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東京高等裁判所 昭和51年(行コ)73号 判決 1979年7月20日

控訴人

金理石

季春子

右控訴人ら訴訟代理人

中平健吉

外二名

被控訴人

法務大臣

古井喜實

東京入国管理事務所

主任審査官

吉田茂

右被控訴人ら指定代理人

小沢義彦

外五名

主文

本件控訴をいずれも棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実《省略》

理由

一請求原因一の事実は、控訴人金理石が本邦に不法に入国した時期を除いて当事者間に争いがない。そして、<証拠>によれば、同控訴人が有効な旅券又は乗員手帳を所持しないで韓国から本邦に入国した時期は、昭和三九年一〇月中旬ごろから同年一一月中旬ごろまでの間であると認めることができる。<証拠>中には、同控訴人が昭和三七〜八年ころから約二年間大阪市西成区鶴見橋北通四の九西原稔こと韓聖大方で靴職人として稼働していた旨の部分があり、<証拠>中には、同控訴人が本邦に不法入国した時期は、昭和三八年一〇月ないし同年秋である旨の部分があり、<証拠>中には、右の時期は昭和四〇年初旬である旨の部分があり、<証拠>中には、右の時期は昭和四〇年九月である旨の部分があるが、<証拠>に照らしていずれも採用できないし、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。

したがつて、控訴人らが令二四条一号に該当することは明かである。

二控訴人らは、被控訴人法務大臣が控訴人らに対して特別在留の許可を与えなかつたことは裁量権の逸脱ないし濫用であり、その結果本件各裁決は違法であると主張するので、次にその点について判断する。

1  控訴人らの経歴、家族及び生活関係についての当裁判所の判断は、原判決<付加、訂正、省略>と同じであるから、これを引用する。

2 控訴人らは、控訴人金理石が本邦に不法入国した唯一の動機は良心的参戦拒否に対する迫害を避けるためであり、同控訴人はいわば政治的亡命者であつて、韓国に送還された場合には重刑に処せられさらには無制限の拘禁を受けるおそれがあるが、これらの点を看過して控訴人らに対し特別在留の許可を与えずになされた本件各裁決は違法であると主張する。

そして、<証拠>中には、同控訴人が韓国陸軍の所属部隊を脱走し本邦に不法入国を決意したのは、上官から同控訴人が戦争中のベトナムに派兵される一人に選ばれたことの暗示を受け、クリスチヤンとしての良心から戦争に参加することを拒否するためであつた旨の部分がある。しかし、<証拠>によれば、同控訴人は、昭和三九年四月三日、韓国陸軍に入隊し、約三か月の訓練期間を終了したが、その後精神病に罹患し、陸軍病院で約四か月間治療を受けたことを認めることができ、この事実と前に認定した、同控訴人が本邦に不法入国をした時期(いわゆるトンキン湾事件が起つたのが同年八月二日であり、韓国政府が南ベトナムへの派兵を決定したのが昭和四〇年一月八日であることは、公知の事実である。)に徴すると、右<証拠>は採用できないし、他に右主張事実中、同控訴人の本邦に不法入国した動機についての事実を認めるに足りる証拠はない。

また、控訴人らは、韓国に送還されると、控訴人金理石が重刑に処せられさらには無制限の拘禁を受けるおそれがあると主張するが、右の主張は同控訴人がベトナム参戦を拒否して韓国陸軍を脱走した者であることを前提とするものであるところ、前顕の各事実に徴すると、同控訴人が韓国陸軍から脱走したのはベトナム参戦拒否のためではなく、単なる軍務離脱にすぎないものと認めることができる。そして、同控訴人が韓国に送還された場合に、軍務離脱、不法出国等の科により韓国の法律に従つて処罰を受けることがあるとしても、それは政治的亡命とは無関係な専ら韓国国内の問題にすぎず、その故をもつて被控訴人法務大臣が控訴人らに対し特別在留許可を与えなければならないいわれはない。

以上要するに、控訴人金理石の政治亡命及び送還後韓国内において受けるべき処罰等を被控訴人法務大臣が看過したという控訴人らの主張は、失当といわなければならない。

3  控訴人らは、被控訴人法務大臣は本件各裁決にあたり控訴人金理石をあたかも密入国者のブローカーの如くに事実を誤認した違法があると主張する。<証拠>によれば、同控訴人が昭和四七年六月二九日東京都江戸川区船堀一丁目一八―三の控訴人らの当時の住所において収捕された際、同所に、有効な旅券又は乗員手帳を所持しないで韓国から本邦に入国していた任柄秀及び金碩順が現在しており、右両名は控訴人金理石のもとで働いていたことを認めることができ、この事実を同被控訴人が本件各裁決にあたつて考慮したことは考えられるが、それ以上に同控訴人を密入国者のブローカーの如くに認定したうえ、これを右各裁決にあたつて考慮したことを認めるに足りる証拠はないから、控訴人らの右主張は理由がない。

4  控訴人らの特別在留許可についての行政実例ないし慣行に関する主張に対する当裁判所の判断は、原判決一七丁表八行目から同丁裏六行目までと同じであるから、これを引用する。

5  こうして、被控訴人法務大臣が控訴人らに対し特別在留許可を与えなかつたことについて裁量権の逸脱ないし濫用があつたということはできないから、本件各裁決及びそれに従つてなされた本件各令書発付処分に違法はない。

三よつて、控訴人らの本訴請求をいずれも棄却した原判決は相当であるから、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法三八四条により本件控訴をいずれも棄却し、控訴費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九五条本文、八九条、九三条一項本文を適用して主文のとおり判決する。

(岡松行雄 賀集唱 並木茂)

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