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松山地方裁判所 昭和41年(行ウ)7号 判決 1969年3月27日

松山市大字北土居一四一番地

原告

済川利雄

原告

済川重幸

右両名訴訟代理人弁護士

中矢近太郎

被告

松山地方法務局登記官

被告

高松国税局長

大塚俊二

右両名指定代理人

叶和夫

和田茂

上野国夫

中川安弘

植田照一

右松山地方法務局登記官指定代理人

岡秀夫

右高松国税局長指定代理人

奥村富士雄

水沢正幸

主文

原告両名の請求はいずれもこれを棄却する。

訴訟費用は原告両名の連帯負担とする。

事実

第一、当事者双方の求める判決

(原告両名の申立)

一、被告松山地方法務局登記官に対する申立

登記権利者原告済川利雄と登記義務者原告済川重幸間の昭和二九年三月九日付贈与を原因とする別紙目録記載の土地所有権移転登記申請事件(昭和四〇年八月二七日松山地方法務局受付第二五、三三七号)について、被告松山地方法務局登記官が、昭和四〇年八月三〇日なした登録税課税標準価格を五万四、七〇〇円とする認定告知処分のうち、三万七、六二〇円を超過する部分はこれを取消す。

二、被告高松国税局長に対する申立

被告松山地方法務局登記官のなした前項認定告知処分に対し、原告両名がなした審査請求について、被告高松国税局長が昭和四一年一月二五日棄却した裁決はこれを取消す。

三、訴訟費用は被告両名の負担とする。

(被告両名の申立)

一、原告両名の請求はいずれもこれを棄却する。

二、訴訟費用は原告両名の負担とする。

第三、原告両名の主張

(請求原因)

一、(一) 原告両名は、昭和四〇年八月二七日原告済川利雄を登記権利者、原告済川重幸を登記義務者として別紙目録記載の土地(以下本件土地という)について、贈与を原因とする所有権移転登記申請(松山地方法務局受付第二五、三三七号。-以下本件登記申請という)をなすに際して本件土地の登録税課税標準価格を三万七、六二〇円として申告したところ、被告松山地方法務局登記官(以下被告登記官という)は、これを不相当であるとして同年八月三〇日右価格を五万四、七〇〇円とする認定告知処分をなした。

(二) そこで原告両名は同年九月一七日松山地方法務局長宛右認定告知処分を不服とする審査請求をなしたところ、同請求は被告高松国税局長(以下被告局長という)宛移送された結果、同被告は昭和四一年一月二五日右請求を棄却する裁決をなした。

二、しかしながら、被告両名のなした前記各処分はいずれも次に述べる事由により違法である。

登記官は登記の申請がなされた該当該申請書及び附属書類が法定の要件を具備するか否かを形式的に審査する権限を有するにすぎず、進んで登記事項が真実であるか否かの実質的な審査をする権限を有しない。従つて本件登記申請に際しても、被告登記官は贈与証書、知事の農地法第五条許可証など登記申請の際提出された書面と本件登記申請時である昭和四〇年八月二七日における登記薄の効力(表題部の地目は田)とを形式的に審査し、登録税課税標準価格を同日における田の価格により三万七、六二〇円と認定告知処分すべきであるのに被告登記官は同日における宅地の価格により五万四、七〇〇円と認定告知処分したものであつて、右処分は登記官の形式的審査権の権限を逸脱した違法な処分である。

三、被告局長のなした裁決には、原告両名の主張事項について何ら判断をしていない理由欠如又は不備の違法がある。

原告両名は審査請求において本件登記申請時、すなわち昭和四〇年八月二七日の田の価格を登録税課税標準価格として右申請を受理すべきであると主張していたのであるから、被告局長は、農地法第五条、国税通則法第一五条第二項第五号、不動産登記法第一条、第四九条第五号、民法第一七六条、第七〇三条の趣旨に鑑み前同日における具体的事実から帰納して事案を審査し裁決すべきであるのに何らこれをなさず単に被告登記官の認定告知処分を抜萃して棄却の裁決をなしているにすぎない。

(被告両名の主張に対する答弁)

被告局長の主張のうち二項(一)は認めるが、その余は争う。

被告登記官の主張並びに被告局長の仮定的主張は争う。

第三、被告両名の請求原因に対する答弁

請求原因一項は認める。

同二項中登記申請手続について登記官の権限が形式的審査権のみに限定さるべきであること、本件登記申請時である昭和四〇年八月二七日当時の本件土地の登記薄上の地目が田であつたこと、被告登記官が同日当時における宅地の価格により本件土地の登録税課税標準価格の認定告知処分をなしたことは認めるがその余を争う。

同三項は争う。

第四、被告局長の主張

一、請求原因二項の主張は行政事件訴訟法第一〇条第二項により理由がない。

二、被告局長のなした本件裁決には何ら理由記載に欠けるところはない。

(一)  本件審査請求の要旨は、「登記官には実質審査権はなく形式審査権を有するにすぎないから、本件土地の登記薄上の表示が田である以上登録税額は田に対する登録税額の算定基準によりこれを算出すべきであるのに土地の現況に基づき宅地として評価したのは違法である。」というにある。

これに対して本件裁決は、その棄却の理由として、「本件登記申請は、農地法第五条の規定による県知事の許可書を添付した農地を宅地に転用する所有権移転登記申請であるが、登録税課税標準価格は登記の時における不動産価格によるものであり、原処分庁がその算定方法として申請にかかる不動産所在地の近傍類似宅地の旧賃貸価格に所定の倍率を適用し、評価認定した価格は適正である。」旨記載している。

(二)  したがつて裁決の理由記載としては充分である。なお裁決の理由記載はそれ自体のみならず原処分の理由記載と相まつてその当否が決せらるべきであると考えられるが、本件裁決の理由記載は、原処分のそれとあわせて検討すればより一層充分なものである。

第五、被告登記官の主張ならびに被告局長の仮定的主張

被告登記官のなした本件認定告知処分には何ら違法な点はない。

一、登記官は、登録税の賦課徴収については実質的審査権を有する。

(一)  登記官は、登記手続の申請が提出された場合その申請書のすべての事項を調査し(不動産登記法施行細則第四七条)、その申請が実体法及び手続法に照して適法であるかどうか、また登記法所定の形式的要件を具備しているかどうかを審査し、違法な申請を却下する権限を有している。そしてその権限につき登記官は所謂形式的審査権のみしか有しないということについては異論がない。

しかしながら不動産の登記に関する申請は、不動産登記法及び関係法令の定めるところにより一通の申請書により登記申請手続と登録税の申告納付手続とが併行して行われたところ、登記申請手続については不動産登記法の定めるところにより、登録税の申告納付手続については登録税法の定めるところによりそれぞれ行われるものである。ところで右登録税の申告納付手続は、登記申請者が登記申請書に登録税課税標準価格及び登録税額を記載し(不動産登記法施行細則第三八条第一項)、当該登録税額に相応する収入印紙を申請書に貼付して納付することとされている(登録税法(明治二九年法律第二七号)第一七条本文、同法施行規則第一条)が、これは単に登録税の徴収手続上の操作によるものであるから、たとえ同一申請により登記申請手続と登録税の申告納付手続とが併行して行われるとしても、この一事をとらえて直ちに不動産登記法上の形式的審査権を登録税の徴集手続に推及することは許されない。

(二)  ところで登録税法(明治二九年法律第二七号)第二条第一項の規定によれば「不動産に関する登記を受くるときは‥‥登録税を納む」として、登録税納付義務の発生時期を明記しているほか、同法第一九条の六の規定は、「登記申請者の申告したる課税標準の価格を不相当と認むるときは其の価格を認定し之を登記申請者に告知すべし」として、登記申請者の申告した不動産の課税標準価格が適正か否かの認定権を登記官に賦与している。

そこで登記官が登記申請者の申告額が適正であるか否かの審査に当つては、前記登録税法に基づく権限行使の方法として登録税納付義務の発生時期である「登記を受くるとき」を基準として適正な価格を認定すべきことは当然のことである。またその認定にあたつては形式的審査にとどまらずその実体に立入つて適正な登録税額の認定をなすべきである。形式的審査権しか有しないとする原告らの主張は失当である。

二、登録税の基礎となる課税標準価格の認定は登記時における当該不動産の時価によるべきである。そして、被告登記官が登記時を基準にして認定した本件土地の価格は適正な価格である。

昭和四〇年八月二七日当時における本件土地の現況は宅地であつたから、被告登記官は、本件土地の価格の認定にあたつては近傍類似の宅地の旧賃貸価格坪当り一六銭に所定の倍率六、〇〇〇倍を乗じた上更に不動産の地積一八八平方米(一畝二七歩)を乗じて算出した価格五万四、七〇〇円を課税標準価格と認定し、右価格を原告らに告知したものであつて、右認定告知価格は、宅地転用の場合における売買実例価格或いは、宅地の売買実例価格などと比較考慮しても適正なものである。

第六、証拠

(原告)

甲第一、二号証、同第三号証の一、二、同第四号証の一、二、同第五、六号証を提出し、証人木々津順治の証言を援用し、乙第一ないし第三号証の各成立は不知、同第四号証、同第五号証の一ないし四、同第六、七号証の各成立は認めると述べた。

(被告)

乙第一ないし第四号証、同第五号証の一ないし四、同第六、第七号証を提出し、証人村上一人、同矢野鹿雄、同近藤準一郎、同森田勝善の各証言を援用し、甲第六号証の原本の存在並びにその成立は認め、その余の甲号各証の成立は認めると述べた。

理由

一、原告両名が昭和四〇和八月二七日原告済川利雄を登記権利者、原告済川重幸を登記義務者として本件土地について贈与を原因とする本件登記申請をなすに際して、本件土地の登録税課税標準価格を三万七、六二〇円として申告したところ、被告登記官はこれを不相当であるとして同年八月三〇日右価格を五万四、七〇〇円とする認定告知処分をなしたこと、そこで原告両名は同年九月一七日松山地方法務局長宛右認定告知処分を不服とする審査請求をなしたところ、同請求は被告局長宛移送された結果、同被告は昭和四一年一月二五日右請求を棄却する裁決をなしたこと、本件土地は本件登記申請時である昭和四〇年八月二七日当時登記薄上の地目が田であつたこと、被告登記官は同日における宅地の価格により本件土地の登録税課税標準価格の認定告知処分をなしたことはいずれも当事者間に争いがない。

二、原告両名は、被告登記官は登記申請がなされた場合形式的審査権限しか有しないものであつて、本件土地の登記薄上の地目は田であるから登録税課税標準価格を認定するに当つても本件土地を田として評価すべきであるにも拘らず宅地の価格により認定した違法があり、また被告局長のなした審査請求を棄却した裁決も右に述べた理由により違法である旨主張するのでこの点について判断する。

(一)  不動産に関する登記を受けるときは登記申請書に課税標準価格および登録税額を記載し、当該登録税額に相応する収入印紙を右申請書に貼付して登録税を納付すべきものであるから、登記所に対し不動産の登記を申請するときは、一通の申請書により登記申請手続と登録税の申告納付手続とが併行して行われると解すべきであるが、そのうちの登記申請手続については不動産登記法とその関係法令の定めるところにより、登録税の申告納付手続については登録税法(明治二九年法律第二七号)とその関係法令の定めるところによりそれぞれ行われるものである。したかつて、登記申請手続と登録税申告納付手続とは、それぞれ別個の法的観点からの規制を受けるものであつて、右両手続が前記のようにたまたま事務処理の便宜上登録税額相当の印紙を貼付した登記申請書の提出という一個の行為で実行されるからといつて、この点に変化を来すものではない。そして不動産に関する登記申請があつた場合において、登記官はその登記申請が実体関係と符合しているか否かを審査するいわゆる実体的審査権はなく、単にその登記申請が法令の要求する形式に合致しているか否かを審査するいわゆる形式的審査権を有するに過ぎない。このことは不動産登記法第四九条の規定からも明らかであり、疑問の余地はない。これに対し右登録税法第一九条ノ六は、右第四九条とは全くその規定の仕方が異なり、「登記所カ登記申請者ノ申告シタル課税標準ノ価格ヲ不相当ト認ムルトキハ其ノ価格ヲ認定シ之ヲ登記申請者ニ告知スベシ」と定めており、登記官に登記申請者の申告した課税標準価格が相当か否かを認定する権限を付与している。そして、右に引用したような同条の規定定の仕方、および右登録税法が、登記、登録を受けることによつて当該登記、登録の申請者が受ける利益(不動産の所有権移転登記申請についていえば、所有権移転登記という対抗要件を備えることによつて登記申請者の受ける利益)に着目して、これを課税の対象としていることを考えれば、登記官は、課税標準価格の認定にあたり、単に形式的審査のみならず、実体に立ち入つた審査をなす権限を有するものと解するのが相当である。したがつて、本件登記申請時の本件土地の登記薄上の地目が田であつても当時の本件土地の状態が宅地もしくは、これと同視すべき土地であれば、宅地の価格により本件土地の登録税課税標準価格の認定告知処分をなすことは、なんら違法ではなく、この点に関する原告両名の主張は理由がない。

(二)  ところで、登録税課税標準価格は、登記申請時の当該不動産の時価によるべきものであるが、以下に判示するように、本件認定告知処分は、この点においてもなんら違法の点はない。

いずれも成立に争いのない甲第一号証、乙第六、七号証、証人村上一人の証言により真正に成立したものと認められる乙第一号証、証人村上一人、同森田勝善の各証言によれば、被告登記官は、本件土地の課税標準価格を認定するに当つて所謂賃貸借価格評価倍数方式、すなわち、従前不動産に課税するため法令に基き算定されていたところの賃貸価格に松山地方法務局において作成し不動産の登録税課税標準価格倍率表による所定の倍率を乗じて認定する方式を採用していたこと、および、被告登記官は、本件登記申請が農地法第五条による農地の宅地転用のための所有権移転登記申請であるところから、右申請時の本件土地の状態は宅地と同視すべきものであるとの判断のもとに、本件土地の近傍類似の宅地の前記意味における賃貸価格坪当り一六銭に前記倍率表の該当地域の倍率六、〇〇〇倍を乗じ、更にこれに本件土地の地積五七坪(一八八平方米)を乗じて算出した価格五万四、七〇〇円を本件土地の課税標準価格であると認定したものであること、ならびに本件登記申請時の本件土地の状態が宅地であつたことが認められ、これに反する証拠はない。ところで、証人矢野鹿雄の証言により真正に成立したものと認められる乙第二号証及び証人矢野鹿雄の証言並びに証人近藤準一郎の証言により真正に成立したものと認められる乙第三号証及び証人近藤準一郎の証言によれば、本件土地の昭和四〇年八月二七日当時の時価は少くとも一平方米当り二、〇〇〇円であることが認められ、右認定を覆えし、前回日当時における本件土地の時価が三万七、六二〇円(一平方米当り二〇〇円位)であると認めるに足る何らの証拠もない。そうすると右認定価格による本件土地の価格はいずれも被告登記官が認定した価格五万四、七〇〇円を大幅に上廻るものであつて、被告登記官の右認定価格は、違法な価格であるとは言えない。

よつて被告登記官が本件土地につき昭和四〇年八月二七日における本件土地の現況である宅地の価格によりその課税標準価格を五万四、七〇〇円であると認定告知した処分は適法である。

(三)  次に、被告局長に対する原告両名の請求原因二項の主張につき考えるに、処分の取消しの訴えとその処分についての審査請求を棄却した裁決の取消しの訴えとを換起することができる場合には、原処分を正当として審査請求を棄却した裁決の取消しの訴えにおいては、裁決の手続上の違法その他裁決固有の違法を主張するは格別、原処分の違法を裁決取消しの理由として主張することはできないものであるから、主張自体失当である。

三、原告両名は、被告局長のなした審査請求棄却の裁決は理由欠如又は不備の違法がある旨主張するのでこの点について判断する。

本件審査請求の要旨は、「登記官には実資的審査権はなく形式的審査権を有するにずぎないから、本件土地の登記薄上の表示が田である以上、登録税額は田に対する登録税額の算定基準によりこれを算出すべきであるのに土地の現状に基づき宅地として評価したのは違法である。」というにあること、これに対する被告局長のなした裁決は、棄却の理由として、「本件登記申請は、農地法第五条の規定による県知事の許可書を添付した農地を宅地に転用する所有権移転登記申請であるが、登録税課税標準価格は登記の時における不動産価格によるものであり、原処分庁がその算定方法として、申請にかかる不動産所在地の近傍類似宅地の旧賃貸価格に所定の倍率を適用し評価認定した価格は適正である。」旨記載していることは、いずれも当事者間に争いがない。

右記載によつて明らかなとおり、本件裁決理由は、原告両名の審査請求に対して、本件土地が登記薄上「田」と表示されているのに、その登録税の算定方法として「宅地」のそれによつた原処分が何故正当であるかについては、登録税の算定に関しては登記の時における不動産の現状に基づき、そのその価格によるべきである旨を、また、登録税額算出の方法については原告処分庁のとつた近傍類似の宅地の旧賃貸価格に所定の倍率を適用する方法を是認する旨を判断していると解されるのであつて、裁決の理由記載が欠如している、もしくは不備であるとはいえない。原告両名の右主張は失当である。

四、よつて原告両名の請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担については民事訴訟法第八九条、第九三条第一項担書を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 秋山正雄 裁判官 伊藤滋夫 裁判官 友添郁夫)

目録

松山市大字北土居字北二丁目一四一番二

一、田 一八八平方米(一畝二七歩)

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