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東京高等裁判所 昭和55年(ネ)1037号 判決 1981年5月26日

控訴人

山本太郎

右訴訟代理人

武田芳彦

被控訴人

山本花子

主文

原判決中、控訴人、被控訴人間の二男二郎(昭和四八年四月五日生)の親権者を被控訴人と定めた部分を取り消す。

控訴人、被控訴人間の二男二郎(昭和四八年四月五日生)の親権者を控訴人と定める。

控訴人の控訴中その余の部分を棄却する。

訴訟費用は、第一、二審を通じてこれを五分し、その二を被控訴人、その三を控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決中、親権者の指定に関する部分を取り消す。控訴人、被控訴人間の長男一郎(昭和四四年八月二〇日生)、二男二郎(同四八年四月五日生)の親権者をいずれも控訴人と定める。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の主張、証拠の提出、援用、認否は、控訴代理人において当審における控訴人本人尋問の結果を、被控訴人において、当審における被控訴人本人尋問の結果を援用したほか、原判決事実摘示と同一(ただし、原判決五枚目表末行「不気」とあるのを「不機」と、同六枚目表末行「請求原因一」とあるのを「請求原因(一)」と、同九枚目表四行目「請求原因(四)」とあるのを「請求原因(五)」と改める。)であるから、これを引用する。

理由

控訴人は、原判決中親権者の指定の点についてのみ不服を申し立てているので、以下その点のみについて判断することとする。

<証拠>を総合すると、(一) 控訴人と被控訴人との夫婦仲は昭和五一年ごろから漸次悪化して葛藤が絶えず、昭和五二年二月一二日には被控訴人は、一郎及び二郎を残したまま控訴人方をとび出し、同年一一月控訴人方にもどるまで、肩書住所地所在の実家や、東京の弟方で過ごしていたことがあるが、この間、控訴人において右二人の子らを養育した(ただし、二郎については同年三月以降)こと、(二) 昭和五三年八月下旬、被控訴人は、控訴人との離婚の意思を固め、長野家庭裁判所飯山支部に離婚調停を申し立てるとともに実家に戻つたがその際、被控訴人が、二人の子らに被控訴人とともに控訴人方を出るかどうかたずねたところ、長男一郎は被控訴人と同行することを望み、二男二郎は控訴人方に残ることを望んだので、被控訴人は一郎のみを連れて実家に戻り、以来今日まで、控訴人が二郎を、被控訴人が一郎をそれぞれ養育してきていること、(三) 控訴人は、二郎と二人暮らしで、昭和三四年以来農業協同組合に勤務しており、二郎は、昭和五五年春には保育園を終えて小学校に入学し、控訴人は朝は二郎を登校させてから出勤し、平常は午後五時三〇分から六時ごろ帰宅し、八日に一回位宿直、一か月に一回位日直があること、(四) 控訴人方から約二〇〇メートル離れたところに控訴人の姉山本うめ子(大正一五年生)が一人暮らしをしており、一か月のうち二〇日位は半日ほど衣類行商をしているが、平生、二郎の下校後や控訴人の宿日直の際は同女が二郎の世話をしており、うめ子が都合の悪いときは同女方から道路一つ隔てて隣り合せになつている控訴人の兄方(同人の妻と三人の子のほか、控訴人の母も同居している。)で二郎の世話をしていること、(五) 控訴人は子煩悩で二郎は同人によくなついており、うめ子や控訴人の兄方の家族にもなついていること、(六) 被控訴人は、実家で、農業や山仕事に従事する父(大正六年生)、母(同一三年生)、弟(昭和二七年生)とともに生活し、別居して実家に戻つて以後栄村福祉企業センターに勤務しており、毎日午前七時三〇分ごろ出勤して午後五時三〇分ごろ帰宅し、約七万円ないし一四万円の月収があり、一郎は、昭和五六年二月現在、二郎と同じ小学校の五年在学中であるが、被控訴人の実家の家族によくなついていることが認められ、右認定に反する証拠はない。

本件においては、このように既に控訴人と被控訴人は完全に別居し、その子を一人ずつ各別に養育するという状態が二年六月も続いており、その間、それぞれ異なる生活環境と監護状況の下で、別居当時、五歳四月であつた二郎は八歳に近くなつて小学校一年生を終えようとしており、九歳になつたばかりで小学校三年生であつた一郎は一一歳半となり、やがて五年生を終ろうとしている状況にある。離婚に際して子の親権者を指定する場合、特に低年齢の子の身上監護は一般的には母親に委ねることが適当であることが少なくないし、前記認定のような控訴人側の環境は、監護の条件そのものとしては、被控訴人側の環境に比し弱点があることは否めないところであるが、控訴人は前記認定のとおり、昭和五三年八月以降の別居以前にも、被控訴人の不在中、四歳前後のころの二郎を約八か月間養育したこともあつて、現在と同様な条件の下で二郎と過ごした期間が長く、同人も控訴人によくなついていることがうかがえる上、一郎についても、二郎についても、いずれもその現在の生活環境、監護状況の下において不適応を来たしたり、格別不都合な状況が生じているような形跡は認められないことに照らすと、現在の時点において、それぞれの現状における監護状態を変更することはいずれも適当でないと考えられるから、一郎の親権者は被控訴人と、二郎の親権者は控訴人と定めるのが相当である。

よつて、本件控訴は、原判決中、二郎に関する親権者の指定の部分の変更を求める限度において理由があるので、この点について原判決を取り消して右のとおり定め、一郎に関する親権者の指定に関する部分は失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法九六条、九二条を適用して主文のとおり判決する。

(園田治 菊地信男 柴田保幸)

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