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東京高等裁判所 昭和54年(ラ)156号 決定 1979年10月05日

抗告人

株式会社不二屋

右代表者

三次きみ

右代理人

中田真之助

外三名

相手方

協同組合武蔵野専門店会

右代表者

山崎喜七

主文

原判決を次のとおり変更する。

相手方が、抗告人に対する東京地方裁判所八王子支部昭和五三年(ヨ)第四三三号有体動産仮差押命令申請事件の仮差押決定正本に基づき、原決定添付第三物件目録及び同第四物件目録記載の各物件に対してなした仮差押の執行を取り消す。

抗告人のその余の申立を棄却する。

本件手続費用は、第一、二審を通じてこれを二分し、その一を相手方の、その余を抗告人の、各負担とする。

理由

第一抗告代理人の抗告の趣旨は、「原決定を取り消す。相手方が抗告人に対する東京地方裁判所八王子支部昭和五三年(ヨ)第四三三号有体動産仮差押命令申請事件の仮差押決定正本(以下「本件債務名義」という)に基づき、原決定添付第一ないし第四物件目録記載の各物件に対してなした仮差押の執行を取り消し、本件債務名義に基づく仮差押執行の続行は許さない。本件執行方法異議申立事件について、東京地方裁判所八王子支部が昭和五三年八月一〇日になした強制執行停止決定は、これを認定する。」との裁判を求めるというにあり、その抗告理由は、別紙抗告理由書記載のとおりである。

これに対する相手方の反論は、別紙準備書面記載のとおりである。

第二当裁判所の判断

一相手方が、本件債務名義に基づき、原決定添付第三物件目録記載の物件に対してなした仮差押執行(以下これを第三次執行という)、並びに同第四物件目録記載の物件に対してなした仮差押執行(以下これを第四次執行という)について。

仮差押命令の執行は、命令が債権者に送達されてから一四日の期間内になされなければならない(民訴法七四九条二項)のであるが、その執行は必ずしも右期間内に完結しなければならないものではなく、期間内に執行の着手さえあれば、その続行は期間後にされることを妨げない。しかして、一たん特定の有体動産に対して執行をしたが、それだけでは被保全債権額に見合う程度に達しなかつた等の理由により、同一債務名義に基づき、再び仮差押の執行をする場合にも、右期間内に着手されなければならないのであり、期間経過後はもはや執行に着手することは許されないといわなければならない。もしこれをゆるやかに解し、右のような場合に、最初の執行が期間内に着手されさえすれば、再度の執行は期間内であると否とにかかわらずその続行とみるべきであるとすると、際限なく続行されることとなり、前記のように執行期間を法定した趣旨を無にすることとなりかねないからである。

これを本件についてみると、記録によれば、本件債務名義は、相手方の抗告人に対する貸付金債権の一部金二〇〇〇万円を被保全債権額とし、昭和五三年七月一一日相手方代理人に送達されたので、同代理人は同月一三日原裁判所執行官に、執行場所を本件文房具店及び画材店として執行の申立をなし、執行官は同月二〇日午前一一時五二分から午後二時五〇分までの間に、本件文房具店において、原決定添付第一物件目録記載の物件に対して執行(第一次執行)をなし、ついで同月二一日本件画材店において、午前一一時から午後二時一五分までの間に、原決定添付第二物件目録記載の物件に対して執行(第二次執行)をなして、いずれも執行を終了した。しかるに右第一次執行における対象物件の評価額は合計四九三万五、六六四円、第二次執行におけるそれは合計三九〇万四、八三一円に過ぎず、両者併せても、前記被保全債権額の半分にも満たなかつた。このような結果に終つたのは、他に執行の対象とすべき物件が無かつた等、執行を中止せざるを得ない特段の事由があつたからではなく、執行場所又はその近辺の場所にほかに執行の対象となしうる高額な商品が多数あつたのにもかかわらず、ただ当該執行官が前記の各時間内で執行を打ち切つたために過ぎず、相手方としては被保全債権額に満つるまで、当然再度の執行を予定していたのであるが、前記債務名義の送達から二週間の期限である同月二五日を漫然と徒過し、ようやく同月三〇日に至つて相手方代理人が前記執行官に再度の執行を上申した結果、同執行官は同一債務名義に基づき、同年八月三日本件文房具店に臨み、原決定添付第三物件目録記載の物件に対して第三次執行を、同日引続き本件画材店において、原決定添付第四物件目録記載の物件に対して第四次執行を、いずれも前記第一、第二次各執行の続行という名目の下になしたことが認められる。

右事実によれば、右第三次及び第四次各執行については、執行期間内に着手されたものでないことはもちろん、右第一次及び第二次各執行の続行ともいうことができない。もつとも、被保全債権額は二、〇〇〇万円の多額に及んでいることは明らかであるが、右第一次、第二次各執行に際しても執行現場又はその近辺の場所に、ほかに相当量の高額な商品が存在していたこと前記のとおりであり、しかも、右物件に対してその当日又は法定の執行期間内に執行し得ないような事情があつたことはなんら窺えないのである。してみれば、右第三次及び第四次各執行はいずれも執行期間経過後の新たな執行といわざるを得ない。よつて、右各執行は前記民訴法七四九条二項の規定に反する違法の執行として取り消すべきである。

二申立人のその余の申立について

当裁判所は、右各申立は棄却すべきものと思料するものであり、その理由は、次のとおり訂正付加するほか、原決定の理由説示(原決定七枚目表一行目から、一四枚目裏三行目まで)と同一であるから、これを引用する。

1  原決定七枚目表五行目、同九枚目表九行目及び同一一枚目表七行目の各「当庁」を「原裁判所」と、原決定一〇枚目表二行目「二二条」を「二四条」とそれぞれ訂正し、同裏五行目「その他仮差押」の次に「物」を加える。

2  抗告代理人は、仮差押は本執行と異なり、目的物件の換価はかなり遠い将来のことになるのであるから、仮差押物選択の基準は、換価の容易性よりは、債権保全をこそ一般的基準とすべきであり、現実に執行された本件仮差押物件のうち、鉛筆、ボールペン、万年筆、絵具、ノートその他の紙製品等は、直ちに競売するならともかく、ある程度の時期を経過すれば、変質のおそれもあり、様式の旧式化もあり、かえつて換価が困難になる物件ばかりと言つてよいし、ひいては、仮差押の目的たる債権の保全の目的も達し得ない旨主張するが、仮差押をなすべき有体動産の選択にあたり、その基準を本執行の場合と特に別異に解すべき理由はなく、又仮差押が長期にわたる場合には、執行官に申し出て点検を求めることもでき(執行官手続規則三四条)、仮差押物件につき価格減少のおそれがあるときは、民訴法五七一条の規定により、執行官に換価を促すこともできるのであるから、申立人の右主張はいずれも採り難い。

それゆえ、前記第一次及び第二次各執行については抗告人主張の違法はないものというべく、また今後原裁判所執行官が本件債務名義に基づいて違法な執行することが確実であることを認めうる証拠はない。

三よつて抗告人の本件申立は、右第三及び第四次各執行の取り消しを求める限度で理由があるから、認容すべきであるが、その余は失当として棄却すべきであり、これと異なる原判決を右のとおり変更することとし、民訴法四一四条、九六条、九二条を適用して、主文のとおり決定する。

(森綱郎 新田圭一 真栄田哲)

抗告理由書

第一、第二 <省略>

第三、原決定の判断二、(一)、(3)(執行期間の点)について

一、原決定は、民訴法七四九条二項の執行期間について、「この執行期間内には仮差押執行の着手があればよいのであつて(中略)、執行行為が完了しなければならないものではなく、従つて執行期間内に執行に着手したが完了しなかつた場合に、執行期間経過後に更に先になされた執行を続行することも許される」と判示する。

右のような理論が保全処分一般について唱えられていることは、申立人も否定しないが、右のいわゆる「続行の理論」は、期間内の執行完了が著しく困難な場合の保全処分債権者(たとえば、明渡断行仮処分等ではそのような場合を想定できる)を救済するための、いわば便宜的な議論であり、本来なら執行期間内に「執行処分の完結を要する」兼子・強制執行法三一七頁)としなければ、保全処分の緊急性と矛盾し、かつ、民訴法の明文の規定を全く空文化するに至るものである。

のみならず、仮差押にあつては、全く別個の物件を別の機会に差押えることは、続行の概念には含まれない。すなわち、「同一債務者に対し、一部の財産を仮差押えした後別個の機会(日時又は場所を異にして)に他の財産に対し仮差押えをするときは、後の執行についても期間内に着手されることが必要である」(前掲・執行官提要一九四頁)のであり(同趣旨・西山俊彦・保全処分概論二三五頁)、「執行の目的物が個々独立したものであるときは、その一つに対し執行に着手しても、他の目的物に対し執行着手の効力は及ばない。」(柳川真佐夫・保全訴訟三五二頁)のである(特に「有体動産は各個に執行の対象になるものである」ことから同趣旨を説くものとして裁判所書記官研修所教材・保全処分一〇四頁)。

二、原判決も、前記判示に続き、期間内の執行と期間経過後の執行の「一体性」を必要とし、これを肯定するためには、「被保全債権額、対象物件の形状及び数量、執行場所、執行の難易性等諸般の事情から判断して、先になされた執行を同一機会に完了することができなかつたことがやむを得ないものであると認められること、並びに後になされた執行が先になされた執行と時間的、場所的に接着していることがともに必要」であると判示する(一五丁)。

仮りに、一般的には、このような基準が考えられるとしても、本件執行の具体的事実関係からみると、以下のとおり、期間内執行と経過後の執行は、原決定の結論とは逆に一体性が認められないものである。

(一) 原決定は、「被保全債権額は二〇〇〇万円と高額であること及び執行の対象物件の数量がかなり多いのに第一次及び第二次執行の対象物件の評価額は被保全債権額の半分にも及ばない」(一八丁表)として、執行を完了することができなかつたこともやむを得ない、と判示しているが、そもそも「被保全債権が高額であること」それ自体は執行期間と何の関係もないことである。また、被申立人の被保全債権額が、金二、〇〇〇万円であり、原決定判示のとおり、第一次執行により評価額金四九三万五、六六四円の物件を、第二次執行により同じく金三九〇万四、八三一円の物件を差押えたが、これのみでは、被保全債権額に満たないことは原決定のいうとおりであるが、前記第一、一においても述べたとおり、第一次執行の際、申立人専務取締役が、申立人方倉庫に高価品のまとまつて存在することを述べているのであり、これを目的とすれば、優に第一次執行時に被保全債権額を満足させるに足りたのである。

なお、原決定は、「被申立人の申立人に対する貸付金債権一六億五三八六万三七〇〇円のうち金二〇〇〇万円を被保全権利として」仮差押決定がなされたとしているが、この点、誤解を避けるため述べておけば、仮差押決定ではそうなつているものの、被申立人の主張する債権は、三億二七七二万二三二七円なのであり(添付疎明方法参照)、むしろ、仮差押決定の債権の表示に被保全権利の特定性の点で疑義があるのである。なお、被申立人は、申立人所有不動産をも被保全債権五〇〇〇万円で仮差押しているが(添付疎明方法参照)、右不動産の担保価値は、右被保全債権額以上である。

(二) 本件執行がもともと「日常頻繁に販売される商品」を狙つて行なわれたものであることも前述したとおりであるが、仮りに被申立人の主観的意図を別にしても、被申立人は申立人の営業、店舗に存する商品などにつき十分熟知しているのであるから、執行申立時にこれらのことを執行官に告げ、かつ、執行補助者を準備する等がいくらでも可能なのであり、対象物件の数量が多いことも、執行完了ができなかつた理由とはなり得ない。

(三) 更に、執行が必ずしも困難でなかつたことは、原決定も認めているようであるが(一八丁表)、被申立人において準備さえすればむしろ「容易」というべきであつたことは右(二)に述べたとおりであり、多少の困難さがあつたとすれば、対象物件の選択において問題があつたからであり、それは執行官ないし被申立人の責に帰せられるべき事情である。

(四) 原決定は、第一、二次執行と第三、四次執行との「時間的な間隔が一三日」(一八丁表)であることも、一体性を認める根拠としているが、もともと執行期間の定めは、「一四日」なのであるから、ほぼそれと同程度の日数を経過してさえ「続行」といえるとは到底考えられない。いわば、明文で規定された期間をほぼ二倍に解釈で延長することに帰するのである。判決例では、第一次執行後四〇数日を経た執行を違法とした事例があるが(東京高決昭和三二年九月九日高民集一〇巻七号四三二頁)、四〇数日なら違法、一三日なら適法とされるなら、その限界は、何日ぐらいとみるべきものであろうか。法の解釈において、明文の規定なき場合に判例の集積により、期間が解釈上定められていくのであれば、もとよりやむを得ぬことであるものの、わざわざ執行期間の定めあるものを、このように不可解にする解釈が許さるべきものではない。この点において、債権者救済のためのいわゆる「続行の理論」が民訴法七四九条を空文化するものであることを明らかに露呈しているものといつてよい。

本来、期間経過後の執行を「続行」として許容するためには、たとえば、差押はしたものの制限時間の到来(五三九条)のため調書作成ができなかつたとか、明渡断行などの場合に債務者の便宜上猶予を与えたとかいう場合に限られるべきであつて、通常は、せいぜい二、三日間に止まるべきものであろう。もともと、執行期間の定めは、国家執行権の制限であり(兼子・前掲三一七頁)、裁判所すらこれを伸縮できず、債務者もその利益を放棄できないものであること(注解強制執行法(4)三五七頁、兼子・前掲等通説)を考えれば、一層厳格に解すべきであり、また、これが債務者の利益のために設けられたものであること(右注解三五六・三五八頁)からすれば、原決定の判断は、あまりに債権者の利益、便宜のみに眼を向けた解釈といわざるを得ない。

三、上述したとおり、原決定の示した一般的基準をもつてしても、本件第三、四次執行が先の執行の続行と解することはできないが、まして、本件の場合、原決定も判示するとおり、被申立人代理人米沢一が、七月三〇日に執行官に対し「執行の続行を申請」した結果、八月三日に第三、四次執行がなされたのである(一六丁裏)。

右のように「続行の申請」がなされなければ、実務上執行官は続行をしないのであつて(従つて、本件の場合の如き続行は、執行官が自らの判断で行つたものではなく、それ故、「続行の申請」は、単に職権発動を促すものではなく、実質上新たな執行行為を求める申立に類する)、申請があつて始めて行われる執行行為は、これを「続行」と解することはできず、新たな執行行為というべきものである。

しかも、第三、四次執行が執行期間徒過後のものであるとともに、右「続行の申請」がなされたのも、執行期間徒過後のことなのである。

一歩を譲つて考えて、執行期間内に続行の申請がなされたのに執行官の職務上の都合で期間徒過後に為されたというのであれば、なお、債権者の立場を救済すべき余地もあると考えられるのであるが、執行期間経過後に始めて続行の申請をなし、かつ、これに執行官が応ずるのは、執行期間の制限を無視した不適法な行為である。

むしろ、このような場合、執行期間が経過する七月二五日の時点では、債権者はすでに行なわれた執行をもつて満足したものと解すべきであり、その後の続行は許されるべきものではないのである。

第四、原決定の叙上の各点に関する判断は、いずれも、あまりに債権者の利益を顧慮することに傾いた便宜的解釈に過ぎるのであつて、原決定は取消を免れず、本件各執行は違法のものとして取消さるべきである。

また、被申立人は、本件異議申立に基づく執行停止決定がなければ、更に昭和五三年八月一三日に執行を予定していたものであり(昭和五三年一〇月一八日付三次勉報告書添付の「不二屋に関しての交渉経過報告書」)、かつ、第一、五記載のとおり、再度仮差押決定を得て執行をしているくらいであるので、更に、本件仮差押の続行として違法な執行がなされるおそれがあり――これが執行期間経過後のものとして違法であることは、期間的にみて第三、に述べた以上に明らかであり、かつ、原決定が是認されるなら、再び同様な執行方法が採られるおそれがある――、右強制執行停止決定は認可さるべきものである。

物件目録<省略>

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