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東京高等裁判所 昭和49年(ま)5号 決定 1974年8月09日

主文

請求人に対し金七〇、四〇〇円を交付する。

理由

本件請求の趣旨及び理由は請求代理人廣瀬功提出の刑事補償請求書に記載されたとおりであるから、これを引用する。

そこで考えるに、高橋仙吉に対する当庁昭和四七年(う)第一、一一九号競売入札妨害被告事件の確定記録及び本件記録によれば、高橋仙吉は競売入札妨害の被疑事実に基づき昭和四六年九月一四日逮捕状により逮捕されて警視庁丸の内警察署に留置され、引き続き同月一六日勾留状の執行を受けて警視庁本部留置場に勾留され、右勾留のまま同年一〇月五日右事実と同一の競売入札妨害の公訴事実により東京地方裁判所に起訴され、その後東京拘置所に移監されたのち、同月一五日保釈許可決定を受けて同日釈放され、同年一一月三〇日別件の確定した懲役刑の執行のため中野刑務所に収監されて受刑中、同年一二月二五日本件の競売入札妨害被告事件について、懲役刑に処する有罪判決の言渡を受け、同月二七日収監され、右判決に対し高橋仙吉において控訴の申立をし、同人は、昭和四七年六月九日保釈許可決定を受けて同月一二日再度釈放されたのであるが、当裁判所は、右被告事件について審理を遂げ、昭和四九年六月五日、被告事件が罪とならないとして原判決を破棄したうえ、高橋仙吉に対し無罪の判決を言渡したところ、同人は同月一八日死亡し、右判決は、検察官からの上告の申立もなく、同月二〇日確定したこと、請求人は、高橋仙吉の配偶者で相続人の一人であることが認められる。

しかして刑事補償法一条一項による刑事補償請求権は未決の抑留又は拘禁を受けた者が無罪の裁判を受けたことすなわち無罪の裁判が確定したことによって発生するものと解される(同法七条参照)ところ、前記のとおり、本件において、未決の抑留及び拘禁を受けた高橋仙吉は、無罪の裁判の言渡を受けたものの、上告期間中に死亡し、その後右上告期間の満了により無罪の裁判が確定したものであるから、形式的には同人が死亡した時にはまだ刑事補償請求権が発生しておらず、したがって、請求人が右請求権を相続したといえないことになるが、同法一条及び刑訴法三四五条の法意等をもとに実質的に考えると、未決の抑留又は拘禁を受けた者が無罪の裁判の言渡を受けたときは、その裁判の確定を条件とする刑事補償請求権を取得するものといってよく、さらに刑事補償法二条二項の趣旨をも類推すると、本件のように無罪の裁判の言渡を受けた者が右裁判の確定前に死亡した場合でもその裁判がそのまま確定したときは、相続人は、同法一条一項、二条一項により刑事補償の請求をすることができるものというべきである。

そこで前記記録によれば高橋仙吉には同法三条所定の事由は認められないので、同法四条二項所定の一切の事情を考慮し、請求人に対し、同法一項に従い一日二、二〇〇円の割合で高橋仙吉が抑留拘禁されていた昭和四六年九月一四日から同年一〇月一五日までの三二日間(別件の懲役刑の執行を受けた期間は除く。)の刑事補償金として合計金七〇、四〇〇円を交付するのを相当と認め、同法一六条により主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 龍岡資久 裁判官 西村法 福嶋登)

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