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東京高等裁判所 昭和54年(ネ)670号 判決 1980年3月13日

控訴人(原告)

中屋政雄

ほか五名

被控訴人(被告)

主文

1  控訴人中屋政雄の控訴を棄却する。

同控訴費用は右控訴人の負担とする。

2  原判決中控訴人中屋恵子、同山崎和香子、同中屋昌喜、同中屋博子及び同渡辺美代子に係る部分を次のとおり変更する。

被控訴人は、控訴人中屋恵子、同山崎和香子、同中屋昌喜、同中屋博子及び同渡辺美代子に対しそれぞれ金三万七三八四円及びこれらに対する昭和五二年六月三日以降支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

右控訴人らのその余の請求(当審における拡張請求を含む。)を棄却する。

同訴訟費用中第一審に係るものは、これを一五分し、その一を被控訴人の、その余を右控訴人らの各負担とし、第二審に係るものは右控訴人らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人ら

1  原判決中控訴人ら敗訴部分を取り消す。

2  被控訴人は、控訴人中屋政雄に対し金九一万一〇二三円、控訴人中屋恵子、同山崎和香子、同中屋昌喜、同中屋博子及び同渡辺美代子に対しそれぞれ金五八万六四一三円及びこれらに対する昭和五二年六月三日以降支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は、第一、第二審とも被控訴人の負担とする。

との判決及び仮執行の宣言

(当審において、控訴人中屋政雄はその請求を金一〇〇万四四八六円及びこれに対する昭和五二年六月三日以降支払済みに至るまで年五分の割合による金員の支払を求める請求に減縮し、その余の控訴人らはその請求をそれぞれ金六二万三七九六円及びこれに対する右同日以降支払済みに至るまで右同一の割合による金員の支払を求める請求に拡張した。)

二  被控訴人

控訴棄却(当審における拡張部分については請求棄却)の判決

第二当事者の主張及び証拠関係

次のとおり訂正又は付加するほかは、原判決の事実摘示と同一であるから、これを引用する。

一  控訴人らの主張

1  過失相殺について

(一) 本件事故は、加害者が前方注視を怠らなければ、容易に被害者の動静に気付き、ブレーキをかけることによつてこれを避けることができた筈であり、また、前輪ブレーキに故障がなければ、加害車両を停止することによりこれを防止し得た筈である。このように加害者の過失は重層的で極めて大きいから、損害賠償の額を定めるについて被害者の過失をそれほど大きく斟酌すべきではない。

(二) 保険会社による自賠責保険金の支払に当たつては、本件事故と同じ態様の事故の場合、被害者の過失を斟酌してこれを減額する取扱はされていないから、右保険制度と同一の目的をもつて創設された政府の自動車損害賠償保障制度により被害者の損害を填補するに当たつても、同様の取扱がなされるべきである。

2  控訴人らが本訴において填補を請求する金額は次のとおりである。

(一) 控訴人中屋政雄 一〇〇万四四八六円

(1) 治療費関係 六万六二〇〇円

(原判決四枚目表四行目に「治療費六万四、七〇〇円」とあるのを「治療費六万四、二〇〇円」と訂正する。)

(2) 葬儀関係費用 三二万三八〇二円

(3) 亡中屋ふみの逸失利益 四二四万七三九七円

事故当時亡中屋ふみと同年齢(五七歳)の女子の平均賃金は八万九一〇〇円であり、事故がなければ向後一〇年間稼働でき、その生活費として収入の五割を費消するとして新ホフマン式により年五分の割合による中間利息を控除して現価に引き直した金額

(4) 亡中屋ふみの慰藉料 二〇〇万円

(5) 控訴人中屋政雄固有の慰藉料 六七万円

右(1)ないし(4)の合計金六六三万七三九九円に控訴人中屋政雄の相続分の割合である三分の一を乗じた二二一万二四六九円に右(5)の金額を加えると金二八八万二四六九円となるところ、控訴人中屋政雄は本件事故につき加害者側から金七九万八〇七〇円(控訴人らが加害者側から支払を受けた治療費葬儀費用関係金三九万四二〇〇円及び和解金二〇〇万円に右相続分の割合を乗じた金額)の支払を受け、また被控訴人からすでに金一〇七万九九一三円の填補を受けているので、これらを控除すると金一〇〇万四四八六円となる。

(二) 控訴人中屋政雄を除くその余の控訴人ら

それぞれ六二万三七九六円

右控訴人らそれぞれ固有の慰藉料 六七万円

前記(一)の(1)ないし(4)の合計金六六三万七三九九円に右控訴人らそれぞれの相続分の割合である一五分の二を乗じた八八万四九八六円に右固有の慰藉料金六七万円を加えると金一五五万四九八六円となるところ、右控訴人らはそれぞれ本件事故につき加害者側から金三一万九二二六円(控訴人らが加害者側から支払を受けた治療費葬儀費用関係金三九万四二〇〇円及び和解金二〇〇万円に右相続分の割合を乗じた金額)の支払を受け、また被控訴人からすでに金六一万一九六四円の填補を受けているので、これらを控除すると金六二万三七九六円となる。

二  被控訴人の主張

1  過失相殺について

(一) 本件事故の場合、被害者は加害車両が右方約七・一メートルに接近しているのに車道の横断を開始したのであるから、正常なブレーキによる自動二輪車の制動距離などからして、仮に加害車両の前輪ブレーキが故障していなかつたとしても、ブレーキ制動によつては被害者との衝突を避けることはできなかつたといわねばならない。すなわち、加害者の過失としては、せいぜい前方不注視を挙げ得るにとどまる。

(二) 自賠責保険金の支払に当たつて本件事故と同じ態様の事故の場合、被害者の過失を斟酌してこれを減額する取扱がされていないことは認めるが、補填金の支払が立替払の性質を有する自動車損害賠償保障事業においては、そのような取扱は許されない。

2  被控訴人が本件事故に関しすでに控訴人らそれぞれに対し填補した金額は控訴人ら主張のとおりである。

三  証拠関係〔略〕

理由

一  当裁判所の判断は、原判決の理由のうち、三の(四)ないし(六)、四及び五を削り、以下のとおり付加するほか、原判決が理由として説示するところと同一であるから、これを引用する。

1  過失相殺について

(一)  被控訴人は本件事故の場合被害者の行動からすると、仮に加害車両の前輪ブレーキが故障していなかつたとしても、ブレーキ制動によつては衝突は避け得られなかつた旨を主張するが、前輪ブレーキが正常に作動した場合、その制動距離及び空走距離からして衝突自体はこれを避け得られなかつたとしても、これが全く作動しない場合に比べ、被害者への衝撃はより少ないものとなつたであろうことは容易に考え得るところであるから、被害者が死亡するに至つていることに鑑み、前輪ブレーキの作動しない二輪車を運転した点も前方不注視とともに加害者の過失として斟酌さるべきものである。

しかしながら、他方、事故地点から約四〇メートルの所に丁字型交差点があり、さらに事故地点から四五・四メートルの地点に押ボタン式信号の設置された横断歩道があるにかかわらず、歩車道がガードレールによつて区別されている道路において、一分間に自動車約六〇台の交通量のある車道を、加害車両が右方約七・一メートルに接近しているのに、ガードレールの切れ目から横断を開始した被害者亡中屋ふみの行動は、注意を欠いたものであつたといわざるを得ず、この点は被害者の過失として賠償額を定めるにつき斟酌すべきものであり、前記認定に係る双方の過失を比較考量すれば、(1)治療費関係、(2)葬儀関係費用、(3)逸失利益の損害につき賠償額をその六割五分に減額するのを相当とする。

(二)  控訴人は、自賠責保険金の支払に当たつては、本件事故と同じ態様の事故の場合、被害者の過失を斟酌してこれを減額する取扱はされていないから、政府が自動車損害賠償保障事業により損害を填補する場合においても同様の取扱がされるべきである旨を主張する。

しかしながら、自賠責保険金の支払に当つて事実上所論のような取扱がされているとしても、自賠法に基づき政府が行なう自動車損害賠償の保障は、加害者の損害賠償責任の成立及びその賠償すべき金額を前提として、加害者が支払うべき損害賠償金を一定の限度において立替払いする性質のものであるから、被害者は、その者が本来加害者に対して有する損害賠償請求権の範囲を超えて政府からの填補を請求することはできず、右損害賠償額を定めるにつき被害者の過失が斟酌されるべき場合は、填補すべき金額を定めるについても当然これを斟酌しなければならない。

2  慰藉料の額について

本件事故の態様、被害者中屋ふみの過失等諸般の事情を斟酌すると亡中屋ふみ及び控訴人らの慰藉料は次の金額をもつて相当とする。

(一)  亡中屋ふみ 一二五万円

(二)  控訴人中屋政雄 五五万円

(三)  控訴人中屋政雄を除くその余の控訴人らそれぞれ 四〇万円

3  控訴人らが被控訴人に対し填補を請求し得る金額

(一)  控訴人中屋政雄が請求し得る損害賠償額

(1)治療費関係六万六二〇〇円、(2)葬儀関係費用三二万三八〇二円及び(3)亡中屋ふみの逸失利益四二四万七三九七円の合計額金四六三万七三九九円に六割五分を乗じた金三〇一万四三〇九円に亡中屋ふみの慰藉料金一二五万円を加え、その合計額である金四二六万四三〇九円に右控訴人の相続分の割合である三分の一を乗じ、その結果の金額である金一四二万一四三九円(控訴人中屋政雄を除くその余の各控訴人に係る金額の算出に当たつても、それぞれその相続分の割合を乗じて算出すること後記のとおりであるところ、それによつて生ずる円以下の端数金額はすべて控訴人中屋政雄の分に加えることとする。)に右控訴人固有の慰藉料金五五万円を加えた金一九七万一四三九円となる。

(二)  控訴人中屋政雄を除くその余の控訴人らがそれぞれ請求し得る損害賠償額

右金四二六万四三〇九円に右控訴人らの相続分の割合である一五分の二を乗じ、その結果の金額である金五六万八五七四円に右控訴人ら固有の慰藉料金四〇万円を加えた金九六万八五七四円となる。

(三)  控訴人中屋政雄が本件事故につき加害者側から金七九万八〇七〇円の支払を受け、填補請求額からこれを控除すべきことは、右控訴人の自認するところであり、また右控訴人が被控訴人からすでに金一〇七万九九一三円の填補を受けていることは当事者間に争いがないから、前記(一)の金額から右各金額を控除すると、右控訴人が本訴において被控訴人に対し填補を請求し得る金額は金九万三四五六円となる。

また、控訴人中屋政雄を除くその余の控訴人が本件事故につき加害者側からそれぞれ金三一万九二二六円の支払を受け、填補請求額からこれを控除すべきことは、右控訴人らの自認するところであり、また右控訴人らが被控訴人からそれぞれすでに金六一万一九六四円の填補を受けていることは当事者間に争いがないから、前記(二)の金額から右各金額を控除すると、右控訴人らが本訴において被控訴人に対し填補を請求し得る金額はそれぞれ金三万七三八四円となる。

4  したがつて、本訴請求は控訴人中屋政雄において金九万三四五六円、その余の控訴人らにおいてそれぞれ金三万七三八四円及びこれらに対する本件訴状送達の翌日であることが記録上明らかな昭和五二年六月三日以降支払済みに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、その余の請求は理由がない。

二  してみると、原審においてすでに右理由のある範囲を超えて請求を認容された控訴人中屋政雄の控訴は理由がないので、民事訴訟法第三八五条、第三八四条に則り、これを棄却し、その余の控訴人らの控訴に基づき、前記判断に符合しない原判決を同法第三八六条、第三八四条に則り変更し、右控訴人らが当審において拡張した請求は理由がないので、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について同法第九五条、第九六条、第八九条、第九二条、第九三条を適用し、仮執行の宣言は相当でないのでこれを付さないこととし、主文のとおり判決する。

(裁判官 杉本良吉 石川義夫 三好達)

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