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東京高等裁判所 昭和58年(う)230号 判決 1983年5月19日

主文

本件控訴を棄却する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人山田有宏、同丸山俊子が提出した控訴趣意書に、これに対する答弁は、東京高等検察庁検察官検事土本武司が提出した答弁書にそれぞれ記載されたとおりであるから、これを引用する。

論旨は、(イ)売春防止法一二条のいわゆる管理売春罪が成立するには「居住させ」るという要件と「売春をさせる」という要件とが必要であるところ、本件においてこれらの要件が欠如しているから同罪は成立しないのに、原判決がその成立を認めたのは法令の適用を誤り又は事実を誤認したものであり、(ロ)本件につき管理売春罪が成立するとしても、それは小棚木正勝及び飛田政勝についてであって、被告人にはこれら両名との共謀はなかったのに、原判決が被告人に対し共謀による管理売春罪の成立を認めたのは事実を誤認したものである、というのである。

そこで、まず(イ)の所論について検討すると、売春防止法一二条のいわゆる管理売春罪の規定において、人を自己の占有、管理又は指定する場所に「居住させ」るという要件が定められているのは、それが人に売春をさせる際の手段としてしばしば用いられ、しかも、特に違法性の強い手段と認められる故であると解せられるから、右の要件を所論のように人を所定の場所で起居寝食させるという意味に解するのは、一方では売春をさせるという要件との関連を顧慮しない点において不足であり、他方では等しく売春をさせる際に手段として用いられるものの一部を格別の実質的理由なしに除外する点において過大であって、人に売春をさせる際の手段となるような態様で所定の場所に人の居所又は住所を設定させ、そのことを通して人に売春をさせるについて支配拘束力を行使することをいうと解するのが相当である。したがって、たとい人の起居寝食を全般的に束縛するような場合でなくても、人を一定の時間に所定の客待ち場所に集合させて遊客の求めに応じうるよう待機させ、これを手段として人に売春をさせるような場合には、右の要件を充たすといってよい。所論は、このような解釈は、居住という用語の通常の用例に沿わないと主張するが、居住という用語は、居所又は住所を設けているという意味であり、居所とは、法令の趣旨に従ってその意味内容に広狭の差があり、現在地を含む広義に用いられる場合もあれば、住所とほぼ同じ意味の狭義に用いられる場合もあるのであるから、本法の趣旨に従って前記のように解したからといって決して不当ではない。本件についてこれをみると、被告人らは、雇い入れたトルコ嬢を三班に編成し、早番は毎日午後二時三〇分から翌日午前三時三〇分ころまで、遅番は毎日午後四時三〇分から翌日午前三時三〇分ころまで、公休出勤者は午後六時三〇分から翌日午前三時三〇分ころまでと定めて、自己の管理するいわゆるトルコ風呂営業所に輪番制で集合待機させ、出店後は外出を禁止し、無断欠勤、遅刻、早退を許さず、違反した者には条件の悪い個室をあてがうなどの方法をとり、これを手段として後記のとおりトルコ嬢に売春をさせていたことが認められるから、本件において「居住させ」るという要件が充たされていたことは明らかというべきである。

他方、売春防止法一二条における、人に「売春をさせ」るという要件は、人が売春をするにつき、これを仕向けるような支配影響力を行使することをいうと解すべきところ、本件においては、被告人らは、トルコ嬢に対して入浴の世話や労務に対応する固定給を支給せず、遊客一人につき一万三〇〇〇円と一律に定めた売春料のみをその収入にあてることとし(なお、うち一〇〇〇円は店に「バック」するものとしていた)、トルコ風呂営業所に集合待機させてあるトルコ嬢を遊客に割当て、客寄せのためトルコ嬢に対し避妊器具を用いないで性交に応じるよう指示し、月二回の性病検査を義務づけてうち一回は診断書を提出させ、遊客からトルコ嬢の売春等のサービスについてアンケートをとってサービス上の注意を与えるなどの行為に出ていたことが明らかに認められるから、本件において「売春をさせ」るという要件が充たされていることはいうまでもない。

次に、前記(ロ)の所論について検討すると、被告人は、本件「ざ・たれんと」なるトルコ風呂の実質的経営者であって、その具体的な管理についてこそ小棚木及び同人の指示の下にあった飛田に任せていたものの、前記のような管理売春を内容とする営業を行うことについては小棚木に指示し、同人との間に売春料、売上目標、売上金の処置等について取決め、営業開始後毎日売上金を受取りその経営状態を熟知していたことが明らかであるから、被告人に共謀に基づく共同正犯として責任があるのは当然である(なお、原判決中別紙一覧表番号11の売春回数欄の三二五回は一八一回の誤記と認める)。

以上の次第により、論旨はすべて理由がないので、刑訴法三九六条により本件控訴を棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 桑田連平 裁判官 香城敏麿 植村立郎)

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