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松山地方裁判所宇和島支部 平成10年(ワ)96号 判決 1999年7月08日

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

松山地方裁判所宇和島支部平成一〇年(リ)第一五四号配当事件について、平成一〇年一〇月二〇日作成された別紙配当表(一)を別紙配当表(二)に変更する。

第二  事案の概要

一  本件は、被告らの抵当権ないし根抵当権(物上代位)に基づく差押えを優先させた配当表に対し、被告らの右各差押えは、原告への転付命令が第三債務者に送達された後になされたものであり、その後、右転付命令は確定しているのであるから、被告らの右各差押えは原告への転付命令にかかる部分については効力を生じないとして、原告が異議を述べたという事案である。

二  前提事実(証拠を付記するほかは争いがない)

1(原告の債権差押命令及び転付命令)

(一)  原告は、訴外吉見一義(以下「吉見」という。)外二名との間の松山地方裁判所平成八年(ワ)第二三三号代位弁済金請求事件の執行力ある和解調書の正本に基づき、平成一〇年三月一七日、吉見の訴外愛媛県に対する用地買収契約に基づく土地残代金三四二万九二六三円(以下「甲債権」という。)及び別紙物件目録記載の建物(以下「本件建物」という。)の補償残金三〇四四万二〇〇三円(以下「乙債権」という。)のうち一〇五七万〇七三七円を差押え(当庁平成10年(ル)第41号)、右差押命令は、同年三月一九日、第三債務者愛媛県に、同年三月二三日、債務者吉見にそれぞれ送達された。

(二)  債務者吉見は、同年三月三〇日、右差押命令に対し執行抗告をしたが、同年四月一七日、棄却された(甲7、11)。

(三)  原告は、差押えた甲債権及び乙債権のうち一〇五七万〇七三七円につき、同年五月六日、転付命令を取得し(当庁平成10年(ヲ)第29号)(以下「本件転付命令」という。)、右転付命令は、同年五月七日、債務者吉見及び第三債務者愛媛県にそれぞれ送達された。

(四)  債務者吉見は、同年五月一三日、本件転付命令に対し執行抗告をしたが、同年五月二〇日、棄却された(甲10、12)。

2(被告らの抵当権ないし根抵当権〔物上代位〕に基づく債権差押命令)

(一)(1)  被告株式会社伊予銀行(以下「被告伊予銀行」という。)は、平成一〇年五月一三日、本件建物に設定した根抵当権(松山地方法務局宇和島支局昭利五六年八月二五日受付第九六一四号、平成九年一二月一八日受付第一〇九一四号、同第一〇九一五号)(物上代位)に基づき、乙債権のうち八四七万七八三五円を差押えた(当庁平成10年(ナ)第21号)。

(2)  右差押命令は、同年五月一四日、第三債務者愛媛県に、同年五月一九日、債務者吉見にそれぞれ送達された(乙ロ1)。

(二)(1)  被告愛媛県信用保証協会(以下「被告信用保証協会」という。)は、平成一〇年五月一三日、本件建物に設定した抵当権(松山地方法務局宇和島支局昭和六〇年一二月二七日受付第一五二九三号)(物上代位)及び根抵当権(同支局昭和六一年三月二五日受付第四一六七号)(物上代位)に基づき、乙債権のうち一四六〇万六二三六円を差押えた(当庁平成10年(ナ)第22号)。

(2)  右差押命令は、同年五月一四日、第三債務者愛媛県に、同年五月一九日、債務者吉見にそれぞれ送達された(乙イ3)。

(三)(1)  訴外いよぎん保証株式会社においても、平成一〇年五月一三日、本件建物に設定した抵当権(松山地方法務局宇和島支局昭和五四年四月四日受付第四七六五号、平成一〇年一月一九日受付第四二九号)(物上代位)に基づき、乙債権のうち七三五万七九三二円を差押えた(当庁平成10年(ナ)第20号)。

(2)  右差押命令は、同年五月一四日、第三債務者愛媛県に送達された(甲13)。

3(第三債務者愛媛県の供託)

第三債務者愛媛県は、甲債権及び乙債権の全額を松山地方法務局宇和島支局に供託し(以下「本件供託金」という。)、平成一〇年八月二八日、その旨当庁に届け出た(当庁平成一〇年(リ)一五四号)。

4(配当表の作成)

平成一〇年一〇月二〇日、当庁において、本件供託金(及び供託利息)についての配当期日が開かれ、別紙配当表(一)が作成された。

三  争点

原告の本件転付命令と被告らの抵当権ないし根抵当権(物上代位)に基づく差押命令との優劣について

四  争点に対する当事者の主張

1  原告の主張

(一) 民事執行法一五九条三項は、その反面において、一般債権者の差押えのみならず、抵当権(根抵当権)の物上代位権に基づく差押えの時期的限界をも規定したものと解すべきであり(民事執行法一九三条二項による準用)、他方、確定した転付命令の遡及効(民事執行法一五九条五項、一六〇条)には明文上なんらの制限も設けられておらず、物上代位権に基づく差押えがなされたとしても遡及効を制限する明文上の根拠も合理的理由も存しないことからすれば、転付命令が確定し遡及効を生じた後は、民法三七二条において準用する三〇四条一項の「払渡又ハ引渡」に含まれるものと解するのが相当である。

(二) 本件において、原告の本件転付命令は、債務者からの執行抗告が棄却されて確定し、第三債務者である愛媛県に送達された平成一〇年五月七日に遡って効力を生じたのであるから、その後になされた被告らの抵当権ないし根抵当権(物上代位)に基づく各差押えは、原告の本件転付命令にかかる部分については効力を生じないと解するのが相当である。

(三) したがって、別紙配当表(一)記載の配当可能金額三三八七万四六五三円のうち、手続費用のほか、本件転付命令により原告に移転した甲債権三四二万九二六三円及び乙債権のうち一〇五七万〇七三七円の合計一四〇〇万円については原告が被告らに優先して配当されるべきである。

2  被告らの主張

(一) 民法三七二条において準用する三〇四条一項の「払渡又ハ引渡」には転付命令は含まれず、抵当権者(根抵当権者)は、転付命令が確定し、物上代位の目的債権が転付債権者に移転された後においても、自ら目的債権を差押えて物上代位権を行使することができるものと解するのが相当である。

(二) まして本件においては、被告らの抵当権ないし根抵当権(物上代位)に基づく各差押えは、原告の本件転付命令が確定し実体的効力が生じる前になされているのであるから、被告らの各差押えが優先し、本件転付命令は効力を生じないと解するのが相当である。

(三) したがって、原告の請求は理由がない。

第三  争点に対する当裁判所の判断

一  民法三七二条において準用する三〇四条一項ただし書が、抵当権者(根抵当権者)に対し、物上代位権行使の要件として、払渡し又は引渡し前の差押えを要求した趣旨目的は、主として、抵当権(根抵当権)の効力が物上代位の目的となる債権にも及ぶことから、右債権の債務者(以下「第三債務者」という。)は、右債権の債権者である抵当不動産の所有者(以下「抵当権(根抵当権)設定者」という。)に弁済をしても弁済による目的債権の消滅の効果を抵当権者(根抵当権者)に対抗できないという不安定な地位に置かれる可能性があるため、差押えを物上代位権行使の要件とし、第三債務者は、差押命令の送達を受ける前には抵当権(根抵当権)設定者に弁済をすれば足り、右弁済による目的債権消滅の効果を抵当権者(根抵当権者)にも対抗することができることにして、二重弁済を強いられる危険から第三債務者を保護するという点にあると解され、右趣旨目的からすれば、同項の「払渡又ハ引渡」には未だ確定し実体的効力の生じていない転付命令は含まれず、抵当権者(根抵当権者)は、物上代位の目的債権について他の差押債権者に対する転付命令が第三債務者に送達された後においても、自ら目的債権を差押えて物上代位権を行使することができるものと解するのが相当である。けだし、未だ実体的効力の生じていない転付命令が「払渡又ハ引渡」という言葉に含まれるものとは解されないし、物上代位の目的債権について他の差押債権者に対する転付命令が第三債務者に送達されたことから必然的に抵当権(根抵当権)の効力が右目的債権に及ばなくなるものと解すべき理由もないところ、物上代位権の行使を認めても第三債務者の利益が害されることにはならず、抵当権(根抵当権)の効力が物上代位の目的債権についても及ぶことはその設定登記により公示されているとみることができるのであるから差押債権者に不測の損害を与えることにもならず、仮に転付命令がその後確定し実体的効力が遡及したとして右転付命令を優先させ物上代位権の行使を否定するならば、抵当権(根抵当権)設定者は、抵当権者(根抵当権者)からの差押えの前に差押債権者に転付命令を得させることによって容易に物上代位権の行使を免れることができ、抵当権者(根抵当権者)の利益を不当に害するものというべきだからである(最高裁判所昭和六〇年七月一九日第二小法廷判決民集三九巻五号一三二六頁、同平成一〇年一月三〇日第二小法廷判決民集五二巻一号一頁、同平成一〇年二月一〇日第三小法廷判決各参照)。

二  したがって、民事執行法一五九条三項、五項、一六〇条は、転付命令が第三債務者に送達される時までに他の債権者の差押等が競合した場合には、転付命令は効力を生じないと規定する反面、その後に差押等が競合しても転付命令の確定を妨げず、その遡及効に影響を与えないものとし、転付命令を取得した者の保護を図っているけれども、前記のとおり、未だ転付命令が確定し実体的効力を生じるまでの間に優先権を有する抵当権者(根抵当権者)が物上代位権に基づき差押えをした場合においては、転付命令は効力を生じないものと解するのが相当である。

三  以上と異なる原告の主張は採用できない。そして、これを本件についてみると、前記前提事実によれば、被告らの抵当権ないし根抵当権(物上代位)に基づく各差押えは、原告の本件転付命令が確定し実体的効力が生じる前になされているのであるから、被告らの各差押えが優先し、本件転付命令は効力を生じないものと解するのが相当である。

四  よって、被告ら(及び訴外いよぎん保証株式会社)の抵当権ないし根抵当権(物上代位)に基づく各差押えが原告の本件転付命令に優先するとの解釈のもとに作成された本件配当表(一)は相当というべく、原告の請求は理由がない(なお、証拠〔乙イ1〕によれば、被告伊予銀行と被告信用保証協会との間で順位変更がなされているため、被告信用保証協会を第三順位、被告伊予銀行を第四順位と記載するのが相当ではあるけれども、各配当額に影響はなく、原告の請求の当否を判断する結論に影響を与えるものではない)。

(平成一一年四月一五日口頭弁論終結)

(別紙)

物件目録

所在   宇和島市下波三七四五番地二

家屋番号 三七四五番二

種類   居宅

構造   鉄筋コンクリート造陸屋根二階建

床面積  一階 一五二・四〇平方メートル

二階  六六・〇〇平方メートル

別紙 配当表(一)

<省略>

別紙 配当表(二)

<省略>

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