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東京高等裁判所 昭和59年(ネ)244号 判決 1984年12月17日

第二四四号事件控訴人・第三四四号事件被控訴人(第一審原告) 親和商事株式会社

右代表者代表取締役 西村英男

右訴訟代理人弁護士 山本政敏

鈴木喜久子

林豊太郎

二島豊太

第二四四号事件被控訴人・第三四四号事件控訴人(第一審被告) 周星會

右訴訟代理人弁護士 柿沼映二

野口啓朗

主文

原判決を次のとおり変更する。

第一審被告は第一審原告に対し、金二〇〇〇万円及びこれに対する昭和五六年九月五日以降支払済みに至るまで年六分の割合による金員を支払え。

第一審原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審を通じてこれを五分し、その四を第一審被告の負担とし、その余を第一審原告の負担とする。

第二項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一審原告訴訟代理人は、第二四四号事件につき「原判決中第一審原告敗訴の部分(一二〇〇万円に対する昭和五六年六月二七日から同年九月四日までの年六分の割合による金員請求を棄却した部分を除く。)を取り消す。第一審被告は第一審原告に対し、金一八〇〇万円及びこれに対する昭和五六年六月二七日以降支払済みに至るまで年六分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも第一審被告の負担とする。」との判決及び仮執行の宣言を求め、第三四四号事件につき控訴棄却の判決を求めた。

第一審被告訴訟代理人は、第三四四号事件につき「原判決中第一審被告敗訴の部分を取り消す。第一審原告の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも第一審原告の負担とする。」との判決を求め、第二四四号事件につき控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張及び証拠の関係は、次に付加するほか原判決の事実摘示と同一であるから、これを引用する。

(第一審原告訴訟代理人の陳述)

一  東京都内における宅地建物取引業者の不動産仲介の実務では、特別の事情のない限り、宅地建物取引業法第四六条第一項に基づく昭和四五年一〇月二三日建設省告示第一五五二号により算定した最高額の報酬を受ける慣行が定着している。

二  第一審原告は、本件売買契約成立の数か月前から手数や労力をかけており、売買契約成立後の昭和五六年九月四日第一審被告に対して三〇〇〇万円の請求をした際、同人は支払時期の猶予を求めたにすぎなかった。

(第一審被告訴訟代理人の陳述)

第一審原告の右主張事実は否認する。

(当審における証拠)《省略》

理由

一  当裁判所は、第一審原告の本訴請求は主文第二項掲記の限度で理由があるから正当として認容し、その余は失当として棄却すべきものと判断する。その理由は、次の二から五までのとおりである。

二  原判決理由一(原判決四丁表一〇行目から九丁表初行まで)を、四丁裏初行「成立に争いのない甲第一号証、」を「原本の存在及びその成立に争いのない甲第一号証、成立に争いのない」に、同九行目「原告から」を「原告に」改め、五丁表九行目、同裏三行目及び七丁表四行目「ものであった」を削り、同六行目から七行目「被告のために原告が本件売買契約の仲介をしたとしてその」を「本件土地の売買を仲介した」に、同八行目「求めたものであり」を「求めた。もっとも」に、同末行「いたものであり」を「おり」に改め、七丁裏三行目及び九行目「ものであった」を削り、八丁表三行目「ものであり」を「ことがあり」に、同五行目「ものであり」から同六行までを「が、岡部が右の申出を断ったことがあった。」に改め、同一〇行目から八丁裏七行目「よれば」までを「右認定事実によれば、被告が昭和五六年六月二〇日ころ原告に対して本件土地の売却につき仲介を委託したこと」に改めた上、引用する。

なお、敷衍すると、本件土地の売買において、第一審原告が当初の高松商事からの依頼に基づいてその売却方を第一審被告に持ち込んだ際契約の成立をみたのであるならば、第一審被告は、単に交渉の相手方にとどまったというべきであろう。しかしながら、値段に開きがあったためその後交渉がされないまま三か月放置された後、第一審被告から第一審原告に対して改めて売却条件を提示して買手である高松商事に話しをして欲しいと持ちかけてきたのであり、これを受けて第一審原告が高松商事に話して契約を成立させるに至ったのであるから、第一審原告は、第一審被告からも売買の仲介の依頼を受けたことは明らかである。

三  《証拠関係省略》

四  本件売買の仲介に関し第一審原告が第一審被告から受けるべき報酬の額について判断する。

二において原判決を引用して認定した事実から本件売買契約に至る経緯についてみると、昭和五六年一月ころ買主である高松商事からの仲介の依頼に基づいて第一審原告が行動を開始し、実地に当たり、登記簿を閲覧して本件土地を見つけ、同年三月上旬所有者である第一審被告を訪ね売却方を打診したが、双方の値に開きがあって到底折合いがつかないと考え、本件土地については断念していたところ、同年六月二〇日ころ第一審被告から高松商事がまだ土地を入手していないなら現状のまま(借地人が二人おり、地上に建物が建っている状態をいう。)で一〇億円で買うように高松商事に話して欲しいとの依頼があったので、その旨高松商事に取り次いだ結果同月二六日に至って代金一〇億円で本件売買契約が成立するに至ったのであり、代金その他の売買契約の内容は第一審被告の希望どおりであることが認められ、更に、原審における第一審原告代表者の本人供述によれば、第一審被告から仲介を依頼された際、第一審原告代表者は第一審被告に正規の手数料をもらう旨告げた(この点については、《証拠省略》中に「最初親和商事に仲介を依頼したときには規定の手数料をもらうといわれた。」とあることに照らしても第一審原告代表者の本人供述は措信できる。)のに対して、初めは「むこう(高松商事の意)から余計もらえ。」と言っていたが、後で「わかった。」と返事したことが認められ、また、《証拠省略》によれば、東京都内においては、不動産売買の仲介をした業者は、特別の事情がなければ、宅地建物取引業法第四六条第一項の規定による建設大臣の定め(昭和四五年一〇月二三日建設省告示第一五五二号)による最高額を報酬として請求しているのが一般的であると認められる。

そうすると、商法第五一二条により請求できる相当の報酬も右の最高額とすべきであるとも考えられるが、本件においては、第一審原告が第一審被告からの依頼により本件売買契約を成立させるにつき次のような特別の事情がある。すなわち、四の冒頭においてみたように、第一審原告は、当初高松商事からの依頼に基づいて港区赤坂方面で土地を探しはじめ、本件土地を見つけたのであり、値段の開きから一たん仲介を断念したものの、改めて第一審被告から売却につき仲介の依頼がされた時点では、買手と見込まれるのは高松商事であって、買手を探すのに苦労をした訳でなく、売主の条件を提示したところ高松商事もこれを受け入れたため、双方の希望条件を調整するようなことに手間取ったこともなく、第一審被告からの依頼を受けて一週間足らずで契約が成立するに至ったことが認められるのである。

以上の各事実を総合考慮すると、第一審原告が用いた労力は、第一審被告に対するよりも高松商事に対する方が大きいというべく、第一審原告が第一審被告から受けるべき報酬の額は、法定の最高額の約七〇パーセントである二〇〇〇万円が相当である。

第一審被告は、第一審被告が仲介報酬の支払義務を負うとしても、本件では一つの売買に関し仲介者が数人ある場合であるから、第一審被告の第一審原告に対する報酬額は相当減額されるべきである旨主張し、《証拠省略》によれば、株式会社清峰堂が原告となり、第一審被告を被告として、次いで第一審原告及び高松商事を被告として、本件売買契約に関する仲介手数料請求の訴えを東京地方裁判所に提起していること、及び右の第一審被告を被告とする訴訟において、清峰堂の代表者が、第一審被告から、更に第一審原告及び高松商事からも本件土地の売買について仲介の委託を受けていた旨供述していること(右乙第五号証はその供述調書)は認められるが、右供述内容については、《証拠省略》と対比して、また、《証拠省略》により高松商事が第一審原告に土地購入について仲介の依頼をしたのが昭和五六年一月であり、第一審原告が最初に第一審被告を訪れたのが同年三月であることが認められることと前記乙第五号証によれば第一審原告が清峰堂に行き、その三、四日後に高松商事の代表者を連れて再び清峰堂を訪れたのが同年五月であると認められることとを対比すると、右乙第五号証の供述内容は措信できず、かえって、《証拠省略》によれば、第一審原告の代表者西村英男が清峰堂に行って話をしたのは、本件土地については売主、買主の値に開きがあるので、他に、赤坂方面で一〇〇坪前後の、価額七、八億円程度の適当な物件があれば探して欲しいとの趣旨であったことが認められる。また、第一審原告からの依頼に基づいて清峰堂の代表者が第一審被告に話を持って行ったとすれば、既に二において原判決を引用して認定したように、昭和五六年六月二〇日ころ第一審被告が直接第一審原告に対して「本件土地を現状のままで一〇億円で買うように高松商事に話してくれ」と依頼したことは、合理的な説明ができ難いといわざるを得ない。以上の点を総合すると、清峰堂は本件売買に関与しなかったというべきであるから、第一審被告の右主張は採用できない。

五  遅延損害金の起算日については、原判決の理由三(一〇丁裏六行及び七行)を引用する。

六  以上のとおりであるから、第一審原告は第一審被告に対し、本件土地の売買仲介報酬金二〇〇〇万円及びこれに対する第一審原告が第一審被告に対して右報酬金の支払を請求した日の翌日である昭和五六年九月五日以降支払済みに至るまで商事法定利率による年六分の割合の遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求は失当として棄却すべきである。

よって、右と結論を異にする原判決を変更し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九六条及び第九二条を、仮執行の宣言につき同法第一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 賀集唱 裁判官 梅田晴亮 上野精)

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