大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和54年(行コ)73号 判決 1981年5月26日

控訴人(原告) 宮沢吉次

被控訴人(被告) 豊田村長 豊田村

主文

1  原判決中控訴人の被控訴人豊田村長に対する怠る事実の違法確認請求を棄却した部分を取り消し、右請求に関する訴えを却下する。

2  原判決中の控訴人の被控訴人豊田村長に対する怠る事実の違法確認の訴えを除くその余の訴えを却下した部分及び控訴人の被控訴人豊田村に対する請求を棄却した部分に対する各控訴を棄却する。

3  訴訟費用は、第一、二審とも控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の求めた判決

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人豊田村長は、監査委員の勧告に従い決定(裁断又は裁定を含む。)し、原田助行に通告した内容を自己の責任において果たし、また、公有(国有)地と民有地との境界を明確にせよ。

3  控訴人の昭和五〇年一〇月二日付監査請求に対して豊田村監査委員がした監査結果は違法であることを確認し、かつ、同監査結果を取り消す。

4  被控訴人豊田村長が長野県下水内郡豊田村大字豊津二三一五番五先の村道飛山道路敷地上に隣接土地所有者のブロツク塀がはみ出して設置されているのに同塀のはみ出し部分を撤去させて道路敷を確保すべき措置をとらないことは違法であることを確認する。

5  被控訴人豊田村は、控訴人に対し、金一万円を支払え。

二  被控訴人ら

控訴棄却

第二当事者の主張

当事者双方の主張は、次のとおり付加又は訂正するほかは、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決書二枚目裏七行目に「村道飛山道路」とある上に「被控訴人豊田村の管理する」を加え、「、本件村道」とあるのを「「本件村道」」と、同八行目から九行目にかけて「国から本件村道の管理を委任されており、」とあるのを、「道路法九〇条二項に基づきこれを国から無償貸付けを受けて」と、同一〇行目から一一行目にかけて「、二三一五番」とあるのを「二三一五番」と改める。

二  原判決書三枚目裏七行目に「財産管理」とあるのを「財産である本件村道の敷地使用権の管理」と改める。

三  原判決書四枚目表末行から同裏一行目にかけて「二四二条一項」とあるのを「二四二条の二第一項」と、同一行目に「申立」とあるのを「申立て」と改め、同二行目に「求める。」とある下に「なお、右各訴えは、右規定以外の規定に基づく民衆訴訟として提起したものでも、行政事件訴訟法三条一項にいう抗告訴訟として提起したものでもない。」を加える。

四  原判決書五枚目表三行目に「支払」とあるのを「支払い」と改める。

五  原判決書五枚目表九行目に「取り消し」とあるのを「取消し」と、同一一行目及び同裏四行目に「申立」及び「訴」とあるのをそれぞれ「申立て」及び「訴え」と改め、同四行目の次に次のとおり加える。

また、地方自治法における用語につき、同法二三七条は、「財産」とは公有財産、物品及び債権並びに基金をいうものとし、同法二三八条は、「公有財産」とは不動産、船舶等、地上権・地役権・鉱業権その他これらに準ずる権利、株券・社債券等をいうとし、同法二四〇条は、「債権」とは金銭の給付を目的とする普通地方公共団体の権利をいうとしている。そして、右地上権・地役権・鉱業権その他これらに準ずる権利としては、永小作権、入会権、漁業権、採石権等をいい、占有権、水利権、担保物権、賃借権等はこれに該当しないと解されている。それゆえ、被控訴人豊田村が本件村道の敷地について有する道路法九〇条二項に基づく使用権は、同被控訴人の財産を構成しないものというべく、したがつて、その管理を違法に怠る事実があつても、住民訴訟の対象とはなりえない。

六  原判決書五枚目裏一〇行目に「果した」とあるのを「果たした」と改める。

第三証拠関係<省略>

理由

第一控訴人の被控訴人豊田村長に対する訴えの適否について

一  怠る事実の違法確認の訴えを除くその余の訴えについて

当裁判所も、右訴えは不適法として却下すべきものと判断するものであり、その理由は、原判決書八枚目表六行目から同九枚目表七行目までと同一(ただし、同八枚目表末行並びに同九枚目表四行目及び五行目に「申立」とあるのを「申立て」と、同八枚目裏一行目及び同九枚目表六行目に「訴」とあるのを「訴え」と改める。)であるから、これを引用する。

二  怠る事実の違法確認の訴えについて

1  地方自治法二四二条の二第一項三号の規定に基づく怠る事実の違法確認の訴えの対象となるものは、同法二四二条一項所定の普通地方公共団体の執行機関又は職員による違法に公金の賦課若しくは徴収又は財産の管理を怠る事実に限られるものである。このことは、右各規定の文言上明らかである。しかも、怠る事実の違法確認の訴えのうち財産の管理を怠る事実を対象とするものは、同法二三七条が「この法律において「財産」とは、公有財産、物品及び債権並びに基金をいう。」と定め、しかも、同法二三八条が公有財産について、同法二三九条が物品について、同法二四〇条が債権について、同法二四一条が基金についてそれぞれ定義しているのであるから、右にいう意味における財産の管理を怠る事実を対象とするものであることを要する。

2  ところで、控訴人の本件怠る事実の違法確認の訴えは、被控訴人豊田村が道路法九〇条二項に基づいて国から無償貸付けを受けている本件村道の道路敷の使用権の管理を違法に怠つているとしてその違法確認を求めるものであるところ、被控訴人豊田村長は、道路法九〇条二項に基づく道路敷使用権は地方自治法上にいう財産に当たらないと主張する。そこで検討するに、進んで、右道路敷使用権が地方自治法二三八条一項四号にいう「地上権、地役権、鉱業権」のいずれにも当たらないことは明らかであり、また、右にいう「その他これらに準ずる権利」は、地上権、地役権及び鉱業権が例示されていて、その意義が限定されていることにかんがみれば、法律上確立している用益物権又は用益物権的性格を有する権利、例えば、永小作権、入会権、漁業権、入漁権、租鉱権、採石権等に限定されるものと解するのが相当であるから、右道路敷使用権はこれにも当たらないものといわなければならない。その他右道路敷使用権が地方自治法上にいう財産に当たることを首肯せしめるに足りる規定は見当たらないから、たとえその管理を違法に怠る事実があるとしても、これについて地方自治法二四二条の二第一項三号の規定に基づく怠る事実の違法確認の訴えを提起することは許されないものといわなければならない。もつとも、この点については、不動産に関する賃借権、使用借権などの権利も不動産の使用収益について重要な機能を営んでおり、その財産的価値の重要性、財産的管理の必要性及び違法な財産管理の住民訴訟による是正の必要性等は地上権等に比して劣るところがないことを理由として、道路法九〇条二項に基づく道路敷使用権も地方自治法二三八条一項四号にいう「その他これらに準ずる権利」に該当し、その管理を違法に怠る事実があれば、これについて怠る事実の違法確認の訴えを提起することができるとする見解もないではないが、右見解は、立法論としてはともかく、解釈論としては採用することができない。

3  よつて、控訴人の本件怠る事実の違法確認の訴えは、不適法であつて却下を免れない。

第二控訴人の被控訴人豊田村に対する請求の当否について

当裁判所も、控訴人の右請求は理由がないと判断するものであり、その理由は、原判決書一四枚目表三行目の「次に、」から同一五枚目裏一〇行目までと同一(ただし、同一四枚目表一〇行目の「前掲」から同一二行目の第八号証」までを「原本の存在と成立に争いのない甲第七ないし第九号証、乙第三四ないし第三六号証、成立に争いのない乙第三九号証」と、同一五枚目表末行の「しかして、」から同裏六行目の「できず」までを「右認定の事実によれば、控訴人が第二回目の意見陳述の機会に意見陳述を終了しなかつたことが控訴人主張のように豊田村監査委員の違法な公権力の行使によるものであると認めることはできず」と改める。)であるから、これを引用する。

第三結論

よつて、原判決中控訴人の被控訴人豊田村長に対する怠る事実の違法確認の訴えについて請求棄却の本案判決をした部分は不当であるから、職権をもつて、民事訴訟法三八六条により右部分を取り消したうえ、右訴えを却下することとし、原判決中その余の部分は相当であり、右部分に対する控訴は理由がないので、同法三八四条一項により右控訴を棄却することとし、訴訟費用の負担について同法九六条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 林信一 宮崎富哉 石井健吾)

原審判決の主文、事実及び理由

主文

一 原告の被告豊田村長に対する訴のうち、怠る事実の違法確認請求(申立第三項)を棄却し、その余の訴(申立第一、第二項)を却下する。

二 原告の被告豊田村に対する請求を棄却する。

三 訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第一当事者の申立

(原告)

1 被告豊田村長は監査委員の勧告に従い決定(裁断または裁定を含む。)し、原田助行に通告した内容を自己の責任においてはたし、また公有(国有)地と民有地との境界を明確にせよ。

2 原告の昭和五〇年一〇月二日付監査請求に対し豊田村監査委員がなした監査結果は違法であることを確認し、かつ同監査結果を取り消す。

3 被告豊田村長が、豊田村大字豊津二三一五番五先の村道飛山道路敷地上に隣接土地所有者のブロツク塀がはみ出して設置されているのに、同塀のはみ出し部分を撤去させて道路敷を確保すべき措置をとらないことは違法であることを確認する。

4 被告豊田村は、原告に対し、金一万円を支払え。

(被告ら)

一 本案前の申立

1 原告の申立第一、第二項記載の訴を却下する。

2 訴訟費用は、原告の負担とする。

二 本案の申立

1 原告の請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は、原告の負担とする。

第二原告の主張

(請求原因)

一 原告は豊田村の住民である。

二 村道飛山道路(以下、本件村道という。)の敷地は国有地であるところ、豊田村は国から本件村道の管理を委任されており、その使用権を有するものである。

三 本件村道が豊田村大字豊津二三一五番(以下、二三一五番と略称する。)五の土地に接している部分の道路敷地上には、二三一五番五の土地所有者である原田助行の所有するブロツク塀がはみ出して設置されている。被告豊田村長は右ブロツク塀のはみ出し部分を撤去させ、正常な道路敷を確保すべき財産管理の義務があるのに、これを怠つている。

四 そこで、原告は、昭和五〇年一〇月二日、豊田村監査委員に対し、本件申立て第三項記載と同一の怠る事実があるとして、その監査を求め、当該怠る事実を是正するに必要な措置を講ずべきことを請求した。

五1 豊田村監査委員は、監査の結果、同月二六日付で、被告豊田村長に対し、地方自治法二四二条三項に基づく勧告をなし、原告に対し、右監査結果及び勧告の内容を通知した。その要旨は、「二三一五番二及び同番五の土地と本件村道が接している部分において調査したところ、現在施行中の舗装工事計画においては二メートル四〇センチメートルの有効幅員しかなく、あるべき幅員九尺(約二メートル七三センチメートル)に比し不足しているから、右地点における幅員の確保に努められたい。」というのである。

2 しかしながら、原告が監査請求において主張したところの要点は、本件村道の道路敷上に私人のブロツク塀が設置されてあるのは被告村長が村の財産管理を怠つているためであると考えられたので、その点について監査を求めたものであるから、前記監査結果は原告の監査請求に対応したものとはいえず失当である。従つて、右監査結果は違法であり、取り消されるべきである。

六1 監査委員の前記勧告を受けた被告豊田村長は、昭和五〇年一一月二七日付で、原田助行に対し、本件村道の二三一五番二及び同番五に接している地にある生垣(樹種不明)の箇所は九尺の道路幅員がとれないので、これを同月三〇日までに撤去するよう通告し、その旨監査委員に通知した。そして、監査委員は当該通知にかかる事項を原告に通知した。

2 しかしながら、右通告を受けた原田助行は右通告の内容を実行していない。このような場合、被告豊田村長は、同人に通告したことを実行させる義務があり、同人が実行しない場合には代つてこれを実行する義務がある。また、本件村道と二三一五番二の土地との境界は明確でない状態にあるので、本件村道の道路管理の責任を負つている被告豊田村長としては右境界を明確にする義務がある。

七 よつて、原告は、被告豊田村長に対し、地方自治法二四二条一項の規定に基づいて、原告の申立第一ないし第三項記載の判決を求める。

八 原告が被告豊田村に対し損害賠償を求める理由は次のとおりである。すなわち、原告の請求による監査が行なわれるについて原告には合計三回の意見陳述の機会が与えられたが、その第二回目の意見陳述の機会に、豊田村監査委員は、原告の提出した証拠書類の記載内容の訂正を求め、原告がその訂正に応じなければ意見陳述の続行を許さないとしてこれを拒絶した。そのため、原告は、本来二回の意見陳述の機会で終了するはずのところ、第三回目の意見陳述の機会を必要とせざるをえなくなつた。したがつて、原告は、同監査委員の右意見陳述の拒絶という違法な公権力の行使により、第三回目の意見陳述の機会における手間代(日当)相当額金一万円の損害を蒙つたので、被告豊田村に対し、国家賠償法一条一項の規定に基づき、損害賠償金一万円の支払を求める。

第三被告らの主張

(本案前の主張)

地方自治法二四二条の二の規定による住民訴訟とは、地方公共団体の機関または職員による違法な公金の支出、財産の取得、管理、処分その他一定の財務会計上の行為または怠る事実について、当該行為の差止め、取り消しまたは無効確認、当該怠る事実の違法確認、損害賠償等を求めて提起する訴訟をいうものである。しかるに、原告の申立第一項記載の訴は、一定の具体的な行政措置をとるべきことを内容とする作為を命ずる給付を求めるものであるから不適法である。また、同法二四二条の二は、右のように特別な争訟制度を定めたものであり、監査委員の勧告内容に不服がある場合においても当該勧告自体を訴訟の対象とすることはできないから、原告の申立第二項記載の訴は不適法であり却下を免れない。

(本案の答弁及び主張)

一 請求原因第一項は認める。

二 同第二項は認める。

三 同第三項は否認する。

被告豊田村長は監査委員の勧告にしたがつて本件村道の有効幅員の確保を果したから、なんら村の財産管理を違法に怠つてはいない。

四 同第四項は認める。

五 同第五項中、1は認め、2は否認する。

豊田村監査委員は、原告の請求による監査の結果、本件村道が二三一五番五の土地に接する部分においては三メートル余の道路幅員が確保されており、昭和六年から同九年にかけて従前の道路幅員約五尺(約一・五メートル)を九尺(約二・七三メートル)に拡幅した経過に照らして、本件村道のあるべき幅員は確保されているから、本件村道敷地上に私人の所有するブロツク塀が存するとの原告主張事実は認められないと判断した。しかし、本件村道が二三一五番二の土地に接する部分においては、同所に私人の所有する生垣が存するため同所の道路幅員が約二・四メートルしか確保されておらず、前記あるべき道路幅員に不足しているので、昭和五〇年一一月二六日、被告豊田村長に対し、同所についてあるべき有効幅員九尺の確保に努めるよう勧告した。

六 同第六項中、1は認め、2は否認する。

被告豊田村長は原田助行に対し同生垣の撤去を通告したところ、同人はこれに応じて右生垣を撤去した。したがつて、本件村道が二三一五番二及び同番五に接する部分は、現在、二・八三メートルのあるべき有効幅員は確保されているものである。

七 同第七項は争う。

八 同第八項中、原告の請求による監査が行なわれるについて合計三回にわたり原告に意見陳述の機会が与えられたことは認めるが、その余は争う。

第二回目の監査期日において紛糾が生じたのは、客観的事実に反する原告の独善的な証拠の説明書に起因するものである。したがつて、監査委員が誤つた記載の訂正を求めたのは当然のことであり、右期日に実質的な監査が進行しなかつたからといつてそのことについて監査委員に過失はない。

第四証拠<省略>

理由

第一本案前の判断

原告が豊田村の住民であること、原告が本件村道につき被告豊田村長には違法にその管理を怠る事実があるとして、豊田村監査委員に対し監査請求をなしたこと、同監査委員が被告豊田村長に対し請求原因第五項1記載のとおりの勧告をなしたこと、被告豊田村長が原田助行に対し同第六項1記載のとおりの通告をなしたこと、以上の各事実は当事者間に争いがない。

被告豊田村長は、本案前の抗弁として、原告の申立第一、第二項記載の訴は、地方自治法二四二条の二の規定による住民訴訟の類型にいずれもあたらないから不適法であると主張するので、まずこの点について検討する。

地方自治法二四二条の二は、普通地方公共団体の住民が同法二四二条第一項の規定による請求をした場合において、同条第三項の規定による監査委員の監査の結果若しくは勧告若しくは同条第七項の規定による普通地方公共団体の長の措置に不服があるとき、又は監査委員が同条第三項の規定による監査若しくは勧告を同条第四項の期間内に行なわないとき、若しくは長が同条第七項の規定による措置を講じないときは、裁判所に対し、同条第一項の請求に係る違法な行為又は怠る事実につき、同法二四二条の二第一項第一ないし第四号に掲げる請求をすることができる旨規定している。右規定によれば、監査を請求した普通地方公共団体の住民が裁判所に請求できるのは、監査請求の対象となつた違法な行為又は怠る事実について前記各号に掲げる請求に限られているところ、原告の申立第一、第二項記載の請求が右各事項に該当しないことは明らかである。したがつて、原告の申立第一、第二項記載の訴は、同法二四二条の二に規定する住民訴訟としては許されないものであるといわなければならない。

そこで、右各訴が住民訴訟以外の「民衆訴訟」として許されるかにつき考えるに、かかる請求の訴を提起できる旨を定めた法律は存しないから、不適法であるといわなければならない。

更に、右各訴が行政事件訴訟法三条一項にいう「抗告訴訟」として許されるかについて検討するに、原告の申立第一項記載の訴は行政機関に対し行政上の行為をなすべきことを命ずる裁判を求めるものであるが、憲法の規定する三権分立の建前から、特段の場合でない限り、裁判所としては行政機関に対しかような行政上の行為をなすべきことを命ずる裁判をなす権限を有しないものであるところ、本件が右特段の場合にあたるとは認められないから、原告の申立て第一項記載の訴は不適法といわなければならない。また、監査結果の違法確認及び同結果の取消を求める原告の申立第二項記載の訴については、右監査結果が抗告訴訟の対象となる行政処分といえないのみならず、右監査結果に不服があるときは直ちに裁判所に対し地方自治法二四二条の二第一項第一ないし第四号に掲げる請求をすることができる以上、これを並んで監査結果の違法確認又は取消の訴訟を求める法律上の利益は存しないものと解されるから、いずれにせよ原告の申立第二項記載の訴は不適法であるといわざるをえない。

第二本案の判断

一 本件村道の敷地が国有地であること、被告豊田村が国から本件村道の管理を委任されており、その使用権を有することは、当事者間に争いがない。

二 原告は、本件村道が二三一五番五の土地に接する部分に私人の所有するブロツク塀がはみ出して設置されているのに、被告豊田村長がこれを撤去させて正常な道路敷の幅員を確保する措置をとらないことは、村の財産管理を違法に怠る事実があると主張するので、以下、この点について判断する。

原本の存在と成立に争いのない甲第一〇号証、成立に争いのない乙第四、第五号証、第一六ないし第二七号証、第三七号証、証人高山保(第一回)及び同小林勤平の各証言により真正に成立したものと認められる乙第一三、第一四号証、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき乙第一五号証、並びに証人高山保(第一、第二回)、同丸山智信、同小林勤平の各証言を総合すると、本件村道については昭和六年に村道安養寺線として改修設計が立案され、右改修設計においては道路の幅員は九尺(約二・七二三メートル)とされていたこと、ところが、右改修設計は実施されるに至らなかつたこと、そして本件村道は昭和九年に農道土浮線として改修工事が実施されたこと、右改修工事は、当時替佐部落の耕作地に通ずる農道であつた本件村道の幅員が約一・五メートルしかなく、肥料・収穫物を運搬する車馬の通行に不便であつたことから、その幅員を二・八メートルに改修して農耕作業における労力の節減をはかることを目的としたものであつたこと、右の改修工事の実施にあたつては、道路幅員を二・八メートルに拡張するため、右農道の両側に隣接する土地の各所有者から右拡張に必要な部分の土地を道路敷地として国(当時の内務省)が買収し、その旨の各登記が経由されていること、右農道は昭和四九年に本件村道として認定を受けたが、前記昭和九年の改修工事以降昭和五〇年に舗装改良工事が計画されるに至るまでの間に拡幅工事がなされた形跡はないこと、以上の各事実を認めることができ、甲第九号証及び乙第三六号証の各記載並びに原告本人尋問の結果中、右認定に反する部分は、前掲各証拠に照らしてにわかには措信できず、他に右認定を左右するに足る証拠はない。右認定事実によれば、本件村道敷地の現在あるべき幅員は、最低二・八メートル以上であると認めるのが相当である。

もつとも、成立に争いのない甲第一、第二号証、第一一号証、乙第三六号証、原本の存在と成立に争いのない甲第九号証、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき乙第四〇号証、証人高山保(第一、第二回)の証言、原告本人尋問の結果(一部)によれば豊田村備付の公図(甲第一、第二号証及び乙第四〇号証)並びに右公図を基礎に作成されている昭和九年の農道土浮線改修工事計画における添付平面図(甲第一一号証)上に記載されている本件村道敷地の幅員の長さを計測したうえ、それを各図面の縮尺(いずれも縮尺六〇〇分の一である。)にしたがつて六〇〇倍に拡大すると、本件村道敷地の幅員は、昭和九年の前記改修工事以前においては約三・五メートル、同工事以後において約七・五ないし八メートルとなることが認められ、右認定に反する証拠はない。しかしながら、昭和九年の改修工事以前の本件村道敷地の幅員が約一・五メートルであつたことは前示認定のとおりであり、更に、証人高山保の証言(第一回)によれば、前記公図はその原形が明治二七年頃の作成にかかるもので正確なものとはいえないことが認められ、この事実をも併せ考えると、右公図及び平面図の記載を根拠に本件村道の幅員が最低二・八メートルであるとの前記認定事実を動かすことはできないといわなければならない。

そして、前掲甲第一、第二号証、乙第四〇号証、成立に争いのない乙第七号証、証人高山保(第一回)の証言により真正に成立したものと認められる乙第二九号証、第三一号証、第三二号証の一、二、同証言により昭和五三年二月一日当時の本件村道の写真であると認められる乙第三〇号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第四一号証の二、弁論の全趣旨により昭和五四年一月三〇日当時の本件村道の写真であると認められる乙第四一号証の一、並びに証人高山保(第一回)、同小林勤平の各証言を総合すると、豊田村建設課では、監査委員の前記勧告後、本件村道の現場を実際に調査してみたところ、原告が主張している本件村道が二三一五番五の土地に接する部分で原田助行所有のブロツク塀が所在しているという箇所の本件村道敷地の幅員が二・八メートル以上存在することを確認したが、二三一五番二及び同番五の土地に接する部分に所在する原田助行所有の生垣の箇所の本件村道敷地の幅員は一部二・八メートルに足らない地点の存することが判明したこと、そこで、被告豊田村長は前記のとおり原田助行に対し本件村道の道路敷の幅員二・八メートル内に存する生垣部分の撤去を通告したこと、右生垣部分について原田自身においてこれを撤去しなかつたため、豊田村建設課職員が同人の承諾を得たうえこれを撤去して二・八メートル以上の道路敷地の幅員を確保したこと、また、被告豊田村長は、右勧告当時施工中であつた本件村道の舗装改良工事の計画では最少幅員が二・四メートルとされていたので、これを最少二・八三メートルに変更し、これにしたがつて右工事を完了したこと、現在本件村道は、原告主張の箇所を含めていずれも二・八メートル以上の道路敷地の幅員が確保されており、前記原田助行方のブロツク塀のある部分における道路敷地の幅員は三・一二メートルないし三・三八メートルあること、以上の各事実が認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。

してみれば、本件村道敷地が二三一五番五の土地に接する部分において、原田助行方のブロツク塀によつて侵害されているものとは認めがたく、ほかに右ブロツク塀が本件村道敷地を侵害していることを認めるに足りる立証のない本件では、被告豊田村長に、その財産管理を違法に怠る事実があるとする原告の主張は理由がないものというべきである。

三 次に、原告は、豊田村監査委員がその職務を行うについて違法な公権力の行使があつたため、原告は一万円の損害を蒙つたので、被告豊田村は国家賠償法一条一項により損害賠償責任を負うと主張するので、この点について判断する。

原告の請求による監査が行われるについて合計三回にわたり原告に意見陳述の機会が与えられたことについては当事者間に争いがなく、前掲甲第九号証、乙第三六号証、成立に争いのない乙第三四、第三五号証、第三九号証、原本の存在と成立に争いのない甲第七、第八号証、証人丸山智信、同小林勤平の各証言及び同証言により真正に成立したものと認められる甲第五、第六号証、乙第三八号証、証人高山保(第一回)の証言、原告本人尋問の結果(後記措信しない部分を除く。)を総合すると、昭和五〇年一一月一四日、第二回目の原告の意見陳述の機会の冒頭において、監査委員小林勤平(以下、委員小林という。)は、原告が既に提出していた「証拠Aの3’」と題する書面中「以上略図記載の全ては現地調査記録に現はれている請求人、代位者相方の主張通りを引用した。」旨の記載部分について、右記載部分は客観的事実に反するとしてその撤回を求めたところ、原告はこれに応ぜず、原告と委員小林の議論は平行線をたどるまま進展しない状態となつたこと、そこで、委員小林は、「同日はこのまま閉会としたうえで、数日後にまた原告の意見陳述の機会を持つ。」旨を提案したところ、原告も右提案には特に異論を唱えることもなく同意したので、同日は原告の実質的な意見陳述が行われないまま閉会となつたこと、そして、同年一一月二二日に第三回目の原告の意見陳述の機会が持たれ、前記問題については棚上げとしたまま原告の意見陳述を行うことを原告と委員小林は合意したうえで、原告は右機会において十分に自己の意見陳述をなしたこと、なお、前記記載部分中「代位者の主張通りを引用した。」とあるのは、明らかに客観的事実に反するものであること、以上の各事実を認定でき、原告本人尋問の結果中右認定に反する部分は、前掲各証拠に照らしてにわかには措信できず、他にこれを左右するに足る証拠はない。

しかして、監査委員が地方自治法二四二条第三項に規定する監査を行うについて、請求人に全く意見陳述の機会を与えなかつたとか、著しく不当に制限してこれを拒絶したとかいうのならともかく、前記認定事実によれば原告は監査の過程において十分に意見陳述をなしているというのであるから、右事実から委員小林に原告主張の違法な公権力の行使があつた事実を認めることはできず、他にこれを認めるに足る証拠はない。

してみれば、原告の被告豊田村に対する国家賠償法一条一項に基づく損害賠償請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がないものというべきである。

四 以上の次第で、原告の被告豊田村長に対する訴中、原告の申立第一、第二項記載の部分は不適法であるからこれを却下し、その余の請求及び原告の被告豊田村に対する請求は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例