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東京高等裁判所 昭和55年(ネ)474号 判決 1981年1月29日

控訴人(第四六九号)

山梨貸切自動車株式会社

右代表者

小佐野榮

右訴訟代理人

関野昭治

古明地正康

控訴人(第四七四号)

山梨貸切自動車労働組合

右代表者中央執行委員長

小尾光治

右訴訟代理人

宮里邦雄

外二名

被控訴人

小嶋武

右訴訟代理人

寺島勝洋

関本立美

主文

本件各控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実《省略》

理由

当裁判所も、被控訴人の請求はいずれも正当として認容すべきものと判断するものであつて、その理由は次に付加訂正するほか、原判決理由説示のとおりであるからこれを引用する。

一原判決三六枚目表二行目を「第一 まず被控訴人と控訴人両名との関係において本件各除名処分の効力について判断する。」に改め、同四行目「労働組合であること」の次に「(控訴会社はこれを明らかに争わないので自白したものとみなす。)」を加える。

二三七枚目裏八行目を削る。

三三八枚目表七行目「決定する」の次に「(同規約は、統制処分以外の大会決議については、無記名投票による三分の二以上の賛成を要件としていない。)」を加え、三九枚目表二行目「被告組合」を「控訴人ら」に改め、同八行目「瑕疵があり」の次に「その余の手続上の瑕疵及び除名理由の存否を問うまでもなく、」を加える。

四同一〇行目から四七枚目表四行目までを「2 削除」に改める。

五四七枚目表末行の次に次のとおり加える。

「控訴人らが主な除名理由と主張する歩合保障二重取りの問題についても、第二次除名処分に至るまで(第一次除名処分の前後を通じ)被控訴人は査問委員会において弁明の機会を与えられていない。すなわち、控訴組合が昭和五一年七月一〇日査問委員会を開き、席上被控訴人に対し前記歩合保障二重取りの問題について事実の確認を行なつたこと及び被控訴人の弁明のなかつたことは当事者間に争いがなく、控訴人らはその際被控訴人に弁明の機会を与えた旨主張するが、<証拠>によれば、同日の査問委員会には被控訴人が出席したが、前記問題につき事実の確認の終了後査問委員会議長(中央執行委員長)小尾光治から被控訴人に対し日を改めて出席を求める旨を告げて直ちに被控訴人を退席させていること及び第一次除名処分が決議された同月一五日の大会までに被控訴人の処分につき同月三日に開かれた査問委員会には被控訴人の出席を求めず、他に査問委員会が開かれた事実のないことが認められる。右事実によると、被控訴人は同月一〇日の査問委員会において査問の対象たる歩合保障二重取りの事実は告げられているのであるから、その席上、事実上進んで弁明の発言をしえないわけではないけれども、査問委員会が一つの会議体である以上、その議長において議事を主宰・整理すべきことはいうまでもなく、議長が被査問者に対し弁明を求め、あるいは弁明を許す旨を明らかにしない限り弁明の機会を与えたことにならない(前掲<証拠>によれば、被控訴人は同月一五日の大会において控訴組合の主張する制裁事由につき種々弁明していることが認められ、被控訴人に弁明の意思がなかつたとはいいえない。)。そして、右大会以後、第二次除名処分の決議された同年八月二六日の大会までの間に右問題について被控訴人に査問委員会における弁明の機会を与えた旨の主張立証がなく、却つて、<証拠>によれば、その間、査問委員会は、主な処分理由である歩合保障二重取りの問題につき事実確認は済んでいるし、被控訴人の同調者と目される角出英昭らが査問委員会の事情聴取にも応じないので、被控訴人に出頭を求めて弁明の機会を与えるのは無意味であるとして、その出頭を求めることすらしなかつた事実が認められる。

ところで、控訴組合の規約五四条には「組合は処罰の適要する行為のあつた時は執行委員会が査問委員会を設けて査問する。査問委員会はその運用規定により厳正に調査を行ないその答申に基づいて大会に於いて無記名投票により三分の二以上の賛成をもつて決定する。但しこの場合本人の申し出があれば弁明の機会を与えなければならない。」旨、右運用規定である査問委員会規定六条には「査問委員会は会議の席上本人の弁明を聴取しなければならない。」旨それぞれ定めていることが認められ、統制処分の組合員の権利義務に対する影響に鑑みると、査問委員会が右規定により被処分者に弁明の機会を与えたうえ答申を行うことは大会の除名決議の効力要件と解さなければならない。」

六同裏五行目「被告組合」を「控訴人ら」に四八枚目裏四行目「いえるか」から同七行目までを「いえるか疑わしく、もともと、控訴組合のような組織体においてその規約所定の手続・方式によらないで表明された代議員ら多数の意思をもつて控訴組合としての意思が確定されたとはいえないのである。右採決に先立ち、代議員から起立採決方式によるべき旨の動議が出され、被控訴人もこれに反対意見を述べることなく右動議が六三対五で可決された事実が原審における控訴組合代表者尋問結果(第一回)によつて認められるが、かかる事実も右判断を左右しない。」にそれぞれ改め、同八行目「それにまた、」の次に「同年八月二六日第二次除名処分が決議される過程において」を加え、四九枚目表六行目「被告組合」を「むしろ、<中略―証拠>によれば、同年八月二〇日の査問委員会は、右一三件の事由を除名理由に追加し、第一次除名処分を再確認する旨決議し、同月二六日の大会においてもその旨の答申がなされたうえ(除名理由につき区分することなく)採決に付されたこと及び第二次除名処分の通告書にも右追加理由の記載があることが認められる。控訴人らに、同裏四行目「臨時組合大会」から同六行目「とおりである」までを「査問委員会における査問手続は統制処分の前提、かつ、効力要件であつて、統制処分の公正を確保し、被処分者の権利・利益を擁護するうえで欠くことのできないものであつて、組合大会で弁明の機会を付与したとしても、これをもつて代替することのできないものであるばかりでなく、本件にあつては組合規約一八条に「大会の日程、議案その他必要な事項は大会開催期日五日前迄に組合員に告知しなければならない。」旨規約していることが認められるところ、<証拠>によれば、第二次除名処分の決議された同年八月二六日の大会の日程の告知が被控訴人(第一次除名処分が無効である以上組合員である。)になされたのが、同月二四日午後一〇時四五分頃であつたことが認められるので、この点において右大会の成立の適法性も疑わしく、すくなくとも、被控訴人に対しその処分につき右大会において適法な弁明の機会を与えたことにはなりえないのである。さらに、控訴人らは、第二次除名処分は、被控訴人が第一次除名処分の大会決議が起立採決方式によつた点を違法と主張したので、控訴組合規約所定の無記名投票の手続を履践してその除名意思を再確認したものと主張するが、第一次除名処分の瑕疵が右に止まらないことは既に述べたとおりであるうえ、第二次除名処分は、もとより独立した統制処分であつて、それ自体組合規約に照らしその効力を判断すべきものであり、右のような主張に立つて第二次除名処分の効力を肯認することはできない」にそれぞれ改める。

七四九枚目裏九行目「新らたな」を「各」に同一〇行目「この点でもまた」を「その余の手続上の瑕疵及び除名理由の存否を問うまでもなく、」にそれぞれ改める。

八同末行の次に次のとおり加える。

「4(一) 原判決三九枚目表末行「被告組合」から同裏五行日までの記載を引用する。

(二) 四〇枚目裏九行目「そこで」から四三枚目表二行目まで(但し、四一枚目表初行「六一号証」の次に「(いずれも被控訴人・控訴会社間では弁論の全趣旨によりその成立を認める。)」を加え、同裏初行「を含めた」を「及び」に改める。)の記載を引用する。

(三) ところで、前掲控訴組合の規約三五条には「査問委員会は執行委員及び中央委員を以つて構成し(以下略)」との、前掲査問委員会規定一条には「査問委員は、中央執行委員及び支部長を以つて構成し(以下略)」との、定めが存し、相矛盾するが、中央執行委員がその構成員となることはいずれにせよ否定しえないところであつて、してみると、査問委員会の設置と同時に、被控訴人とともに全国連絡会議の方針に同調する小沢ほか四名の中央執行委員は解任されて査問委員の地位を失つていたのである。右解任の効力についてはしばらくおくが、査問委員会の構成につき、被控訴人の側からその公正さを疑われてもやむを得ない状態にあつたものといわなければならない。そして、叙上の事実からすれば、被控訴人は、第一次、第二次各除名処分の大会決議当時控訴組合内におけるいわゆる少数派となつていたものと推認すべきである。このような場合には、被控訴人の権利擁護のため、これに対する統制処分につき組合規約の定める手続の履践は軽視しがたい意義をもつものといわなければならない。」

九五〇枚目表一〇行目「組合との間に」の次に「控訴会社は控訴組合の被除名者を解雇すべき旨の」を加える。

一〇五一枚目表七行目から五二枚目表二行目までを次のとおりに改める。

「<中略―証拠>によれば、控訴会社は、甲府地方裁判所から昭和五一年(ヨ)第一四八号地位保全仮処分事件について昭和五一年八月二八日被控訴人が控訴会社の従業員であることを仮に定める旨の決定を受け、前記のとおり第一次解雇を取消したところ、同年九月二日控訴組合から、被控訴人に対し第二次除名処分をしたことを理由に改めて労働協約四条により解雇するよう求められた(丙第二五号証)が、前記仮処分決定の趣旨により右要求を拒否し、控訴組合に対し資料の提供を求めて、第一次除名処分までの査問委員会調査経過と大会答申、同年七月一五日及び八月二六日の大会経過報告、渡辺昭治の申入書及び全自交山梨地方連合会の証明書を受領し、また、同年九月三日から同月一一日までの間、屡々被控訴人の解雇につき控訴組合と団体交渉を開き、更に、控訴組合からストライキ通告をもつて被控訴人の解雇を求められるに及んで、控訴組合の主張する除名理由(歩合保障の二重取りの問題に止まらない。)につき右資料を検討し、右除名理由が存在し、かつ、除名手続も規約どおりになされたものであつて、従前の除名事例に比し理由が重大であると判断して第二次解雇に及んだこと、控訴会社が右除名理由をなす事実関係につき被控訴人から事情を聴取するなど控訴会社として独自に調査を行なつた事実はなかつたことが認められ、しかも、被控訴人に対する第二次解雇の通告書には、控訴会社は控訴組合から同年八月二六日の大会において被控訴人を除名したので解雇せよと通告を受け、やむなく労働協約四条により解雇する旨記載されていることが明らかである。

以上の経緯に照らすと、第二次解雇は、第二次除名処分のみを根拠としてなされたものといわなければならない。」

一一五三枚目表六、七行目「いわざるをえないし」の次に(「右ショップ協定成立時に被控訴人が控訴組合の役員としてその締結に関与したことは当事者間に争いがないが、この事実も右結論を左右しない。ユニオン・ショップ協定は、労働組合が被除名者を組合から放逐するに止まらず、企業が同人を経営外に放逐し、もつて労働組合の意にとつてその制裁の効果を加重するものであるから、除名の効力が否定される場合、これに基づく解雇の効力が否定されるばかりでなく、労働組合の責めに帰すべき事由(除名の無効)は、これを企業側の責めに帰すべき事由として引受けざるを得ないのである。)」を、同裏初行末尾に「しかも、本件にあつては、前記仮処分決定もあつたのであるから、控訴会社としては第二次除名処分の効力についてとくに十分な検討をすべきところ、控訴組合の前記通知書及びその提供した前記資料によつて第二次除名処分が規約所定の手続を経てなされたものと認めることができないことは、右通告書及び資料並びに前記第一の三に述べたところから否定しえず、その他控訴会社において右除名処分の効力につき十分な調査検討をしたと認めるに足りる証拠はないので、控訴会社が被控訴人が控訴組合から適法に除名されたと誤認した点に過失があるものといわなければならない。」を、同三、四行目「会社の」の次に「すくなくとも」をそれぞれ加える。

よつて、右と同旨の原判決は相当であつて、本件控訴はいずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条、九三条一項を適用して主文のとおり判決する。

(倉田卓次 井田友吉 高山晨)

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