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東京高等裁判所 昭和62年(行コ)88号 判決 1990年4月26日

控訴人

谷口信義

被控訴人

右代表者法務大臣

長谷川信

被控訴人

神奈川県

右代表者知事

長洲一二

被控訴人

神奈川県座間渉外労務管理事務所長岡島正弘

被控訴人ら指定代理人

田中治

長沢幸男

被控訴人国指定代理人

西尾光行

板井敦雄

被控訴人神奈川県指定代理人

宮沢秀夫

山田喜隆

石渡正次郎

被控訴人神奈川県座間渉外労務管理事務所長岡島正弘指定代理人

河野嘉延

山田一

主文

一  本件各控訴をいずれも棄却する。

二  当審において新たに提起された被控訴人国及び同神奈川県に対する「職場復帰、継続就労の契約義務を履行し、解雇無効に併せて、右解雇当時の原状の職務・待遇の保障される職場に戻せ。」との控訴人の各請求をいずれも棄却する。

三  控訴費用及び当審において新たに提起された各請求に関する訴訟費用はすべて控訴人の負担とする。

事実

一  控訴人は、控訴の趣旨として、「一 原判決を取り消す。二 被控訴人らは、控訴人らに対し、職場復帰、継続就労の契約義務を履行し、解雇無効に併せて、右解雇当時の原状の職務・待遇の保障される職場に戻せ。三 被控訴人国及び神奈川県は、連帯して、控訴人に対し、一六四五万一三〇〇円及びこれに対する昭和四八年七月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。四 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決並びに第二項及び第三項のうちの一一四五万一三〇〇円につき仮執行の宣言を求めた(被控訴人国及び同神奈川県に対する控訴の趣旨第二項の各請求は、当審において新たに提起されたものである。)。

被控訴代理人は、主文第一、二項同旨の判決を求めた。

二  当事者双方の主張は、次のとおり補正するほかは、原判決の事実摘示「第二当事者の主張」(原判決三丁表九行目から二一丁裏末行まで)と同一であるから、これを引用する。

1  原判決三丁裏八行目ないし一〇行目の「日本国とアメリカ合衆国との相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定」を「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定」に改める。

2  同四丁表六行目の「以下」の前に「(」を加え、六、七行目の「一九五七年」の前の「(」を削り、九行目の「使用するため」の次に「A側が」を加える。

3  同五丁表七行目ないし九行目の「日本国との平和条約の効力の発生及び日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約第三条に基づく行政協定の実施等に伴い国家公務員法等の一部を改正する等の法律」を「日本国との平和条約の効力の発生及び日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約第三条に基く行政協定の実施等に伴い国家公務員法等の一部を改正する等の法律」に改める。

4  同六丁表初行ないし三行目の「防衛庁設置法の規定に基づき防衛施設庁長官の権限の一部を都道府県知事に委任する法令」を「防衛庁設置法第四十四条の規定に基づき防衛施設庁長官の権限の一部を都道府県知事に委任する法令」に改める。

5  同七丁表三行目の「上田喜一郎」を「上田喜八郎」に改める。

6  同八丁表末行の「措置である。」の次に「なお、財政会計事務所会計部に関するMLC附表1の職務定義書は作成以来改定されていないためコンピューターによる高速度情報処理をしている現況に合わず、控訴人の職務内容についても本件降格の判断基準たり得ないものである。また、控訴人について座間民間人人事事務所が職位給与管理調査をした事実はない。」を、同裏四行目の末尾の次に「なお、控訴人の所属していた財政会計事務所には当時給与表(一)三等級の空席があったにもかかわらず、控訴人に対し本件解雇はされたものであり、また、控訴人が労管から他の職場の斡旋を受けた事実はない。」をそれぞれ加える。

7  同一〇丁表初行の「申請」を「申立て」に改め、同裏三行目の次に

「(四) 日本国内法の不遵守

控訴人と被控訴人国との雇用関係について、地位協定一六条及びMLCにより日本国内法が遵守されなければならず、日本国内法では年功序列(MLC上の先任権)、年度末(六月末)の多忙期間の解雇の回避、処分の理由の事前説明及び処分の事前通告義務等が法制化されあるいは労働慣行となっているのに、本件解雇は、右のいずれをも欠いているので、不当違法である。」を、六行目の「谷内祐二」の次に「ないし同正岡一男」をそれぞれ加え、一〇行目の「被告所長」を「被控訴人ら」に、末行の「解雇無効に併せて」を「併せて本件解雇が違法無効であるから、」にそれぞれ改める。

8  同一五丁裏七行目の「K、ベネット」を「K・ベネット」に改める。

9  同一六丁表九行目の「MLC附表1」を「MLC附表Ⅰ」に改める。

10  同一八丁表六行目の「在職者名簿」を「在籍者名簿」に改め、六、七行目の「人員整理通知書発出日の少なくとも七日前には」を削る。

11  同一九丁表七行目の「4等級」を「等級4」に改める。

12  同二〇丁表二行目の「MLC第一一章六b」を「MLC第一一章6b」に改め、末行の「労管」の前に「座間民間人人事事務所が他職場の空席状況を公示するとともに、」を加え、同裏初行の「勤めたが」を「勧め、控訴人は同年五月ころ当時空席であった管理分析職に応募したことがあったが、結局」に、三行目の「要求し」を「要求しており」にそれぞれ改める。

三  証拠関係(略)

理由

一  先ず、控訴人の被控訴人らに対する「職場復帰、継続就労の契約義務を履行し、解雇無効に併せて、右解雇当時の原状の職務・待遇の保障される職場に戻せ。」との請求について判断する。

右請求は、結局は、控訴人を本件解雇当時の職位の職場に戻すことを求める給付請求であると解せられるが、被控訴人神奈川県座間渉外労務管理事務所長(以下「被控訴人所長」という。)は行政機関であって、控訴人主張の雇用関係における権利義務の主体とはなり得ないから、被控訴人所長に対して右のように給付を求めることは許されず、不適法であるといわねばならない。したがって、控訴人の被控訴人所長に対する請求は却下されるべきものである。

また、控訴人は、被控訴人国及び同神奈川県に対して、被控訴人所長の意を受けた谷内祐二ないし正岡一男が昭和四八年七月一〇日控訴人に対して復職を確約した事実があること及び本件解雇が違法・無効であることを前提として右各給付請求をしていると解せられるが、次項に述べるとおり、復職を確約した事実も本件解雇が違法・無効であることも認めることができないから、控訴人の主張は前提を欠くものである。したがって、控訴人の被控訴人国及び同神奈川県に対する右各給付請求は、その余について判断するまでもなく、いずれも理由がないので棄却されるべきものである。

二  次に、控訴人の被控訴人国及び同神奈川県に対する各金銭請求について判断する。

1  請求原因1及び2については、すべて当事者間に争いがない。

2  そこで、最初に、本件降格及び本件解雇には合理的理由がないとの控訴人の主張を検討する。

(証拠略)を総合すると、控訴人は当時キャンプ座間米陸軍財政会計事務所会計部基金運用課会計技術職(基本給表1・職種番号7・等級4)であったところ、座間民間人人事事務所によって年間日本人従業員の一定割合について無作為抽出により行われていた職位給与管理調査の結果、会計維持事務職(基本給表1・職種番号381・等級3)の職務に従事しているに過ぎないことが判明したので、昭和四八年一月一五日控訴人が所属していた会計部基金運用課のスギノ課長が控訴人を会計維持事務職(基本給表1・職種番号381・等級3)に変更することを発議し、同年二月二日契約担当官代理者K・ベネットが承認した上で同月一日付けで労管に対しその旨の人事措置要求書を提出したこと、同月五日労管は右人事措置要求書を受理し、同月二八日被控訴人所長が同意し、同年三月初旬ころ労管は座間民間人人事事務所を介して右旨の人事措置通知書を控訴人に送付することにより本件降格が行われたこと(本件降格が控訴人に通告されたのは、当審における控訴人本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によると同年三月二七日であると認められる。)、同年二月一二日付け太平洋米陸軍一般命令第五〇号によりキャンプ座間米陸軍財政会計事務所に対して間接雇用外国人を一二七名中四名を削減して一二三名にする部隊の再編成措置をとることが命じられ、同年三月二三日管理事務室長ススム・ミナモトが会計維持事務職(基本給表1・職種番号381・等級3)二名を含む四名の人員整理を同年六月三〇日発効ですることを発議し、同年三月二八日契約担当官代理者K・ベネットが承認した上で労管に対し右旨の人事措置要求書を提出したこと、同日労管は右人事措置要求書を受理し、同月二九日被控訴人所長が同意し、同年四月四日控訴人(及び田中史郎)が解雇予定者であること等を内容とする在籍者名簿(採用年月日の順に控訴人及び田中史郎を表示)を財政会計事務所に掲示したこと、座間民間人人事事務所は控訴人に対し他職場の空席を紹介し、控訴人は少なくともその一(管理分析職)に応募したが採用されなかったこと、被控訴人らが控訴人に復職を確約した事実はないこと、同年五月二九日労管は控訴人に対し同年六月三〇日発効で控訴人を人員整理する旨の人事措置通知書(同年五月二五日付け)を交付することにより本件解雇が行われたこと、本件降格に係る人事措置要求書が日付を遡らせて作成されたことを除き、本件降格及び本件解雇についてはすべて被控訴人ら主張のとおりのMLCに従った手続がとられたことが認められる。当審において、控訴人本人は、座間民間人人事事務所が控訴人について職位給与管理調査をしたことはなく、本件降格及び本件解雇に関する書類は偽造されたもので人員整理の対象は六名であるのに四名とされており、座間民間人人事事務所は控訴人に対し他職場の空席を紹介したことはなく、控訴人が応募したこともないなどと右認定に反する供述をしているが、右供述部分は、(証拠略)考慮しても、前掲各証拠に照らして直ちに採用できるものではなく(なお、<証拠略>にも人員整理の対象が六名である趣旨の記載があるが、<証拠略>と対比すると採用できない。また、被控訴人らが原審で提出した昭和五八年九月二六日付け準備書面において財政会計事務所に基本給表1・職種番号42・等級3の事務職の空席がありそれを控訴人に提示したと記載されていることから、直ちに他に空席があって本件解雇は人員整理の必要がないのにされたものであると推定することはできず、右空席はその職種等から比較して控訴人の当時の職位に対応するものとはみられず、先述のとおり控訴人の職位については現実に人員整理の必要があったものと認められる。)、他に右認定を動かすに足る証拠はない。なお、本件降格は、昭和四八年二月二八日になって被控訴人所長が同意し、控訴人に通告されたのは同年三月二七日であるにもかかわらず、同年二月一日付けでされているものの、このことにより控訴人に不利益が生じた事実を認めるに足る資料はないので、この点において本件降格が違法になると解すべきではない。

以上のとおりであるから、本件降格及び本件解雇は、いずれも適法であり、合理的理由に欠けるところはないというべきである。

3  また、控訴人は、本件降格及び本件解雇はススム・オノの私的制裁及び同人に教唆された被控訴人所長らの共同不法行為によるものであると主張している。

(証拠略)によれば、昭和四五年四月ころ控訴人の所属していた財政会計事務所会計部において会計部内訓練評価試験が実施されたが、控訴人が受験を拒否したため、同部次長ススム・オノは控訴人に対し受験するよう書面で勧告したこと、これに対し、控訴人は右試験の意義・効果を否定し受験を拒否したことが認められるが、控訴人の右主張に沿う(証拠略)を総合しても、ススム・オノが控訴人に対して私的制裁を加えようとして本件降格及び本件解雇がされた事実を認めることはできないし、他に右事実を認めるに足る証拠はない(<証拠略>(苦情処理申請書回答)もこれを否定している。)。

したがって、控訴人の右主張は、前提となる事実を欠くから認める余地はない。

4  控訴人は、予告された解雇の発行日までに苦情処理手続が決着していなかったので、被控訴人所長は苦情処理手続が終了するまで解雇の発効を延期すべきであったのに本件解雇を強行したのは裁量権の濫用であると主張している。

控訴人は本件解雇について第一段階から最終段階まで四回の苦情の申立てをしているが、昭和四八年四月二〇日にした第一段階の苦情申立てに対する決定がMLCによれば六日以内にされなければならないのに五〇日以上も遅れて同年六月一二日に通告され、同月一九日にした第二段階の苦情申立ての審査中に本件解雇が発効したことは、当事者間に争いがない(当審において控訴人本人は、同年四月一六日に口頭で第一段階の苦情申立てをしたと供述しているが、右は正式の苦情申立てとは解せられない。)。しかし、(証拠略)によれば、本件解雇についての苦情申立ては最終段階においても拒否する旨の決定(昭和四九年五月七日付け)があったことが認められるから、被控訴人所長が解雇の発効を苦情処理手続が終了するまで延期したとしても控訴人が解雇されたことには変わりがなかったことになるところ、右の点が解雇と苦情処理の相互間に実質的にその効力に影響を及ぼしたと認めるべき特段の事情の窺われない本件においては、被控訴人所長が苦情処理手続が終了するまで解雇の発効を延期しなかったことをもって直ちに違法となることはないと解せられる。

5  さらに、控訴人は、控訴人と被控訴人国との雇用関係について、地位協定一六条及びMLCにより日本国内法が遵守されなければならず、日本国内法では年功序列(MLC上の先任権)、年度末(六月末)の多忙期間の解雇の回避、処分の理由の事前説明及び処分の事前通告義務等が法制化されあるいは労働慣行となっているのに、本件解雇は、右のいずれをも欠いているので、不当違法であると主張している。

しかしながら、本件解雇を敢えて違法とする控訴人主張のような年功序列の労働慣行が本件に関連する日本国内法において存在すると認めるに足る証拠はなく(当審における控訴人本人尋問の結果中には右趣旨ともみられる部分があるが、採用できない。)、また、年度末(六月末)の多忙期間の解雇回避の労働慣行が本件において存在すると認めるべき証拠もない。なお、控訴人がいう処分の理由の事前説明及び処分の事前通告義務は本件解雇が控訴人に対する私的制裁であることを前提とする主張と解されるが、本件解雇が控訴人主張のような私的制裁でないことはいうまでもないことであるから、控訴人の右主張は前提を欠くのみならず、本件解雇については、先述のとおり昭和四八年五月二九日に控訴人に対し同年六月三〇日発効で人員整理する旨の人事措置通知書が交付されており、事前説明及び事前通告がされているとみられるのであるから、いずれにしても右主張は採用できない。

6  したがって、控訴人の被控訴人国及び同神奈川県に対する各金銭請求は、いずれも理由がなく失当である。

三  よって、以上と同旨の原判決は相当であって、本件各控訴は理由がないから、いずれも棄却し、当審において新たに提起された被控訴人国及び同神奈川県に対する「職場復帰、継続就労の契約義務を履行し、解雇無効に併せて、右解雇当時の原状の職務・待遇の保障される職場に戻せ。」との控訴人の各請求をいずれも棄却することとし、控訴費用及び当審において新たに提起された各請求に関する訴訟費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 渡邉卓哉 裁判官 大島崇志 裁判官 渡邉温)

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