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東京高等裁判所 昭和51年(ネ)256号 判決 1977年6月07日

控訴人 株式会社上総屋商事

右代表者代表取締役 渡辺景一

右訴訟代理人弁護士 山本政敏

被控訴人 ヤハタ鋼機株式会社

右代表者代表取締役 中川金彦

右訴訟代理人弁護士 海老原茂

同 菊地一夫

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人(控訴の趣旨)

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人は控訴人に対し金二〇〇万円及びこれに対する昭和四八年四月一一日から支払ずみまで年六分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

4  仮執行の宣言。

二  被控訴人(控訴の趣旨に対する答弁)

本件控訴を棄却する。

第二当事者の主張

一  控訴人(請求原因)

1  田中建設工業株式会社(以下「田中建設」という。)及び被控訴人は、いずれも建築工事の請負を業とするものであるが、田中建設は被控訴人との間で、昭和四七年一一月一七日、田中建設において東洋医大看護婦寮新築工事に使用する鉄骨の製作を左記の条件で完成する旨の請負契約を締結した。

(一) 請負代金 金一九五〇万円(鉄骨一トン当り金九万円とし、これに総重量を乗じたものに、材料のロス分金一五万円を加えたもの)

(二) 総重量 二一五トン

(三) 工事期間 契約時から昭和四八年三月初旬まで。

(四) 請負代金の支払方法及び時期 出来高払とし、被控訴人は、毎月二〇日に、田中建設が同日までに製作した製品を検査し、検査に合格した出来高部分の代金を翌月二〇日に支払う。

2  田中建設は、昭和四七年一二月二〇日までに、被控訴人から材料費として金九三五万円の支払を受けた後、同月二五日、本件請負代金一九五〇万円から右九三五万円を控除した残額金一〇一五万円の債権を控訴人に譲渡し被控訴人は同日右債権譲渡を承諾した。

仮りに、被控訴人が右債権譲渡につき承諾をしなかったとしても、田中建設は、被控訴人に宛てた昭和四八年二月二七日付内容証明郵便により、右債権譲渡の通知を発し、右郵便は遅くとも同月二八日、被控訴人のもとに到達した。

3  控訴人が譲り受けた請負代金債権のうち金三九〇万円は、昭和四八年一月二〇日、被控訴人から田中建設に対して支払われた。

4  よって、控訴人は被控訴人に対し、前記2の金一〇一五万円から前記3の金三九〇万円を控除した請負残代金のうち金二〇〇万円(昭和四八年一月二〇日現在の工事出来高に基づき、同年二月二〇日に支払われるべき請負代金)及びこれに対する履行期の後である昭和四八年四月一一日(支払命令送達の日の翌日)から支払ずみまで商法所定の年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  被控訴人(請求原因に対する認否)

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2の事実中、被控訴人が昭和四七年一二月二〇日までに、田中建設に対し材料費金九三五万円(それが材料費の全額であるとの点は措く。)を支払ったこと、田中建設の昭和四八年二月二七日付内容証明郵便による債権譲渡の通知が被控訴人のもとに到達したことは認めるがその余の事実は否認する。

本件請負代金一九五〇万円の内訳は、材料費金一〇七五万円(トン当り金五万円)、工事費金八七五万円(トン当り金四万円とし、これに材料のロス分として金一五万円を加えたもの)と約定されたものであり、被控訴人の支払った前記金九三五万円は右材料費の一部である。また、被控訴人は、田中建設が控訴人に対し請負代金の受領権限を与えることを承諾したにすぎないものであり債権譲渡を承諾したものではない。

3  同3の事実中、被控訴人が昭和四八年一月二〇日、田中建設に対し金三九〇万円を支払ったことは認める。右金員は、昭和四七年一二月二〇日付の工事出来高金二五〇万円(鉄骨の建方工程第一節九〇トンの約七割に相当する。)及び材料費の残額金一四〇万円の合計である。

4  同4のうち被控訴人が昭和四八年一月二〇日現在の工事出来高に基づき同年二月二〇日に金二〇〇万円を支払うべく予定していたことは認めるが、その余は争う。

三  被控訴人(抗弁)

1  本件請負工事における鉄骨の建方工程とその所要数量は第一節(昭和四七年一二月一五日限り)九〇トン、第二節(昭和四八年一月中旬限り)九〇トン、第三節(昭和四八年三月初旬限り)三五トンと定められていたところ、田中建設は、前記のとおり、昭和四七年一二月二〇日付工事出来高として第一節九〇トンの約七割に相当する工事(工事費金二五〇万円)を行い(右工事費は支払ずみ)、次いで、昭和四八年一月二〇日までに、第一節九〇トンの残り約三割に相当する工事(工事費金一一〇万円)及び第二節九〇トンの工事の一部(田中建設の下請工場であるアサヒ製作所においてした鉄骨の原寸検査を被控訴人において二二・五トン相当の出来高とみなしたもので、金額は金九〇万円となる。)を施行したので被控訴人は、昭和四八年一月二〇日現在の当該出来高に基づき、金二〇〇万円を同年二月二〇日に支払うべく予定していたが、その後、田中建設は工事を進行しないまま、同年二月一〇日ころ手形不渡を出して、工事を続行することが不可能な状態に立ち至った。本件請負契約においては、注文者において請負人が工期内に工事を完成する見込がないと認めたときは、契約を解除することができる旨約定されていたので、田中建設に工事完成の見込がないと認めた被控訴人は、田中建設に対し、昭和四八年二月一五日ころ口頭により、さらに、同月二七日ころ到達した内容証明郵便により、それぞれ、本件請負契約のうち工事未完成部分を解除する旨の意思表示をした。

2  ところで、被控訴人は本件請負契約に基づいて田中建設に対し、(1)材料費金一〇七五万円、(2)工事費金二五〇万円、合計一三二五万円を支払ったが、他方において、被控訴人が田中建設から引渡を受けた工事の出来高は、第一節九〇トンと第二節の一部二二・五トン、合計一一二・五トン、工事費にして金四五〇万円、(2)右出来高に相当する材料費は金五六二万五〇〇〇円であり、その合計は金一〇一二万五〇〇〇円であるから、被控訴人は、前記解除に伴う清算として、田中建設に対し金三一二万五〇〇〇円の既払代金の返還請求権を有しこそすれ、田中建設に支払うべき請負代金は残っていない。

四  控訴人(抗弁に対する認否)

1  抗弁事実1のうち被控訴人が昭和四八年二月二〇日に金二〇〇万円を支払うべく予定していたこと、田中建設が昭和四八年二月一〇日ころ手形の不渡を出したこと、被控訴人が田中建設に対し昭和四八年二月二七日ころ到達した内容証明郵便により、本件請負契約のうち工事未完成部分を解除する旨の意思表示をしたことは認めるがその余の事実は否認する。

2  同2のうち田中建設が被控訴人から合計金一三二五万円(但し、内訳金額の点を除く。)の支払を受けたことは認めるが、その余の事実は否認する。

右金一三二五万円は材料費金九三五万円と、工事費金三九〇万円の合計である。また、田中建設が施行した出来高は、昭和四八年一月二〇日の時点で全体の八割位(数量一七〇トン以上)に達していたのであり、請負代金額にして一五三〇万円以上になる(しかも田中建設は、材料費の一部金四六〇万円の支払を受けた昭和四七年一二月六日当時、所要数量の鉄骨全部二一五トンをアサヒ製作所を通じて買い入れ、同製作所をして代理占有させていたが、被控訴人は、田中建設が手形の不渡を出すや田中建設の諒解なしに、アサヒ製作所のもとに残存していた鉄骨を使用して、看護婦寮鉄骨工事を続行したものであるから、契約解除に伴う清算をする場合には、田中建設が前記残存鉄骨全部を被控訴人に引き渡したと同様に評価し、これを出来高計算の中に包含させるべきであり、そうすると、清算の結果としての田中建設の取分ははるかに多額となるはずである。)。したがって、契約解除に伴う清算の結果においても、田中建設は被控訴人に対し金二〇五万円の請負代金の支払を求めることができるのである。

第三証拠《省略》

理由

一  請求原因1の事実(請負契約の成立)は当事者間に争いがない。

二  (請負代金債権の譲渡)

田中建設が被控訴人から、昭和四七年一二月二〇日までに、材料費として金九三五万円の支払を受けた事実は、右金額が材料費の全額であるかどうかという点を除き、当事者間に争いがなく、《証拠省略》によれば、控訴人が昭和四七年一二月二五日田中建設に対し金一〇一五万円を貸与し、田中建設は、該貸金債権の支払のため、被控訴人に対する本件請負代金一九五〇万円から前記金九三五万円を控除した残額金一〇一五万円の債権を控訴人に譲渡したことを認めることができ、右認定を左右するに足る証拠はない。

控訴人は、被控訴人が昭和四七年一二月二五日に右債権譲渡を承諾したと主張するが、《証拠省略》によれば、田中建設と控訴人は、昭和四七年一二月二五日、被控訴人に対し、田中建設が本件請負代金の受領方を控訴人に委任したことに対する承諾を求めたので、被控訴人は右代金受領委任の件を承諾したにすぎず、その際、田中建設及び控訴人側は債権譲渡の事実にはなんら言及しなかったことが認められるから、控訴人の前記主張は採用することができない。しかし、《証拠省略》によれば、控訴人は昭和四八年二月二七日に至り、被控訴人に宛てた同日付内容証明郵便により、債権譲渡の通知を発したこと、右内容証明郵便は右同日川崎郵便局に差し出されたもので、右郵便の名宛人の住所として被控訴人の当時の住所が表示されていたことが認められるから、当時の郵便事情にかんがみれば、反対の事実が認められない以上、右郵便は同月二八日ころ被控訴人のもとに到達したものと推認することができる(田中建設の昭和四八年二月二七日付内容証明郵便による債権譲渡の通知が被控訴人のもとに到達したことは、当事者間に争いがない。)。

三  (請負契約の解除)

1  《証拠省略》によれば、本件請負代金の内訳は、材料費金一〇七五万円(トン当り金五万円)、工事費金八六〇万円(トン当り金四万円)、鉄骨加工の際に出る材料ロス六トン分の半額金一五万円と約定されたものであること(したがって、被控訴人が昭和四七年一二月二〇日までに田中建設に支払った前記二の材料費金九三五万円は右金一〇七五万円の一部であったこと)が認められ(る。)《証拠判断省略》

2  《証拠省略》によれば、次の事実を認めることができる。

(一)  本件請負工事における鉄骨の建方工程とその所要数量は、第一節(昭和四七年一二月一五日限り)九〇トン、第二節(昭和四八年一月中旬限り)九〇トン、第三節(昭和四八年三月初旬限り)三五トンと定められていた。

(二)  一方、請負代金は、前記一のような方法で支払う約定であったが、右支払の前提となる被控訴人の工事出来高の検査(査定)は、田中建設が同社及び被控訴人の各現場担当者間の一応の打合わせを経て提出した請求書に基づいて行い、査定の結果は、支払通知書によって田中建設に通知する仕組みとなっていた。

(三)  田中建設は昭和四七年一二月二〇日、今回出来高として金五〇〇万円の請負代金の支払を請求したが、被控訴人は、同日現在における工事出来高は第一節九〇トンの約七割相当であり、工事費にして金二五〇万円と査定し(右査定は、具体的には、看護婦寮建築現場搬入前の鉄骨が田中建設の下請負人であるアサヒ製作所の工場内で加工されていた状態を評価したものである。)、これと材料費の残額金一四〇万円とを合計した金三九〇万円を昭和四八年一月二〇日に田中建設に支払った(被控訴人が昭和四八年一月二〇日に田中建設に金三九〇万円を支払ったことは、右金員が材料費を含むかどうかの点を除き、当事者間に争いがない。)。

(四)  次いで、田中建設は昭和四八年一月二〇日、今回出来高として金二五〇万円の請負代金の支払を請求したが、被控訴人は、同日現在における工事出来高は、第一節九〇トンの残り約三割相当、工事費にして金一一〇万円及び第二、第三節工事の一部、工事費にして金九〇万円(第二、第三節一二五トンの鉄骨に対する原寸検査分金六二万五〇〇〇円((トン当り工賃五〇〇〇円に一二五トンを乗じたもの))に若干の加工賃を加えたもの)、合計金二〇〇万円と査定し、右金二〇〇万円を昭和四八年二月二〇日に田中建設に支払うべく予定していた(被控訴人が昭和四八年二月二〇日に金二〇〇万円を田中建設に支払うべく予定していたことは、当事者間に争いがない。)。

(五)  右(三)(四)の各査定については、被控訴人が田中建設に対し、支払通知書をもって、もしくは、口頭により、査定結果を通知したが、これに対し、田中建設から異議は申し述べられなかった。

(六)  ところが、田中建設は、昭和四八年一月二〇日以降みるべき現場作業も行わないまま推移し、同年二月上旬になって、額面金三〇〇〇万円の手形を不渡にし(田中建設が手形不渡を出したことは当事者間に争いがない。)、銀行取引停止処分を受け、工事を続行することが不可能な状態に立ち至った。本件請負契約では、注文者において請負人が工期内に工事を完成する見込がないと認めたときは、契約を解除することができる旨約定されていたので、田中建設に工事完成の見込がないと認めた被控訴人は、田中建設に対し、昭和四八年二月二七日ころ到達した内容証明郵便により、本件請負契約のうち工事未完成部分を解除する旨の意思表示をした(被控訴人が田中建設に対し、上記日時ころ到達した内容証明郵便により、上記契約解除の意思表示をしたことは、当事者間に争いがない。)。

このように認められる。

《証拠判断省略》控訴人は、田中建設の施工した工事の出来高は昭和四八年一月二〇日の時点で全体の八割位(数量一七〇トン以上)に達し、工事費に引き直せば金一五三〇万円以上になると主張するが、右認定を覆えして控訴人の主張を認めうる証拠はない(控訴人は、「被控訴人は、田中建設が購入した鉄骨のうち工事に使用した残りの材料を田中建設の諒解なしに使用して、看護婦寮鉄骨工事を続行したものであるから、これを出来高計算の中に包含させるべきである。」と主張する。しかし、《証拠省略》によれば、本件請負工事のため調達された鉄骨は、田中建設の下請負人であるアサヒ製作所が他から購入したものであり(そのため、鉄骨にはアサヒ製作所の名称がペンキで記入されていた。)、田中建設はアサヒ製作所に対し下請負代金支払のため手形を交付したが、決済された手形は皆無であるという状態であったため、田中建設は右鉄骨に対し実質上の所有権を有していなかったこと、被控訴人は、田中建設が工事を続行することができなくなったのち、注文者に対する契約を履行するため、やむなく、アサヒ製作所に対し約一一〇〇万円を支払って、残りの鉄骨を引き取ったうえ、同製作所と共同して前記看護婦寮鉄骨工事を完成したものであることが認められるから、被控訴人が残りの鉄骨を引き取って鉄骨工事を続行したことを目して、田中建設が残りの鉄骨全部を被控訴人に引き渡したと同様に評価することはできず、控訴人の前示主張は採用できない。)。

3  以上の認定事実に基づいて判断するのに、被控訴人がした本件請負契約の解除は、右契約において注文者に留保された期間内における工事完成の見込みがないことを理由とする約定解除権の行使として工事の中途でされたものであるところ、右契約のごとく建物の躯幹をなす鉄骨の製作所などの建設工事を目的とする請負契約が注文者により当該工事の中途の段階で解除される場合には、解除によって当初に遡って請負契約の効力が消滅したものとして扱わず、既工事分の限度でその効力を残存させ、注文者において工事を未完成のまま引きとり、他方請負人は右既工事分に相当する請負代金債権を保有することとして両者間の関係を処理し、未完成部分についてのみ請負契約の効力を消滅せしめることが、当事者双方の利益に合致し、かつ、その意思に適合する場合が少なくないと考えられるので、この種の請負契約において特に工事中途における契約解除権が定められている場合には、別段の意思表示がない限り、右のような効果を生ずる契約の一部(未完成部分)の解除権を定める趣旨のものと解するのが相当であり、したがって右約定解約権の行使として契約の一部解除がなされた場合には、前述のように、(1)既にされた工事は注文者がこれを引き取るとともに、右工事に対する請負代金を支払うべく、これに附随して、(2)もし請負代金の一部が既に支払われていて、既払代金が工事の出来高を上廻るときは、請負人において該過払部分を注文者に返還し、(3)工事出来高が既払代金以上の金額に達しているときは、注文者において請負人に該未払部分を追加支払するなどの清算(未使用の資材が請負人から注文者に引き渡された場合には、その評価額は出来高に加算する等の計算操作を含む。)を行うべき効果を生ずるものと解さなければならない。

これを本件についてみるのに、被控訴人がした本件請負契約解除の意思表示は、前記のとおり約定に基づく工事中途の解除権の行使として工事未完成部分についてのみなされたものであるから、右解除に伴い田中建設と被控訴人との間で前記のような清算を行うべきこととなったものである。その具体的内容は次のとおりである。

(一)  被控訴人は、本件請負契約に基づき田中建設に対し、材料費金一〇七五万円(前記1の金九三五万円と2(三)の金一四〇万円の合計)及び工事費金二五〇万円(前記2(三))、合計金一三二五万円を支払った。(これらはいずれも、その名目のいかんをとわず、本件請負契約に基づく請負代金の内払としての性格をもつものである。)

(二)  他方、被控訴人が田中建設から引渡を受けた工事の出来高は、第一節九〇トンと第二、第三節の一部二二・五トン(第二、第三節の一部としての工事出来高として査定された金九〇万円を単価金四万円の割合により重量に換算すると、二二・五トンとなる。)、合計一一二・五トンであり、これに相当する代金額は、工事費金四五〇万円、右工事に用いられ、被控訴人に引き渡された一一二・五トンの材料費五六二万五〇〇〇円の合計一〇一二万五〇〇〇円であり(これは結局出来高一一二・五トンに一トン分の単価九万円を乗じて得られる額にあたる。)、これ以外に被控訴人において負担すべきものはない(総重量二一五トン中上記一一二・五トンを除く残り一〇二・五トンの材料については、田中建設から被控訴人に引き渡されておらず、したがって、田中建設においてその分の材料費に相当する代金債権を有しないことは、さきに述べたとおりである。)。

(三)  そうすると、前記解除当時において田中建設の有する請負代金債権額が金一〇一二万五〇〇〇円であるのに対し、支払ずみの請負代金は金一三二五万円であるから、結局解除の結果田中建設の請求しうる請負代金債権はすべて弁済によって消滅し、かえって被控訴人において差額三一二万五〇〇〇円の返還請求権を有することとなる。

そうすると、控訴人が田中建設から譲り受けた金一〇一五万円の請負残代金債権は、一部(一〇一二万五〇〇〇円から九三五万円を控除した残り七七万五〇〇〇円)は弁済により、その余は請負契約の解除によってすべて消滅したものといわなければならない。

四  (結論)

以上の次第であり、控訴人の被控訴人に対する本訴請求は失当として棄却すべきであり、結局これと同趣旨に出た原判決は相当であって、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 中村治朗 裁判官 蕪山厳 高木積夫)

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