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東京高等裁判所 昭和55年(く)50号 決定 1980年3月27日

少年 M・N(昭三五・一〇・一六生)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣意は、申立人(少年)提出の抗告申立書に記載されたとおりであるから引用するが、要するに、少年を中等少年院に送致するとした原決定は、短期処遇の勧告をしなかつた点において重きに失し、著しく不当な処分である、というのである。

そこで、記録を調査して検討すると、本件非行事実は、原決定が引用する検察官作成の送致書指示の犯罪事実(恐喝)及び司法警察員作成の少年事件送致書二通(各毒物及び劇物取締法違反)に記載された「審判に付すべき事由」のとおりであるが、その要旨は、少年が、(1)昭和五四年六月三日、劇物であるトルエン約七〇ミリリツトル入りびんを吸入の目的で所持していたこと、(2)同年一一月一八日、A方において、同人ほか八名と共謀のうえ、トルエンを吸入し、かつ、トルエン約八〇ミリリツトルと約一〇ミリリツトル入りの各びんを吸入の日的で共同して所持していたこと及び(3)同五五年一月二三日、B(当時一七歳)と共謀のうえ、通りがかりのC(当時一六歳)に因縁をつけ、同人所有の現金一万二、〇〇〇円を喝取したというものである。

ところで、少年の非行歴等についてみると、少年は、昭和五一年一〇月、学力不足から高校一年を一学期で中退したものであるが、その前後ころから窃盗、占有離脱物横領、ぐ犯、毒物及び劇物取締法違反、道路交通法違反、犯人隠避等の非行を犯し、これまで家庭裁判所が受理した事件の回数も一〇回に達し、少年に対する処遇に関する決定も同五一年三月八日の審判不開始にはじまり合計五回に及び、その間、同五二年一二月二三日保護観察の処分があつて継続し、同五三年一一月二二日から同五四年五月一〇日までの期間には試験観察(在宅)を受け、同五四年五月一〇日に毒物及び劇物取締法違反、犯人隠避の非行事実により再度の保護観察の決定を受けながら、早くも同年六月三日に前記(1)の、約半年後の同年一一月一八日には前記(2)の同種非行を重ね、前記家庭裁判所調査官の試験観察及び裁判所の保護観察処分を無視した状況であるばかりでなく、更に、右(1)及び(2)の非行により、同年一二月一二日の審判(身柄付き)で再度の試験観察(在宅)決定された際、保護者である実母とともに、今後非行を犯した場合にはさ細な事件でも施設収容の措置が取られることを免れない旨厳重な警告を受け、遵守事項の誓約書を入れていたのに、わずか一か月余りにして前記(3)の非行を犯したものであつて、少年には自覚、反省の念が乏しく、しかも、再三にわたる更生指導に反したり、遵守事項をたやすく破り、自力による更生意欲が見られず、もはや在宅による矯正は期待できないものというべきである。

少年の家庭は、実母と二人暮しであるが、保護者である実母は、夕方から夜間にかけての飲み屋を経営し、少年とは昼夜すれ違いの生活を何年も続けているため、少年の生活態度や前途に関心を持つものの、その日常生活すら殆んど把握できず、少年の非行性や問題行動に対する理解の程度にも甘さがあり、基本的な生活指導も適切にできず惰性にまかせた状態であつて、関係機関の努力に対しても協力的でなく、監護能力がない。他方、少年の資質をみると、知能指数は一〇五で普通であるが、思考も表面的、即断的で熟慮するところがなく、意思が弱く、主体性に欠け、周囲や環境の状況に追従的で軽はずみな行動に出易く、盛り場や派手な生活に関心を示し、職場も短期間で転々として定着性に欠け、勤労意欲に乏しく、規範意識が低い。

以上のような状況を考えると、少年は、高校入学以来生活態度や方針が常に不安定で、非行の傾向も多様化してきており、その要保護性も増大してきている状況であつて、その矯正は短期の処遇では実効が困難と考えられる。

ところで、少年は、前記(3)の共犯者Bに対する裁判所の処分が、中等少年院送致の決定とはいえ、短期処遇の勧告がなされており、その措置と比べると、申立人に対する処分は重過ぎて著しく不当であるというのである。

しかしながら、右のような点でBは差異があり、執行機関の権限により同人が短期処遇施設に収容されたとしても、少年に対する原決定は、右(3)の非行事実だけではなく、(1)及び(2)の非行事実をも含み、しかも、少年の知能、性格、生育歴、家庭環境、非行歴、試験観察の経過等諸般の事情を検討した結果であることは、その「保護処分に付する理由」の記載に徴し明らかなところであるから、結果論をもつて単純に比較することはできないのであつて、少年に対する矯正教育については、申立人の主張を十分に考えても、原決定の処分は相当であり著しく不当なものとは認めることができない。以上のとおりで申立人の主張は採用できない。

そこで、少年法三三条一項後段、少年審判規則五〇条により本件抗告を棄却することとして、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 西村法 裁判官 高山政一 村田文哉)

〔参考〕抗告申立書

抗告の趣旨

私は、二月二十九日、午後一時に、八王子家庭裁判所において、一月二十三日、共犯B君と起した恐喝事件に対して審判を受けました。

その結果、私は中等少年院長期送致と言う。決定結果がでてしまいました。

私自身、この結果に対して、今までの事件の責任をとり、少年院と言う所で、身心共に勉強する事は、自分の為にも良い結果であると思いますが、私自身不服があります。

それは、共犯であるB君に対する、裁判所の処分は、中等少年院短期と言う決定でした。その処分の結果に対して、私の処分の結果は中等少年院長期送致と言う、実に厳しく、重たいものであると思うし、差があると思います。そして、仕事の面でも遅刻や欠勤などもなく自分なりに一生懸念頑張り、更生したつもりです。そのような事も認めていただきたいと思いますし、自分の家庭は幼い頃から父が居なく母と私の二人の生活です。その母の為にも一日も早く心を入れ変え社会にもどり、一生懸命仕事をし、不自由な経済的の所を少しでも、助けてあげたいと、思いますので、その為にも、中等少年院長期では、重たい、結果だと思います。やはり少しでも早い、中等少年院短期を希望いたしますので、もう一度、審判のやり直しをおねがい申しあげます。

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