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東京高等裁判所 昭和49年(ネ)717号 判決 1975年2月26日

控訴人

首都高速道路公団

右代表者

鈴木俊一

右訴訟代理人

秋山博

被控訴人

大日本保健製薬株式会社

右代表者

間宮忠

右訴訟代理人

佐々木秀雄

ほか二名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実《省略》

理由

一被控訴人が、昭和四一年六月三〇日、その主張のとおり有限会社東亜プレス社(以下、「東亜プレス社」という)を債務者とし、控訴人を第三債務者とする移転補償金請求権について債権差押及び転付命令を得たこと、右命令が同日控訴人に送達されたことは当事者間に争いがなく、<証拠>によると、右移転補償金請求権の具体的内容は控訴人の主張のとおりであることが認められる。

二控訴人は、右移転補償金請求権は性質上仮差押及び差押の許されるないものであり、本件仮差押、差押及び転付命令は無効であると争うので、まず、この点から検討する。

債権の仮差押及び差押が禁止される場合は、法令に差押の禁止が定められている場合に限定されず、債権そのものの性質上差押の許されない場合も、その差押性が否定されるべきであると解する。

ところで、本件移転補償金請求権は、前記認定のとおり、首都高速二号線の建設に伴う東亜プレス社の工作物、動産の移転補償、営業上の損失補償、仮営業所、仮住居に関する補償を内容とするものであり、その支払いと同社の店舗、営業設備の移転とは密接な関係にあり、右支払いがなければ、同社の移転が困難となり、公共事業である右建設工事の遂行に支障を来たすおそれのあることはうかがうことができる。しかし、本件移転補償金請求権について、その差押ないし仮差押を禁ずる趣旨の規定は存しない。そして、右移転補償金請求権は、店舗等の移転と法律上不可分の関係にあるものとはいえず、また、右移転補償金を現実に右移転にのみ使用すべきことを法律上限定しているものでもない。

これらのことから考えると、移転補償金請求権は、差押えられると現実に明渡を困難にしてしまうことがあるので、このような補償金請求権は差押えを許さないのが立法政策的に望ましいということはできるが、後記土地収用法のような実定規定がない以上、本件移転補償金請求権をその性質上差押の許さない債権(つまり、一身専属的な性質の債権)であるとして、債権者の一般担保の枠外に置き、差押性そのものを否定するのは相当ではないといえる。

従前の裁判例のなかで、石油試掘奨励交付金請求権について、その債権の性質上差押性が否定されているが(大判昭和一〇年一月一四日・民集一四巻一頁参照)、それは右交付金が事業の助成を目的としていてその使途が法律上限定されているからであつて、本件補償金請求権とは、その趣旨・内容を異にしており、右交付金請求権と類似する性質のものということができない(本件のような補償金請求権の差押性を否定するには、立法政策的な要因だけでは根拠として十分でなく、やはり実定規定を必要とするのであり、実定規定がなければその差押性を否定することができないものと考える。)。

なお、昭和四二年法律第七四号による改正後の土地収用法は、裁決手続開始の登記前において補償金請求権に対して差押、仮差押の執行、譲渡、又は質権の設定をすることを禁じているが(同法四五条の三第二項)、それは、補償金請求権が性質上差押の許されない債権であることに基づくものではなく、もつぱら収用対象となる土地、及びこれに関する権利の差押と補償金請求権の差押について調整をはかり、起業者の支払手続の円滑化をはかろうとする行政上の要請に基づくものと解される。

以上のとおり、本件移転補償金請求権は性質上仮差押及び差押が許されないという控訴人の主張は、理由がないものというべきである。《以下、省略》

(伊藤利夫 小山俊彦 山田二郎)

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