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東京高等裁判所 昭和58年(ネ)480号 判決 1986年8月19日

控訴人(原告) 宇佐見昇

被控訴人(被告) 日本アルミニウム建材株式会社(合併前の旧商号日本アルミ建材工業株式会社)

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一  控訴代理人は、「1 原判決中控訴人に関する部分を取消す。2 甲事件につき、(一) 被控訴人が控訴人に対してした昭和四九年七月一三日付三日間の出勤停止処分は無効であることを確認する。(二) 被控訴人は控訴人に対し一万二二三五円及びこれに対する昭和四九年八月二六日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。(三) 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。3 乙事件につき、(一) 被控訴人が控訴人に対してした昭和五〇年八月二五日付三日間の出勤停止処分は無効であることを確認する。(二) 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決並びに右2(二)につき仮執行の宣言を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。

二  当事者双方の主張及び証拠は、次のとおり訂正、付加するほかは原判決事実摘示と同一であるから、その記載を引用する。

1  原判決六枚目裏九行目「印刷物の」を「印刷物、以上」と改める。

2  控訴人の主張

(一)  原判決は事実認定に誤りがある。

原判決中、控訴人の昭和四九年六月一二日のビラ配布に関する事実認定は誤りである。控訴人のビラ配布の時間、ビラの種類、相手方、配布時の状況などは、すべて被控訴人の主張を採用して事実認定を行つているが、これを裏付ける証拠はいずれも措信し難い。

また、原判決は、右ビラ配布行為が被控訴人に与えた影響についても被控訴人主張をそのまま採用しているが、はなはだしい事実誤認である。

更に、大庭メモ交付後の職場の混乱に関する原判決の認定も、措信し難い証拠を安易に信用したもので、不当である。

(二)  被控訴人のした本件各処分は、控訴人の活発な組合活動を嫌悪してなされた不当労働行為であつて、無効である。

控訴人は昭和三六年日本アルミ建材工業株式会社(その後「日本アルミ住宅建材工業株式会社」と商号変更、以下「日本アルミ」という。)に入社以来労働組合運動に積極的に参加し、日本アルミ労働組合(以下「組合」という。)の伊勢原支部(以下「支部」という。)において、昭和三九年九月職場委員、昭和四〇年九月職場委員、昭和四二年九月厚生部長、昭和四三年九月書記長兼厚生部長、昭和四四年九月書記長(同年一一月以降専従書記長)、昭和四五年九月書記長、昭和四六年九月書記長、昭和四八年一〇月副支部長、昭和四九年五月書記長に選出され、支部の中心メンバーとして活動した。控訴人は組合を階級的な自覚をもつた民主的な労働組合に高めようと常に努力し、控訴人が支部執行部の主導権を握るようになつてから、組合ニユースの発行、青婦部、教宣部の設置、学習会の開催、組合員アンケートの実施等を行い、組合の団結を強化し、組合員の意識を高めることに努め、国、地方の選挙においても、革新政党を積極的に支持した。

被控訴人は右の如き組合活動を抑えようとの意図のもとに、労働組合役員選挙には会社派とみられる候補を立候補させ、昭和四七年九月の書記長選挙において右対立候補の添田利夫が選出され、控訴人は落選したが、昭和四八年一〇月の副支部長選挙では控訴人が対立候補を破つて当選した。

昭和四九年五月の選挙において控訴人は書記長に立候補したところ、支部選挙対策委員会は選挙運動を制限した。控訴人はこれを批判する運動をし、控訴人が書記長に当選し、添田利夫は落選した。

組合及び支部は控訴人が選挙対策委員会を批判したことや当選祝賀会を企画したことから、控訴人の行動を分派活動であるとして、事情聴取をしたり、組合ニユースで攻撃したりし、組合中央本部は同年六月一一日控訴人に注意処分をすることを決定した。

控訴人は同年六月一二日本件陶山ビラ等の配布をした。

日本アルミは右行為をとらえて控訴人の組合内における影響力を弱めることを意図し、支部に善処方を申入れ、支部と連携しながら控訴人に攻撃をかけることを画策した。

支部は同年六月一四日控訴人に注意処分をし、同年七月八日控訴人の副支部長職、次期書記長職を解任することを決定し、このための臨時大会を同月一二日開催することにした。

この七月一二日に日本アルミは控訴人に対し本件第一処分をした。

控訴人は同月一五日の投票で役職を解任された。

控訴人は同月一六日横浜地方裁判所において右解任決議の効力停止の仮処分決定を得た。

控訴人は昭和四九年九月の選挙には支部長に立候補し全投票の三分の一強を集め、次の昭和五〇年九月の選挙にも立候補することが確実視されていた。

控訴人は昭和五〇年四月一〇日長洲ビラを配付し、同月二六日小泉邦章宛に大庭メモを書いた。

日本アルミはこれを口実にして控訴人の同年九月の選挙における集票力を弱めることを意図し、右選挙の公示日たる九月四日の直前である八月二五日に本件第二処分をした。

控訴人は九月一一日の選挙において支部長に立候補していたが、落選した。

以上のように、日本アルミのした本件各処分は、控訴人の組合内での影響力を排除し、組合役員に当選せしめないことを意図してなされたもので、不当労働行為であり、労働組合法七条一号、三号に違反し、無効である。

その後、日本アルミは控訴人に対し、昭和五三年四月子会社たる株式会社相模アルミセンター(以下「相模アルミセンター」という。)への出向を命じ、昭和五七年九月控訴人を日本アルミへ復帰させたが、復帰後は原職復帰を原則とするとの合意が成立していたにもかかわらず、同年一二月控訴人を会社構内の健心寮管理の業務に就かせ、草刈り、修理等の雑用にあたらせた。

控訴人は昭和五八年一二月右健心寮管理係に配属したことを不当労働行為として神奈川県地方労働委員会に救済命令の申立をし、右地方労働委員会は日本アルミに対し、昭和五九年一〇月一九日原職または原職相当職への復帰とポストノーテイスを命ずる救済命令をだし、日本アルミは中央労働委員会に対し再審査の申立をしたが、昭和六一年二月二七日右申立を取下げ、右命令が確定した。

(三)  原判決は、法律判断に誤りがある。

政治活動の自由に対する制限と憲法二一条との関連において、従来の判例の多くは、その事業場の性格もしくは労働者の職務上政治活動を制限すべき具体的合理的理由が存した場合にのみ憲法二一条に違反しないと判断しているようである。また、仮に、政治活動の自由を制限する労働協約を合憲と認定する場合でも、あくまでも企業秩序に対する具体的な危険が存在する範囲で認めるべきであり、協約の適用にあたつても、具体的に経営秩序紊乱等の結果を生ずる行為のみに限定しなければならない。

最高裁判所は昭和五八年一一月一日の明治乳業株式会社事件判決において、形式的に労働協約、就業規則の規定に違反する行為であつても、右行為が工場内の秩序を乱すおそれのない特別の事情が認められるときは、右各規定の違反になるとはいえない旨判示している。本件におけるビラ配布の態様、経緯、目的、ビラの内容等に徴すれば、本件ビラ配布行為は工場内の秩序を乱すおそれのない特別の事情が認められる場合に該当するというべきである。

労働基準法三四条三項に定める休憩時間自由利用の原則の制限は、物的施設そのものの維持管理に最底限必要なものに限るべきであるとともに、職場規律との関連でいえば、就労中の労働者の労働を妨げたり、休憩中の同僚労働者の休憩を妨げる場合等に限るべきである。

本件ビラ配布、大庭メモ交付行為は、態様においてごく些細な行為であり、ビラ内容も政治啓蒙ビラとしては何の変哲もなかつた。本件ビラの配布、メモの交付によつて、一時的にせよ会社の施設管理権を侵害したとか、他の労働者の休憩時間の自由利用を妨害したとか、作業能率の低下をきたしたとかいう事実はない。同種ビラ配布行為はこれまでも行なわれていたが黙認されていた。組合の機関決定を経たビラ以外は許可しないというのであれば、控訴人が事前に許可を求めたとしても却下されたであろうことは明らかである。本件就業規則その他の規定には懲戒処分につきこれを公示するという根拠はないのに、本件各処分は従業員の多数往来する通路に掲示された。本件各処分により控訴人は賃金、昇格等の点で他の従業員より不利益に扱われ、格差は年を追う毎に拡大し、控訴人は定年退職まで経済的不利益をうけるとともに、人並みに昇給できないことから精神的打撃を受けている。

以上の諸事情からして、本件各処分は懲戒権の濫用である。

(四)  労働協約には、労働条件その他の労働者の待遇に関する基準を定めた規範的部分とその他の債務的部分があり、前者は規範的効力として労働組合に所属する個々の組合員に直接その効力を及ぼすが、後者は不履行があつた場合、契約当事者たる使用者または労働組合がそれぞれの履行を求め、場合により損害賠償を求めうるという効力があるにすぎない。政治的活動禁止の条項は労働条件その他の労働者の待遇に関する基準を定めたものとは到底解釈できない。しかるに、これを規範的部分に属するものとしてなした本件各処分は、違法である。

原判決は、本件労働協約一八条に違反することはすなわち事業場の規律を乱すことになるから本件就業規則八五条一一号に該当するとしているが、これは労働協約の効力について想いを至さない判断である。

懲戒処分をなすには、すべて就業規則に懲戒事由として明確な定めが存しなくてはならない。しかも、右事由は労働者の具体的行動型態を特定したものでなければならず、右対象となる労働者の行為は労働者の使用者に対する労務契約上の義務違反と評価されるものでなければならず、右義務違反について労働者が非難されるべきもの(故意過失の存在するもの)でなければならない。

本件各処分はこれらの要件を満たしていないものである。

(五)  原判決は、本件各処分につき、会社の命じた始末書の提出は労務指揮権の範囲でないから本件就業規則八五条五号に該当しないとし、会社の主張した懲戒事由のすべてを認容することなく、本件各処分を正当であると判断した。これは、裁判所が当事者よりも重い処分をなすことになり、誤りである。

(六)  被控訴人の主張(一)は認める。

3  被控訴人の主張

(一)  控訴人が従前勤務していた日本アルミ住宅建材工業株式会社(旧商号日本アルミ建材工業株式会社)は、昭和六〇年七月二日日本アルミニウム建材株式会社に吸収合併され、日本アルミニウム建材株式会社が本訴における被控訴人の地位を承継した。

(二)  控訴人の主張(一)は争う。

(三)  同(二)のうち、控訴人の入社した年、役員経歴、昭和四七年九月の選挙において控訴人が書記長に立候補して落選し、添田利夫が対立候補となつて当選したこと、昭和四八年一〇月の選挙で控訴人が副支部長に当選したこと、昭和四九年五月の選挙で控訴人が書記長に当選したこと、控訴人は同年六月一二日本件陶山ビラ等の配布をしたこと、日本アルミは、右ビラ配布について支部へ善処方を申入れ、同年七月一二日控訴人に対し本件第一処分をしたこと、控訴人は投票により支部の役職を解任されたこと、横浜地方裁判所が控訴人の主張するような仮処分決定をしたこと、控訴人は昭和五〇年四月一〇日長洲ビラを配布し、同月二六日小泉邦章宛大庭メモを書いたこと、日本アルミは同年八月二五日控訴人に対し本件第二処分をしたこと、日本アルミが昭和五三年四月控訴人を相模アルミセンターへ出向させ、昭和五七年九月復帰させ、健心寮管理の業務に就かせたこと、この点について控訴人は地方労働委員会へ救済命令の申立をし、同委員が控訴人主張のような救済命令を発し、日本アルミが中央労働委員会へ再審査の申立をし、後にこれを取下げたことは認める。

その余の事実は争う。

本件各処分が不当労働行為に該当することは否認する。

日本アルミが中央労働委員会に対する再審査の申立を取下げたのは、控訴人が昭和六〇年九月二一日他社である日本アルミニウム株式会社に移籍して被控訴人と雇用関係がなくなつたため、原職あるいは原職相当職復帰について争う実益がなくなつたからである。

(四)  同(三)ないし(五)は争う。

4  証拠<省略>

理由

一  当裁判所は、控訴人の本訴請求を失当として棄却すべきものと判断する。その理由は、次のとおり訂正、付加するほかは、原判決の理由中控訴人に関する部分と同一であるからその記載を引用する。

1  原判決一八枚目裏三行目「印刷物の」を「印刷物、以上」と改める。

2  同二三枚目表八行目「一八条は」の次に「憲法二一条、」を加える。

3  被控訴人の主張(一)の事実は当事者間に争いがない。

4  本件各処分が不当労働行為に該当するかどうかの点について判断する。

前記認定事実、成立に争いのない乙第四ないし第七号証、原審証人山賀勲の証言によれば、控訴人が昭和四九年六月一二日昼の休憩時間中である午後零時一五分ごろから四〇分ごろまでの間に日本アルミの構内でその従業員に配布した三種類のビラのうち、(一) 日本共産党神奈川県北部地区委員会宣伝部発行の赤旗読者ニユース第三七号(乙第六号証と同じもの)は、表面に湘北教組座間中学校分会と共産党との懇談会に野島勇座間市議が党を代表して出席し、共産党の教育政策について説明したこと、その内容の要旨、市光工業株式会社(大沼淳社長)伊勢原製作所(一二〇〇人)では参議員選挙にむけてモーレツな企業ぐるみ選挙が行われていること等の記事が掲載され、裏面に「自民党の悪政をやめさせ国政革新を!野坂参三議長むかえ大演説会 革新共同の会代表委員・弁護士すやま圭之輔 日本共産党中央委員会婦人部副部長山中いく子両氏も演説 とき六月一二日 ところ相模原市立体育館」等の記事が掲載されており、(二) 「選挙期間中でも自由にできる選挙運動」(表面)、「選挙期間中だれにでもできる選挙運動」(裏面)と題した印刷物(乙第五号証と同じもの)は、表面に挿絵入りで「政策パンフレツトの販売や配布活動は自由にできます」「選挙に関係のない一般の署名運動は自由にできます」等の記事、裏面に挿絵入りで「用件や時候のあいさつで親せき、友人、知人などに手紙(封書で自筆)をだすとき、ついでに、○○候補への投票をたのむことは親書の秘密として守られています。」、「演説会に友人やまわりの人をさそつてききにゆき、拍手や声援をおくりましよう。また候補者カーがきたときに『○○さんがんばれ』と手をふつて声援しましよう」等の記事が掲載されており、(三) 革新共同の「すやま圭之輔の十五の公約」と題した印刷物(乙第四号証と同じもの)は、当時近く行われることになつていた参議院議員選挙に立候補を予定していたすやま圭之輔の写真、「私は日本共産党の提唱に賛同し、統一戦線の結成をのぞんでいられる多くの県民の皆さんから与えられた光栄ある任務を、全力をあげてやり通す覚悟です。」との同人の決意及び「大資本の買占めや、価格のつりあげ操作をやめさせ、その経営内容や原価を公開させ、妥当な基準にもとづいて、製品価格をひきさげさせます。公共料金のひきあげをおさえ大企業本位の財政・金融政策をやめ、インフレをストツプします。」等の一五項目に亘る同人の公約その他が掲載されていたこと、控訴人が昭和五〇年四月一〇日ごろの昼の休憩時間中に日本アルミの構内でその従業員に配布した長洲ビラは神奈川県知事選挙候補者である長洲一二を紹介したものであつたこと、控訴人が昭和五〇年四月二六日就業時間中である午前九時ごろ日本アルミ構内において住宅建材製造課作業員杉本豊を介して日本アルミ従業員小泉邦章に交付した大庭メモ(後に破られたものが乙第七号証)は、紙片に「大庭豊 4月27日」と書かれたもので、控訴人は、昭和五〇年四月二七日が投票日である伊勢原市議会議員選挙に立候補していた大庭豊を当選させる目的で右メモを小泉邦章に交付したものであることが認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

そして、控訴人が昭和四九年六月一二日休憩時間中に三種類のビラ(赤旗選挙ビラ)を配布したことが日本アルミに与えた影響及び控訴人が昭和五〇年四月二六日就業時間中に大庭メモを小泉邦章に交付したことが日本アルミに与えた影響は前記(原判決二四枚目裏三行目から二五枚目表末行まで、同二六枚目裏八行目から二七枚目表六行目まで)のとおりである。

右事実によれば、控訴人の右各行為は本件労働協約一八条に違反し、本件就業規則八五条一一号の「事業場の規律を乱したとき」に該当するものというべく、控訴人の右各行為が組合の機関決定を経たものではなく、控訴人が個人としてしたものであることは前記認定のとおりであつて、日本アルミが控訴人に対し昭和四九年七月一二日赤旗選挙ビラ配布につき三日の出勤停止、昭和五〇年八月二五日長洲ビラ配布及び大庭メモ交付につき三日の出勤停止の各懲戒処分をしたのは、相当である。

控訴人が昭和三六年日本アルミに入社し、以後支部においてその主張の如き役員をしたこと、昭和四七年九月の選挙において控訴人は支部書記長に立候補して落選し、添田利夫が対立候補となつて当選したこと、昭和四八年一〇月の選挙で控訴人が副支部長に当選したこと、昭和四九年五月の選挙で控訴人が支部書記長に当選したことは当事者間に争いがなく、原審における控訴人本人尋問の結果により成立を認める甲第一九号証、当審における控訴人本人尋問の結果により成立を認める甲第二六ないし第四七号証、当審証人中島国治の証言、原審及び当審における控訴人本人尋問の結果によれば、控訴人は支部の役員として、支部の独自性の確立、青年部婦人部の組織化、組合員の意見苦情の集約、会社との交渉、組合ニユースの発行、春闘の際のデモ行進、青空集会、労働学校への参加、各種催し物の企画等率先して組合活動を行つてきたこと、昭和四九年五月の選挙において支部選挙対策委員会が選挙運動を制限する方針をうち出し、控訴人はこれを批判する運動をしたこと、組合及び支部は控訴人が選挙対策委員会を批判したことや控訴人の支部書記長当選祝賀会、野崎茂雄の青婦対策部長落選残念会を開催しようとしたことから、控訴人の行動を組合の分派活動であるとして事情聴取をし注意処分をしたこと、支部は同年七月八日の委員会で同月一二日に臨時大会を開催し控訴人につき役員解任案を提出することに決めたこと、控訴人の赤旗選挙ビラ配布につき日本アルミと組合の双方の人員で構成された賞罰委員会が同年六月二八日と七月九日開かれたこと、支部臨時大会開催日である同年七月一二日に本件第一処分がなされたこと、右支部臨時大会において控訴人は投票により役職を解任されたこと、控訴人の長洲ビラ配布及び大庭メモ交付につき、日本アルミと組合の双方の人員で構成された賞罰委員会が同年六月一四日と八月二二日に開かれたこと、支部役員選挙についての公示日は同年九月四日であつたが、その前の同年八月二五日に本件第二処分がなされたこと、控訴人は同年九月一一日支部の支部長選に支部長として立候補していたところ、落選したことが認められるが、これらの事実があつたからといつて控訴人の前記各行為についてなされた本件各処分が不当労働行為に該当するものということはできず、他に本件各処分が不当労働行為に該当すると認めるべき証拠はない。

5  控訴人は、形式的に労働協約、就業規則に違反する行為であつても、右行為が工場内の秩序を乱すおそれのない特別の事情が認められるときは右各規定の違反になるとはいえない旨主張するが、前記事実によれば、本件処分の対象となつた控訴人の行為は工場内の秩序を乱すおそれがあつたものというべく、控訴人の主張するような特別の事情は認められない。

6  企業がその目的を達成するためには、職場規律を確保することが必要であることは明らかであり、本件就業規則八五条本文、一一号が「事業場の規律を乱したとき」に懲戒解職し、ただし情状によつて出勤停止、減給降格に止めることがあると定めているのは合理的であるというべきである。「事業場の規律を乱したとき」という規定は、その要件が包括的であることは否定できないが、懲戒事由の定めとしてはこの程度で足りるものと解するのが相当である。

そして、社内における政治活動は、従業員相互間に対立、軋轢を生じさせ職場規律を乱すおそれがあり、就業時間中に行われると労務提供義務に違反し、また、休憩時間中に行われても他の従業員の休憩時間の自由利用を妨げ、ひいては作業能率の低下を招くこと、本件労働協約(成立に争いのない乙第一号証)一八条は、「組合員は労働時間中及び社内においては一切の政治活動を行わない。」と規定しており、控訴人は、組合員として、右規定を知つていたものと推測されるが、あえてこれに違反して社内において休憩時間中又は就業時間中に政治活動に該当する前記各行為をしたものであり、これらの点を考慮すれば、控訴人の赤旗選挙ビラ配布に対し本件就業規則八五条一一号を、長洲ビラ配布、大庭メモ交付に対し同号及び同条九号を適用してなされた本件各処分はいずれも適法であるといわなければならない。

7  本件第一処分の主たる事由は、控訴人の赤旗選挙ビラ配布行為であり、本件第二処分の主たる事由は、控訴人が第一処分を受けたにもかかわらず再び長洲ビラの配布、大庭ビラの交付をしたことにあり、始末書の提出を命じた業務命令に従わなかつた控訴人の行為(本件就業規則八五条五号該当)はそれぞれその付随的な事由にすぎないものと認められるところ、右事実及び弁論の全趣旨によれば、日本アルミは前者の行為だけでも控訴人に対し三日間の出勤停止の懲戒処分を行う意思であつたものと認められ、三日間の出勤停止は赤旗選挙ビラ配布行為又は長洲ビラの配布、大庭メモの交付行為に対する懲戒処分として重きに失することはない。よつて、日本アルミが控訴人の始末書不提出を含めて本件各処分をしたのに対し、原判決が始末書不提出を除いた控訴人の行為につき本件各処分を相当と認めたからといつて、直ちに日本アルミより重い処分をしたことにはならない。

二  そうすると、原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないからこれを棄却し、控訴費用の負担について民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 川添萬夫 佐藤榮一 関野杜滋子)

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