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東京高等裁判所 昭和55年(ラ)1372号 決定 1981年1月29日

主文

本件抗告を棄却する。

理由

一本件抗告の趣旨は「原決定を取消す。」との裁判を求めるというのであり、その理由は別紙(1)のとおりである。

二本件競売事件記録によれば、本件競売目的物件の一である別紙(2)物件目録記載の建物(以下「本件建物」という。)につき、本件競売申立の登記に先だち、横浜地方法務局川崎支局昭和五四年一〇月二七日受付第三四七一二号をもつてミナミ金属工業有限会社を賃借権者とする存続期間三年間の賃借権の設定登記(賃借権を譲渡、転貸することができる旨の特約の記載もある。)がされ、その後右競売申立登記より遅れて、昭和五五年四月七日贈与を原因とする右川崎支局昭和五五年四月八日受付第九七九六号をもつて育財信用株式会社を賃借権者とする賃借権移転登記が経由されていることが認められる。他方、本件競売及び競落期日の公告は昭和五五年一一月一一日になされ、その公告中には、「物件の賃貸借関係」として、賃借権者を前記ミナミ金属工業有限会社とし、借賃及び存続期間については前記設定登記の記載に相応する内容の記載がなされている。

三抗告人は、右のように公告に記載された者とは異なる者(右育財信用株式会社)がすでに現在の賃借権者となつている点に、本件公告の要件不備があると主張する。しかし、賃貸借の公告に関する民事執行法付則第三条による改正前の民事訴訟法第六五八条第三号の規定は、目的物件に賃貸借がある場合におけるその期限、借賃及び敷金に関する事項を公告具備事項として掲げながら、その時点における賃借人の特定に関する事項は必要的具備事項とはしていない。それ故、その時点における賃借権者が誰であるかを記載しなくても、元来右公告として不備ではないのであるが、さらに、本件におけるように、公告に賃借権者を掲記した場合においてその時点ではすでに当該賃借権が移転しているときでも、競落人が対抗を受ける当該賃貸借関係の内容において異なるところがなければ、前記賃貸借公告の目的(賃貸借の存否、内容を予知させ、競買人が後日不測の損害を被ることを防止する。)に反することにはならないので、賃貸借に関する公告に要件不備の瑕疵があることにはならないものと解すべきである。

したがって、前記二の事実関係があつても、本件の競売及び競落期日の公告は、要件不備のものとはならず、競落を許さない原因とすることはできない。

四以上の次第で、抗告人の主張は失当であり、また、記録を精査しても、他に原決定を取消すべき違法の点を発見できないから、本件抗告はこれを棄却することとして、主文のとおり決定する。

(小河八十次 内田恒久 野田宏)

別紙(1)〔抗告の理由〕

本件競売期日の公告に(一)建物についてミナミ金属有限会社の短期賃貸借契約がある旨の記載がなされている。

然し右期日の公告の時点ではその賃借権は存在せざるものにして昭和五五年四月八日付にて前記ミナミ金属が有する賃借権は育財信用株式会社に移転登記を了している。

従つて期日の公告は真正を欠くものと言うべきであり民事訴訟法第六五八条第三号の要件を具備していない民事訴訟法第六七二条第四号同第六七四条に該当するので競落許可取消しが相当である。

因つて抗告趣旨の如き御裁判を求める。

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