大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和55年(ネ)1548号 判決 1981年7月29日

控訴人 宮崎素

右訴訟代理人弁護士 堤浩一郎

同 輿石英雄

被控訴人 神奈川県

右代表者知事 長洲一二

右指定代理人 中沢雄生

<ほか四名>

被控訴人 佐藤新

右両名訴訟代理人弁護士 山下卯吉

主文

原判決中控訴人の被控訴人神奈川県に対する金九万円及びうち金七万円に対する昭和五一年八月七日から支払ずみまで年五分の割合による金員の請求を棄却した部分を取り消す。

被控訴人神奈川県は控訴人に対し前項の金員を支払え。

控訴人のその余の控訴を棄却する。

訴訟費用は第一、二審を通じて被控訴人佐藤に生じたものは全部控訴人の負担とし、その余は各自の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

原判決中控訴人敗訴の部分を取り消す。

被控訴人神奈川県は控訴人に対し金九三万円及びうち金七七万円につき昭和五一年八月七日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

被控訴人佐藤は控訴人に対し金九六万四五一〇円及びうち金八〇万四五一〇円につき同年同月同日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

被控訴人神奈川県は控訴人に対し原判決別紙の謝罪文を交付し、かつ、縦一〇三センチメートル、横一四五・六センチメートルB0判の白紙に墨書のうえ、これを原判決別紙掲示場目録の各場所に判決確定日より一か月間掲示せよ。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

との判決ならびに仮執行の宣言

二  被控訴人両名

控訴棄却の判決

第二主張及び証拠

原判決事実摘示に記載されているとおりである。

理由

一  控訴人の被控訴人神奈川県に対する請求について

1  控訴人が昭和五一年八月ごろ、その主張の場所で小料理店「左近本店」を営んでいたこと、被控訴人佐藤がそのころ神奈川県巡査として本件派出所に勤務していたこと、控訴人が同年同月六日午前二時二〇分ころ、左近本店で営業に従事していたこと、被控訴人佐藤が控訴人に対し、「近所からうるさいという苦情がきているので静かにしてほしい。」と申し向けたこと、当時店内に七、八名の客がいたこと、同被控訴人が控訴人に対し、住所、氏名、その後本籍を質問したこと、控訴人が同被控訴人に対し営業許可証を提示したので、同被控訴人がこれを瞥見したこと、同被控訴人が控訴人に対し、派出所への同行を求め、控訴人がこれを承諾し、ともに派出所へ向ったこと、その際同被控訴人以外に森久保巡査もいたこと、右同行に際し、同被控訴人が控訴人の左手首をもったことは当事者間に争いがない。

2  《証拠省略》を総合すると、同被控訴人は控訴人を派出所へ同行する途中横浜市西区南幸二丁目一〇番七号先路上附近で、控訴人に対し、その腹部及び胸部に向けて殴る蹴るの暴行を加えたこと、控訴人はそのため左上腕、前胸部挫傷の傷害を受け、同月六、七の両日斎藤外科に通院し、治療を受けてその代金二五〇〇円を、同月九日胸部レントゲン写真をとるためなどで平沼診療所に通院し、費用二〇一〇円を、それぞれ支出したことを認めることができる。《証拠判断省略》

3  右認定の事実関係によれば、被控訴人神奈川県は、国家賠償法第一条第一項の規定に基づき、所属の警察官である被控訴人佐藤がその職務遂行中に加えた暴行(被控訴人佐藤が当時職務遂行中であったことは弁論の全趣旨に照らし疑う余地がない。)により控訴人が蒙った損害を賠償する責任があるところ、その損害は次のとおりと認められる。

(一)  治療費      金四五一〇円

(内訳は前認定のとおり)

(二)  慰藉料       金一〇万円

前認定の事実経過に、本件にあらわれた一切の事情を斟酌すれば、控訴人の肉体的、精神的苦痛に対する慰藉料は金一〇万円をもって相当とする。

(三)  弁護士費用      金二万円

本件治療費及び慰藉料額合計の約二割をもって被控訴人佐藤の本件不法行為と相当因果関係ある損害と解するのを相当とする。

4  それ故控訴人の被控訴人神奈川県に対する金員支払の請求は、右治療費及び慰藉料合計金一〇万四五一〇円及びこれに対する不法行為の後である昭和五一年八月七日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金ならびに弁護士費用金二万円の支払を求める限度で理由があり、その余は理由がない。

5  控訴人は被控訴人神奈川県に対し謝罪文の交付及びその掲示の請求をなしているが、法的根拠を欠き、主張自体失当である。

二  控訴人の被控訴人佐藤に対する請求について

前認定のとおり被控訴人佐藤の本件行為は国家賠償法第一条第一項に該当するものであるところ、かかる場合公務員個人は被害者に対する不法行為責任を負わないものと解すべきであるから、控訴人の被控訴人佐藤に対する請求はすべて失当である。

三  以上のとおりであるから、原判決中控訴人敗訴の部分を変更して、控訴人の請求をさらに右理由のある限度において認容し、その余の控訴を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九六条、第八九条、第九二条を適用して主文のとおり判決する。なお仮執行の宣言はその必要なきものと認め、これを付さない。

(裁判長裁判官 石川義夫 裁判官 寺澤光子 原島克己)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例