大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

横浜地方裁判所 平成10年(わ)1412号 判決 1998年12月28日

主文

被告人Aを無期懲役に、被告人Bを懲役一八年に処する。

被告人両名に対し、未決勾留日数中二七〇日をそれぞれその刑に算入する。

理由

(犯罪事実)

第一  被告人A、同Bは、女性に睡眠導入剤を飲ませて昏睡させ金品を盗取するとともにその心神を喪失させて姦淫しようと企て、強姦につき被告人両名共謀の上、被告人Bにおいて、平成八年六月四日午後九時三〇分ころ、横浜市緑区十日市場町八〇五番地一所在の十日市場佐藤ビル二階飲食店「養老乃滝十日市場店」において、C子(当時二一歳)に催眠作用のあるトリアゾラムを含有する薬物(ハルシオン。「以下「ハルシオン」という。)を混入したアルコール飲料水を飲ませ、右薬物等の作用により同女を昏睡させてその心神を喪失させ、同日午後一〇時五〇分ころ、同市緑区十日市場町一八六五番地九七長津田ゴルフガーデン北側路上に駐車中の普通乗用自動車内において、同女を姦淫し、翌五日午前零時四〇分ころ、同市緑区いぶき野三四番地九フードショップマインズ東側路上に駐車中の右自動車内において、同女所有の現金三〇〇〇円を盗取し、引き続き、被告人Aにおいて、同女を同被告人運転の普通乗用自動車に同乗させ、同日午前一時三〇分ころ、同市緑区いぶき野一四番地一横浜市立いぶき野小学校西側通用門前路上に駐車中の右自動車内において、同女所有の学生証一通を盗取し、そのまま同車を神奈川県藤沢市菖蒲沢七五〇番地先路上まで走行させ、同日午前三時ころ、同所に駐車中の右自動車内において、同女所有の腕時計一個及びネックレス一本(時価合計約二万五〇〇〇円相当)を盗取するとともに、同車外付近において、同女を姦淫した。

第二  被告人Aは、女性に睡眠導入剤を飲ませて昏睡させ金品を盗取するとともにその心神を喪失させて姦淫しようと企て、被告人Bは、同様の方法により女性の心神を喪失させて姦淫しようと企て、強姦につき被告人両名共謀の上、被告人Bにおいて、同年七月二九日午前一時四〇分ころ、神奈川県大和市内を走行中の同被告人運転の普通乗用自動車内において、同乗するD子(当時二四歳)にハルシオンを混入した缶入り飲料水を飲ませ、右薬物の作用により同女を昏睡させてその心神を喪失させ、同日午前三時一〇分ころ、同県綾瀬市本蓼川二八七番地所在の本蓼川第二野球場西側路上に駐車中の右自動車内において、同女を姦淫しようとしたが、同女に抵抗されてその目的を遂げず、引き続き、被告人Aにおいて、同女を同被告人運転の普通乗用自動車に同乗させ、同県大和市上草柳六二番地一先路上まで同女を連行し、同日午前四時ころ、同所に駐車中の右自動車内において、同女所有の現金約六〇〇〇円及びネックレス一本(時価約七万円相当)を盗取するとともに、同女を姦淫した。

第三  被告人Aは、女性に睡眠導入剤を飲ませて昏睡させ金品を盗取するとともにその心神を喪失させて姦淫しようと企て、被告人Bは、同様の方法により女性の心神を喪失させて姦淫しようと企て、強姦につき被告人両名共謀の上、被告人Bにおいて、同年七月三一日午後一一時ころ、神奈川県相模原市内を走行中の同被告人運転の普通乗用自動車内において、同乗するE子(当時二二歳)にハルシオンを混入した缶入りコーヒーを飲ませ、同市大島字上台一〇九四番一所在の駐車場まで同女を連行し、被告人Aにおいて、同日午後一一時三〇分ころ、同所において、同被告人運転の普通乗用自動車内に同女を同乗させ、さらに同女にアルコール飲料水を飲ませ、これらの薬物等の作用により同女を昏睡させてその心神を喪失させ、右自動車内において、同女所有の現金二万四〇〇〇円を盗取するとともに、同女を姦淫した。

第四  被告人A、同Bは、女性に睡眠導入剤を飲ませて昏睡させ金品を盗取するとともにその心神を喪失させて姦淫しようと企て、強姦につき被告人両名共謀の上、被告人Bにおいて、同年八月一四日午後八時四〇分ころ、横浜市旭区内を走行中の同被告人運転の普通乗用自動車内において、同乗するF子(当時一七歳)にハルシオンを混入した缶入りコーヒーを飲ませた上、さらにアルコール飲料水を飲ませ、右薬物等の作用により同女を昏睡させてその心神を喪失させ、同日午後一〇時二〇分ころ、同市戸塚区名瀬町三五八四番地先路上に駐車中の右自動車内において、同女所有の現金約三五〇〇円を盗取するとともに、同女を姦淫し、引き続き、被告人Aにおいて、同女を同被告人運転の普通乗用自動車に同乗させて同町三二〇一番地先路上まで同女を連行し、同日午後一一時ころ、同所に駐車中の右自動車内において、同女所有の現金約三〇〇〇円及びブラジャー一枚ほか二点(時価合計約一五〇〇円相当)を盗取するとともに、同女を姦淫した。

第五  被告人A、同Bは、女性に睡眠導入剤を飲ませて昏睡させ金品を盗取するとともにその心神を喪失させて姦淫しようと企て、強姦につき被告人両名共謀の上、被告人Bにおいて、同年八月一九日午後一一時二〇分ころ、横浜市旭区内を走行中の同被告人運転の普通貨物自動車内において、同乗するG子(当時二二歳)にハルシオンを混入した飲料水を飲ませ、右薬物の作用により同女を昏睡させてその心神を喪失させ、翌二〇日午前零時三〇分ころ、同市泉区緑園五丁目三番一一先路上に駐車中の右自動車内において、同女所有のテレホンカード一枚(時価約一〇〇〇円相当)を盗取するとともに、同女を姦淫し、引き続き、被告人Aにおいて、同日午前一時四〇分ころ、同区岡津町二五八五番地先路上で同女を同被告人運転の普通乗用自動車に同乗させて、同市旭区《番地略》所在のハイツ甲野一〇二号室の同女方に運び入れ、同日午前二時ころ、同所において、同女所有の現金約三〇〇〇円及びコードレス電話機セット一式ほか四点(時価合計約五万〇三〇〇円相当)を盗取するとともに、同女を姦淫した。

第六  被告人Aは、女性に睡眠導入剤を飲ませその心神を喪失させて姦淫しようと企て、被告人Bは、同様の方法により女性を昏睡させ金品を盗取するとともにその心神を喪失させて姦淫しようと企て、強姦につき被告人両名共謀の上、被告人Bにおいて、同年一〇月六日午後一一時ころ、東京都町田市及び横浜市内を走行中の同被告人運転の普通乗用自動車内において、同乗するH子(当時一八歳)にハルシオンを混入した缶入りコーヒーを飲ませた上、さらにアルコール飲料水を飲ませ、右薬物等の作用により同女を昏睡させてその心神を喪失させ、翌七日午前一時ころ、神奈川県相模原市新戸四六〇番地先路上に駐車中の右自動車内において、同女所有のテレホンカード三枚(時価合計約一四〇〇円相当)を盗取するとともに、同女を姦淫し、引き続き、被告人Aにおいて、同女を同所に駐車中の同被告人運転の普通乗用自動車に同乗させ、同日午前一時三〇分ころ、右自動車内において、同女を姦淫した。

第七  被告人Aは、女性に睡眠導入剤を飲ませて昏睡させ金品を盗取するとともにその心神を喪失させて姦淫しようと企て、被告人Bは、同様の方法により女性の心神を喪失させて姦淫しようと企て、強姦につき被告人両名共謀の上、被告人Bにおいて、同年一一月二〇日午前零時三〇分ころ、神奈川県伊勢原市内を走行中の同被告人運転の普通乗用自動車内において、同乗するI子(当時一九歳)にハルシオンを混入した缶入りコーヒーを飲ませた上、さらにアルコール飲料水を飲ませ、右薬物等の作用により同女を昏睡させてその心神を喪失させ、同日午前一時ころ、同県厚木市七沢九七三番地七沢川東側路上に駐車中の右自動車内において、同女を姦淫し、引き続き、被告人Aにおいて、同女を同被告人運転の普通乗用自動車に同乗させ、同県伊勢原市西富岡三二〇番地所在の伊勢原市総合運動公園正門側バスロータリー横路上まで同女を連行し、同日午前一時四〇分ころ、同所に駐車中の右自動車内において、同女所有の現金約三万円を盗取するとともに、同女を姦淫した。

第八  被告人Aは、女性に睡眠導入剤を飲ませて昏睡させ金品を盗取するとともにその心神を喪失させて姦淫しようと企て、平成九年五月一四日午前一時二五分ころ、神奈川県相模原市内を走行中の同被告人運転の普通乗用自動車内において、同乗するJ子(当時三〇歳)にハルシオンを混入した缶入り飲料水を飲ませた上、さらにアルコール飲料水を飲ませ、右薬物等の作用により同女を昏睡させてその心神を喪失させ、同日午前二時二〇分ころ、同市新戸四八〇番地所在の昭和コンクリート株式会社相模原工場前路上に駐車中の右自動車内において、同女所有の現金約一万五〇〇〇円及びポータブルCDプレイヤー一台ほか二点(時価合計約一万〇七〇〇円相当)を盗取するとともに、同女を姦淫した。

第九  被告人Aは、女性に睡眠導入剤を飲ませて昏睡させ金品を盗取するとともにその心神を喪失させて姦淫しようと企て、同年五月二七日午前零時三〇分ころ、東京都日野市、八王子市及び多摩市内を走行中の同被告人運転の普通乗用自動車内において、同乗するK子(当時二〇歳)にハルシオンを混入した缶入り飲料水を飲ませた上、さらにアルコール飲料水を飲ませ、右薬物等の作用により同女を昏睡させてその心神を喪失させ、同日午前一時二〇分ころ、同都日野市程久保四丁目一〇番地先路上に駐車中の右自動車内において、同女所有の現金約四八〇〇円及び学生証一枚を盗取するとともに、同女を姦淫した。

第一〇  被告人Aは、女性に睡眠導入剤を飲ませて昏睡させ金品を盗取するとともにその心神を喪失させて姦淫しようと企て、同年六月一四日午前一時ころ、神奈川県相模原市内を走行中の同被告人運転の普通乗用自動車内において、同乗するL子(当時二〇歳)にハルシオンを混入した缶入りコーヒーを飲ませた上、さらにアルコール飲料水を飲ませ、右薬物等の作用により同女を昏睡させてその心神を喪失させ、同日午前二時三〇分ころ、同市新戸四四〇番地所在の新戸スポーツ広場東側路上に駐車中の右自動車内において、同女所有の現金約一〇〇〇円を盗取するとともに、同女を姦淫し、さらに同日午前三時二〇分ころ、同市《番地略》乙野荘二〇六号室の同女方において、同女所有の現金四万円を盗取した。

第一一  被告人Aは、女性に睡眠導入剤を飲ませて昏睡させ金品を盗取するとともにその心神を喪失させて姦淫しようと企て、同年六月二七日午前零時五分ころ、横浜市内を走行中の同被告人運転の普通乗用自動車内において、同乗するM子(当時一八歳)にハルシオンを混入した缶入りコーヒーを飲ませた上、さらにアルコール飲料水を飲ませ、右薬物等の作用により同女を昏睡させてその心神を喪失させ、同日午前一時ころ、同市旭区中尾二丁目七番一号所在の神奈川県災害救助用備蓄物資保管倉庫西側路上に駐車中の右自動車内において、同女所有の現金約三五〇〇円及びテレホンカード一枚(時価約一四〇円相当)を盗取するとともに、同女を姦淫した。

第一二  被告人Aは、女性に睡眠導入剤を飲ませて昏睡させ金品を盗取するとともにその心神を喪失させて姦淫しようと企て、同年七月五日午後一一時四〇分ころ、神奈川県大和市及び東京都町田市内を走行中の同被告人運転の普通乗用自動車内において、同乗するN子(当時二三歳)にハルシオンを混入した缶入りコーヒーを飲ませた上、さらにアルコール飲料水を飲ませ、右薬物等の作用により同女を昏睡させてその心神を喪失させ、翌六日午前一時三〇分ころ、神奈川県相模原市新戸四六〇番地先路上に駐車中の右自動車内において、同女所有の現金約三〇〇〇円、アメリカドル一八五ドル及びCDウォークマン一台(時価約三〇〇〇円相当)を盗取するとともに、同女を姦淫した。

第一三  被告人Aは、女性に睡眠導入剤を飲ませて昏睡させ金品を盗取するとともにその心神を喪失させて姦淫しようと企て、同年七月一二日午前一時ころ、東京都日野市、多摩市及び八王子市内を走行中の同被告人運転の普通乗用自動車内において、同乗するO子(当時二三歳)にハルシオンを混入した缶入りコーヒーを飲ませた上、さらにアルコール飲料水を飲ませ、右薬物等の作用により同女を昏睡させてその心神を喪失させ、同日午前二時ころ、同都日野市程久保四丁目一〇番地先路上に駐車中の右自動車内において、同女所有の現金約二五万八〇〇〇円を盗取するとともに、同女を姦淫した。

第一四  被告人Aは、女性に睡眠導入剤を飲ませて昏睡させ金品を盗取するとともにその心神を喪失させて姦淫しようと企て、同年八月二八日午後一一時一五分ころ、神奈川県相模原市内を走行中の同被告人運転の普通乗用自動車内において、同乗するP子(当時一七歳)にハルシオンを混入した缶入り飲料水を飲ませた上、さらにアルコール飲料水を飲ませ、右薬物等の作用により同女を昏睡させてその心神を喪失させ、翌二九日午前一時ころ、同県愛甲郡愛川町半原三〇一一番地先林道に駐車中の右自動車内において、同女所有の現金約五〇〇〇円、テレホンカード一枚(時価約三〇〇円相当)及びバスカード一枚(時価約一四六〇円相当)を盗取するとともに、同女を姦淫した。

第一五  被告人Aは、女性に睡眠導入剤を飲ませて昏睡させ金品を盗取するとともにその心神を喪失させて姦淫しようと企て、同年九月一日午後一一時三五分ころ、東京都八王子市内を走行中の同被告人運転の普通乗用自動車内において、同乗するQ子(当時一九歳)にハルシオンを混入した缶入りコーヒーを飲ませ、右薬物の作用により同女を昏睡させてその心神を喪失させ、翌二日午前零時三〇分ころ、神奈川県津久井郡城山町川尻四〇七二番地一先路上に駐車中の右自動車内において、同女所有の現金約一八〇〇円、図書券四枚(額面合計二〇〇〇円相当)及び学生証一枚を盗取するとともに、同女を姦淫した。

(証拠)《略》

(法令の適用)

罰条

第一、第四及び第五(被告人両名)

刑法六〇条(ただし、準強姦について)、二四一条前段、二三九条、一七八条、一七七条前段(被告人両名が準強姦を共謀し、それぞれ強盗強姦を実行。)

第二、第三及び第七

被告人A 刑法六〇条(ただし、準強姦について)、二四一条前段、二三九条、一七八条、一七七条前段(被告人両名が準強姦を共謀し、被告人Aが強盗強姦を実行。)

被告人B 刑法六〇条、一七八条、一七七条前段

第六

被告人B 刑法六〇条(ただし、準強姦の範囲で)、二四一条前段、二三九条、一七八条、一七七条前段(被告人両名が準強姦を共謀し、被告人Bが強盗強姦を実行。)

被告人A 刑法六〇条、一七八条、一七七条前段

第八ないし第一五(被告人A)

刑法二四一条前段、二三九条、一七八条、一七七条前段

刑種の選択

被告人Aの第一ないし第五、第七ないし第一五

無期懲役刑

被告人Bの第一及び第四ないし第六

有期懲役刑

併合罪の処理

(被告人A) 刑法四五条前段、一〇条、四六条二項本文(犯情の最も重い第五の罪の無期懲役刑による)

(被告人B) 刑法四五条前段、四七条本文、一〇条、一四条(刑及び犯情の最も重い第五の罪の刑に法定の加重)

未決勾留日数の算入(被告人両名)

刑法二一条

訴訟費用の不負担(被告人A)

刑事訴訟法一八一条一項ただし書

(量刑理由)

一  本件は、被告人両名が、強姦につき共謀の上、多数の通りすがりの女性らを言葉巧みに自動車に同乗させるなどし、飲み物に密かにハルシオンを混入して飲ませ、その意識をもうろうとさせてほしいままに姦淫し、かつ、被告人両名又はその一方が被害者の所持金品を奪い、あるいは、被告人Aが単独で同様の方法で女性を姦淫し、金品を奪ったという、連続的強盗強姦、準強姦の事案である。その数は、両名が関与した強盗強姦が七件(被告人Aはうち一件が準強姦、被告人Bはうち三件が準強姦)、被告人A単独の強盗強姦が八件に及んでいる。

二  被告人両名が一連の本件各犯行に至る経緯として、以下の事実が認められる。

被告人Aは、平成三年四月ころから株式会社丙川サービス横浜営業所でトラック運転手として稼働していたが、同年八月ころ被告人Bも同営業所で運転手のアルバイトをするようになり、当時配送の主任をしていた被告人Aのもとで稼働していた。

被告人Aは、過去にハルシオンを服用した女性と性交渉を持った経験があったが、平成四年ころから、女性にハルシオンを飲ませて姦淫することを考えるようになり、薬物に関する書籍を読みあさるなどして、ハルシオンが睡眠導入剤であり、服用後一五分ないし三〇分で半覚醒状態となり、二時間ないし三時間持続する半覚醒状態の間は、抵抗力がほとんどなくなること、自白剤としての効果があり、抑制力がなくなること、ハルシオンを飲んだ後、一旦眠ってしまうと、ハルシオンが効いている間の記憶は断片的にしか残らないこと、アルコールを併用するとより効果が強まることなどのハルシオンについての知識を得、平成五年六月ころには、不眠症などを口実に東京都内の病院からハルシオンの投与を受けてこれを入手するに至り、平成六年二月ころからは横浜市内の病院からも入手していた。被告人Aが入手したハルシオンは、平成五年六月から平成九年一〇月にかけて合計約三〇〇〇錠に及んでいる。

被告人Aは、平成五年九月ころ、テレホンクラブで知り合った女性にハルシオンを飲ませて意識がもうろうとした状態にある女性を初めて被告人Bに見せ、その後、同年一〇月ころから平成六年初めにかけて、女性にハルシオンを飲ませて姦淫後、被告人Bにこの女性を引き渡して送らせていた。そして、被告人両名は、平成六年初めころからは、トランシーバーで連絡を取り合いながら車二台で走行し、一人がテレホンクラブで知り合った女性にハルシオンを飲ませて姦淫後、他方が引き渡しを受けてさらに姦淫するようになった。

被告人Aは、平成六年二月ころ、被告人Bに使っている薬がハルシオンであることを教え、不眠症を訴えて病院からハルシオンを入手してくるよう指示し、被告人Bは、このころから、東京都内や横浜市内の病院からハルシオンを入手するようになった。被告人Bが入手したハルシオンは、平成六年二月から平成九年四月にかけて、合計約一七〇〇錠に及んでいる。

また、被告人両名は、平成七年ころには、町を歩いている女性に声をかけて車に乗せ、ハルシオンを缶入り飲料水などに混ぜて飲ませ、意識がもうろうとなったところで二人で交互に姦淫するようになり、また、このころから、各自がもうろう状態にある女性の所持金品を奪い取るようになった。

被告人両名は、その後、女性の誘い方、ハルシオンの飲ませ方などについて相談し合い、平成八年夏ころからは、被告人Bが、テレビ局員を装い、道に迷った振りをして通りすがりの女性に道案内を頼み、車に同乗させた上、お礼などと言って缶入り飲料水を与え、途中買い物を頼んで女性が車を降りた隙に飲料水にハルシオンを混入してこれを飲ませ、場合によってはさらにアルコール飲料水を飲ませ、女性を意識もうろうの状態にさせた上、姦淫し、この女性を別の車でついてきていた被告人Aに引き渡し、被告人Aがこの意識もうろう状態の女性をさらに姦淫するという手順で、ほぼ同様の犯行を繰り返すようになった。

三  以上の経緯からも明らかなとおり、本件各犯行は、長期にわたる同種行為の積み重ねから手口を練って、連続的に繰り返された常習的犯行である。

被告人両名は、専ら自己の性的欲望の赴くまま、多数の被害者の性的自由を蹂躙し、さらに、小遣銭欲しさから被害者の意識もうろう状態につけ込んでその金品をも強取したもので、もとより動機に酌量の余地はない。

一件を除くほとんどの事案では、通りすがりの被害者に詐言を弄し、その親切心を利用して、言葉巧みに車内に誘い込み、また、いずれの事案においても、当初から犯行に用いる目的で計画的に入手したハルシオンを使用し、これを密かに飲み物に混入して、被害者を意識もうろうの状態に陥れ、自己の言いなりになった被害者に対し、自らの欲望の赴くままに、被告人両名あるいは被告人Aが被害者を姦淫し、また、被告人両名あるいはいずれか一方が、金品を奪ったもので、犯行の態様は、極めて計画的で巧妙かつ卑劣であり、悪質この上ない。

本件の被害者は、共犯の事案が七名、被告人A単独の事案が八名に及んでいるところ、いずれの被害者も意識もうろうの状態で被害にあって記憶が断片的であるために自分がどのようなことをされたのかとの際限のない不安感と屈辱感に苛まれている上、多くの被害者はその苦渋を家族にすら打ち明けられずに思い悩み、あるいは妊娠の不安に心を痛める日々を過ごしたのであって、その精神的被害はまことに大きく、深刻である。被害者らの被害感情が極めて厳しいのも当然である。このように、本件で発生した結果は非常に重大である。

被告人Aは、本件において強盗強姦一四件、準強姦一件の合計一五件を敢行したものであるが、これはこの種事犯としては他に類をみないほどの回数の多さである。同被告人は、ハルシオンを使った犯行を思い立ち、自ら実行して見せてから被告人Bを誘い、一連の共同犯行を積極的に遂行して主導した上、平成九年五月ころ被告人Bが結婚のために一連の犯行を止めた後においても、それまでと同様の方法で八件の犯行を単独で敢行しており、本件各犯行の被害者一五名全員を姦淫し、一四名から現金合計約三九万円及び物品二五点(時価合計一六万四四〇〇円相当)等を盗取している。これらからすると、被告人Aの刑事責任は極めて重大である。したがって、これまで道路交通法違反の罰金以外には前科のないこと、逮捕後は一連の犯行を進んで自供し、反省して罪を償う姿勢を見せていることなど、同被告人のために考慮すべき事情を斟酌しても、被告人Aに対しては主文のとおり無期懲役刑をもって臨むのが相当である。

被告人Bは、誘われるまま安易に被告人Aに同調した後は被害者らの極めて深刻な被害に思いを致すこともなく、自らもハルシオンを入手した上、本件の全ての共犯事件において積極的に被害者を欺いて車に誘い込み、ハルシオンを飲ませるという犯行の枢要部分を担当している。被告人Bも、七件という多数の犯行を繰り返したのであるが、四件の強盗強姦においては、被害者四名全員を姦淫し、四名から現金合計六五〇〇円及び四点の物品(時価合計二四〇〇円相当)を盗取し、三件の準強姦においては、一名を姦淫し、二名については自らは姦淫にまで至らなかったものの、意識もうろうの状態の被害者を共犯者である被告人Aに引き渡して姦淫させたものである。以上から、被告人Bの刑事責任もやはり重大である。一方で、二件の準強姦においては、自らは姦淫に至らないまま、被告人Aに引き渡しており、平成九年五月五日に結婚して以降は犯行への関与を止めていることなど、被告人Aとの関係でその立場を比較すれば、やや従属的と認められること、これまで前科前歴がなく、一連の犯行を素直に認めて反省の態度を示していること、父親ら家族が被害者に対する謝罪の努力をしており、財団法人法律扶助協会に二〇〇万円を寄付して贖罪の意思を表していることなど、被告人Bについて有利なあるいは酌むべき事情もあるが、これらを考慮に入れても、前記の事情を総合すれば、主文の刑は免れないものと判断する。

(求刑 被告人Aにつき無期懲役、被告人Bにつき懲役二〇年)

(裁判長裁判官 中西武夫 裁判官 佐藤正信 裁判官 小島しのぶ)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例