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東京高等裁判所 昭和51年(行ケ)60号 判決 1977年2月23日

原告 住友ベークライト株式会社

被告 特許庁長官

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

原告訴訟代理人は「特許庁が昭和五一年三月一六日同庁昭和五〇年審判第八七三九号事件についてした審決を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、被告指定代理人は主文同旨の判決を求めた。

第二請求の原因

原告訴訟代理人は本訴請求の原因として次のとおり述べた。

(特許庁における手続)

一  原告は、名称を「印刷用銅版の製造方法」とする発明につき、昭和四三年七月一〇日日本電解株式会社(以下「日本電解」という。)及び株式会社東京印書館(以下「東京印書館」という。)と共同して特許出願をし、昭和四六年一二月一五日出願公告されたが、特許異議の申立があり、昭和五〇年七月二五日拒絶査定を受けた。ところが、その謄本が同年九月二三日原告にのみ送達されたので、原告は同年一〇月一四日単独で審判を請求した(昭和五〇年審判第八七三九号)ところ、特許庁は昭和五一年三月一六日右請求を却下する旨、本訴請求の趣旨掲記の審決をし、その謄本は同年五月一七日原告に送達された。

(審決の理由)

二 右審決の理由は次のとおりである。

右審判の請求は、特許を受ける権利が原告、日本電解及び東京印書館の共有にかかる特許出願の拒絶査定に対するものであり、したがつて特許法第一三二条第三項の規定により、その共有者全員が共同してしなければならないところ、原告単独でなされたから、不適法であつて、補正することができない。よつて、特許法第一三五条の規定により却下すべきである。

(審決の取消事由)

三 しかしながら、右審決は、右審判請求を不適法とする誤つた判断に基ずくものであるから、違法であつて、取消さるべきである。右審判請求を適法とする理由は次のとおりである。

(一)  まず、本願拒絶査定の謄本は、本願発明の特許を受ける権利の共有者の一人たる原告にのみ送達され、他の共有者に送達されなかつたから、右拒絶査定に対する審判請求期間は原告に対する右査定謄本の送達の日から右共有者全員について進行するものではないと解さなければならない。その法的根拠は次のとおりである。

(1) 特許法第一四条の解釈としては、出願番号通知、拒絶理由通知等のように、単に、ある事実を了知させる目的でなされる通知、送付、交付等は、共同出願人の一人に対してすれば足りるが、特許異議申立書、拒絶査定謄本等のように、特許法が後続手続に対する配慮からその伝達については特に送達という要式行為によるべきものと定めた書類の送達について右と同様に解するのは相当でなく、少くとも同条に掲げる特許法第一二一条第一項または第一二二条第一項の審判請求の前提となる拒絶査定謄本または補正却下決定謄本については、特に代表者を定めて届け出ていない限り、共同出願人全員に送達することを要するものと解するのが相当である。

(2) また、特許法第一四条は、複数の者が共同して手続をしたとき各人が全員を代表するものとされる場合の例外となるべき行為について、これを個別的に挙げて、関係者の保護を図つている。そして、特許法第一二一条第一項の審判の請求もその一つに挙げられているが、これについて複数の出願人が共同でしなければならないとする以上、その前提となる拒絶査定謄本の送達も全員に対してするのでなければ、共願人の保護は十分といえない。もし、複数の出願人の一人に送達すれば足りるとすると、たまたまその送達を受けた出願人は審判請求期間経過前にこれを他の出願人に告知しなければならないため、他の出願人より、それだけ余分な負担をかけられることになるのみならず、出願人間の利害が一致しない場合の不都合を避けることができない。したがつて、拒絶査定謄本の送達は共同出願人全員に対してなされるべきである。

しかるところ、日本電解及び東京印書館は、前記経緯によりいまだ審判請求期間が満了するにいたらない昭和五一年四月二二日本願拒絶査定に対する審判を請求したから、原告の審判請求と併せて共同出願人全員により共同して審判請求がなされたことになり、特許法第一三二条第三項の規定する要件を充たしたものというべきである。

(二)  仮りに本願拒絶査定に対する審判請求期間が原告に対する右査定謄本送達の日から全員につき進行し、日本電解及び東京印書館の審判請求が右期間経過後になされたことになるとしても、その期間不遵守は専ら原告の過失によるものであつて、日本電解及び東京印書館の責に帰すべき事由によるものではない。すなわち、原告は、本願発明について特許出願を単独でしたものと錯誤していたため、その拒絶査定に対する審判請求を単独でしたが、その後、右錯誤に気付いたので、昭和五一年四月九日その間の事情を日本電解及び東京印書館に告げ、同月二二日両社にも右拒絶査定に対する審判請求をさせたが、両社はいずれも原告から右拒絶査定の事実を告げられるまでこれを知らなかつたものである。

そして、右両社が審判請求をしたのは、原告から拒絶査定の事実を告げられ、いわば審判請求をすることができなかつた理由が解消した同月九日から一四日以内で、かつ原告に対し拒絶査定の謄本の送達があつた昭和五〇年九月二三日から三〇日の審判請求期間経過後六月以内たる昭和五一年四月二二日のことであり、勿論、本件審決の謄本が原告に送達されて審決に効力が生じた同年五月一七日以前のことである。

したがつて、日本電解及び東京印書館がなした審判請求は、特許法第一二一条第二項の規定により、適法というべきである。

第三被告の答弁

被告指定代理人は請求の原因についての次のとおり述べた。

一  原告主張の前掲一及び二の事実は認める。

二  同じく三の点は争う。原告主張の審決は判断において正当であつて、審決に原告主張のような違法はない。以下、これを補説すると、

(一)  本願拒絶査定に対する審判請求期間は、特許法第一四条の規定により、本願共同共願人たる原告ほか二名の全員につき、原告に拒絶査定謄本が送達された日から進行する。右規定に関する原告の解釈は独自の見解であつて、賛成することができない。

日本電解及び東京印書館が原告主張の日本願拒絶査定に対する審判を請求したことは認めるが、それは、前記の時点から進行を開始した審判請求期間経過後のことであるから、原告のなした審判請求と併せて共同出願人全員により共同してなされたものとして特許法第一三二条第三項の要件を充たすものではない。

(二)  日本電解及び東京印書館が審判請求をするにいたるまでの経緯に関する事実は知らない。右審判請求の期間不遵守がその責に帰すべからざる事由によるものであることは否認する。

第四証拠<省略>

理由

一  前掲請求の原因事実中、本願発明につき、原告、日本電解及び東京印書館の共同による出願からその拒絶査定、その謄本の原告に対する送達、これに対する原告の審判請求を経て審決成立に至るまでの特許庁における手続及び審決の理由に関する事実は当事者間に争いがない。

二  そこで、右審決の取消事由の存否について考察する。

(一)  本願拒絶査定謄本が共同出願人のうち日本電解及び東京印書館に送達されていないことは当事者間に争いがないが、特許法第一四条本文の規定によれば、右拒絶査定の謄本の送達は、前記のように昭和五〇年九月二三日共同出願人の一人たる原告になされたことにより、原告ほか二名の共同出願人全員について効力が生じたものといわなければならない。原告は右規定の解釈としてこれと相容れない見解を主張するが、その根拠として主張する理由だけで右規定に関する原告主張のような解釈を妥当とすべき筋合いはない。

したがつて、右拒絶査定に対する審判請求期間は原告ほか二名の共同出願人全員についてその謄本が原告に送達された昭和五〇年九月二三日から一様に進行するものというべきである。ところが、日本電解及び東京印書館が昭和五一年四月二二日右拒絶査定に対する審判を請求したことは当事者間に争いがないから、それは審判請求期間経過後のことであつて、特許法第一二一条第一項の規定に牴触し適法ということができない。

してみると、原告の右拒絶査定に対する審判請求は、結局、単独でなされたことに帰し、特許法第一三二条第三項の規定する要件を充たさないから、不適法たるを免れない。

(二)  原告は、日本電解ほか一名が審判請求期間を遵守することができなかつたのは、その責に帰すべからざる事由によるものであるが、その審判請求は右事由がなくなつた日から一四日以内で右期間経過後六月以内になされたから、適法である旨を主張するが、共同して特許出願をした者は特許法第一四条本文の規定により原則として各人が全員を代表するものとされているから、能動的たると受動的たるとを問わず、他を代表した手続について爾後における万全の措置を講ずべき善管注意義務を相互に負担するものというべきであるが、特許法の右規定が複数の当事者につき迅速かつ画一的に手続を進行させるため当事者の善管義務の履行に期待して相互代表制を取入れた規定の趣旨及びこれによる手続の安定性の要請を考慮するときは、特許法第一二一条第一項の定める期間不遵守が、その請求の対象たる拒絶査定の謄本の送達を受けた他の共同出願人の過失に起因し、審判請求をした者本人の過失によらなくても、これをもつて同条第二項にいわゆる審判の請求をする者の責に帰することができない理由によるものということはできないと考える。したがつて、仮りに、日本電解及び東京印書館が審判請求をするまでの間に原告主張のような事情が介在したとしても、その期間の不遵守が両社の責に帰することのできない理由によるものと認めることはできないから、さような理由の存在を前提としてその審判請求を適法ということはできない。

(三)  そうだとすれば、原告の審判請求を不適法として却下した審決の判断は正当であつて、審決に違法があるということはできない。

三  よつて、本件審決の違法を主張してその取消を求める原告の本訴請求を失当として棄却することとし、行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 駒田駿太郎 石井敬二郎 橋本攻)

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