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東京高等裁判所 昭和58年(ネ)2157号 判決 1984年10月16日

控訴人(被告)

安田火災海上保険株式会社

被控訴人(原告)

石川富雄

ほか一〇名

主文

原判決を左のとおり変更する。

一  控訴人は、被控訴人石川富雄、同田中藤子、同高梨道子及び同野口クニに対し、それぞれ金三五万四九三〇円及びこれに対する昭和五五年六月一九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  控訴人は、被控訴人清水キサ、同鈴木リン、同青木好及び同入澤シゲに対し、それぞれ金五三万二三九五円及びこれに対する昭和五五年六月一九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  控訴人は、被控訴人西澤次男及び同西澤繁男に対し、それぞれ金七〇万九八六〇円及びこれに対する昭和五五年六月一九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  控訴人は、被控訴人清水よしに対し、金一四一万九七二一円及びこれに対する昭和五五年六月一九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

五  被控訴人らのその余の各請求をいずれも棄却する。

六  訴訟費用は、第一、二審を通じこれを二分し、その一を控訴人の負担とし、その余を被控訴人らの負担とする。

七  この判決は、被控訴人ら勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者双方の申立

(控訴人)

控訴代理人は、「原判決中、控訴人敗訴の部分を取消す。被控訴人らの請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」

との判決を求めた。

(被控訴人ら)

被控訴人ら代理人は控訴棄却の判決を求めた。

第二当事者双方の主張

当事者双方の主張は、以下のとおり付加するほかは、原判決の事実摘示と同じであるからこれを引用する。

(控訴人)

一  亡コトの本件交通事故による損害賠償請求については、以下の事由により賠償額を減ずべきである。

1 本件交通事故は、亡石川二郎が訴外会社所有の加害車両を私用で実家に行くため運転中に発生したものであるところ、亡コトは亡二郎の妻であり、亡二郎が会社の業務外に本件自動車を運転していることを十分承知のうえ、これに同乗していたものである。亡二郎は本件事故当時、訴外会社の代表取締役ではあつたが、訴外会社の自動車を濫りに私用のため運転することは、無断運転に準ずるものであり、亡二郎の過失により発生した本件交通事故により死亡するに至つたコトの相続人らは、訴外会社に対し、全損害の賠償請求をすることは条理に反するので、大幅な減額がなされるべきである。

2 亡二郎は、本件事故当日、長期海外旅行から帰国し、これによる疲労・時差による睡眠不足などのため、正常な運転ができない状態にあつたから、自動車を運転してはならなかつたのに本件自動車を運転し、重大な過失により本件事故を惹起させた。亡コトは、亡二郎の妻として右の事情を知りながら、亡二郎の本件自動車運転を止めさせず、却つてこれに同乗し、本件事故に遭遇することを回避すべき注意を怠つたものであるから、過失相殺により大幅に減額されるべきである。

3 亡コトは、本件自動車に無償で好意同乗して本件事故に遭遇したものであるから、右事故による損害賠償については相当の減額がなされるべきである。

二  本件事故は、訴外会社の代表取締役である亡二郎の重大な過失により発生し、これにより亡コトを死亡させたものであるから、本件事故による損害賠償債務についての亡二郎の負担部分は一〇〇パーセントに近いものである。このような場合に、亡二郎の相続人(以下この項に限り「亡二郎」という。)が亡コトの損害賠償請求権の三分の二を相続により取得したとして訴外会社からその支払をうけた後、訴外会社が亡二郎の内部的負担部分に基づき、亡二郎にその求償をさせることは、迂遠であるばかりではなく、加害者である亡二郎に一旦、多額の賠償金を取得させることになり、その結果は極めて不合理である。

このような不合理を回避し、債権債務を簡易に決済するためにも、不真正連帯の場合にも債務者の負担部分の範囲において、混同を認めるべきである。

三  控訴人は、本件交通事故による保険給付金二一八万〇一三四円を支払つた際、右金員は、先づ葬儀費金五〇万円の支払に当て、その余は亡コトの相続人である被控訴人らにその債権額に按分して支払に当てることを指定した。亡石川二郎の相続人である被控訴人石川富雄外六名に対しては、すでに述べたとおり、混同により消滅しているので、その支払に当ててはいない。従つて、控訴人が支払つた右金員については、右の趣旨に従つて亡コトの相続人らの請求額にそれぞれ充当されるべきである。

四  請求原因2(一)の認否の一部を改め、訴外会社が加害車両を自己のために運行の用に供していたことは認める。

(被控訴人)

一  控訴人主張の減額事由については、いずれもこれを争う。

二  控訴人の混同に関する主張は争う。

三  控訴人が被控訴人らに本件交通事故による保険給付金二一八万〇一三四円を支払つた際、控訴人主張の弁済充当の指定をしたことは否認し、混同及び按分の方法についての主張は争う。

第三証拠関係〔略〕

理由

一  請求原因1(事故の発生)の事実については、いずれも成立につき争いのない甲第一号証、第五号証、乙第一号証、原本の存在及び成立につき争いのない甲第二号証によりこれを認めることができ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

二  請求原因2(責任原因)の(一)及び(二)の事実は当事者間に争いがない。

三  本件事故に基づく損害及び被控訴人らの相続等については、原判決理由の説示第三項(一二枚目裏四行目から一五枚目表一行目まで)を引用する。

四  よつて、控訴人主張の損害賠償額の減額事由について判断する。

1  原判決の理由説示第四項1、2(一五枚目表三行目から同裏七行目まで)を次のとおり付加、訂正のうえ引用する。

(一)  一五枚目表六行目の「乙第四号証、」を「乙第一、二号証、第四号証」に改める。

(二)  同行の「亡二郎は、」の次に「昭和五五年六月一三日からハワイに滞在し、本件事故の日の前日である同月一八日帰国し、」を、同七行目の「事故当日」の次に「である同月一九日は」をそれぞれ加える。

(三)  同九行目の「こと」の次に「及び本件事故は、見通しのよい幅員約六・三メートルの直線平坦なアスフアルト舗装道路を加害車両が進行中、同車両が道路端から側溝を隔てたコンクリート柱、看板鉄柱等を突破して右側人家に突込み発生しているところから、亡二郎の居眠り運転によるものと推認するほかなく、亡二郎の重大な過失によるというべきであること」を加える。

2  亡コトの無償(及び好意)同乗による減額及び過失相殺の主張について

(一)  亡二郎が妻である亡コトを無償同乗させ、実家へ行くため本件加害車両で走行中、重大な過失により発生させたものであることは、先に認定したとおりであり、右事実によれば、そのことは、亡コトにおいても知つていたものと推認されうる。

従つて、亡コトに対する関係では、訴外会社の運行供用者としての運行支配及び運行利益が著るしく稀薄化していたと認められるから、訴外会社にその損害の全てを負担させることは相当ではなく、公平上相当の減額をするのが相当である。

(二)  次に亡二郎は、本件事故の日の前日までの六日間ハワイ旅行をし、帰国した翌日に本件事故を惹起したこと及び本件事故の態様は先に認定したとおりであり、成立に争いのない甲第五号証によれば、亡二郎は、大正五年六月一日生れで本件事故当時六四歳であつたことが認められるから、その年齢からみて、本件事故は亡二郎が右外国旅行による肉体的疲労から十分に回復していないにもかかわらず加害車を運転したことに起因するものと推認される。そして、亡コトが本件事故当時亡二郎が右認定のような肉体的条件の下にあつたことを容易に知りうる状況にあつたことも、先に認定したところより明らかであるから、亡コトとしては、亡二郎がそのような状態で加害車を運転することを阻止すべきであつたのに、漫然これに同乗した点に過失があるというべきである。

(三)  右(一)、(二)の事情を総合すると、訴外会社が負担すべき賠償額は、前記認定の損害の五割にとどめるのが相当である。

従つて、亡コトに生じた前示損害額一六一三万七七五九円の半額である八〇六万八八七九円(一円未満切捨)に前示認定の葬儀費用金五〇万円を加えた八五六万八八七九円が被控訴人ら及び亡コトの有する損害賠償債権額となる。

3  混同による消滅及び信義則違反の主張について(被控訴人石川富雄、同田中藤子、同高梨道子、同野口クニ、同西澤次男、同西澤繁男、同清水よし関係)

控訴人の主張によれば、加害車両を運転していた亡二郎は、本件事故の加害者であることにより、亡コトに対し同女の被つた損害を賠償する債務を負担すべきであつたから、亡二郎が亡コトの相続人として同女の自己に対する損害賠償請求権を承継したことにより、右請求権は前記債務と混同し消滅した。訴外会社は、亡二郎と連帯して本件事故による損害を賠償する義務を負うものであるから、亡コトの訴外会社に対する本件損害賠償請求権も亡二郎が相続人として承継した範囲において民法四三八条により消滅したというのである。

確かに前示認定事実によれば、亡二郎と亡コトは夫婦であるから、亡二郎の亡コトに対する損害賠償債務と亡コトから相続により承継した同女の自己に対する損害賠償請求権は混同により消滅したことは明らかである。しかしながら、本件加害車両の運行供用者である訴外会社の亡コトに対する責任は、亡二郎の責任とは別個の立場において生じ、両者はただ同一損害の填補を目的とする限度において関連する、いわゆる不真正連帯の関係にあるものである。そして、不真正連帯債務の債務者相互間には右の限度以上の関連性はないのであるから、債権を満足させる事由以外には、債務者の一人について生じた事項は他の債務者に効力を及ぼさないものというべきであつて、不真正連帯債務には連帯債務に関する民法四三八条の規定はないものと解するのが相当である(最高裁判所昭和四八年一月三〇日第三小法廷判決参照)。

なるほど、不真正連帯関係にある各債務においても、各自の責任割合に応じて債務者相互間に求償しうる関係のあることは否定し得ないが、右求償の範囲は各債務の成立経緯からして、本来不確定部分が多いことからみても、右求償関係があることのみをとらえて、右不真正連帯債務について連帯債務の規定がすべて適用されるべきものとは解すべきではない。

よつて、亡コト及び亡二郎の間に混同を生じ、亡二郎の前記債務が消滅したとしても、そのことは訴外会社の亡コトに対する債務になんら影響を及ぼさないといわなければならない。

4  控訴人のその余の仮定主張については、当裁判所もいずれも理由がないと判断するものであつて、その理由は原判決の理由説示中五項3、4(一七枚目裏一〇行目から一八枚目裏四行目まで)と同じであるからこれを引用する。

五  被控訴人らが控訴人から本件保険契約に基づき、亡コトの死亡に対する損害賠償として金二一八万〇一三四円の支払を受けたことは当事者間に争いがない。控訴人は、右支払に際し、控訴人が弁済充当の指定をしたと主張し、これに沿うものとして成立に争いのない乙第五号証があるが、証人田中義郎の証言によつても同人が右充当の指定を被控訴人らに説明したことを認めることはできず、他に右主張事実を認めるに足る証拠はない。その上、右主張のうち、亡二郎が相続により承継した亡コトの訴外会社に対する損害賠償債権が混同により消滅したことを前提とする部分の理由のないことは、すでに説示したとおりであるから、右主張は失当である。そこで、先に認定した損害賠償額金八五六万八八七九円から右金額を控除すると、残額は金六三八万八七四五円となる。

そこで、前記認定の各相続割合に従い、被控訴人らの取得すべき損害賠償額を算定すると、被控訴人石川富雄、同田中藤子、同高梨道子及び同野口クニは各金三五万四九三〇円(一円未満切捨て、以下同じ)、被控訴人清水キサ、同鈴木リン、同青木好及び同入澤シゲは各金五三万二三九五円、被控訴人西澤次男及び同西澤繁男は各金七〇万九八六〇円、被控訴人清水よしは金一四一万九七二一円となる。

六  以上の次第で、被控訴人らの本訴請求は、控訴人に対し、自賠法一六条一項の規定に基づき、自賠責任保険の限度額(金二〇〇〇万円)を被控訴人ら各人の相続割合に応じて配分した金額の範囲内である前記五項掲記の各金員及びこれに対する本件事故の日である昭和五五年六月一九日から各支払済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから右限度においてこれを正当として認容し、その余は理由がないからこれを失当として棄却すべきであるから、これと異なる原判決を主文のとおり変更することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 野崎幸雄 浅野正樹 山下薫)

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