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東京高等裁判所 昭和50年(ネ)2083号 判決 1977年2月07日

控訴人

高崎定雄

右訴訟代理人

黒崎辰郎

被控訴人

株式会社山金

右代表者

金沢君子

右訴訟代理人

眞鍋薫

外一名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一、控訴の趣旨

1  原判決を取消す。

2  被控訴人の請求を棄却する。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二、控訴の趣旨に対する答弁

本件控訴を棄却する。

第二  当事者の主張

一、請求原因

1  被控訴人は、控訴人との間に昭和三五年七月一三日別紙目録記載の不動産につき、次のとおり交換及び売買契約を締結した。すなわち、被控訴人が交換に供する不動産は、目録第二の一、二の土地合計474.70坪であり、控訴人が交換に供する不動産は、目録第一の一の土地及び同二の土地のうち一七四坪七合であり、同二の土地の残部四二五坪三合については、被控訴人が代金三八万二、七七〇円で買受ける。

2  被控訴人は、右契約と同時に交換及び買受にかかる目録第一の各土地の所有権を取得し、その引渡を受けて現にこれを占有している。しかして、被控訴人が買受けた右四二五坪三合の土地の代金は、契約と同時に金二〇万円を支払い、残金一八万二、七七〇円は所有権移転登記手続と引換えに支払う約であつた。

3  よつて、被控訴人は控訴人に対し、控訴人が被控訴人から売買残代金一八万二、七七〇円の支払を受けるのと引換えに目録第一の各土地につき、所有権移転登記手続を求める。

二、請求原因に対する答弁<省略>

三、抗弁

1  本件契約締結当時、目録第一の各土地の西方に八メートル道路があつたが、控訴人はこれを被控訴人所有のものと信じて本件契約をしたところ、後になつて、それは国有地であることが判明した。したがつて、控訴人のなした本件契約は、その重要な部分に錯誤があるから無効である。

2(一)  本件契約当時目録第一の各土地の価額は坪当り九〇〇円にすぎなかつたが、約一五年を経過した現在、坪当り二〇万円ないし三〇万円に高騰しており、これは控訴人として予見することができなかつたものである。右土地について、一五年前の価額によつて定められた代金と引換に所有権移転登記をすることは甚しく不公平であり著しく信義則に反する。

(二)  控訴人は本件契約の直後である昭和三五年七月一九日に目録第一の各土地を自己の所有名義に登記し、同年八月四日に地目変更の登記を了し、本件契約の趣旨による所有権移転登記の準備を完了して被控訴人に対し登記義務の履行を催告しており、(一)のような事態に立ちいたつたことについて控訴人に責任はない。

(三)  これに対し、被控訴人が目録第二の各土地を自己の所有名義に登記したのは昭和三六年二月四日であり、地目変更及び分筆登記をなして控訴人に対する所有権移転登記の準備を了したのは契約後一年以上を経過した昭和三七年一一月一三日に至つてからである。控訴人は被控訴人に対し(二)主張のように登記義務の履行の提供をしたにもかかわらず、被控訴人はこれに応じないのみか、残代金及び登記義務の履行の提供がなく、ようやく被控訴人が昭和四七年九月立川簡易裁判所に控訴人に対する登記請求の調停を申立てるに及んではじめて残代金支払の意思のあることを告げられた。被控訴人は、控訴人の国税滞納により目録第一の各土地について昭和三五年一一月差押がなされたのち再三にわたる請求にもかかわらず差押解除もせず所有権移転登記手続もしなかつたと主張するが、そのような請求を受けた事実はない。差押登記は、控訴人の完納により職権で解除されるべきものが税務当局の手違いにより解除がおくれていたものである。以上のとおり控訴人が(一)主張の損失をうけたことについては、被控訴人に責任がある。

(四)  よつて、昭和五〇年七月二二日本訴の口頭弁論期日において、事情の変更を理由として、本件契約のうち

(1) 目録第一の二の土地中四二五坪三合の売買の部分を解除する、又は

(2) 前(1)の土地中契約当時の価額九〇〇円の割合で計算した残代金一八万二、七七〇円に相当する二〇三坪の売買の部分を解除する。

3  被控訴人は、残代金を支払わないで目録第一の各土地全部を占有し、公租公課を控訴人に負担させたまま地価暴騰を利用して残代金の支払と引換えに所有権移転登記手続を求めるのは権利の濫用である。<以下、略>

理由

一別紙目録の各土地について、請求原因1の交換及び売買約定があることについては当事者間に争いがないが、控訴代理人は控訴人が右交換によつて取得する土地には目録第二の各土地のほか東京都立川市砂川町字大山道西一五六〇番地六七の土地の所有権の二分の一の持分が含まれていると主張する。

<証拠>を総合すると、次の事実が認められる。

東京都立川市砂川町一五六〇番地一二から同番地二一(本契約当時の表示による)の各土地は、区割整理されて西から東に並列しており、そのうち同番地一三、一八、二一が被控訴人の所有、その余は控訴人の所有となつていたため、当事者双方ともその利用に不便であるところから、各当事者の土地を集中し、そこに、それぞれ賃貸住宅を建設することを目的として本件契約が締結されたものであつて、控訴人は、同番地一九(目録第一の二)、同番地二〇(目録第一の一)を被控訴人に提供し、被控訴人は同番地一三(目録第二の一)を、また同番地一八を同番地六六と同番地一八に分筆して同番地六六を目録第二の二の士地として控訴人に提供することとなり、その趣旨が前示甲第一号証契約書第一条に記載されている。その際同番地一八にある井戸は、当事者間の共同使用とすることとし、井戸敷地は、当事者間の共有とすることが約され、その趣旨が前示契約書第二条に記載されている(契約書第二条(一)に「第壱条の第壱項(三)」とあるのは、「第壱條の第壱項(3)」の誤記である)。右の井戸敷地は、被控訴人によつて砂川町字大山道西一五六〇番地六七として砂川町一五六〇番地一八より被控訴人所有名義に分筆登記されている。そのほか、前示甲第一号証契約書には第三条以下に当事者及び当事者所有の土地上の居住者のため、道路の通行、サービス・センターの利用について約定されている。

以上の事実から判断すると、前示井戸使用及び井戸敷地共有の約定は、請求原因1の土地交換及び売買約定にともない、その目的となつた土地の利用の便宜のため付随的にとりきめられたものであり、右土地交換及び売買約定の内容となつているとは認められない。井戸敷地について、控訴人が被控訴人に対し二分の一の持分権の移転登記請求権のあることは勿論であるけれども、これは、土地交換及び売買約定について被控訴人の債権に対し対価関係に立つものではないと認めるのが相当である。したがつて、当事者間には請求原因1の内容の土地交換及び売買契約が成立しているというべきであつて、この点についての控訴人の主張は理由がない。

前示<証拠>によれば、本件契約において交換の目的とされた土地については、当事者は即時に所有権移転登記手続をし、売買の目的とされた土地については、被控訴人は代金のうち二〇万円を契約締結と同時に支払い、残金一八万二、七七〇円は所有権移転登記と同時に支払うと約定されていたことが認められる。被控訴人が右の二〇万円を支払つたことは当事者間に争いがない。

以上の事実によれば、控訴人は被控訴人に対し、結局、残代金一八万二、七七〇円の支払を受けるのと引換えに、目録第一の各土地につき、昭和三五年七月一三日交換及び売買を原因とする所有権移転登記をなすべき義務があるものといわなければならない。

二そこで、控訴人の抗弁について判断する。

1  抗弁1及び3については当裁判所も理由がないと判断するものであつて、その理由は原判決の理由説示三1及び3と同一であるからこれをここに引用する。ただし三1及び3の冒頭にそれぞれ「原審における」と加える。

2  控訴人は、抗弁2において事情変更による本件契約の売買部分の解除を主張する。<証拠>によれば、本件契約当時目録第一の各土地の価額は、坪当り九〇〇円であつたが、現在では坪当り二〇万円ないし三〇万円となつていることが認められる。

<証拠>によれば、控訴人は、本件契約直後から目録第二の各土地の使用を開始し、昭和三五年八月四日には、被控訴人に対し目録第一の各土地につき契約にしたがつた所有権移転登記をすることができる状況にあつたことが認められ、また<証拠>によれば、被控訴人は、いつにても残代金一八万二、七七〇円の支払が可能であり、おそくとも昭和三七年一一月一三日には目録第二の各土地につき控訴人に対し契約にしたがつた所有権移転登記をすることができる状況となり、同年頃から目録第一の各土地の使用を開始していることが認められる。控訴人は、本件契約中売買の目的となつた土地は被控訴人に引渡していないと主張するが、弁論の全趣旨からして目録第一の二の土地の売買部分と交換部分は現地において区劃されていると認められないこと、及び<証拠>によれば、右土地の被控訴人に対する引渡は完了していることが認められる。

審案するに、事情変更の原則により契約関係を変更するには、事情変更の結果が当事者の責に帰すべからざる事由によつて生じたことを要すると解されるところ、本件契約は履行期の定めのない双務契約であることは、一の末段において判断したところなどから明らかであつて、当事者双方とも相手方の債務不履行による損失をまぬがれようとすれば、いつにても自己の債務を現実に提供して相手方の債務の履行を催告し契約解除あるいは損害賠償の請求をすることができるのであるが、本件においては当事者双方とも土地の引渡しを了したのみで、その他の債務については本訴に至るまで現実の提供をして相手方の債務の履行を催告したと認めるにたる証拠がなく、してみると、被控訴人の残代金支払義務、目録第二の各土地についての所有権移転登記義務と控訴人の目録第一の各土地についての所有権移転登記義務は同時履行の関係に立つたまま本訴に至るまで徒らに日を過したにすぎないというべきである。その間土地価格が高騰し、現在においては控訴人の受ける対価が契約当時の価値を維持しなくなつたとしても、控訴人としてはいつにても自己の登記義務を現実に提供して被控訴人の債務の履行を催告することによりその主張する損失を避けることができたわけでありその方法をとらなかつた以上、控訴人についてその主張する事情変更の結果がその責に帰すべからざる事由によつて発生したということはできない。

被控訴人の登記義務履行の準備が控訴人のそれに約二年おくれていること、また、被控訴人も自己の債務の現実の提供をしていないことは前示のとおりであるが、被控訴人としては控訴人から登記義務の提供がない以上自己の債務について履行遅滞の責を負うものでなく、また、被控訴人が控訴人に対しその債務の履行を催告する義務を負担するものでもないから、事情変更により控訴人主張の損失が生じたとしても、これを被控訴人に帰することはできないものというべきであい。

以上のとおり、抗弁2は、理由がない。

三よつて、原判決は正当であり、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、民事訴訟法第三八四条第一項第九五条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(荒木秀一 中川幹郎 尾中俊彦)

目録<省略>

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