に争いはないし、本件文書には本件ワラント買付けの勧誘の経過や内容は一切記載されていないから、申立人が立証事実として掲げる事実と本件文書との関連性は希薄であり、本件申立ては手探り的な主張の一環としてなされたものにすぎず、また、相手方は既に本件文書に基づいて作成された顧客口座元帳を書証として提出しているから、この点からも必要性がない」旨主張する。

(四) そこで、本件文書の証拠としての必要性につき検討するに、本件文書は、証券会社の担当者が顧客から買い注文又は売り注文を受けた場合にその都度作成する伝票であって、銘柄・売り買いの別・数量・単価(指し値か成行かの別を含む)のほか、顧客の口座番号、氏名、扱者等が記入される文書である。本件訴訟においてはワラントの受注の事実に争いはないものの、相手方従業員がワラントの内容についてどこまで説明したかが争点になっているところ、個々の取引についての勧誘経過等を明らかにする文書は乏しい中で、注文伝票はワラント購入取引の過程で作成される基本的な文書であり、そこにワラント買付けの勧誘の経過自体が具体的に記載されている可能性は必ずしも高くないとはいえ、銘柄、売り買いの別、数量、単価等の記載内容をもって原告が本件ワラントの説明過程につき積極的に立証しあるいは反証するために全く役立つ余地がないとまではいえないから、証拠としての提出が意味がなく、必要性がないとはいえない。

3  以上のとおり、本件文書は、民訴法二二〇条四号イ、ロ、ハのいずれにも該当しない文書であるから、被告は、その提出を拒むことはできないし、また、本件文書につき証拠としての必要性がないとはいえない。

三  よって、本件文書提出命令申立ては理由があるからこれらを認容することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 小林克已 裁判官 北村史雄 裁判官 朝倉亮子)

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