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東京高等裁判所 昭和52年(行コ)56号 判決 1979年6月26日

控訴人

米沢伶子

右訴訟代理人

大村金次郎

被控訴人

芝税務署長

細金英男

右指定代理人

宮北登

外三名

主文

原判決を次のとおり変更する。

被控訴人が昭和四八年七月三一日付で控訴人の昭和四七年分所得税についてした更正処分のうち分離短期譲渡所得の金額五二二万八三〇一円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定のうち右超える部分に関する部分を取消す。

控訴人のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は、第一、二審を通じこれを三〇分し、その一を控訴人の負担としその余を被控訴人の負担とする。

事実《省略》

理由

一原判決事実摘示第二の一請求原因1の事実、本件更正処分において控訴人主張の借入金利子を本件土地の取得費に算入することを否認した事実及び同第二の三被控訴人の主張冒頭より1、2の(一)の事実は、いずれも当事者間に争いがない。

二そこで、本件譲渡所得の金額の計算上、控訴人の主張する借入金利子ないし借入金債務に関連する費用(借入金債務担保のための抵当権設定等登記費用、借入金債務返済契約についての公正証書作成費用)が、本件土地の取得費に算入されるべきか否かについて判断する。

<証拠>によると、次の事実を認めることができる。

(一)  控訴人は、昭和四三年七月二九日、訴外三田ちか、同三田靖治及び同三田昭代(共有持分各三分の一)から、東京都世田谷区等々力六丁目四〇番一〇畑一八八平方ートル、同番二一畑一八平方メートル及び同番二四畑8.35平方メートル(以下これらを合わせて「本件土地」という。)を次の約定により代金八七四万四四〇〇円で買い受けた。

(1)  控訴人は、訴外三田らに対し、右同日手付金として一〇〇万円を支払い、農地法第五条の許可申請につき農業委員会における決議通過確認した後一〇日以内(同年八月三一日まで)に内金として二〇〇万円を支払う。

(2)  訴外三田らは、控訴人に対し、右許可があつた後、同年九月三〇日までに本件土地につき所有権移転登記申請手続及び明渡しを完了する。右手続完了と同時に控訴人は、訴外三田らに対し、残額五七四万四四〇〇円を支払うものとする。ただし、右期日までに右許可が得られない場合は双方合意の上延期することができる。

(3)  右残代金五七四万四四〇〇円のうち三五〇万円は訴外三田ら及び仲介人訴外三越興業株式会社指定の金融機関から融資を受けて決済する。

(二)  控訴人は、右売買契約締結の日訴外三田らに手付金一〇〇万円を支払つた。次いで、控訴人及び訴外三田らは、昭和四三年一〇月一一日、東京都世田谷区農業委員会を通じて同都知事に対し、本件土地につき農地法第五条の規定による許可申請をし、同年一一月二一日右都知事の許可を受け(許可番号第一八九四号)、同年一二月三日右農業委員会を通じて右許可書の交付を受けた。そして、控訴人は、同日(右一二月三日)本件土地につき共有者全員持分全部移転の登記を経由した。

(三)  控訴人は、同年一二月一〇日、訴外川崎市信用金庫との間で、本件土地につき同日の金銭消費貸借契約に基づく抵当権設定契約を締結し、同月一一日、本件土地につき右信用金庫を抵当権者とする抵当権設定登記を経由した上、同月一四日、右信用金庫(登戸支店扱い)から二五〇万円を、最終弁済期日昭和五三年一二月二二日、弁済方法昭和四四年一月から毎月二二日二万〇五〇〇円ずつ均等割賦払(ただし、最終回は六万〇五〇〇円とする。)、利息日歩八厘四毛と約定して借り受けた。そして、控訴人は、昭和四三年一二月一四日、訴外三田らに対し、本件土地の売買残代金五七四万四四〇〇円を支払い、前記売買代金を完済したが、右残代金支払の一部に右信用金庫から借り受けた二五〇万円を充てた。

(四)  控訴人は、夫の訴外米沢辰男が代表取締役に就任している訴外有限会社白金工芸の取締役であり、肩書住所地に借家住いをしているのであるが、自分らの居宅を新築する意図をもつて本件土地を買い受け、昭和四四年七月ころ本件土地を整地して、周囲にブロツク塀を設置したものの、右居宅を建築するには至らなかつた。

また、控訴人は、訴外川崎市信用金庫に対し、昭和四三年一二月一四日から約定利息を、昭和四四年一月二二日から約定割賦払金及び約定利息を支払つていたが、昭和四六年一〇月二〇日ころ、訴外山中啓正に対し本件土地を売り渡し(その代金が一五七〇万円であることは当事者間に争いがない。)、同人から手付金を受領したので、これをもつて同年一一月一日、右信用金庫に対し借入金元本残額一八〇万三〇〇〇円を支払い、これを完済するとともに、同日、右信用金庫から利息の過払分(同月二日から同月二二日までの分)一万〇四一二円の返還を受けた。したがつて、控訴人が右信用金庫に対して支払つた借入金利子は、昭和四三年一二月一四日から昭和四六年一一月一日までのもので、その合計額は六二万八六二九円である(ただし、被控訴人がこの支払利子合計額を六四万九四五三円であるとしこれを資産の取得費として控除することを否認したことについて当事者間に争いがない。)。

そして、控訴人は、昭和四六年一一月二日、本件土地につき右信用金庫の抵当権設定登記の抹消登記を経由し、昭和四七年一月一二日、本件土地につき訴外山中に対する所有権移転登記を経由した。

右認定事実によれば、控訴人は、昭和四三年七月二九日訴外三田靖治ほか二名から農地法第五条の許可を条件として本件土地を代金八七四万四四〇〇円で買い受け、同年一一月二一日同条の許可を受けて、同年一二月三日本件土地につき共有者全員持分全部移転登記を経由した上、同月一〇日訴外川崎市信用金庫のため本件土地につき抵当権を設定して、同月一一日右抵当権設定登記を経由した後、同月一四日右信用金庫から二五〇万円を利息日歩八厘四毛の約定で借り受け、同日右借入金二五〇万円と合せ五七四万四四〇〇円を訴外三田らに支払つて本件土地の買受残代金を完済し、同日から昭和四六年一一月一日までの間に右借入金利子六二万八六二九円を右信用金庫に支払つたというのであり、また、控訴人は、本件土地を自己使用の目的すなわち非業務用の資産として取得したのであつて、控訴人が本件土地につき訴外三田らから持分全部移転登記を経由し、直ちに、右信用金庫のための抵当権設定登記を経由した経緯に照らせば、控訴人は、右持分全部移転登記を経由したことにより本件土地の処分権限を完全に把握し、同時に本件土地の引渡しをも受けたものと見るのが相当である。

三ところで、譲渡所得に対する課税は、資産の値上りによりその資産の所有者に帰属する増加益を所得として、その資産が他に譲渡されて所有者の支配を離れるのを機会に、右増加益の所得を清算して課税する趣旨のものである(最高裁判所昭和四七年(行ツ)第四号同五〇年五月二七日第三小法廷判決・民集二九巻五号六四一頁参照)から、この趣旨を基礎として考察を進めるに、所得税法第三八条第一項の規定に照らせば、資産を取得するための借入金の利子が、右条項にいう「設備費及び改良費の額」に当たらないことは文理上明らかであり、この点に関し他に法令上別段の定めをした規定は存しないから、借入金の利子が同条項の「譲渡所得の金額の計算上控除する資産の取得費」を構成するかどうかは、もつぱら同条項にいう「その資産の取得に要した金額」に該当するかどうかの解釈いかんにかかることになる。

(一) 当該資産を交換取得する場合に反対給付物を他から入手するのに要した相当額の対価支払は、交換取得との間に相当因果関係があるとして、右対価を「取得に要した金額」に含めるべきものと解するのが相当であると同様に、有償取得の通常手段である買受代金支払に引き当てるべき金額を入手するための対価としての相当額の支出もまた資産取得との間に相当因果関係が認められるところ、右金額を他から借り入れた場合に支払われる相当額の借入金利子は正に右金額獲得の対価としての支出金額と見ることができるから、これを当該資産の「取得に要した金額」に含めるべきものと解してなんら不合理はない。

資産取得のための出費が右取得との間に相当因果関係をもつといえるか否かは、当該取得のための支出の必要性の度合を考量し、かつ、その出費額を取得金額から控除することが当該租税負担の合理性、衡平性の観点から相当であるか否かを考慮して決せられるべきことがらであつて、取得と出費との間に被控訴人主張のように直接因果関係の存する場合に限定しなければならない理由は見出し難い。直接因果関係のある支出であつても、不相当な支出金額は「取得に要した金額」ということができない反面、因果関係が必ずしも直接的でなくても相当因果関係を認める余地があるものといわなければならない。手持資金によつて資産が取得される場合との対比を考えれば、借り入れた資金による取得の場合の借入金利子支払額は、その借入及び利子支払が必要相当であつたと認められるかぎり、「取得に要した金額」として課税所得から控除することが租税負担の衡平性のうえから妥当であり合理的であるといわなければならない。

<証拠>によつて明らかなとおり、税務行政実務上の取扱指針ともいうべき現行の取得税基本通達(昭和四五年七月一日直審(所)三〇)は、所得金額計算上の必要経費について規定する所得税法第三七条に関し、「業務の用に供される資産の取得のために借り入れた資金の利子は、当該業務にかかる各種所得の金額の計算上必要経費に算入する。ただし、当該資産の使用開始の日までの期間に対応する部分の金額については、当該資産の取得価額に算入することができる。」(同基本通達三七―二七)と定め、この定めに対応して、譲渡所得の金額の計算上控除する取得費について規定する同法第三八条に関し、「固定資産の取得のために借り入れた資金のうち、当該固定資産の使用開始の日までの期間に対応する部分の金額は、業務の用に供される資産にかかるもので三七―二七により当該業務にかかる各種所得の金額の計算上必要経費に算入されるものを除き、当該固定資産の取得費又は取得価額に算入する。」(同基本通達三八―七)と定めているが、これらの基本通達の趣旨は、業務用資産についてはその使用開始以後には使用に対応する事業収益が考えられるから、当該納税期間中に支払われる借入金利子を当該期間の事業遂行によつて生じた費用として当該事業にかかる各種所得の計算上必要経費として控除することができるとしているものであつて、これら基本通達からも、資産取得のための借入金の利子支払と右取得との間の相当因果関係を本質的には否定しない趣旨を汲み取ることができるのである。(ちなみに、法人税の場合には、<証拠>によれば、法人税の取扱いについての通達(昭和三四年直法一―一五〇)一一五条において、取得資産の使用開始前の借入金の利子についてこれを資産の取得価額に算入して控除するか使用開始以後の分と同じく資産の維持または管理の費用として損金に算入するかは法人の任意処理にまかされる旨が定められていたところ、現行の法人税基本通達(昭和四四年直審二五)制定の際に前記通達一一五条の定めは削除されることになつたが、この点については一般に公正妥当と認められる会計処理に従つて差支えないものとし、課税行政実務上通達をもつて定めることをしないが従来の取扱いを変更する趣旨ではなかつたことが窺えるのであつて、この経緯からも、借入金利子支払と資産取得との間の因果関係の相当性を否定すべき実質的理由を見出すことはできない。)

なお、前掲所得税基本通達の趣旨に従えば、非業務用資産については、その使用開始以降もその使用に対応する事業収益というものは考えないのであるから、当該資産取得のために支払われる借入金利子であつても、その資産の使用開始の日までの期間に対応する部分の金額についてのみ取得価額に算入できるにすぎないこととなり、使用開始以降の分については、資産の取得費としても、一般的必要経費としても控除することができないことになるわけであるが、このこと自体の当否は後に触れることとして、右基本通達が右のように使用開始の前後をもつて取扱いの区別をしていることからは、非業務用資産について右基本通達が資産取得のための借入金利子を取得費に含めることを本質的に否定しているものと解することはできない。

以上のように課税行政実務上の取扱指針として示されたところから見ても、資産取得とその取得のために要した借入金の利子支払との間の相当因果関係をその因果関係が直接的でないことの故に否定しなければならないとはしていないことが理解できる。

しかもまた、<証拠>によつて明らかなように、右所得税基本通達は、固定資産を賦払の契約によつて取得した場合について、「その賦払金の合計額のうちに賦払期間中の利息及び賦払金の回収のための費用等に相当する金額が含まれている場合には、その利息及び費用相当額は、業務の用に供される資産にかかるもので三七―二八により当該業務にかかる各種所得の金額の計算上必要経費に算入されたものを除き、当該固定資産の取得費又は取得価額に算入する。」(同基本通達三八―八)と定めていて、これは文理上、非業務用資産にも適用あるものと解せられるところであるが、この場合には当該資産の使用開始の前後を問わないものと解せられるから、当該資産が譲渡されるまでに支払われた利息等の金額は、譲渡所得の金額の計算上控除される取得費に含まれることになるわけである。このような通達がなされた理由として考えられることは、一つには、資産を賦払の契約によつて購入する場合の賦払代金の額には賦払期間中の利息および回収費相当額が含まれ、即金で購入する場合の代金額に右利息等相当額が上乗せされるのを通例とすることからの衡平的考慮にあるということができるが、代金の賦払とは別個に賦払期間中の利息等の支払が約定される場合をこの基本通達の適用から除外する趣旨と解することはできないから、資産取得の代金が当該売主以外の者からの借入金をもつて賦払いされる場合の借入金利子支出についてもこれを取得費に算入しないことにする合理的理由は前示必要性、衡平性の考慮から見出し難いものといわなければならない。さらにまた、取得代金が他からの借入金をもつて即金で支払われる場合の借入金利子支出はそれが一時払いされると延べ払いされるとの別にかかわりなく納税者の担税力に消極的に作用する点では右代金が賦払いされる場合に比べてまさるともおとらないから、この場合の借入金利子支出を前叙の場合と別異に取扱わなければならない理由も見出し難い。

(二)  しかし、ここで、右基本通達が前記のごとく非業務用資産の取得費について業務用資産の取得費とは別個の取扱いをしていることについて考えてみるに、資産が業務の用に供されるものとして取得される場合の取得費の入手および支出の経過は一般に財務会計上明確に把握しやすいのに対し、非業務用資産の場合には、その取得のために予定した借入金であつてもその一部又は全部が納税者及びその扶養家族等の生活維持のための費用すなわち所得金額の計算上必要経費に算入されない家事関連費(所得税法第四五条第一項第一号参照)に振り向けられ、現実に取得代金として支払われた金額の一部又は全部が当該借入以外の方法で用意された手持金等によつて充足されることが金銭の高度代替性上考えられ、このような家事関連費との混淆のために当該資産取得のために要した借入金としての特定性を保持し難く、したがつてまた、右借入金の利子支払も右資産取得のために要した借入金に対する利子の支払としての特定性を把握できなくなることについての考慮が働いて、右基本通達上異つた取扱いがなされているものと解する以外に右区別の理由を見出すことができない。そこで、同基本通達三八―七が非業務用資産の取得のための借入金利子は当該資産の使用開始の日までの期間に対応する部分の金額に限定してこれを取得費又は取得価額に算入するものとしている趣旨も、右使用開始までの分については家事関連費との混淆の可能性が少く、取得のために要した借入金利子支出としての特定性の把握が困難ではない点を見て、これを取得費又は取得価額に算入することに取扱つても税務の処理上不当の結果を生じないとの考慮が働いているものと解すること以外にその合理性を見出すことはできないものである。この点について、使用開始以後は当該資産の取得による利益を受けているからそれ以後継続的に発生する借入金利子は資産の使用によつて生ずる収益に対応する費用としてその収益にかかる所得の計算上控除されるべきものであるから「取得に要した金額」とはいえないと説明することは当をえない。なんとなれば、前にも述べたとおり、譲渡所得に対する課税の本質は、資産の保有期間中の値上り益に対する清算課税であり、保有期間中の資産使用による収益の有無を考慮に入れる制度ではないから、譲渡所得の控除費目としての取得費に当るか否かを定めるにあたつて使用収益の有無を考慮に入れることは筋ちがいのことといわなければならないからである。譲渡所得以外の各種所得の金額の計算上、費用収益対応の考え方から当期支払分の借入金利子相当額を当期の必要経費に算入できるとされていることから、譲渡所得の場合の借入金利子の取得費性を否定し、これを資産の維持費ないし維持管理費と見るのは、この場合の借入金利子支払が借入金自体に対する対価支払としての本質を有するものであることを忘れた議論といわなければならない。

また、代金賦払による資産取得の場合について前示基本通達が特別の取扱いをしているのも、前示の理由のほかに、代金賦払の場合には非業務用資産の取得においても、賦払金額及びその利息等の支払金額は家事関連費と混淆されることなく、当該資産取得のために要する金額としての特定性を保つて支出されるのが常態であるから、この点に着目して課税行政実務の指針として右のように定めて差支えなしとしたものと解することができる。

以上のごとく、非業務用資産の取得費については、家事関連費との区別、特定に問題があるから、課税上もこの点に考慮を払う必要があるけれども、そのことの故に「取得に要した金額」として相当因果関係の認められる支出について取得費性を否定しなければならない理由は生じない。また、非業務用資産の取得費の成否がその使用開始の前後で左右されなければならない理由も見出しえないところである。

(三) これを本件について見るに、前記認定判示のとおり、控訴人は、本件土地を非業務用の資産として取得するにあたつて訴外三田らと売買契約を締結した際、買受代金の一部(三五〇万円)を同人らの指定する金融機関から融資を受けて支払う旨約定し、右約定に基づいて訴外川崎市信用金庫から二五〇万円を借り受け、右借受同日中に借受金全額を買受残代金に充てて右三田らに支払つたのであるから、右事実関係からすれば、借入金二五〇万円は本件土地買受に要する金額としての特定性を失うことなく、これを必要とする使途に支払われたものということができるところ、この借入金に対して借入の日から前判示の期間中右信用金庫に対して控訴人によつて支払われた前認定の借入金利子の額六二万八六二九円は借入金額借入期間に照らし相当であるということができるから、右借入金利子の支払と本件土地取得との間に相当因果関係を認め、右借入金利子の全額をもつて「取得に要した金額」に該当するものと判断すべきである。そして、その間に相当因果関係が認められる以上、前示認定のごとく右借受及びその利子支払が本件土地取得の時点以後になされたことは右判断に消長を来たすものではない。

(四)  なお、たな卸資産の評価に関する所得税法施行令第一〇三条及び減価償却資産の償却方法に関する同施行令第一二六条が各取得価額に該当する金額を定めるについて取得のための借入金利子について触れるところがないことから、これらの場合の資産取得価額には借入金利子が含まれないとする解釈が原判決のいうとおり是認されるとしても、これらの場合の納税主体としては借入金利子支払額をその年の必要経費として総収入金額から控除する余地が考えられるのであるから、これらと制度の本質を異にする譲渡取得の場合、ことに本件のような非業務用資産の場合の取得費についての法律解釈が右と同様になされなければならない理はないわけである。

また、租税特別措置法施行令第一九条第三項が所得から控除すべき費目を規定するにあたつて、同項第一号に「当該土地の譲渡等に係る土地等の原価の額として所得税法第三八条第一項〔譲渡所得の金額の計算上控除する取得費〕の規定に準じて計算した金額」を掲げるのと別に、同項第二号に「その年中に支払うべき負債の利子の額のうち、当該土地の譲渡等に係る部分の金額」を併記していることから、負債の利子を取得費に含めないのが所得税制立法の建前であるとの推論が一応考えられるが、右負債の利子は当該土地の譲渡等に係つて支出されるものであつて、取得原価を構成すべき負債利子のみを指すものとは文理上解せられないから、右のような推論は当をえないものといわなければならない。さらにまた、同施行令第二二条の八第八項第一号においても「土地の取得に要する費用の額」とその「費用に充てるための借入金の利子の額」とが併記されていることが認められるが、同号の規定文言から明らかなとおり、右借入金の利子は、土地の取得のほかに、その造成、分離、当該事業に要する一般管理費をも含め、これらの費用に充てるためのものとして掲げられているのであるからこの規定をもつてしても、本件借入金利子と取得費との関係についての前示判断を動かすべき根拠とはなしえないものといわなければならない。

(五)  なお、控訴人が本件借入金の債権担保のための抵当権設定、代物弁済予約仮登記の費用として一万五三四〇円を、本件借入金債務返済契約の公正証書作成費用として五三〇〇円を支出したことは当事者間に争いがないが、これらの費用は、その本来の性質上、債権者が貸付債権を確保するために要するものであつて、当該資産の取得との間に借入金利子の場合のような相当因果関係を認めることはできないから、これを本件土地の取得費に該当するものと解することはできない。

四以上によれば、控訴人の昭和四七年分の分離短期譲渡所得の金額は、譲渡収入金額一五七〇万円から当事者間に争いのない取得費の額九二九万八八三〇円と譲渡費用の額五四万四二四〇円を控除した金額である五八五万六九三〇円からさらに右借入金利子支払分として認定した六二万八六二九円を控除した金額五二二万八三〇一円と算定すべきことになるから、この金額を超えて右分離短期譲渡所得の金額を五八三万六二九〇円と算出してなした本件更正処分は、右五二二万八三〇一円を超える部分について所得過大認定の違法があり、右更正を前提としてなされた本件過少申告加算税の賦課決定もまた右超える部分に関して違法であるといわなければならない。(本件更正処分においては、前示譲渡収入金額から前示取得費、譲渡費用の合計額を控除した金額五八五万六九三〇円よりさらに二万〇六四〇円を減額し、課税所得金額を五八三万六二九〇円としていて、この減額は控訴人が主張する借入金債務担保のための抵当権設定等の登記費用及び公正証書作成費用の合計額と一致するが、右減額はたまたま誤つて計算された結果であつて、右控訴人主張の費用額を取得費として控除したものではないことが弁論の全趣旨に徴して明らかである。)

よつて、控訴人の本訴請求は、それぞれ違法部分の取消を求める限度において理由があり、この部分の請求を棄却した原判決はこの部分につき失当であつて控訴は一部理由があるが、その余の部分の請求は失当であつて控訴は理由がないから、原判決を右の趣旨に従つて変更し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九六条、第八九条、第九二条を適用して、主文のとおり判決する。

(安倍正三 長久保武 加藤一隆)

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