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東京高等裁判所 昭和59年(ネ)1298号 判決 1984年10月23日

控訴人 久保明

右訴訟代理人弁護士 長谷川昇

同 鈴木茂

被控訴人 大津勝太郎

右訴訟代理人弁護士 三川昭徳

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一、控訴代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、主文同旨の判決を求めた。

二、当事者双方の主張及び証拠関係は、次に付加するほか、原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。

1. 控訴人

控訴人の本件仮登記は、債権担保のための所有権移転請求権保全の仮登記(以下「担保仮登記」という。)ではなく、通常の売買に基づく所有権移転請求権保全の仮登記であるから、これより後順位の抵当権に基づいて本件土地の競売が行われても、右仮登記上の権利は何ら影響を受けるものではなく、たとえ右競売による売却によって、本件仮登記より先順位の他の抵当権設定登記が抹消されることになるとしても、そのことから、右仮登記上の権利までが当然に消滅するとか、競落人に対抗しえなくなると解すべきではない。

すなわち、担保仮登記の場合には、目的不動産につき後順位抵当権に基づく競売が行なわれると、仮登記権利者は売却代金から配当を受けることができるのであり(仮登記担保契約に関する法律一三条、民事執行法一八八条、八七条)、また、担保仮登記と抵当権設定登記とが併用されているときは、当該抵当権について売却代金から配当を受けることにより仮登記の目的も達せられるので、右抵当権設定登記とともに仮登記も抹消すべきことは当然であるといってよい(最高裁昭和四一年三月一日判決は、かかる仮登記の事案に関するものである。)。これに対し、本件仮登記のような通常の売買に基づく所有権移転請求権保全の仮登記の場合には、売却代金から配当を受けることはできないのであり、それにもかかわらず、右仮登記上の権利が後順位抵当権の実行によって当然に消滅してしまうとすることは、何らの代償なくして仮登記権利者の財産権を不当に侵害し、これに重大な損害を与えるものであって、許されるべきではない。民事執行法も、抵当権の実行としての競売に基づく不動産の売却により先取特権、質権及び抵当権は消滅する旨定めているが(一八八条、五九条一項)、仮登記が消滅するものとは定めでいないのである。

したがって、本件仮登記は競落人たる被控訴人に対抗することができるものである。

2. 被控訴人

控訴人の右主張は争う。

理由

一、請求原因一及び二の事実は当事者間に争いがなく、右事実と<証拠>を合わせると、本件土地については、昭和四五年一月二九日に訴外キヤタビラー三菱株式会社を抵当権者とする抵当権(以下「本件第一抵当権」という。)の設定登記、昭和四八年一〇月三〇日に控訴人を権利者とする本件所有権移転請求権仮登記、昭和四九年六月六日に訴外湘南ハウス工業株式会社(現商号・株式会社石川商事)を抵当権者とする抵当権(以下「本件第二抵当権」という。)の設定登記が順次経由されていたところ、昭和五五年一〇月二二日本件第二抵当権に基づいて本件土地の競売が申し立てられ、競売手続が行われた結果、被控訴人が請求原因一記載のとおりこれを競落し、これに伴い、右競落当時まで存続していた本件第一抵当権の設定登記は抹消されたことが認められ、これに反する証拠はない。

二、右事実によれば、本件土地の右競売手続については民事執行法が適用されるものであるところ、控訴人の本件仮登記に係る所有権移転請求権は、右競売による売却によって消滅するものとされる本件第一抵当権に対抗することができないものであるから、同法一八八条、五九条二項の規定により、右競売による売却によってその効力を失ったものであるといわなければならない。

三、この点につき、控訴人は、仮登記に係る所有権移転請求権が後順位抵当権に基づく競売によって効力を失うのは、担保仮登記の場合だけであり、通常の売買に基づく所有権移転請求権保全の仮登記の場合にまで権利の効力を失わせることは、何らの代償なくして不当に財産権を侵害するものであって許されないと主張する。

しかし、民事執行法一八八条によって準用される同法五九条一項の規定によれば、同一の不動産について数個の抵当権が設定されている場合には、後順位の抵当権に基づいて競売が行われたときでも、競落当時存した抵当権はすべて消滅し、競落人は抵当権の負担のない不動産所有権を取得するものとされているのであるから、その不動産は、競落時に存した最先順位の抵当権設定登記当時の権利状態で競売に付されるものというべきである。そうすると、右最先順位の抵当権設定登記後にその不動産について所有権その他の権利を取得した者は、短期賃貸借の場合を除き、右最先順位の抵当権者に対抗することができないものであり、したがって競落人にも対抗することができないものとなるところから、同法五九条二項は、同条一項の規定によって消滅する抵当権等の権利を有する者に対抗することができない不動産に係る権利の取得は、売却によりその効力を失うものと定めたのである。

この趣旨からすれば、不動産所有権の取得に関する仮登記上の権利についても、それが右最先順位の抵当権に対抗することができないものである限り、同法五九条二項の適用を受けると解すべきことは明らかであり、右仮登記上の権利のうち担保仮登記に係るものについて、その権利の実質に応じ売却代金から優先弁済を受けることが認められている(仮登記担保契約に関する法律一三条)からといって、そのこととの対比から、それ以外の仮登記上の権利について右条項の適用を除外すべき理由は何もない。また、前記のように最先順位の抵当権が後順位抵当権に基づく競売の売却代金から弁済を受けて消滅することは、右最先順位の抵当権自体が実行された場合と同視すべき事態であることを考えると、もともと右最先順位の抵当権に対抗することができなかった権利を競売手続上いかに取扱うかは、立法政策の問題であり、売却によりその権利の効力を無補償で失わせたからといって、直ちにこれを不合理な財産権の侵害として許されないものということはできない。

したがって、控訴人の前記主張は採用することができない。

四、以上のとおりであるから、本件仮登記の抹消を求める被控訴人の請求は正当としてこれを認容すべきであり、これと同旨の原判決は相当であって、本件控訴は理由がない。よって、本件控訴を棄却することとし、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 中島恒 裁判官 佐藤繁 塩谷雄)

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