大判例

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東京高等裁判所 昭和59年(う)593号 判決 1984年10月01日

本店の所在地

静岡県浜名郡可美村若林二六二四番地の一

法人の名称

大富建設株式会社

右代表者代表取締役

谷田康雄

本籍

兵庫県三原郡西淡町志知鈩三九七番地

住居

静岡県浜名郡可美村若林二六二四番地の一

職業

会社役員

氏名

谷田康雄

年令

昭和二三年三月二四日生

右両名に対する各法人税法違反被告事件について、昭和五九年三月二二日静岡地方裁判所が言い渡した判決に対し、各被告人及び弁護人から控訴の申立があったので、当裁判所は、検察官鈴木薫出席のうえ審理をし、次のとおり判決する。

主文

本件各控訴を棄却する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人杉山年男、同荒川昇二連名の控訴趣意書に、これに対する答弁は検察官鈴木薫名義の答弁書にそれぞれ記載されたとおりであるから、これらを引用する。

所論は、要するに、原判決の各量刑は、被告人谷田康雄が別件について懲役刑の実刑に処せられるおそれがあることを考慮にいれると、刑期、金額の点で重過ぎて不当である、というのである。

そこで、検討すると、本件は、被告人大富建設株式会社(以下被告会社という。)の代表取締役としてその業務全般を統轄していた被告人谷田康雄が、被告会社の業務に関して、二事業年度分の法人税を逋脱した事案であるが、逋脱法人税額は合計九三八四万三三〇〇円で多額であり、税逋脱の割合はいずれも九八パーセントを超える高率である。また、逋脱の動機は被告人谷田の個人資産を増やすことであって酌量の余地はなく、逋脱の手段方法は経常的に売上の一部を除外し、決算期に経費の莫大な水増計上等をし、担当税理士が是正するように助言したのに全く耳を傾けることなく強引に虚偽過少の法人税確定申告をした計画的、意図的なものであって、被告人の納税意識は稀薄であるといわざるをえず、被告会社及び被告人の刑事責任は軽視することができない。そうしてみると、被告人らが本件について国税庁の査察に協力し、修正申告をし、各年度分の本税を完納していることのほか、被告人谷田には本件各罪と併合罪関係にある廃棄物の処理及び清掃に関する法律違反の罪による懲役六月、三年間執行猶予の確定裁判があるところ、その猶予期間中に犯した同法違反の罪により第一審において懲役六月の実刑に処せられ控訴中であるがその実刑が確定すると、右執行猶予及び本件における被告人谷田の懲役刑の執行猶予がいずれも取り消されることになること等所論中肯認できる点を十分斟酌しても、被告会社を罰金八〇〇万円に処し(逋脱税額に対する罰金の率は約八・五パーセントにあたる。)、被告人谷田を逋役一年及び罰金一六〇〇万円に処し(逋脱税額に対する罰金の率は約一七・〇五パーセントにあたる。)、その懲役刑の執行を三年間猶予した原判決の各量刑が重過ぎて不当であるとはいえない。論旨はいずれも理由がない。

よって、刑訴法三九六条により本件各控訴を棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 海老原震一 裁判官 本吉邦夫 裁判官 小田健司)

○ 控訴趣意書

被告人 大富建設株式会社

被告人 谷田康雄

右両名に対する法人税法違反被告事件について、弁護人は次のとおり控訴理由を述べる。

昭和五九年五月一五日

右弁護人 杉山年男

同 荒川昇二

東京高等裁判所第一刑事部 御中

第一 原判決には、量刑不当の違法があり、破棄さるべきものである。

(理由)

一、1.本件犯行は被告人谷田が主導的立場で実行したわけではなく、被告人会社の顧問税理士たる高林善市こそ不可欠、重要な役割を果たしたものであるという基本的構造にある。(高林の昭和五八年八月一一日、同年八月二九日付検面調書、被告人の公判廷における供述及び各検面調書、谷田迪江の各検面調書)

2.また、被告人谷田は本税を納付ずみであり(弁2号証)、その後も県税・延滞税・重加算税もなんとか履行できるよう当局と話がついている。(被告人の公判廷における供述)

3. そして被告人は本件により厳しい経済的・社会的制裁を受けている。(被告人の公判廷における供述、谷田迪江の証言)

4.さらに、本件は被告人谷田が「早く浜松一の土建屋になりたい」というまじめな意図・目的のもとにできるだけ個人資産を増やそうという情熱のあまり、結果として脱税をしてしまったという事件である。(被告人の昭和五八年七月二二日付検面調書)

又、被告人谷田が従来法を軽視してきたことについては父亀一による独特の家庭教育による影響が大きく、必ずしも被告人谷田が積極的に社会ルールを無視する人格を形成してきたものではない。(被告人の公判廷における供述、谷田久重の証言)

5.被告人谷田は本件により脱税行為が全く割に合わないことを十分学び、昨年十二月から今年三月まで簿記(日本商工会議所の第三級ないし第二級程度のもの)の勉強をし、税務・経理につき認識を向上させたので、今後二度と脱税をしないことは明らかである。(被告人の公判廷における供述)

右の1ないし5の情状からすれば、本件についての被告人谷田の刑事責任はまさに執行猶予が付せられるべき事案でありました。

その意味では原判決が被告人谷田に対し執行猶予を言い渡したことは妥当であったということができます。

二、しかしながら、被告人両名は、本件が静岡地方裁判所に係属し審理されていた当時、同地裁浜松支部において廃棄物の処理及び清掃に関する法律違反事件(以下、別事件という。)により審理を受けてもいたのであります。

この別事件は、実は執行猶予中に犯した事件(しかも前科と同種事案)であったため実刑判決を受けるおそれが顕著でありました。

そして現実にこの別事件について実刑判決を充けることとなれば、本件につきせっかく執行猶予を付されたとしても、刑法第二六条の二の二号によりそれが取消されるべき運命にあったということは原裁判所も十分知りえたはずであります。

この観点からすれば、原判決が被告人谷田に対して検察官の求刑(懲役一年)をそのまま維持して「懲役一年、執行猶予三年」を言い渡したことは、実質的には求刑どおりの実刑判決を言い渡したのとほとんど同じこととなり、前記の諸情状に照らしてみてもいちぢるしく量刑が重すぎると言わざるをえません。

また、原判決の執行猶予の言渡が取消されることとなれば、被告人谷田は、本件の懲役一年分余計に刑務所暮らしをしなければならないこととなり、多額の延滞税・重加算税のほかに罰金二四〇〇万円を支払うことは(被告人会社に対する罰金刑は事実上被告人谷田が支払うこととなる)実際上きわめて困難なこととなるのは明らかであり、あまりにせ重すぎる罰金刑であります。

以上のとおりであり、原判決は、別事件で実刑判決となる蓋然性が高いということにつき配慮を欠いた判決というべきであり、量刑不当として破棄を免れないものであります。

三、そこで控訴審においては、是非とも、執行猶予を維持したまま原審検察官の求刑(懲役一年)を下回る懲役刑に処し、かつ罰金刑についても履行可能な額まで引下げていただきたい。

第二 次に職権による事実の取調べをお願いするものであります。

一、本件の原判決言渡(昭和五九年三月五日)後の昭和五九年四月二六日、被告人谷田は静岡地方裁判所浜松支部において、別事件により懲役六月の実刑判決を受けたものであります。

そこで右実刑判決を受けた事実を刑事訴訟第三九三条第二項にもとづいて、お取調べ願いたいのであります。

二、ところで、弁護人は右実刑判決に対しても量刑不当を理由として控訴し、別事件は御庁に係属中であります。

弁護人はこの別事件につきなんとか執行猶予を付してもらうべく弁護活動をする所存でありますが、諸搬の情状から考えて控訴審においても実刑判決が維持される蓋然性が高いと言わざるをえません。

そこで、もし別事件について実刑判決が維持され確定することとなれば、最高裁判所昭和四八年二月二八日決定により本件の有罪判決に付された執行猶予の言渡が必然的に取消されることとなります。

しかしながら、それでは、被告人が本件につき、静岡地方裁判所において有利な情状を酌んでいただき執行猶予の判決を賜わりながら、その恩典に浴することがないままとなり、結果的には、本件につき求刑どおり懲役一年の実刑判決を受けたのと同じこととなり余りにも苛酷であると言わざるをえません。

さらに、本件と別事件とは同一の被告人が犯したものであり、起訴時(昭和五八年八月三一日と同年九月二八日)も、審理時も、判決言渡時(昭和五九年三月二二日と同年四月二六日)もほぼ同時期であったからこれらを関連として同一の裁判所が併合して審理することができたはずのものであります。

そこで、もし同一裁判所が両事件を併合して審理したならば、本件については執行猶予、別事件については実刑判決というような矛盾した結論は避けられたものと考えられます。

つまり、本件についてせっかく恩情を酌んでいただき執行猶予のご判決をいただいても、別事件で実刑判決を下されてそのまま確定すれば、右の執行猶予の言渡が取消されることとなり、本件につき執行猶予を付した実質的意味が失なわれ、かえって重い判決を下したこととなることが一層はっきりするからであります。

以上のとおりであり、第一審判決後、別事件で実刑判決を受けたという事実を刑の量定に影響を及ぼすべき情状として調べていただきたいのであります。

第三 以上により、なにとぞ、本件については執行猶予を維持したまま懲役刑の刑期を引下げていただきたく、また罰金刑についても履行可能な金額まで引下げていただきたいと願うものであります。

以上

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