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東京高等裁判所 昭和55年(ネ)2220号 判決 1980年12月25日

控訴人 吉松敏宏

被控訴人 中田みどり

右訴訟代理人弁護士 中西克夫

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実

控訴人は、「原判決を取消す。被控訴人は、昭和五五年四月七日国鉄、国、日本専売公社等を相手方として東京地方裁判所民事第二三部に提起した訴を取下げよ。被控訴人は、控訴人に対し金一〇〇万円を支払え。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の主張並びに証拠の関係については、左に付加、訂正するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

原判決二枚目裏三行目「憲法一一条及び一三条」から同七行目までを削り、「さらに、嫌煙権なるものを主張しているのであるが、真の禁煙運動は、煙草の製造、販売及び喫煙の廃絶を図るべきものであって、被控訴人の提起した右の如き訴訟は、かえって煙草の製造、販売あるいは喫煙を容認することにつながるものであり、煙草の害悪についての大衆の意識、モラルを低下させ、ひいては国民の健康等を破壊する煙草の製造、販売等を行う者の犯罪行為に加担することとなり、憲法第一一条、第一三条、第二五条に違反するものである。」と加入する。

(控訴人の主張)

控訴人が被控訴人に対し、その提起した不法な訴の取下げを訴求することは、もとより通常訴訟の部類に属するものであって、これを現行の訴訟法規が認めている各種訴訟類型のいずれにも該当しない不適法なものとして、本案の審理を拒むことは、憲法第三二条に違反し、許されないものというべきである。

(証拠関係)《省略》

理由

控訴人の本訴請求の趣旨1の訴は、被控訴人が国鉄等を相手方として東京地方裁判所に提起した訴の取下げを求める、というにあるが、そもそも私人の裁判所に対する訴の提起は、その私人が特定の具体的な権利関係につき、これを争う者を相手方としてみずからの請求の当否について裁判所の公的な法律上の判断を求めるため、一方的に為しうる訴訟法上の行為であって、このこと自体は、何ら訴を提起した者と訴訟法上局外者の立場にある者との間に直接かつ、具体的な特定の法律関係ないし権利関係を生ぜしめるものではないから、局外者がこれに対して訴の取下げを求めるなどこれを抑止することは許されないものというべきであり、斯様なことを求める訴は、特定の権利関係につき利害の対立する当事者間の紛争に対し公的な判断を加えることをもってその目的とするわが国民事訴訟法の体系に照し、裁判上これを主張するに全く適さないものであって、その権利保護の資格を欠く不適法なものとして却下を免れないものである。

本件弁論の全趣旨によれば、被控訴人の提起した訴に関し、控訴人が訴訟法上全く局外者の立場にあることは明らかであるから、被控訴人に対しその提起した訴の取下げを求める控訴人の本件訴が不適法なものであることはいうまでもない。そして、右のとおりである以上、憲法第一一条、第一三条、第二五条の各違背をいう主張は、その前提を欠き、採用することができない。

また、控訴人は、このようにして右訴を不適法なものとして、却下することは、憲法第三二条に違反する、というが、同条は、訴訟当事者が訴訟の目的たる権利関係につき裁判所の判断を求めうる権利保護の資格を具備すること、換言すれば、訴訟当事者が裁判所の公的な判断を求めるのに適する権利関係をその訴において提示することを前提として、かような訴訟につき本案の裁判を求めうることを保障したものであって、右のような訴訟要件を具備するか否かにかかわらず、常に本案につき裁判を受けうる権利を保障したものではない。

したがって、控訴人の右訴が、すでにみたように、訴訟要件を欠く不適法なものである以上、本案につき審理が進められることなく却下されるとしても、何ら同条に違背するものではない。

次に、控訴人の本訴請求の趣旨2のうち、金八八万円の請求については、控訴人のこの点に関する主張自体からして、被控訴人の訴提起の行為それ自体と控訴人の蒙ったとする損害との間に相当因果関係を認めうる余地は全くなく、また、残りの金一二万円の請求については、控訴人の本訴請求の趣旨1の訴が不適法なものであり、前記八八万円の請求についてもこれを認めるに由がないことさきに説示したとおりであるから、これらの請求を内容とする本件訴を追行していくための控訴人の労力相当分に当る、とする右一二万円の請求もまた失当であるといわなければならない。

以上の次第であるから、控訴人の本訴請求の趣旨1の訴は、これを不適法として却下すべく、同2の請求については、その理由がないものとして棄却すべきである。

よって、右と同旨に出た原判決は相当であって、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長判事 杉田洋一 判事 中村修三 松岡登)

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