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東京高等裁判所 昭和59年(行コ)66号 判決 1986年2月25日

控訴人(原告) 鈴木政浩

被控訴人(被告) 栃木県中央児童相談所長

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一  控訴代理人は「原判決を取り消す。本件を宇都宮地方裁判所に差し戻す。」との判決を求め、被控訴代理人は主文と同旨の判決を求めた。

第二  当事者双方の主張は、次のとおり補正・追加をするほかは、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

一  (補正)

1  原判決三丁裏七行目の「そして、」から同じく一〇行目の「小野寺が」までを「そして、小野寺から、以後相談所と姿川中学校とが連絡協議して指導してゆく旨、告げられた。その後、控訴人に対しても、母親に対しても、児童相談所からはなんの連絡もなく経過した(ちなみに、控訴人及び母親は、昭和五七年八月三一日、児童相談所を訪れ、同相談所の新井俊課長に面談した際、初めて、控訴人が面接指導という処分を受けていることを知つたのである。)が、小野寺は、再三、姿川中学校を訪れ、控訴人の担当教師らと控訴人の処遇について検討を重ねていた。その結果、控訴人は、昭和五一年九月一日に始まつた二学期には、当初から翌五二年三月までの間、担当教師に命令されて始業時刻よりも一時間以上早い午前七時までに登校し、始業時までの間と授業終了後下校時までの間、校庭の草むしりをさせられ、放火事件の犯人としてさらし者にされた。しかも、控訴人が姿川中学校放火事件の犯人であるということは、当時の同校校長やPTA関係者から口外されたため、同校の生徒・父兄、周辺住民等に広く知れ渡つてしまつたのである。この間、小野寺は、」と改める。

2  同四丁表四行目の「以上により、被告は、原告に対し」を「以上のとおり、被控訴人は、控訴人に対し、姿川中学校の右一連の処置をも構成要素とする(又は少なくとも姿川中学校の処置に影響力を及ぼした)、」と改める。

3  同四丁裏三、四行目の「施設または里親等に入所させ、委託させる措置」を「施設に入所させ、又は里親等に委託する措置」と改める。

二  (追加)

(控訴人)

1 栃木県中央児童相談所(以下「児童相談所」という。)は、姿川中学校放火事件に関連して控訴人に対し、児童福祉法(以下「法」という。)一五条の二の規定に基づく事実行為としての面接指導を行つたが、控訴人が本件において無効確認ないしは取消しを求めているのは、事実行為としての面接指導ではなく、被控訴人が法二六条一項各号に定める措置を行わないまま、事実行為としての面接指導限りで事件を終了させた行為(「面接指導の処分」という。)それ自体でもあるのである。このような被控訴人の面接指導の処分が抗告訴訟の対象となり得る「行政庁の処分」である理由は次のとおりである。

(一) 抗告訴訟の対象となり得る行政庁の処分とは、行政庁がその優越的な地位に基づき公権力の発動として行う行為であつて、国民の権利又は法律上の利益に影響を及ぼすものをいい、<1>公権力の行使として、一方的に命令し、確定し、規律する行為であること、<2>その行為によつて国民の権利が剥奪されたり、義務が創設され、又はそれらの範囲が確定される等既存の権利、状態の変動又は一般的法状態の具体化が直接引き起こされることが要件とされている。

(二) 被控訴人の控訴人に対する面接指導の処分は、それまでに行われた面接指導によつて控訴人の問題性が除去されたという被控訴人の一方的判断に基づき、法二六条一項各号に定める措置と同様の処理方法の一つとして、更なる処分は不要とし、控訴人には更なる措置を採らないまま、事件を終了させたものである。このような処分は、同条同項本文の「必要があると認めたときは、」の反面解釈として行われるものであり、少年事件に対する家庭裁判所の審判不開始ないし不処分と同様の構造を持つものである。したがつて、被控訴人の右処分は、前記<1>の要件を充たすものである。

(三) 控訴人に対する児童相談所の面接指導は、控訴人が触法行為を行つたことを前提として行われたが、被控訴人の前叙面接指導の処分により、控訴人は、触法行為を行つたとの認定判決を受忍・強要されることになつた。したがつて、被控訴人の右処分は、前記<2>の要件をも充たすものである。

(四) なお、被控訴人の控訴人に対する面接指導の処分は、控訴人又はその保護者に通知されないままであつたが、通知がされていないからといつて、面接指導の処分のいわゆる処分性が否定されるべきではない。

2 控訴人は、被控訴人の面接指導の処分により、放火事件の犯人であるというレツテルを貼られ、このことにより、控訴人が、将来、別の刑事事件の責任を問われたり、諸般の生活関係において社会的評価にさらされる場合に、不利益を受けることは確実である。したがつて、被控訴人の右処分による控訴人の法律上の利益に対する侵害は、現存し、継続しているものであり、控訴人は、右処分の無効確認ないしは取消しを求める法律上の利益を有するものである。

3 (処分の違法)

被控訴人の控訴人に対する面接指導の処分は、控訴人につき存在しない触法行為を存在するとの前提に立ち、しかも、控訴人が触法行為を争つているのに、面接指導限りで事件を終結させた点において、また、控訴人に対する適正手続として当然に要請される告知聴聞の手続を経ていない点において、重大かつ明白な瑕疵があるものである。

(被控訴人)

控訴人の右追加主張は、すべて争う。

第三 証拠関係<省略>

理由

一  当裁判所は、当審において新たに提出された諸資料を含む本件全資料を検討した結果、控訴人主張に係る本件面接指導処分なるものの無効確認ないしは取消しを求める控訴人の本件訴えは、いずれも不適法であり、却下を免れないものと判断する。その理由は、次のとおり、補正・追加をするほかは、原判決理由一ないし三の説示(原判決二一丁裏末行から二八丁表三行目まで)のとおりであるから、これを引用する。

1  (補正)

(一)  原判決二二丁表六行目の「1の事実中」の次に「後記のとおり」を、同じく九行目の「争つていない等」の次に「、原審及び当審における」をそれぞれ加える。

(二)  同二二丁裏五、六行目の「同月二三日」から同じく七行目の「打ち合せ、」までを「同月二三日、当該地域担当者としてあらかじめ決められている小野寺児童福祉司がケースを、同じく舘江心理判定技師が心理判定を行うことになり、」と改め、同じく末行の「心理検査を行い」の次に「(その際、いずれの担当者においても、控訴人と右放火事件との関連を疑うような態度を示したり、あれこれ問いただしたりするようなことは全くなかつた。)」を加え、同二三丁裏一、二行目の「開かれた形跡は看取されない。」を「開かれたことはない。」と改める。

(三)  同二四丁表三行目の「原告は、」の次に「まず、」を、同じく裏一行目の「解され、」の次に「前顕」をそれぞれ加える。

(四)  同二五丁一行目の「される」を「させる」と、同じく四行目の「ではない。」を「でない。」とそれぞれ訂正する。

(五)  同二七丁表一行目の「乙第二号証四六頁以下参照。」を「前顕乙第二号証により認める。」と、同じく末行の「れた形跡はなく、」を「れておらず、」とそれぞれ改め、その裏二行目の「諸点」の次に「並びに当審における弁論の全趣旨」を加える。

(六)  同二七丁裏六行目の「相当とする。」の次に「控訴人主張のように、控訴人が昭和五一年九月からの姿川中学校の二学期中校庭の草むしりをさせられたことがあつたとしても、また、同校関係者において、控訴人が姿川中学校放火事件の犯人である旨口外したような事実がよしんば認められるとしても、そのような姿川中学校における措置等が、被控訴人ないしは児童相談所の職員の控訴人に対する面接指導の、あるいは構成要素を成し、あるいは影響によるものとは認められないし、右のとおり草むしりをさせられたりした等の事実関係のゆえに、叙上児童福祉司の指導の性質を別異に解さなければならない理由はない。」を加える。

(七)  同二七丁裏八行目の「課しているものでは」の次に「なく、児童又は保護者の権利ないしは法的地位に変動を生ぜしめることにはなら」を加え、同じく末行の「面接指導処分」を「面接指導それ自体」と、同二八丁表一、二行目の「行政処分とはいいがたいから、この点において、」を「行政処分とはいえず、右面接指導の無効確認ないしはその取消しを求める」とそれぞれ改める。

2  (追加)

控訴人は、更に、被控訴人が控訴人に対し、法二六条一項各号の措置を行わないまま、事実行為としての面接指導限りで事件を終了させた行為は、同条同項の「必要があると認めたときは、」の反面解釈として行われたものであり、同条同項各号所定の措置が採られたのと同じ処理がされたものとして、行政事件訴訟法三条にいわゆる「処分」に該当する旨主張するが、補正のうえ引用の原判決理由説示の事実関係のもとにおいて、被控訴人が法二六条一項各号の措置を採らなかつたことは、文字どおりそれだけのことであつて、なんぴとの権利ないしは法的地位にも変動を及ぼすものではないから、その行政処分性を問題とする余地はない(もともと、同条同項二号所定の措置が採られた場合児童福祉司等の指導にどのように対応するかは児童及び保護者の自由意思にゆだねられており、指導を受ける法的義務が生ずるものではないと解される。)。しかも、被控訴人が控訴人に対し右のような措置を採らなかつたことにより、控訴人は触法行為を行つたとの認定判断を受忍させられ、その受忍を強要されることになるとの主張は、独自の見解といわざるを得ず、理由がない。

控訴人の追加主張のうち、その主張に係る「面接指導の処分」が抗告訴訟の対象となるいわゆる処分であるとする点は、失当であり、採用することができない。

二  以上の次第により、控訴人の本件訴えを却下した原判決は、爾余の主張につき判断するまでもなく相当であり、本件控訴は理由がなく棄却すべきである。

よつて、控訴費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 後藤静思 奥平守男 尾方滋)

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