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東京高等裁判所 昭和55年(ラ)175号 決定 1980年4月23日

抗告人 千恵盛興業株式会社

右代表者代表取締役 中川健介

右代理人弁護士 長尾憲治

相手方 長嶺音吉

主文

原決定を取り消す。

本件担保取消の申立を却下する。

理由

一  本件抗告の趣旨及び理由は、別紙記載のとおりである。

二  よって、判断する。

(一)  本件記録によれば、次の事実が認められる。

(1)  申立外朽木秀実を債権者とし抗告人を債務者とする東京地方裁判所昭和五二年(ヨ)第五三六七号占有使用妨害禁止等仮処分事件につき、同裁判所は、昭和五二年七月二七日、朽木に保証(以下「本件保証」という)として金一〇〇万円をたてさせて、抗告人(賃貸人)は朽木(賃借人)に対し、賃貸借物件であるマンション内店舗(以下「本件店舗」という。)に水道、電気等の供給を止めてはならない等の旨の仮処分決定をなし、同決定は翌二八日抗告人に送達された。

(2)  相手方を債権者とし朽木を債務者、国を第三債務者とする東京地方裁判所昭和五二年(ル)第四〇二九号、同年(ヲ)第六九六〇号債権差押及び取立命令事件につき、同裁判所は、昭和五二年一〇月一二日、本件保証にかかる供託金取戻請求権に対して債権差押及び取立命令を発し、同命令は同月一三日国に同月一四日朽木に送達された。

(3)  抗告人を原告とし朽木外一名を被告とする本件店舗明渡等請求事件(東京地方裁判所昭和五三年(ワ)第二五〇九号)について昭和五四年七月一七日裁判上の和解が成立したところ、和解条項では、朽木が抗告人に対して支払うべき昭和五四年六月三〇日現在の本件店舗の賃料、水道、電気料金等の未払債務額は合計金一二九〇万七八八七円であり、これを同年七月から同五七年六月までに分割して支払う旨が抗告人と朽木間において約定された。

(4)  本件保証によって担保される債権は、仮処分の執行によって生ずる損害賠償請求権であり、本件店舗の水道、電気料金相当額が含まれているところ、本件仮処分決定後の昭和五二年八月一日から前記和解で定める昭和五四年六月三〇日までの右料金額は、金一〇〇万円を下回ってはいない。

(5)  朽木は昭和五五年一月二五日本件仮処分申請を取下げ、同人の承継人である相手方は、同日東京地方裁判所に対して民訴法一一五条三項による権利行使の催告を申立て、同裁判所は、同月三〇日、抗告人に対して催告書をもってその送達の日から一四日以内に担保権利者としての権利を行使すべき旨を催告し、同書面は同月三一日抗告人に送達されたが、右期間内に抗告人において権利の行使をなさなかったため、同裁判所は同年二月二〇日担保取消決定をし、同決定は同月二二日抗告人に送達された。

(6)  ところで、抗告人は、昭和五五年二月一九日、朽木を債務者、国を第三債務者とし、本件保証にかかる供託金取戻請求権に対して前記和解調書に基づいて債権差押命令(横浜地方裁判所昭和五五年(ル)第二二四号)、次いで同年三月七日債権取立命令(同裁判所同年(ヲ)第四三七号)を得て、同月一一日この旨を証明した。

(二)  以上の事実によれば、和解調書に記載された未払賃料等のうち金一〇〇万円を下回らない抗告人の朽木に対する水道、電気料金債権は本件保証にかかる被担保債権の損害賠償請求権と内容において同一であるから、抗告人のなした前記強制執行の申立が権利の行使にあたることは明らかである。

そして、担保取消について権利者の同意があったものとみなされて適法に担保取消決定がなされても、これが確定するまでの間に、権利行使の事実を証明して抗告すれば、権利者は同意があったものとみなされることを免れるものと解するのが相当である。

以上の説示によれば、原決定はそれがなされた当時においては違法であるとはいえないとしても、抗告人において権利行使の事実を証明して抗告した以上は、担保を取り消すことは許されないというべきである。

よって、原決定は失当としてこれを取り消し、本件担保取消の申立を却下することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 田中永司 裁判官 宮崎啓一 岩井康倶)

<以下省略>

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