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東京高等裁判所 昭和48年(ラ)709号 決定 1976年7月08日

抗告人

山本よし

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

抗告人は、「原審判を取り消す。原審判添付遺産目録記載の物件を抗告人に分与する。」との裁判を求め、その理由として、別紙抗告理由書記載のとおり主張した。

本件記録編綴の<資料>によれば、次の事実が認められる。

一被相続人山本弥兵衛は群馬県利根郡月夜町大字真庭字川原六四六番田一六八平方メートル、同所字大沢四四七番畑四六平方メートル 同所字八幡二六九番一畑八五平方メートルを所有していたが、天保八年(一八三七年)頃右月夜野町で死亡した抗告人は明治四二年(一九〇九年)一月九日出生し、昭和七年(一九三二年)六月四日亡山本新五兵衛と婚姻届をおわつて夫婦となり、昭和四三年三月一九日新五兵衛が死亡した後婚姻当時既に右三筆の不動産(本件遺産)につき管理人として固定資産税を納付していた新五兵衛に代り、管理人として本件遺産につき固定資産税を納付し、弥兵衛の位牌を保管し 同人の祭祀を継いで現在に至つた。

二しかし、弥兵衛の位牌が抗告人方に保管され、抗告人が弥兵衛の祭祀を継いでいるだけで抗告人はもとより新五兵衛と弥兵衛との身分関係は不明である。

当裁判所は、民法九五八条の三項第一項にいう「被相続人と特別の縁故があつた者」であるために被相続人との同時存在を必要とする説に左祖するものではなく、被相続人の死後の縁故者であつてはならないとするものではない。しかしながら、現行民法上、相続人は被相続人の祭祀を営む義務を負うものではなく、祖先の祭祀を行うかどうかは各人の信仰ないし社会の風俗、習慣、道徳、宗教に委委ねられるべきところであつて、国家法の立入るべきかぎりではないと解すべきであり、被相続人の祭祀を行うからといつて被相続人の特別縁故者であると解することは家督相続を廃止した現行民法の精神に反する。この理は、被相続人の祭祀を行う者がたまたま相続財産を管理してその租税を納付していても、被相続人が家督相続の行なわれていた現行民法施行前に死亡しても変りがない。さすれば、抗告人が現行民法施行前に死亡した被相続人の所有していた不動産につき管理人としてその固定資産税を納付し弥兵衛の位牌を管理しその祭祀を行つているからといつてそれだけで抗告人を弥兵衛と特別の縁故があつた者と認めることはできないから、抗告人の本件審判申立を失当として却下した原審判は相当であり、記録を精査しても、原審判に取消すべき瑕疵はなく、これに対する本件抗告は、理由がない。

よつて本件抗告を棄却することとし、抗告費用は抗告人に負担させて、主文のとおり決定する。

(吉岡進 園部秀信 太田豊)

抗告の理由<省略>

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