大判例

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東京高等裁判所 昭和54年(ネ)2646号 判決 1980年12月23日

控訴人

株式会社土井鋼材沼津事業所

右代表者

土井道夫

右訴訟代理人

多賀健三郎

外二名

被控訴人

遠藤工業株式会社

右代表者

遠藤徳保

右訴訟代理人

仲田賢三

右補助参加人

柳田スチール株式会社

右代表者

柳田昌宏

右訴訟代理人

上坂明

外二名

主文

原判決を次のとおり変更する。

控訴人の主位的請求を棄却する。

控訴人の予備的訴を却下する。

訴訟費用(補助参加によつて生じた費用を含む。)は一、二審とも控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、原判決を取消し、原判決摘示主位的・予備的請求の趣旨どおりの判決を求め、

被控訴人・同補助参加人各代理人は、控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方及び補助参加人の事実の主張及び証拠関係は、原判決事実摘示のとおりである<中略>からこれを引用する。

理由

一主位的請求について

1  岡村鋼板が被控訴人に対し控訴人主張のとおり四〇五万四〇八〇円の鋼材売掛代金債権(以下本件債権という。)を有したこと、控訴人が岡村鋼板名義で作成発送した債権譲渡通知書(以下本件通知書という。)が昭和五二年六月三〇日に被控訴人に到達したこと、右通知書には、控訴人が岡村鋼板から本件債権の譲渡を受けた旨控訴人により補充記載がなされていることは、いずれも当事者間に争いがない。

右争いのない事実と<証拠>を総合すれば、控訴人は、昭和四五年頃から岡村鋼板に対し継続して鋼板を売渡して来たが、同社から受取つた昭和五一年一〇月三一日満期の手形が決済される見込みが立たなくなつたところから、同月二五日頃同社から手形の満期の延期方を懇願され、両者が話合つた結果、控訴人は岡村鋼板の支払延期に応じ、かつ、鋼板売買取引をなお継続することとし、岡村鋼板は控訴人に対し同年一一月一日別紙のとおりの内容の念書(甲第二号証)を差入れ、またその頃右念書所定の自社のゴム印及び代表者印の押捺された債権譲渡通知書内容証明郵便用紙三枚を交付したこと、昭和五二年六月二五日岡村鋼板が控訴人に交付していた手形が不渡となり、同月二八日に至り同月三〇日をもつて岡村鋼板が手形不渡により倒産することが必至となつて、控訴人の同社に対する鋼材売却代金の支払につき債務不履行が発生し、その支払を受けられないことが明らかとなつたので、控訴人は、当時確定していた岡村鋼板に対する鋼材売却代金債権一七三六万七八八七円に対する代物弁済として、前記念書に基き、同社の鋼材類取引上の債務者及び債権額を調査確認のうえ、同月二九日かねて岡村鋼板から交付を受けていた前記債権譲渡通知書の空白部分を補充し、同日公証人の確定日付を得たうえ、これを被控訴人を含む同会社の債務者三社に発送し、同月三〇日右債務者らに到達したこと(右発送及び被控訴人に対する到達の事実は当事者間に争いがない。右通知書のうち、被控訴人に対するものは、本件債権にかかる本件通知書(乙第六号証)であり、その封筒が乙第七号証の一、二である。)がいずれも認められ、これに反する証拠はない。

以上によれば、右通知にかかる債権譲渡が有効であれば、控訴人は遅くとも昭和五二年六月三〇日をもつて、本件債権の譲渡を受けたこととなる。

2  被控訴人が昭和五三年一月六日債権者を確知しえない等の理由でその主張のとおり本件債権額を供託したことは当事者間に争いがない。

<証拠>によれば、本件債権につき、被控訴人に対し本件通知書到達後、被控訴人主張の仮差押命令(昭和五二年七月七日付)及び債権差押・取立命令(同月二二日付)が送達されたことが認められ、また、補助参加人が、昭和五二年九月九日控訴人らを被告として本件債権の譲渡が詐害行為にあたるとしてその取消を求める訴を提起し(静岡地方裁判所沼津支部昭和五二年(ワ)第三一〇号。右訴訟につき昭和五四年一〇月二九日本件補助参加人(同事件原告)勝訴の判決が言い渡され、その控訴審が当庁に係属した。)、かつ、本件訴訟に補助参加を申し出たことは、記録に徴し当裁判所に顕著な事実である。

本件通知書の作成、発送の経緯は、1に述べたとおりであるが、<証拠>によれば、本件通知書は内容証明郵便用紙を用いながら内容証明郵便によらないで発送されたことが、また、原審証人佐藤俊介、同林昭治の各証言によれば、被控訴人は、昭和五二年七月初頃岡村鋼板の営業部長林昭治(同社代表者からまかされて営業全般を統括する者であり、また、被控訴人との取引の担当者である。)に対し右通知書の真否を尋ねたところ、同部長はこれを否定し、かつ封筒の発信人岡村鋼板の住所も古いものが記されている旨述べたことがそれぞれ認められ、これら認定に反する証拠はない。もつとも、控訴会社の担当者らが被控訴人に対し前記念書を示すなどして事情を説明したことが窺えないわけではないが、債権譲渡人岡村鋼板自身の意思が明らかにされない限り重要な意味をもちえないことは、債権譲渡の通知が譲渡人によりなされるべき旨定めた民法四六七条一項に徴し明らかである(念書の約旨については、本件訴訟においても当事者間に強く争われているところで、被控訴人に的確な判断を求めるのは難きを強いるものといわなければならない。)。他に、被控訴人に対し、本件通知書が真正に作成されたことその他本件債権が有効に控訴人に移転したことを通常の取引人をして首肯させるに足る資料が提示された事実はこれを窺いえない。

してみると、被控訴人が本件供託時において、本件債権が本件通知書にかかる債権譲渡により控訴人に帰属するに至つたか否か知りえないとした点には過失がなかつたものというべきである。

よつて、本件債権は、控訴人に帰属しているか否かに拘らず、本件供託により消滅したものといわなければならず、控訴人の主位的請求は理由がない。

二予備的請求について

本件供託が債権者を確知しえない等の理由でなされたことは当事者間に争いがない。

債権者確知しえないことを理由とする供託につき、真正債権者が供託金の還付を受けるには、自己が権利者であることを明らかにすることを要するが、この場合、通常、他の被供託者(あるいはその承継人・取立処分権を有する者)との間に判決等により権利関係を確定すれば足りるというべきところ、本件についてみるに、<証拠>によれば、本件供託は、控訴人又は岡村鋼板を被供託者としてなされていることが認められる。

したがつて、債権者の確定を断念して供託をした債務者との間の確認訴訟は、債権者の確定のために適切・必要な手段といえない。

よつて、本件予備的訴は、被告適格を欠く者を被告とした不適法な訴であるといわなければならない。

三結語

以上のとおり、控訴人の主位的請求は失当として棄却し、予備的訴は不適法として却下すべきであるから、右趣旨にしたがい原判決を変更し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九六条、八九条、九四条後段を適用して主文のとおり判決する。

(杉山克彦 倉田卓次 高山晨)

念書

本日、弊社は貴社との取引に当つて、弊社が貴社にお支払いする債務の履行を確保するため、弊社の各得意先に対する売掛金を譲渡担保に差入れます。将来弊社が万一、手形の支払拒絶、不渡、破産、事業閉鎖等による倒産、その他貴社へのお支払いを不履行したる場合は、本日、右の趣旨で差入れたる別紙内容証明による債権譲渡書の空白部分(金額、日付、得意先)を貴社に自由に補充のうえ直ちに債権譲渡通知書を投函されて何ら異議ありません。

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