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東京高等裁判所 昭和60年(行コ)41号 判決 1986年3月31日

控訴人(原告) 三輪田元也

被控訴人(被告) 渋谷税務署長

訴訟代理人 芝田俊文 江口育夫 ほか二名

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴の趣旨

1  原判決を取消す。

2  被控訴人が昭和五五年九月三〇日付でした控訴人の昭和五三年分所得税の更正の請求に対する更正(以下「五三年分更正」という。)を取り消す。

3  被控訴人が昭和五六年一月三一日付でした控訴人の昭和五四年分所得税の再更正(但し、裁決で一部取り消された後のもの、以下「五四年分再更正」といい、これと五三年分更正とをあわせて「本件各更正」という。)のうち分離短期譲渡所得の金額二九九三万九二一八円を超える部分及び控訴人の同年分所得税に関する過少申告加算税賦課決定(但し、裁決で一部取り消された後のもの。以下「本件決定」といい、これと本件各更正とをあわせて「本件各処分」という。)のうち税額四五万八六〇〇円を超える部分を取り消す。

4  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  控訴の趣旨に対する答弁

主文第一項同旨

第二当事者の主張事実及び証拠

原判決事実摘示のとおりである。

理由

一  当裁判所は控訴人の本訴請求は棄却すべきものと判断する。その理由は原判決の理由と同一であるからこれを引用する。たゞし、次のように、付加訂正する。

1  原判決理由二の全文を次のとおり改める。

「二 固定資産の取得にあたり、必要とされる資金は、それが手持ちの自己資金であれ、借入資金であれ、所得税法三八条一項所定の「資産の取得に要した金額」に当たることは明らかである。そして、借入資金の場合は、その利用の対価として、資金元本返済までの期間中の約定利子を支払わなければならないことは法律上自明のことであるから、借入金利子も右資金元本と併せ「資産の取得に要した費用」そのものに当たると解すべきであり、右資金借入れについての必要経費又は当該資産の保有に伴う維持管理費等とはその性質を異にするものといわなければならない。

しかしながら、借入資金が、その元本利用の対価として右利用期間中において借入金利子という負担を生ぜしめるのに対応して、借入資金によつて取得した固定資産は、その保有期間中右資産の自己使用による対価としていわゆる帰属所得という利益を生む。そして、右資産の自己使用開始可能の日時から資産譲渡による資金元本回収の時点(資金元本の返済可能時)までに支払われた借入金利子は、社会通念上その期間中の帰属利益と等価とみなされるべきである(民法五七五条参照)から、資産譲渡時に回収すべき投下資本額は結局借入金元本額に帰着することとなるのであつて、借入金利子はそこに包含されないといわざるを得ない(ただし、資金借入時から資産を取得して利用可能になる時点までに支払われた利子は取得費に含まれる。)。

右の考えによれば、固定資産の取得によりその引渡を受け、これを利用し得た時期以後の借入金利子は、本来、当該資産を現実に利用したか否かにかかわりなく、取得費の中に算入されるべきではないこととなるが、本件において、現実に資産の利用を開始した時期以前に利用を開始し得た旨の主張立証がないので、控訴人が本件土地等を居住の用に供した日時であることが当事者間に争いのない昭和四六年六月六日を以て利用開始可能の日時と解すべきものとする。」

(なお、資産を取得した後、使用可能であつても、現実に使用しないで譲渡した場合には、当該譲渡の日までの利子を取得費に算入するとの解釈があるが、右に判示したところに照らして、これを採用することができない。実際問題としても、右の解釈は、土地建物を投機の対象とすることを助長するおそれなしとしない)

2  同判決三九枚目裏八行目冒頭から四〇枚目表三行目の「である。」まで、同六行目の「本件土地等」から同末行の「のうち、」まで及び四〇枚目裏六行目冒頭から四一枚目表七行目文末までを削る。

二  以上の理由により、原判決は相当であるから、民訴法三八四条により本件控訴を棄却する。

訴訟費用の負担につき、行訴法七条民訴法九五条八九条適用。

(裁判官 武藤春光 菅本宣太郎 山下薫)

原審判決の主文、事実及び理由

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一 請求の趣旨

1 被告が昭和五五年九月三〇日付でした原告の昭和五三年分所得税の更正の請求に対する更正(以下「五三年分更正」という。)を取り消す。

2 被告が昭和五六年一月三一日付でした原告の昭和五四年分所得税の再更正(但し、裁決で一部取り消された後のもの、以下「五四年分再更正」といい、これと五三年分更正とをあわせて「本件各更正」という。)のうち分離短期譲渡所得の金額二九九三万九二一八円を超える部分及び原告の同年分所得税に関する過少申告加算税賦課決定(但し、裁決で一部取り消された後のもの。以下「本件決定」といい、これと本件各更正とをあわせて「本件各処分」という。)のうち税額四五万八六〇〇円を超える部分を取り消す。

3 訴訟費用は被告の負担とする。

二 請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一 原告の請求の原因

1 本件処分の経緯は別表一記載のとおりである。

2 本件各更正には、原告の分離短期譲渡所得の金額を過大に認定した違法があり、したがつて、本件決定も一部違法であるから、本件各処分の取消しを求める。

二 請求原因事実に対する認否

請求原因1は認め、2は争う。

三 被告の主張

1 原告の昭和五三年分及び昭和五四年分各所得のうちの総所得金額について

原告の昭和五三年及び昭和五四年(以下「本件係争各年」という。)の分の各所得金額のうちの総所得金額は、次のとおりである。

昭和五三年分 二三六万一八七四円

昭和五四年分 三八一万五九六五円

2 原告の本件係争各年分の分離短期譲渡所得について

(一) 昭和五三年分

昭和五三年分の分離短期譲渡所得の金額は、次表のとおり二四六九万五五二六円である。

(単位 円)

番号

項目

金額

摘要

(1)

収入金額

四八、〇〇〇、〇〇〇

(2)

取得費

一八、八二三、三〇二

(3)

譲渡費用

四、四八一、一七二

(4)

分離短期譲渡所得金額

二四、六九五、五二六

(1)-((2)+(3))

右表の各項目の算定根拠は、以下のとおりである。

(1) 収入金額 四八〇〇万円

原告は、その所有の東京都世田谷区上馬五丁目三〇番四所在宅地四七二・六二平方メートル(以下「本件土地」と

原告は、その所有の東京都世田谷区上馬五丁目三〇番四所在宅地四七二・六二平方メートル(以下「本件土地」という。)及び同地上にある鉄筋コンクリート造陸屋根地階付き二階建家屋一九五・八一平方メートル(以下「本件建物」といい、これと本件土地とをあわせて「本件土地等」という。)を居住の用に供していたが、昭和五三年一月七日本件土地の一部一九八・三五平方メートル(以下「甲土地」という。)を同所三〇番二六として分筆し、また、本件建物のうち甲土地上にある部分二五平方メートル(以下「甲建物」という。)を取り壊して甲土地を更地としたうえ、同月三一日これを山中政秀ほか一名に譲渡した。右収入金額はその譲渡代金である。

なお、原告は、昭和五四年八月二二日本件土地のうち、甲土地を除くその余の部分二七四・二七平方メートル(以下「乙土地」という。)及び本件建物のうち乙土地上にある部分一七〇・八一平方メートル(以下「乙建物」といい、これと乙土地とをあわせて「乙土地等」という。)を三宝建設株式会社に一億〇七八四万八〇〇〇円で譲渡した。

(2) 取得費 一八八二万三三〇二円

右は、甲土地の取得費である。原告は後記のとおり本件土地を本件建物と一括して購入しており、それぞれの購入価額が区分されていなかつたので、まず次のアにより本件土地等の取得費の合計を計算し、これを基にイにおいて甲土地の取得費を算出した。

ア 本件土地等の取得費

本件土地等の取得費及びその内訳は次表のとおりである。

(単位 円)

番号

項目

総額

本件土地

本件建物

<1>

購入価額

五一、〇九八、一二五

四二、九八八、八五三

八、一〇九、二七二

<2>

仲介手数料

一、〇〇〇、〇〇〇

八四一、三〇〇

一五八、七〇〇

<3>

本件建物の改築費

二、一八二、三三〇

二、一八二、三三〇

<4>

借入金利子

三八五、六四三

三二四、四四一

六一、二〇二

<5>

抵当権設定に係る登録免許税

一二〇、〇〇〇

一〇〇、九五六

一九、〇四四

<6>

所有権移転費用

八〇八、三二〇

五九五、八二〇

二一二、五〇〇

<7>

へい設置費

一二二、三九五

一二二、三九五

<8>

取得費合計

五五、七一六、八一三

四四、九七三、七六五

一〇、七四三、〇四八

右表の各項目の内容及びその金額を本件土地と本件建物とへ配分した根拠は以下のとおりである。

<1> 購入価額

原告は、昭和四六年四月一六日本件土地等を上田フサノから一括して五一〇九万八一二五円で購入しているので、右購入価額を本件土地と本件建物とに配分するため、相続税及び贈与税の課税価格計算の基礎となる財産の評価方法について国税庁長官が定めた「相続税財産評価に関する基本通達」(昭和三九年四月二五日付け直資五六号によるもの。)により本件土地等の昭和四六年分の相続税評価額を算定すると本件土地が二二一五万六一三九円、本件建物が四一八万〇七〇〇円となり、右各金額の構成比率(以下「本件土地等の構成比率」という。)は、本件土地が〇・八四一三、本件建物が〇・一五八七となる。

そこで、本件土地等の購入価額五一〇九万八一二五円を本件土地等の構成比率により、次のとおり本件土地と本件建物とに按分した。

a 本件土地の購入価額 四二九八万八八五三円

(算式)

51,098,125円×0.8413 = 42,988,853円

b 本件建物の購入価額 八一〇万九二七二円

(算式)

51,098,125円-42,988,853円 = 8,109,272円

<2> 仲介手数料

原告が本件土地等を取得する際支払つた仲介手数料の額は一〇〇万円であるので、右金額を次のとおり本件土地等の構成比率によつて本件土地と本件建物とに按分した。

a 本件土地に係る仲介手数料 八四万一三〇〇円

(算式)

1,000,000円×0.8413 = 841,300円

b 本件建物に係る仲介手数料 一五万八七〇〇円

(算式)

1,000,000円-841,300円 = 158,700円

<3> 本件建物の改築費

原告は、本件建物を取得後居住の用に供するため改築し、その際二一八万二三三〇円を支払つたので、右金額を本件建物の取得費に算入した。

<4> 借入金利子

原告は、本件土地等の取得のために昭和四六年四月一七日当時の日本不動産銀行(現在は日本債券信用銀行。)から三五〇〇万円を年利率九・二パーセントで借り入れたが、右金額のうち本件土地等の取得のために使用したのは三〇〇〇万円である。また、原告が本件土地等を居住の用に供したのは昭和四六年六月六日である。

したがつて、本件土地等の取得費に算入する借入金利子の額は、右三五〇〇万円のうち三〇〇〇万円について、右借入れの日から原告が本件土地等を居住の用に供した日までの期間(五一日間)に対応する金額であつて、その額は、次の算式のとおり三八万五六四三円となる。

(算式)

30,000,000×0.092×51日/365日 = 385,643円

そこで、右三八万五六四三円を本件土地等の構成比率によつて次のとおり本件土地及び本件建物に按分した。

a 本件土地に係る借入金利子 三二万四四四一円

(算式)

385,643円×0.8413 = 324,441円

b 本件建物に係る借入金利子 六万一二〇二円

(算式)

385,643円-324,441円 = 61,202円

<5> 抵当権設定に係る登録免許税の額

原告は前記日本不動産銀行からの三五〇〇万円の借入れのため、昭和四六年四月一六日同銀行を抵当権者として債権額三五〇〇万円の抵当権を本件土地等に設定し、その際、登録免許税一四万円を支払つた。右借入金のうち三〇〇〇万円が本件土地等の取得に充てられたので、右免許税額のうち本件土地等の取得費に算入する分は、次の算式によつて求めた一二万円である。

(算式)

140,000円×30,000,000円/35,000,000円 = 120,000円

そこで右金額を本件土地等の構成比率によつて、次のとおり本件土地と本件建物とに按分した。

a 本件土地分 一〇万〇九五六円

(算式)

120,000円×0.8413 = 100,956円

b 本件建物分 一万九〇四四円

(算式)

120,000円-100,956円 = 19,044円

<6> 所有権移転費用

原告は、本件土地等の原告への所有権移転の登記手続を経由した際、登録免許税及び附帯費用として、八〇万八三二〇円を支払つた。そのうち本件土地分は五九万五八二〇円、本件建物分は二一万二五〇〇円である。

<7> へい設置費

原告は、昭和五三年に乙土地と隣接地との境界にへいを設置し、その費用として一二万二三九五円を支払つたので、右金額を本件土地のうち乙土地の取得費に算入した。

イ 甲土地の取得費 一八八二万三三〇二円

前記アのとおり本件土地の取得費は四四九七万三七六五円であるところ、右金額には、乙土地の取得費である前記アの<7>のへいの設置費の額一二万二三九五円が含まれているので、これを控除した四四八五万一三七〇円に、本件土地の地積四七二・六二平方メートルに占める甲土地の地積一九八・三五平方メートルの割合を乗じて次のとおり甲土地の取得費を算定した。

(算式)

44,851,370円×198.35m2/472.62m2= 18,823,302円

(3) 譲渡費用 四四八万一一七二円

甲土地の譲渡に要した費用の額及びその内訳は次表のとおりである。

(単位 円)

番号

項目

金額

摘要

<1>

仲介手数料

一、四四〇、〇〇〇

<2>

登記手数料

二七、六〇〇

<3>

分筆測量費

一一九、〇〇〇

<4>

建物取壊し整地費

一、六二六、六五〇

<5>

建物除却損

一、二六七、九二二

<6>

譲渡費用合計

四、四八一、一七二

<1>+<2>+<3>+<4>+<5>

右表の各項目の金額の算定根拠は次のとおりである。

ア 「仲介手数料」、「登記手数料」、「分筆測量費」、及び「建物取壊し整地費」の各金額は、原告の申告額をいずれも認めたものである。

イ 「建物除却損」の金額は、原告が甲土地の譲渡のためにした甲建物の取壊しに要した費用で、これは、甲土地の譲渡費用と認めるべきである。この金額一二六万七九二二円は、次のaの減価の額控除前の取得費一三七万一六一六円から、bの甲建物の減価の額一〇万三六九四円を控除した金額である(所得税法三八条二項二号)。

a 減価の額控除前の取得費 一三七万一六一六円

前記(1)のとおり本件建物の床面積は一九五・八一平方メートルであり、甲建物の床面積は二五平方メートルであるので、前記(2)のアの<1>ないし<6>において算定した本件建物の取得費一〇七四万三〇四八円に右の面積割合を乗じて算定した。

(算式)

10,743,048円×25.00m2/195.81m2= 1,371,616円

b 減価の額 一〇万三六九四円

「減価の額」の金額は、その資産と同種の減価償却資産の耐用年数に一・五を乗じた年数をその資産の耐用年数として、定額法に準じて計算した金額に、その資産の取得の日から譲渡(甲建物については取壊し)の日までの年数を乗じて計算した金額である(所得税法施行令八五条)。

鉄筋コンクリート造住宅用である本件建物の「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」(以下「耐用年数等省令」という。)別表第一(昭和五四年大蔵省令一六号による改正前のもの)に定める耐用年数は六〇年であり、原告は本件建物を昭和四六年四月に取得し、昭和五三年一月にその一部である甲建物を取り壊したから、取得から取壊しまでの期間は七年(六月以上の端数は一年とする。)である。

したがつて、甲建物の減価の額は、次の算式のとおり一〇万三六九四円となる。

(算式)

1,371,616円×(残存割合)(1-0.1)×(償却率)0.012×7年 = 103,694円

なお、右の償却率〇・〇一二は、本件建物の耐用年数六〇年に一・五を乗じた年数九〇年に対応する償却率として耐用年数等省令別表第一〇に掲げられている数値、残存割合は、同省令第五条及び別表第一一に掲げられている数値である。

(二) 昭和五四年分

昭和五四年分の分離短期譲渡所得の金額は、次表のとおり四〇九二万九七九七円である。

(単位 円)

番号

項目

金額

摘要

(1)

収入金額

一〇七、八四八、〇〇〇

(2)

取得費

三四、七一二、二〇三

(3)

譲渡費用

二、二〇六、〇〇〇

(4)

特別控除費

三〇、〇〇〇、〇〇〇

(5)

分離短期譲渡所得金額

四〇、九二九、七九七

(1)-((2)+(3)+(4))

右表の各項目の算定根拠は以下のとおりである。

(1) 収入金額 一億〇七八四万八〇〇〇円

原告は、前記(一)(1)なお書きに記載のとおり昭和五四年八月二二日乙土地及び乙建物を三宝建設株式会社に一億〇七八四万八〇〇〇円で譲渡した。右収入金額はその譲渡代金である。

(2) 取得費 三四七一万二二〇三円

右は、次のアの乙土地の取得費二六一五万〇四六三円とイの乙建物の取得費八五六万一七四〇円との合計額である。

ア 乙土地の取得費 二六一五万〇四六三円

前記(一)の(2)のとおり本件土地の取得費は四四九七万三七六五円であり、甲土地の取得費は一八八二万三三〇二円であるから、前者から後者を控除した二六一五万〇四六三円が乙土地の取得費である。

イ 乙建物の取得費 八五六万一七四〇円

右は、次のaの乙建物の減価の額控除前の取得費九三七万一四三二円からbの乙建物の、取得の時から譲渡の時までの期間に係る減価の額八〇万九六九二円を控除した額である。

a 減価の額控除前の取得費 九三七万一四三二円

右は、前記(一)(2)アの本件建物の取得費一〇七四万三〇四八円から、前記(一)(3)イの甲建物の減価の額控除前の取得費一三七万一六一六円を控除した額である。

b 減価の額 八〇万九六九二円

乙建物の減価の額控除前の取得費が前記のとおり九三七万一四三二円であり、乙建物を原告が取得した昭和四六年四月からこれを譲渡した昭和五四年八月までの期間は八年(六か月未満の端数は切捨て、所得税法施行令八五条二項二号)であるから、乙建物の右期間に係る減価の額は、前記(一)(3)イbの甲建物に係る減価の額の計算の場合と同様に計算すると次の算式のとおり八〇万九六九二円となる。

(算式)

9,371,432円×(1-0.1)×0.012×8年 = 809,692円

(3) 譲渡費用 二二〇万六〇〇〇円

乙土地等の譲渡に要した費用の額は、原告の申告に係る仲介手数料の額二一五万六〇〇〇円と乙土地等の譲渡に係る売買契約書に貼付した印紙代五万円との合計額である。

(4) 特別控除額 三〇〇〇万円

原告は乙土地等を居住の用に供していたので、租税特別措置法三五条の規定による特別控除額三〇〇〇万円を控除した。

3 借入金利子について

(一) 被告は、本件資産の購入に伴う借入金利子については、前記のとおり右資産の使用開始の日までの期間に対応する部分しか取得金に算入しなかつたが、これは昭和四五年七月一日付国税庁長官通達直審(所)三〇「所得税基本通達」三八―八(昭和五四年一〇月二六日付国税庁長官通達直資三―八「所得税基本通達の一部改正(譲渡所得関係)について」による改正後のもの。以下「取扱通達」という。)における「固定資産の取得のために借り入れた資金の利子のうち、当該固定資産の使用開始の日(当該固定資産の取得後、当該固定資産を使用しないで譲渡した場合には、譲渡の日)までの期間に対応する部分の金額は、・・・・取得費又は取得価額に算入する」との定めに従つたものであつて、右取扱通達は、借入金をもつて取得した固定資産の使用開始前の借入金利子に係る法人税の取扱いとのバランスを図つている個人の業務用資産の取扱い(所得税基本通達三七―二七)と個人の非業務用資産についての取扱いとの権衡を図る意図のもとに非業務用の固定資産についても当該固定資産の使用開始の日までの期間に対応する部分の借入金の利子を取得費に算入する取扱いをするものであり、また、「使用開始の日」についても、これは、社会通念上その資産を本来の用途に従つて使用をなし得る状態に至つた日、すなわち前記資産をその取得目的に供する時を意味するものということができるものであつて、次のとおり、所得税法三八条一項の規定の趣旨に適合するものなのである。

(二) すなわち同条一項に規定する「資産の取得に要した金額」については、その範囲等を定めた具体的な規定はないから、ある金額(本件の場合は借入金利子の金額)が、右「資産の取得に要した金額」に含まれるか否かは、結局のところ一般に公正妥当と認められる会計原則、社会の取引実情、当該金額の性質、支出目的等を総合して判断すべきである。

本来会計学上取得原価とは、購入代価と付随費用の合計額をいうもので、ここに購入代価とは、資産の売買に当たつて売主が受け取る当該資産の代金であり、付随費用とは例えば当該資産の購入に係る引取運賃、荷役費、運送保険料等であり、当該資産が機械などである場合には据付費用、不動産などであれば登記費用、登録税などがこれにあたり、要するに資産をその取得目的に応ずる用に供するまでに必要な一切の費用と観念されている。

一方租税実体法上、取得価額に関する規定としては、例えば所得税法施行令一二六条の減価償却資産の取得価額に関する規定がある。同令一二六条一項一号の規定によれば、購入した減価償却資産の取得価額は、「イ当該資産の購入の代価(引取運賃、荷役費、運送保険料、購入手数料、関税その他当該資産の購入のために要した費用がある場合には、その費用の額を加算した金額)、ロ当該資産を業務の用に供するために直接要した費用の額」とされているのである。

この規定は、直接には減価償却資産に関する規定ではあるが、減価償却資産とともに同じく固定資産とされる非減価償却資産たる土地(所得税法二条一項一八号)の取得価額についても、同様に解して妨げないのである。

しかして、「資産の取得に要した金額」のうち購入代価を除く付随費用の範囲は、一般の取引実状から当該費用が資産の取得目的達成に合理的な必要性があるか、また当該資産の取得との間に実質的に関連性を有するか(取得目的との関係でその目的達成までに生ずる費用か)という基準により画するのが相当である。

してみると、資産の取得資金を賄う借入金は、資産取得のための資金調達手段であり、一般の取引実状から当該資産の取得目的達成との間に合理的必要性が認められ、また借入金利子は、資産の取得に伴つて生ずる費用であり、その目的達成までに生ずる借入金利子は当該資産の取得との間に実質的関連性が認められるから、「資産の取得に要した金額」に当たり、当該資産の取得費に算入することができるものと解されるのである。

そもそも譲渡所得の基因となつた資産は、一定の目的をもつて取得されたものである(取得目的は、取得後における当該資産の利用・処分状況から客観的に判断される。)。自ら利用する目的で取得する場合もあれば第三者に譲渡する目的で取得する場合もある。前者は取得した者が例えば居住するなどして当該資産を利用したことにより、後者は当該資産を第三者に譲渡したことにより、それぞれ取得目的が達成されたことになる。このような意味において、借入金利子のうち当該資産の取得目的達成に至るまでの期間に対応する金額は、取得との間に実質的関連性を有するものと認めることができるから、この限度で借入金利子の金額を取得費に算入するのが相当なのである。

(三) ある資産の取得価額は、本来資産の「使用」、「未使用」に関係なく客観的に決まつていなければならない。しかしながら、借入金利子は、時の経過に伴い債務が発生し確定していくものであり、右(二)のとおり取得目的達成までに発生したものは、取得目的との間に合理的必要性及び実質的関連性が認められるから取得費に算入することができるが、他方、取得した資産を一旦居住用等として使用開始すれば、その取得目的は達成されたこととなり、使用開始(取得目的達成)後に発生する借入金利子は、当該資産の保有に伴う費用であつて、その取得目的とは合理的必要性及び実質的関連性を有せず、取得費には算入されないのである。同法施行令一二六条及び会計学上の理論に照らしてみても使用開始後の保有に伴う費用は、取得価額(取得原価)を構成しないのである。

また、使用開始後の居住用資産からは自己使用による帰属所得(ないし使用の利益)が生じ、土地については帰属地代、建物については帰属家賃(他から借りたとした場合の支払地代・家賃に相当する利益)が生ずるところ、帰属所得も理論上所得であり、帰属所得に対応する使用開始後の借入金利子は、取得に要した金額とはいえず、当該資産の保有に伴う維持管理費とみるべきであり、譲渡所得の課税上所得を減額する要素たり得ないのである。

そして、譲渡所得に対する課税の趣旨が清算課税であり、取得費控除の趣旨が投下資本の回収部分を課税対象から除外することにあると考えると、使用開始前の借入金利子は譲渡所得によつて、使用開始後の借入金利子は帰属所得によつてそれぞれ回収されるものと解される。

したがつて、使用開始前の借入金利子は取得費を構成するが、使用開始後の借入金利子は取得費を構成するものではないのである。

(四) 原告は、当該資産を現実に使用したか否かにかかわらず、当該資産の取得のために要した借入金利子の全部を控除すべきであり、また、住宅ローン等借入金によらず手持資金で不動産を取得することができる者と借入れをしなければ不動産を取得できない者との担税力を比較しても借入金利子の全部を取得費として取り扱うことが極めて衡平かつ合理的であると主張するようである。

しかしながら、使用開始後にかかる借入金利子は取得費に算入されないことは前述のとおりであり、また、当該資産を手持資金で取得した場合、取得者は一方で右資金の運用による得べかりし経済上の予測利子相当額を失うわけであるが、右損失は譲渡所得の算定上何ら考慮されていない。したがつて、借入金によつて資産を取得したか、手持資金によつて資産を取得したか否かで譲渡所得における租税負担の衡平性を論ずることはできないのであつて、前述のとおり「資産の取得に要した金額」をいかに解するかという問題に帰属するのである。

なお、借入金利子は元本の返済により逓減し、資金運用による予測利子相当額は利子の元本組入れにより逓増することから、同一期間内では両者の間に看過できない程度の金額上の差はない。

(五) 以上述べたとおり譲渡所得の取得費について、借入金によつて取得した資産の使用開始前の借入金利子は、取得目的との間に合理的必要性及び実質的関連性が認められ取得費に算入されるが、使用開始後の借入金利子は、自己使用の帰属所得(ないし使用の利益)に対応する当該資産を保有するための維持管理費であり、当該資産を取得するという目的との間には合理的必要性及び実質的関連性はないから、取得費とはならないのである。

(六) 右に述べたところから、被告は、本件土地等の取得時以降に原告が支払つた借入金利子につき、そのうち使用開始の日(昭和四六年六月六日であつて、原告の入居の日である。)の翌日以降の期間に対応する借入金利子の取得費算入を否認したものであり、本件係争各年分の原告の右の分離短期譲渡所得金額は、本件各更正における分離短期譲渡所得の認定金額を上まわるから、本件各更正は適法である。

4 本件決定の適法性について

右のとおり五四年分再更正に違法の点はなく、かつ、原告が右年分の分離短期譲渡所得の金額を過少に申告したことについて国税通則法六五条二項に規定する正当な理由はないので、本件決定は適法である。

四 被告主張事実に対する原告の認否及び主張

1 被告主張事実はすべて認めるが、その所得の計算のうち、本件土地等の購入のために借り入れた三五〇〇万円のうち三〇〇〇万円について支払つた借入金利子を、原告が本件土地等の居住の用に供した日までの期間に対応する分のみ本件土地等の取得費に算入した計算方法は争い、これによつて算出された取得費及び分離短期譲渡所得金額は否認し、これに基づく過少申告加算税額の計算も争い、同税額は四五万八六〇〇円を超える部分につき否認する。

2(一) 原告は、本件土地等を購入するために借り入れた三〇〇〇万円について支払つた借入金利子は、その全額を取得費に算入すべきであると主張する。

すなわち、当該資産を交換取得する場合に反対給付物を他から入手するのに要した相当額の対価支払は、交換取得との間に相当因果関係があるとして、右対価を「取得に要した金額」に含めるべきものと解するのが相当であると同様に、有償取得の通常手段である買受代金支払に引き当てるべき金額を入手するための相当額の支出もまた資産取得との間に相当因果関係が認められるところ、右金額を他から借り入れた場合に支払われる相当額の借入金利子は正に右金額獲得の対価としての支出金額と見ることができるから、これを当該資産の「取得に要した金額」に含めるべきものと解してなんら不合理はない。

資産取得の為の出費が右取得との間に相当因果関係をもつといえるか否かは、当該取得のための支出の必要性の度合を考量し、かつ、その出費額を取得金額から控除することが当該租税負担の合理性、衡平性の観点から相当であるか否かを考慮して決せられるべきことからであつて、取得と出費との間に直接因果関係の存する場合に限定しなければならない理由は見出し難い。手持資金によつて資産が取得される場合との対比を考えれば、借り入れた資金による取得の場合の借入金利子支払額は、その借入れ及び利子支払が必要相当であつたと認められるかぎり、「取得に要した金額」として課税所得から控除することが租税負担の衡平性のうえから妥当であり合理的であるといわなければならない。

(二) 譲渡所得に対する課税の本質は、資産の保有期間中の値上り益に対する清算課税であり、保有期間中の資産使用による収益の有無を考慮に入れる制度ではないから、譲渡所得の控除費目としての取得費に当るか否かを定めるにあたつて使用収益の有無を考慮に入れることは筋ちがいのことといわなければならない。したがつて、使用開始以後は当該資産の取得による利益を受けているからそれ以後継続的に発生する借入金利子は資産の使用によつて生ずる収益に対応する費用としてその収益にかかる所得の計算上控除されるべきものであるから「取得に要した金額」とはいえないと説明することは当を得ない。譲渡所得以外の各種所得の金額の計算上、費用収益対応の考え方から当期支払分の借入金利子相当額を当期の必要経費に算入できるとされていることを理由として、譲渡所得の場合の借入金利子の取得費性を否定し、これを資産の維持費ないし維持管理費と見るのは、この場合の借入金利子支払が借入金自体に対する対価支払としての本質を有するものであることを忘れた議論といわなければならない。

非業務用資産の取得費については、家事関連費との区別、特定に問題があるから、課税上もこの点に考慮を払う必要があるけれども、そのことの故に「取得に要した金額」として相当因果関係の認められる支出について取得費性を否定しなければならない理由はないし、非業務用資産の取得費の成否がその使用開始の前後で左右されなければならない理由も見出し得ない。

(三) 被告は、使用開始のときまでの期日に対応する利息のみを取得費に算入できるとする根拠として、会計学上の取得原価は、資産をその取得目的に応ずる用に供するまでに必要な一切の費用であると観念されていることをあげている。さらに、所得税法施行令一二六条一項一号も右会計学でいう取得原価についての租税実体法的表現と認められるし、租税実体法においても特別事情のない限り資産の取得価額とは資産をその取得目的に応ずる用に供するまでに必要な一切の費用と解されるとしている。

会計学上の取得原価は、文字上は被告の主張のとおりであり、原告も同じ考えである。しかし、被告はその意味を曲解している。文字の上では「その取得目的に応ずる用に供するまでに必要な一切の費用」であるが、ここで………「までに必要な」………というのは時間的な区切りを指しているのではない。取得目的を達成するために必要な費用、つまり、相当因果関係を有する費用に区切る趣旨である。このことは、登記費用の支出が時間的に取得目的に応ずる用に供した後であつても取得原価に加えられることに疑問が無いことによつても明らかである。ところが、被告は、………「までに必要な」………という文字を時間的な区切りを指すかのように解していると思われる。なぜなら、被告は、借入金利子は、その借入金をもつて取得した資産を取得目的に供するまでに生じた分をもつて、法三八条一項にいう「取得に要した金額」に含めると解するのが相当とし、その理由として、資産の取得資金の全部または一部を他から借り入れて調達するという昨今の取引実情の考慮と、右会計学上の定めおよび令一二六条一項一号の租税実体法の規定を鑑みたことをあげている。

このうち、昨今の取引実情の考慮は結論に結びつかないので、会計学上の取得原価のとらえ方以外には理由が示されていないからである。したがつて、「取得に要した金額」についての被告の右解釈は、曲解に基づくものか、または、全く理由を示していないかのいずれかである。

(四) また、被告は、法三八条一項の「取得に要した金額」についての右解釈の理由として、資産は一定の目的のもとに取得され、その目的は客観的に判断されるところ、居住または譲渡により目的が達成されたことになるから、このような意味で目的達成までの利子は取得との間に実質的関連性を有すると認めることができ、この限度で取得費に算入するのが相当であると主張する。

たしかに、取得した資産を第三者に譲渡した場合には、その資産の取得のための借入金利子は、譲渡のときまでの期間に対する分のみが取得費に算入されるべきである。しかしその理由は、資産の取得目的を達成したからではない。譲渡により取得費は回収され、借入金も返済され、利息が生じなくなるのが通常だから、譲渡後の利子は相当因果関係を認め難いことによるのである。

目的の達成如何が取得費算入の是非を決するとするのは誤りである。

(五) 資産の譲渡に至る態様としては、取得後何らかの利用に供した後譲渡する場合と取得後何らの利用に供しないままに譲渡する場合がある。

被告は、借入金の利子について、後者の場合すなわち全く利用しないときは、譲渡までの利子が取得費となるが、前者の場合は利用に供した時から譲渡までの利子は取得費にならないとする。

そして、このように区別する根拠として「目的の達成」ということを主張する。「目的の達成」ということを持ち出す理由は、目的の達成に必要なものだけが取得費に含められることにあるとする。そして「目的」とは「譲渡」とか「居住の用に供する」とか「駐車場として利用する」とかであり、そのいずれにあたるかの判断は客観的に決せられるとする。

原告は、取得費に含まれるか否かを区別するために、目的達成の為に必要な手段か否かで判断することについては、争わない。

しかし、ここでいう「目的」とは「取得」すなわち「所有権の取得」自体でなければならない。取得した資産をどのように扱うか、すなわち、他に譲渡するか賃貸するか自用に供するか等々は、「取得」の手段にあたるか否かの判断に影響を及ぼさないはずである。取得後どのように扱う予定であろうが、所有権の取得に必要なものは「取得費」に含まれるのであり、所有権の取得に心要でないものは「取得費」に含まれないはずである。

被告の説明では、いつのまにか「目的」が「取得」から「譲渡」や「居住の用」にすり替えられている。そして、「譲渡」とか「その他の利用」とかの「目的」が何故取得費にあたるか否かを判断する基準になるのかについては、説明していない。

目的を認定する必要があれば、それは客観的に判定せざるを得ない。しかし、借入金利子が取得費にあたるかどうかについて判断する場合、そもそも「譲渡」とか「居住の用」とかの取得目的で区別すべき理由はない。

被告のいう取得目的は、取得の際確定しているものでもないし、譲渡のときまで一定しているものでもないし、さらに譲渡か利用かの二者択一のものでもない。他に譲渡して転売益を得る意図のもとに取得した資産を、譲渡までの維持、管理の必要上一時的に使用することは、よく行われることである。

このような場合をも、現に使用された用途に使用する「目的」で取得したと認定することに、どれだけの正当性があるのか。現に原告は、本件譲渡所得発生の起因となる資産の取得のために、取得資金を借り入れ、その借入条件は、日歩〇・〇二五二パーセントの利息を支払い、元金は一年据置後三カ月毎に八五万円返済し、六年間で完済することとなつていた。しかも、譲渡所得以外の年収は、昭和五三年分二三〇万円余、昭和五四年分が三八〇万円余だつたのである。

このような取得の経緯を客観的にみれば原告はそれを居住用として長期間利用する意図では無く、むしろ転売益を得る意図であつたと認めるべきである。原告が、本件建物に居住したのは、建物の管理、保全のために自ら居住することが最善の方法だつたからである。被告は、転売目的で取得する以上転売の時まではその物に居住することなど無いと考えているが、このような前提は社会の実情を全く無視しているというべきである。

3 原告は、本件土地等の取得のために日本不動産銀行から借り入れた三五〇〇万円のうち三〇〇〇万円のみを本件土地等の代金に充当した。しかるところ原告は、右三五〇〇万円の借入金につき昭和四六年四月一七日から昭和五四年八月一六日元金を完済するまでの間に少くとも合計一九九六万一二七八円の利息を支払つたので、そのうち三〇〇〇万円に対応する分一七一〇万九六六六円は短期分離譲渡所得の計算上取得費に算入すべきである。

(算式)

19,961,278×30,000,000/350,000,000 = 17,109,666

右のうち本件土地に係る分は一四三九万四三六二円、本件建物に係る分は二七一万五三〇四円となる。

(算式)

17,109,666×0.8413 = 14,394,362

17,109,666-14,394,362 = 2,715,304

右の本件土地に係る一四三九万四三六二円のうち甲土地の譲渡の日である昭和五三年一月三一日までに支払われた分は、甲、乙両土地の分として面積の割合に基づき按分し、その余の利子は乙土地の分と考えられる。

そうすると、三五〇〇万円に対する昭和五三年一月三一日までの利子は一七七三万一〇三五円であり、その余は二二三万〇二四三円であるから、按分比は前者が〇・八八八二七一五三、後者が〇・一一一七二八四七となる。

以上により甲土地分は五三六万六〇九四円、乙土地分は九〇二万八二六八円となる。

(算式)

(甲土地)14,394,362×0.88827153×198.35m2/472.62m2= 5,366,094

(乙土地)14,394,362-5,366,094 = 9,028,268

また甲建物分(減価前)は三〇万七九四二円、乙建物分(減価前)は二四〇万七三六二円となる。

(算式)

(甲建物)2,715,304×0.88827153×25m2/195.81m2= 307,942

(乙建物)2,715,304-307,942 = 2,407,362

以上の計算結果によつて原告の本件係争各年分の分離短期譲渡所得を計算すると、別表二(一)(二)記載のとおり、昭和五三年分が一九二九万四六二三円となり、昭和五四年分が二九九三万九二一八円となるから、本件各更正のうち右の額を上まわる分はいずれも違法である。

4 右によつて計算された昭和五四年分の分離短期譲渡所得金額をもとに同年分の過少申告加算税額を計算すると、別表三のとおり四五万八六〇〇円となる。よつて、本件決定のうち右額を上まわる分は違法である。

五 原告主張事実に対する被告の認否

原告主張3の事実は認めるが、一七一〇万九六六六円全額を取得費に算入すべきであるとの主張及びこれに基づく計算は争い、その結果算出された分離短期譲渡所得額、過少申告加算税額はいずれも否認する。

第三証拠<省略>

理由

一 本件の争点について

本件土地等の譲渡所得を計算するにつき、これを購入するために借り入れた金員の利子として支払つた金員のうち、原告が右土地等に居住するようになつた日である昭和四六年六月六日の翌日から本件土地等を譲渡し借入金を返済した日である昭和五四年八月一六日までの分を、所得税法八三条一項の「資産の取得に要した金額」ではないとして控除しなかつた被告の取扱いが適法であるか否かが本件の争点であり、右の点を除けば本件各更正が適法であることについて当事者間に争いがなく、また、事実関係もすべて争いがないから、以下右取扱いの適否について判断する。

二 借入金利子を取得費としうる範囲について

資産の価額に見合う資金を有しない者が資金を借り入れて資産を購入した場合においては、資金の借入れは、これがあつて初めて資産の購入が可能となつたものとして、資産の取得に必要不可欠なことであつたのであるから、その借入れをするについて必要であつた費用は、資産の取得に要した金額としての性質を有するというべきである。借入金利子は、右の借入れをするについて必要であつた費用といいうるから、これを資産の取得に要した金額でないということはできない。

もつとも、借入金利子が資金借入れの費用であるといつても、資金借入れの時点には、借入金利子は、将来これを支払うという約束があるにとどまり、これがその個々の支払期限に支払われるかどうかは不明である。そして、資産が取得された時には、利子の大部分は支払われていないが、それにもかかわらずとにかく資産の取得そのものはされたのであるから、その後に支払われる借入金利子は、取得のための費用とはいえないという考え方もありうる。しかしながら、借入金利子の支払約束は、法律上強制履行の可能な債務を発生させるものであり、資金の貸出しは、このような債務が当然支払われるとの信頼の上にたつてされるものであるし、資金を借り入れる側においても、利子を約束どおり支払つて信用を維持していくからこそ借入れによつて資金を取得できたものと考えている関係にあるから、借入れによる資金の取得したがつて資産の取得について、その後の借入金利子の支払が必要なものでないとか、関連性がないとかいうことはできず、借入金利子の支払が、資産の取得のために必要な費用の支払という面をもつことは否定し得ないものというべきである。

しかしながら、現に支払われた個々の借入金利子は、当該資産の譲渡の時点においてこれをみれば、当初の購入資金の借入れを可能とした利子支払約束の履行というにとどまらず、一定期間資金を借り続けることの対価という性質をも有するというべきである(借入期間が長ければ長い程、支払われる借入金利子の総額も多くなるという関係にあることが、そのことを端的に示している。)。そして、借入金によつて購入された資産について右の関係をみれば、借入金利子は、本来当該資産を保有する資金力のない者が、一定期間当該資産を保有することを可能にするための対価(費用)であるということになる。この場合無目的の資産保有ということはありえず、資産の保有は何らかの経済的目的をもつてするものであるから、借入金利子の支払は、その目的のための費用という性質を有することとなる。ところで、資産を保有する目的としては、値上りを待つて転売し利益を得る目的(交換価値支配の目的)又は居住し賃貸するなどして現に利用する目的(使用価値支配の目的)のいずれか又は双方がありうる。

譲渡所得課税は、いうまでもなく、資産の保有期間中の値上りによる所得について、その譲渡の際に清算して課税するものであり、資産の保有期間中これを使用する利益を考慮に入れるものではないところ、資産を保有する前記の目的のうち、交換価値を支配する目的のための借入金利子の支払は、当該資産の交換価値を支配すること及びその支配を一定期間継続することを可能とさせ、その結果、当該期間内における資産の値上りによる所得をもたらしたものとして、譲渡所得の計算上これを「取得に要した費用」と解することが可能であると考えられるが、使用価値を現に支配する目的のための借入金利子の支払は、資産の値上りとは何ら関連性を有しないから、譲渡所得の計算において費用として控除しえないというべきである(この分は、仮に資産の自らによる使用の利益(いわゆる帰属所得)に課税される制度がとられるとすれば、その所得についての費用として控除されることとなるものというべきである。)。そうすると、借入金利子を取得費として控除するためには、そのうちから使用価値を支配するための費用である分を除外しなければならないこととなる。そして、資産の使用価値を現に支配するための費用である分とは、結局、当該資産を現に居住等の用に供した期間について、右期間内右資産の使用価値支配を維持することを可能とした借入金利子の分であるということになるから、借入金利子のうち右期間に対応する分が右費用である分となるというべきである。したがつて、借入金利子を取得費として控除するには、そのうちから当該資産を現に居住等の用に供した期間の分の借入金利子の金額を差し引かなければならないものというべきである。

以上によれば、資産の取得のために借り入れた資金の利子として当該資産の譲渡時までに支払われた金員の総額のうち、譲渡所得の計算上取得費とすることができるのは、当該資産を現に居住等の用に供していない期間の分の借入金利子の金額に限られるものといわなければならない。

三 本件における借入金利子の取得費への算入限度について右の見地に立つて本件をみると、原告が、本件土地等の取得に際し、昭和四六年四月一七日三五〇〇万円を、年利率九・二パーセントで借り受け、うち三〇〇〇万円を本件土地等の取得のために使用したこと、原告は本件土地等を昭和四六年六月六日に居住の用に供したこと、本件土地の購入価額は四二九八万八八五三円、本件建物のそれは八一〇万九二七二円と計算されること、原告は昭和五三年一月三一日に甲土地(一九八・三五平方メートル)を、同地上の甲建物(二五平方メートル)を取り壊して四八〇〇万円で譲渡し、本件土地のその余の部分である乙土地(二七四・二七平方メートル)を同地上の乙建物(一七〇・八一平方メートル)と共に昭和五四年八月二二日に一億〇七八四万八〇〇〇円で譲渡したこと、本件建物は鉄筋コンクリート造住宅用であるので、耐用年数等省令上耐用年数は六〇年であること、原告は昭和四六年四月一七日から昭和五四年八月一六日元金を完済するまでの間に少くとも合計一九九六万一二七八円の利息を支払つたことはいずれも当事者間に争いがない。

右事実によれば、原告は、昭和五三年一月三一日に甲土地を四八〇〇万円で譲渡しているのであるから、その時点において四八〇〇万円の資金を手中にしたこととなる。したがつて、原告としては右時点において前記三五〇〇万円の借入金の元金を弁済しえたし、またそうすべきものであつたから、右時点以後残存した借入金はもはや、本件土地等を取得するための費用としての性質を失つたものというべきである。そうすると昭和四六年四月一七日から昭和五三年一月三一日までの間に支払われるべき三五〇〇万円の借入金の支払利子の合計額のうち本件土地等を購入するための資金三〇〇〇万円に対応する部分は、次の算式のとおり一八七五万〇九八六円となる。

(算式)

30,000,000×0.092×(6年+9月/12月+16日/365日)= 18,750,986

右の金員のうち、交換価値を支配するための費用としての借入金利子に対応する部分は、本件土地等を現に使用していない期間に対応する分であるから、右部分は、次の算式により三八万五六四三円となる。

(算式)

30,000,000×0.092×51日/365日 = 385,643

原告は、本件土地等の取得のための資金借入れの条件は、日歩〇・〇二五二パーセントの利息、元金は一年据置後三か月毎に八五万円返済し、六年間で完済することとなつており、譲渡所得以外の年収は、昭和五三年分二三〇万円余、昭和五四年分が三八〇万円余だつたのであるから、かかる事情をみれば、原告は、本件土地等を居住用として長期間利用する意図ではなく、転売益を得る意図であつたと認めるべきであり、原告が本件建物に居住したのは、建物の管理・保全の為に自ら居住することが最善の方法であつたからであると主張する。しかしながら、原告が現に本件建物に居住した以上、その居住した期間に対応する借入金利子の分は、本件土地等の使用価値を支配するための費用である分というべきこと前記のとおりであるから、右の主張はこれを採用することができない。

四 本件係争各年分の分離短期譲渡所得金額について

前項の数値を前提として、被告の主張(一)(2)ア<4>a、b、同(一)(2)イ、(3)イのとおりの計算をすれば、本件土地等の取得費は四四九七万三七六五円、本件建物の取得費は、一〇七四万三〇四八円となり、かつ、甲土地の取得費は一八八二万三三〇二円となる。

また前記の借入金利子の数値を前提として被告の主張(二)(2)ア、イのとおりの計算をすれば乙土地の取得費は二六一五万〇四六三円となり、乙建物の取得費は八五六万一七四〇円となる。

原告の本件係争各年分の各分離短期譲渡所得の各項目の金額のうち右に計算した各金額以外のものについては争いがないから、右に計算した各金額をその余の争いのない金額から減ずれば、原告の昭和五三年分分離短期譲渡所得金額は二四六九万五五二六円と、昭和五四年分分離短期譲渡所得は四〇九二万九七九七円とそれぞれ計算される。

五 本件各処分の適法性について

前項で認定した本件係争各年分の分離短期譲渡所得金額は本件各更正における認定金額を上まわるから、本件各更正には所得を過大に認定した違法はなく、したがつて、五四年分再更正を前提とする本件決定も適法である。

六 結論

よつて、原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

別表一~三<省略>

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