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東京高等裁判所 昭和57年(行ケ)225号 判決 1984年5月23日

原告 マメトラ農機株式会社

被告 特許庁長官

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者双方の求めた裁判

原告は、「特許庁が昭和五五年審判第一六三六号事件について昭和五七年八月九日にした審決を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、被告は主文同旨の判決を求めた。

第二(原告) 請求の原因

一  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和三九年一一月二一日、名称を「田植機における移植杆の停止装置」とする発明につき特許出願(特願昭三九―六五六四八号)し、昭和四六年一月三一日、右出願を原出願として、名称を「動力田植機における移植杆自動停止装置」とする発明につき分割出願(特願昭四六―三四五九号)し、昭和五〇年九月四日、右出願を原出願として、名称を「田植機における移植杆自動停止装置」とする発明につき分割出願(昭和五〇年特許願第一〇七八一四号)した(以下、特願昭三九―六五六四八号による出題を「原々出願」といい、特願昭四六―三四五九号による出願を「原出願」といい、昭和五〇年特許願第一〇七八一四号による出願を「本願」、その発明を「本願発明」という。)。特許庁は、昭和五四年一二月三日、本願につき拒絶査定をし、これに対する審判請求を昭和五五年審判第一六三六号事件として審理したうえ、同年七月二九日、「本件審判の請求は成り立たない。」との審決をした。この審決については、東京高等裁判所において、同年(行ケ)第二七二号事件として審理され、昭和五六年五月二八日、右審決を取消す旨の判決が言渡された。そこで、特許庁は、右審判事件について、再度審理したうえ、昭和五七年八月九日、「本件審判の請求は成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし、その謄本は、同年九月二二日、原告に送達された。

二  本願発明の要旨

動力伝達機構により移植杆が一定の軌跡を描いて作動する動力田植機において、操作杆の作動により、移植杆が上方にある際に動力伝達機構中の動力伝達装置が断たれ、移植杆が上方に停止するようにした機構を備えたことを特長とする移植杆自動停止装置。

三  本件審決の理由の要旨

本願発明の要旨は前項記載のとおりである。

本願発明における「動力伝達機構中の動力伝達を断つて移植杆を上方に停止させる」構成は、その特許請求の範囲の記載からみて、なんらの限定も付されていないから、カムと接触子(カムローラ)によるもの以外の構成によつて動力伝達機構中の動力伝達を断つて移植杆を上方に停止させるものも含むのである。これに対し、原出願の明細書又は図面(以下、「明細書又は図面」を単に「明細書」という。)に記載されている動力伝達機構中の動力伝達を断つて移植杆を上方に停止させる構成は、カムと接触子によるものしか開示されておらず、それ以外の構成は示唆されてもいない。このように、本願は、原出願の明細書に開示された事項の範囲外のものを含む発明について特許出願をしたものであつて、適法な分割出願とは認められないから、本願の出願日は、原出願の出願日まで遡及せず、現実に出願をした昭和五〇年九月四日ということになる。

しかして、特公昭四四―二五六〇六号公報(原々出願である前記特願昭三九―六五六四八号の公告公報、以下「引用例」という。)は、本願の出願日が右のように原出願の出願日まで遡及しない以上、本願出願前に日本国内に頒布された刊行物であり、また、これに記載された発明は本願発明と同一である。

よつて、本願発明は特許法二九条一項三号に該当し、特許を受けることができない。

四  本件審決を取消すべき事由

本件審決は、後記のとおり、原出願に包含された発明についての認定を誤り、ひいては、本願が原出願の明細書に開示された事項の範囲外のものを含む発明について特許出願したものであるとして、本願の出願日が原々出願の出願日まで遡及しないとし、これを前提として本願発明が特許を受けることができないとしたものであつて、右認定判断の誤りは、審決の結論に影響を及ぼすものであることは明らかであるから、違法としてこれを取消すべきものである。

1  本願発明について

本願発明の要旨は前記二記載のとおりであり、本願発明は、「動力により一定の軌跡を描いて移動する移植杆を備えた動力田植機を改良したもので、動力田植機が枕地において円滑に進行方向を変更することを目的」としている(本願明細書一頁一〇行ないし一三行)。そして、従来技術では、「移植杆が動力により一定の軌跡を描いて自動的に作動する田植機は枕地で機体の進行を変えるため苗の植付けを中止するべく操作杆を操作して移植杆への動力の伝達を断つと、移植杆の下端がそのまま水田中又は水田面に接近した位置で停止することがある。このような状態の田植機の方向を変えると、移植杆の下端が耕地に触れて機体の移動を妨害するばかりでなく、ひいては下端に備えた挾持爪のような苗の植付部を痛めるおそれがある。」(同五頁四行ないし一三行)という問題があつた。しかしながら、本願発明においては、操作杆を操作すると、「移植杆が上方の位置に移動したときに移植杆は自動的に停止する。」(昭和五五年二月一四日付手続補正書「8補正の内容」2)、そして、「移植杆17は必ず上方の位置で停止するので機体は枕地において円滑にその方向を変えることができるのみならず、移植杆17の下端に備えた挾持爪18のような苗植付部を損傷するおそれがないという効果が生ずる。」(昭和五三年九月一四日付手続補正書「8補正の内容」、本願明細書五頁一八行ないし六頁二行)のである。

本願発明の明細書は、右の作用効果を生ずる動力伝達機構の実施例として図面第一図ないし第三図を添付し(別紙添付の第一図ないし第三図と同じ)、操作杆29の先端に軸着する上下方向の連杆27を接触子であるカムローラ25を有する前後方向のロツト24に連結し、ロツト24をクラツチ19を摺動させるフオーク22を上端に設けた回軸21の下端にアーム23を介して連結し、操作杆29を操作することにより連杆27を介して接触子25を下降させ、そして移植杆を前後方向に作動させるクランク軸12に設けた偏心楕円形のカム26の突出部が下降した接触子25を押すと、回軸21が回転しクラツチ19を摺動させて移植杆17が上方にある際に動力を断ち移植杆を停止させるという動力伝達機構を例示する(本願明細書一頁一四行ないし五頁三行)。

2  原出願について

本願出願前に出願公告された原出願の公告公報(特公昭五〇―二六四四三号、以下「原出願公報」という。)は、本願発明と同一の実施例を示すとともに(添付図面は別紙第一ないし第三図と同じ)、原出願の発明がその特許請求の範囲に記載するとおりの次のA及びBの二要件を要旨とする動力田植機における移植杆自動装置の発明であることを示している。

A クラツチを有する動力伝達機構により移植杆が一定の軌跡を描いて作動する動力田植機において、操作杆の作動により移植杆が上方にある際にクラツチが作動して動力伝達機構中の動力伝達装置が断たれ、移植杆が上方に停止するようにした機構を備える。

B A要件における動力伝達機構中にはカムと接触子が介在し、操作杆の作動によりカムと接触子が触れる状態となつて移植杆が停止する。

このように、原出願の発明がA要件を備えていることを前提として、原出願公報は、従来の田植機がかかえる問題につき、前記本願明細書の五頁四行ないし一三行と同じ記載(三欄二八行ないし三七行)をしたうえ、「ところがこの発明においてはクラツチ19を摺動して移植杆17への動力伝達を断つべく操作杆29を操作すると、まず接触子25とカム26が触れ合う状態になり、そして移植杆が上方の位置に移動したときに該カムによりクラツチ19をクラツチ歯車3より離した移植杆を自動的に停止させる。従つて機体は枕地において円滑にその方向を変えることができるのみならず、移植杆17の下端に備えた挾持爪18のような苗植付部を損傷するおそれがない。」(原出願公報三欄三八行ないし四欄七行)との作用効果を原出願の発明が奏する旨を記載しているのである。

3  本願発明と原出願の発明について

本願発明は、原出願の発明と実施例が同一であり、A、B両要件からなる原出願の発明のA要件を要旨とする発明で、その構成はもとより、枕地における機体の方向変換を容易にし苗植付部を損傷しないという作用及び効果も原出願に記載され、原出願に包含される発明であることは明らかである。また、本願発明の実施例と同一の実施例による原々出願当初の明細書及び図面(以下「原々出願明細書」という。)の発明の詳細な説明書中にも、右実施例の構造と作用の説明が記載され、三頁二〇行から四頁八行までの部分に本願発明が要旨とするA要件が記載されている。

したがつて、本願は、二以上の発明を包含する原特許出願の一部を特許法四四条一項により新たな特許出願としたものであり、その出願日は、原出願が遡及した原々出願の出願日である昭和三九年一一月二一日まで遡及する。

4  しかるに、審決は、原出願の明細書にはA要件の動力伝達機構中の動力伝達を断つて移植杆を上方に停止させる構成はB要件のカムと接触子によるものしか開示していないと認定し、これを前提として、本願は原出願の明細書に開示された事項の範囲外のものを含む発明についての特許出願であると判断して、その出願日の遡及を認めなかつたのであるが、前記1ないし3に述べたことに照らせば、右の認定判断は誤りである。

第三(被告) 請求の原因の認否及び主張

一  請求の原因一ないし三の事実は認める。同四は争う。

二  主張

1  原出願の出願公告された明細書と同内容のものと認められる原出願公報によれば、原出願の発明は、

(一) 「動力により一定の軌跡を描いて移動する移植杆(「移動杆」は誤記と認められる。)を備えた動力田植機を改良したもので、動力田植機が枕地において円滑に進行方向を変更すること」(一欄二二行ないし二五行)を目的とし、

(二) 特許請求の範囲に記載されたとおりの「クラツチを有する動力伝達機構により移植杆が一定の軌跡を描いて作動する動力田植機において、操作杆の作動により、動力伝達機構中に介在するカムと接触子が触れる状態となつて移植杆が上方にある際にクラツチが作動して動力伝達機構中の動力伝達装置が断たれ、移植杆が上方に停止するようにした機構を備えたことを特徴とする移植杆自動停止装置」(四欄二六行ないし三三行)を要旨とする構成とし、

(三) 「この発明においてはクラツチ19を摺動して移植杆17への動力伝達を断つべく操作杆29を操作すると、まず接触子25とカム26が触れ合う状態になり、そして移植杆が上方の位置に移動したときに該カムによりクラツチ19をクラツチ歯車3より離し移植杆を自動的に停止させる」(三欄三八行ないし四欄四行)という作用を奏し、

(四) 「従つて機体は枕地において円滑にその方向を変えることができるのみならず、移植杆17の下端の備えた挾持爪18のような苗付部を損傷するおそれがない。」(四欄四行ないし七行)及び「このように本発明においては、クラツチ19を作動するカム26は、主軸2より移植杆17への動力伝達機構中に介在し、カム26と同調して、移植杆が停止するのでカム26はさらに旋回してクラツチ19を再び歯車3に係合させるおそれなく、従つて操作杆29を旧位置に戻さぬ限り車体の振動等によつては、クラツチ19は、歯車3に係合することなく移植杆は確実に停止する」(四欄一六行ないし二三行)という効果を奏する。

という記載がある。

右各記載によれば、(一)に記載した目的を達成するために、(二)に記載のようにクラツチを有する動力伝達機構中にカムと接触子とを介在させたものを発明の要旨とする構成とし、この構成によつて(三)及び(四)に記載された作用効果を奏するものと認められる。そして、原出願公報には、原出願の発明である動力伝達機構中にカムと接触子とを介在させたものの実施例が記載されているのみであるし、原告指摘の原出願公報の記載をみても、動力伝達機構中にカムと接触子とを介在させたB要件の作用効果が記載されているにとどまり、A要件の作用効果については、原出願公報中には何も記載されていないのである。

更に、特許法三六条五項及び三八条本文の規定により、特許請求の範囲には、発明の詳細な説明に記載した発明の構成に欠くことができない事項のみが一発明として記載されるべきものであるから、原出願公報の特許請求の範囲には、前記(二)のとおり一つの発明が記載されているにすぎない。

したがつて、原出願の発明はその公報の特許請求の範囲に記載されたとおりのものであつて、原告主張のA及びBの二要件を要旨とする発明であるとは認められないし、まして、同公報にA要件よりなる発明が記載され又は示唆されているものと認めることはできない。

2  原々出願明細書の原告指摘の箇所をみても、原出願公報と同様にカム26とカムローラ(原出願発明における接触子と同じである)25が触れる状態となつたことによつてクラツチの動力を断つものの作用効果が記載されているにすぎない。したがつて、原々出願明細書中の右記載は、原出願中にA要件よりなる発明及びその作用効果が記載されていたことを主張する根拠とはならない。

3  以上のように、原出願公報には原告主張のA要件よりなる発明は示唆されてもいないから、本願は適法な分割出願とは認められない。したがつて、本件審決には原告主張のような事実誤認はなく、本願の出願日を昭和五〇年九月四日と認めた判断に誤りはない。

第四証拠関係<省略>

理由

一  請求の原因一ないし三の事実は当事者間に争いがない。

二  成立に争いのない甲第二号証の一によれば、原出願は、昭和五〇年九月一日出願公告(特公昭五〇―二六四四三号)されたことが認められる。そこで、本願発明が、原出願公報(出願公告された明細書と同じ内容のもの)に記載されているか否かについて、検討する。

三  前掲甲第二号証の一、成立に争いのない甲第二号証の二ないし四によれば、次の事実を認めることができる。

1  本願も原出願も、自動田植機において一定の軌跡を描いて自動的に作動する移植杆の自動停止装置に関する発明である。即ち、従前の田植機では、作業中に苗の植付けを停止すべく移植杆に通ずる操作杆を操作して移植杆への動力の伝達を断つと、移植杆の下端が水田中又は水田面に近接した位置で停止することがあり、このような状態で田植機の方向転換をはかると、移植杆の下端が耕地に触れて機体の移動を妨げ、また、下端に備えた挾持爪のような苗の植付部を痛めるおそれがあるという欠点があるとされていた。両発明は、いずれも移植杆が右のような位置で停止することを避けるため、操作杆の作動により、移植杆が水田面より離間した上方位置にきたときに動力の伝達が断たれ、移植杆を自動的に停止させる装置を田植機に備えたもので、本願明細書も原出願公報も、同じ実施例によつてその発明を説明しているが、田植機の各機構の作動関係は、原告が請求の原因四、1において主張するとおりである。

2  右自動停止装置のうち、(イ)動力伝達機構の構成及び(ロ)動力伝達機構中の動力伝達を断つて移植杆を上方に停止させる構成について、本願発明の特許請求の範囲は、いずれも、なんらの限定をも付していないのに対し、原出願公報は、(イ)の構成につきクラツチを有する旨の限定を付し、(ロ)の構成につき動力伝達機構中にカムと接触子(カムローラ)が触れることによつて、動力伝達を断ち、移植杆を上方に停止させる旨の限定を付した発明を記載しており、右の二点につきそれ以外の構成は開示していない。

右認定によれば、本願発明は、原出願公報に開示された発明の範囲を超えるものと認めざるを得ない。

四  原告は、原出願公報の記載の発明につき、上位概念としてのA要件及びその一部の具体的構成であるB要件と分説し、本願発明に相当するA要件が原出願公報に記載されている旨主張する。

しかし、例えば、明細書の発明の詳細な説明の項に、その発明の課題(目的)のほか、その課題解決のための発明に必要な構成を上位概念的に記載し、かつその効果をも記載したうえ、二以上の実施例についてその構成及び効果を具体的に説明しているようなものであれば、その特許請求の範囲の記載がいずれかの実施例に即した具体的構成の形をとつていたとしても、その明細書には全体として上位概念としての発明の開示があると解する余地もあるが、前掲甲第二号証の一によれば、原出願公報は発明の詳細な説明の冒頭に、「これは先に開発した特願昭三九―二八七五三号(特公昭四三―二三五三一)の発明に示すような動力により一定の軌跡を描いて移動する移動杆(「移植杆」の誤記と認める。)を備えた動力田植機を改良したもので、動力田植機が枕地において円滑に進行方向を変更することを目的とする発明である。」(一欄二一行ないし二六行)とその目的を記載し、それに引続く記載は、前記三、1に認定した従前の田植機の欠点に関する部分(三欄二八行ないし三七行)を除きすべて別紙図面記載の実施例に関するもののみにとどまつていることが認められる。かような記載からは、上位概念としての発明は幾通りもの構成を考え得る場合があり、その構成可能な上位の発明がすべて開示されているものとみることは相当でなく、特許請求の範囲の記載との関連で、どの限度で上位の発明が開示されているかを判断すべきである。そして、右のような記載内容の原出願公報が、前記のとおり、その特許請求の範囲において、動力伝達機構についてクラツチを有するものと限定し、動力伝達の切断及び移植杆の上方停止についてカム及び接触子によるものと限定している以上、同公報には右各構成につきその限定を超えるものは開示されていないと認めるのが相当である。原告がA要件記載の根拠として主張する前掲甲第二号証の一の原出願公報の記載箇所のうち、その三欄二八行ないし三七行の部分は前記のような従来の田植機の欠点を述べたものであり、同欄三八行ないし四欄七行は具体的にB要件を備えた田植機を使用すれば、そのような欠点を回避することを述べたものであると認められるから、特許請求の範囲の記載をも参酌して右記載をみれば、これをもつて、直ちに動力伝達の切断及び移植杆の上方停止についてなんら限定の付されていないA要件が原出願公報に開示されているものということはできない。

ところで、前掲甲第二号証の一、成立に争いのない甲第五号証によれば、原出願の出願当初の明細書は出願後補正され、その補正されたものが前記のように昭和五〇年九月一日に出願公告されたものであることが認められる。しかして、本願は、右公告後である昭和五〇年九月四日に出願されたものであるが、かかる出願公告後の分割出願にあつては、前記のように出願公告された明細書によつてその適否を判断すれば足り、その補正前の出願当初の明細書は、仮に分割に係る発明と実質的に同一と認められる発明が記載されているとしても、これを参酌すべきものではないと解すべきである。即ち、出願公告をすべき旨の決定の送達前は、特許法四一条により、出願当初の明細書の記載の範囲内ならばその内容について、特段の制約なくその補正が許されるのに対し、同決定送達後は、同法六四条、一七条の三所定の制約の下にのみ公告公報に記載された明細書(同条一項にいう「願書に添付した明細書」とは、この明細書を指すものと解せられる。)の補正が許容されるのである。このことは、出願公告された後は、その出願にかかる発明は公告公報に記載された明細書の記載以上に拡がる余地のないことを意味するものと解せられるから、公告後の分割は、公告公報に記載された明細書の記載の範囲を超え得ないものと解するのが相当である。したがつて、公告後は、公告公報に記載された明細書が分割の対象となる特許出願(原出願)の内容となるのであり、分割された発明が原出願の明細書に記載されているか否かはこの明細書によつて判断すべきこととなるのであつて、出願当初の明細書によつて右発明の記載の有無を決すべきではない。

五  これまで述べたところによれば、本願発明が原出願公報に記載されているとは認められないから、本願の出願は特許法四四条の分割出願の要件を備えていない。したがつて、本願の出願日は、原告がその原々出願の出願日であると主張する昭和三九年一一月二一日まで遡及する理由はなく、現実に出願がされた昭和五〇年九月四日ということになる。

ところで、成立に争いのない甲第三号証の一、二(引用例)によれば、引用例は本願出願前の昭和四四年一〇月二八日に日本国内に頒布された刊行物であるところ、その特許請求の範囲には「一定の軌跡を描いて作動する移植杆がその作動用クラツチレバーを切ることにより、苗を保持する移植杆は、そのまま軌跡に沿つて作動し、苗を植付けた後、最上部位置で停止するようにした田植機における移植杆停止装置」なる発明が記載され、その詳細な説明の項において、移植杆が動力伝達機構により作動される本願明細書記載のものと同一の動力田植機の実施例に即してその発明が説明されており、右の「作動用クラツチレバー」は本願における操作杆であり、「作動用クラツチレバーを切る」とは動力伝達を断つべく操作杆を作動することを意味していることが認められる。したがつて、引用例には、「動力伝達機構により移植杆が一定の軌跡を描いて作動する動力田植機において、操作杆の作動により、移植杆が最上部にある際に動力伝達機構中の動力伝達装置が断たれ、移植杆が最上部に停止する」ようにした機構の発明が記載されているものということができる。他方、本願発明において、移植杆の停止位置が最上部をも含むことは明らかであるから、本願発明と引用例記載の発明とは重複する関係にあり、両者は同一であると認めざるを得ない。

そうであるとすれば、本願発明は特許法二九条一項三号により特許を受けることができないものというべきである。

六  以上のとおりであつて、原告の主張する取消事由は理由がなく、本件審決に誤りはない。

よつて、本件審決の取消を求める原告の本訴請求を失当として棄却し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 瀧川叡一 楠賢二 松野嘉貞)

別紙図面

第1図

第2図

第3図

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