大判例

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東京高等裁判所 昭和48年(ネ)2243号 判決 1974年8月30日

控訴人 日商住地株式会社

右訴訟代理人弁護士 大谷勝太郎

被控訴人 横森不動産株式会社

右訴訟代理人弁護士 和田泰典

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。

被控訴代理人の主張は、次のとおり付加するほか、原判決事実摘示と同一であるから、こゝにこれを引用する(たゞし、原判決二枚目表末行「四月二七日」とあるを「四月二八日」と訂正する。)。

被控訴代理人は、次のとおり述べた。

一、本件仲介手数料の支払時期は、本件仲介土地の登記(売主から控訴会社の指定する者への所有権移転の本登記または、仮登記)のときである。そして右登記は、いずれも昭和四八年四月二八日完了した。なお、被控訴人は、本件仲介以外控訴人のいう(ロ)の土地の転売の仲介の約束をしたことはない。

二、仮りに、本件仲介手数料の支払時期が控訴会社の主張する残地の売却時であるとしても、右残地は、控訴会社自ら同年一〇月二六日、永山信男に売却し、同日その旨の所有権移転登記を経由したから、控訴会社のいう手数料支払期日は到来している。

三、因みに本件仲介後の本件土地の処分状況は、次のとおりである。即ち、右土地は、左記のとおり、三筆に分筆され、かつ、いずれも、前記のとおり昭和四八年四月二八日、売主清水長太郎から控訴会社の指定する者名義への登記が経由された。

(イ)保谷市中町二丁目二、一一四番二六

宅地八八・五六平方メートル 伊藤正俊名義本登記

(ロ)同番二七

宅地五〇・七九平方メートル 平手繁松名義仮登記

(ハ)同番一三(通路部分)

宅地二五・九一平方メートル 右伊藤および平手名義共有登記

控訴代理人は、次のとおり述べた。

一、請求原因事実は、本件仲介手数料が、清水長次郎、控訴会社間の土地建物売買に関し、被控訴人主張の登記さえ経由されれば、支払われるものであることおよび右手数料の支払時期の点を除き、その余の事実は、すべて認める。

二、控訴会社は、昭和四八年一月頃、顧客から宅地として一〇〇平方メートルばかりの土地を世話してほしい旨の依頼をうけていた。たまたま、控訴会社の取引担当者久田元郎が被控訴会社の取引担当者野崎真哲および正山英夫に前記依頼物件について話したところ、右両名から、一六五平方メートルの建物付土地の売物が出ているから、これを買取り、右建物を取り毀して、土地を分筆して売却してはどうかと持ちかけられたが、久田において、右土地を分筆しても、前記控訴会社が依頼をうけた土地に見合う部分(被控訴会社主張の(イ)の土地)は別としても、残地(被控訴会社主張の(ロ)の土地)を転売する自信がない旨を申し出たところ、右残地は、被控訴会社において転売の仲介をしてやると回答したので、控訴会社は、被控訴会社の仲介により本件不動産を買受けたのである。その際、久田は、野崎および正山に対し、仲介料として四〇万円を支払う旨約したが、支払の条件および期日については、前記(イ)の土地の販売金額では殆ど利益がないので、残地を被控訴会社の仲介により転売することを条件とし、右条件が成就した日に右仲介料を支払う旨を申し入れ、前記両名は、右申入れを承諾した。

そして右残地については、被控訴会社は、当初は本件土地は建物売買契約書(乙第一号証)記載の残代金支払日である昭和四八年三月二四日までに転売の仲介をしてやると約束していたが、できなかったので、右仲介による転売期日は、同年四月二四日、さらに同年六月三〇日までと順次延期され、控訴会社は、これを諒承したにもかゝわらず、被控訴会社は、これら期日までに右残地の転売の仲介をすることができなかった。控訴会社は、その後も被控訴会社に対し、しきりに右残地の転売の仲介を求めたが、被控訴会社は、これを放置して顧るところがなかった。そこで、控訴会社は、右残地の転売に努力しているが、いまだに転売できないでいる。従って、控訴会社には、いまだ本件仲介手数料を支払う義務はないし、また、被控訴会社が右転売を仲介するについてこれを妨げたことはない。

三、被控訴会社は、右残地の転売の仲介をしてやる旨を約束しているにもかゝわらず、右約束を履行しないから、本件土地買受けについての仲介手数料は、面積比により按分すれば、被控訴会社の主張金額より約一四万円減額さるべきである。

証拠<省略>。

理由

一、請求原因事実は、本件仲介手数料の支払の条件および時期に関する点を除き、当事者間に争いがない。

二、1.被控訴会社は、本件仲介手数料は、清水長次郎、控訴会社間の本件土地建物の売買の仲介に対するものであり、その支払の条件および時期は、右土地につき控訴会社またはその指定する者への所有権移転登記または仮登記手続が完了すれば、仲介料支払の条件が成就し、かつ、右条件成就の時が仲介料支払の時期であると主張する。

<証拠>を総合すれば、

(1)控訴会社では、顧客である伊藤正俊より宅地の買受け方の仲介の依頼を受けていたところ、被控訴会社は、清水長次郎がその所有する本件土地建物を売却したい意向であることを知り、被控訴会社の取引担当者野崎、正山が控訴会社の取引担当者久田に申し入れ、右両名の仲介で昭和四八年二月八日、清水長次郎、控訴会社間に右土地建物の売買契約が締結された(被控訴会社の仲介で右売買契約が締結されたことは、当事者間に争いがない。)。

(2)右契約締結に際し、仲介料を売主、買主のいずれが負担するかで纏らず、一時は売主側で交渉を打ち切るとまで言ったところ、控訴会社の取引担当者久田が右仲介料を控訴会社が負担することを承諾した。そのとき、手数料の額は、売買代金一、三〇〇万円の三%である三九万円に六万円を加えた四五万円が規定手数料額であるが、五万円を減額して四〇万円とする旨の合意が成立した(控訴会社が被控訴会社に仲介手数料四〇万円を支払う旨の合意がなされたことは、当事者間に争いがない。)。

(3)右仲介手数料の支払時期は、登記日と約定されたが、その趣旨は、買主である控訴会社が、売買代金の支払いを完了して、売主である清水から登記手続に必要な権利証および同人の印鑑証明書、委任状を受領して、買主において自由に登記手続ができるようになったときというものであって、控訴会社が他へ転売して、その転売先への登記手続を完了したときという趣旨ではなかった。

(4)控訴会社は、昭和四八年四月二八日、売主である清水に対し本件土地建物の売買代金の支払を完了し、同日、清水から右登記手続に必要な一切の書類を受領した。

以上の事実が認められ、当審証人久田元郎の証言中、右認定に反する部分は、前記各証拠と対比して容易に措信し難く、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

2.控訴会社は、本件仲介手数料の支払の条件および期日は、本件土地建物買受けの仲介のみならず、被控訴会社の仲介により前記(ロ)の土地を転売することを条件とし、右条件が成就した日が右仲介料の支払期日であり、右仲介による転売については、その主張の如き期限が再三定められたと主張し、当審証人久田元郎の証言中には、一部右主張にそう趣旨の供述があるが、右供述は前記各証拠と対比して措信し難く、他に右主張事実を認めるに足る証拠はない。従って右主張は理由がない。

3.以上認定事実によれば、本件仲介手数料は、清水長次郎、控訴会社間の本件土地建物の売買についてなした被控訴会社の仲介についてその支払いが約されたものであり、その支払時期は、買主である控訴会社が売主から登記手続に必要な一切の書類を受領し、(その日が昭和四八年四月二八日であることは、前記認定のとおりである。)、これによって、控訴会社が自己またはその指定する者に自由に登記手続をすることができるようになったときと解するのが相当である。

三、なお、附言すれば、<証拠>によれば、本件土地は、被控訴会社主張の(イ)ないし(ハ)の土地に分筆され、控訴会社は、前記認定の清水から受領した右各土地の登記手続に必要な書類を用いて、いずれも昭和四八年四月二八日、(イ)の土地については、伊藤正俊に所有権移転登記を、(ロ)の土地については、平手繁松に所有権移転請求権保全仮登記を、(ハ)の土地については共有者伊藤正俊に所有権一部移転登記、同平手繁松に持分移転請求権仮登記をそれぞれ経由していること(同日に本件土地につき右各登記を経由したことは当事者間に争いがない。)、さらに、(ロ)の土地については、同年一〇月二六日、平手名義の前記仮登記が抹消され、永山信男に所有権移転登記を経由していることが認められ、当審証人久田元郎の証言によれば、平手は控訴会社のいわゆる金主であって、自己の権利を保全するため、前記仮登記を経由したものであることが認められ、前記各認定に反する証拠はない。

四、以上の次第であるから、控訴会社は、被控訴会社に対し、本件仲介手数料四〇万円およびこれに対する本件訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな昭和四八年六月一七日から完済まで年五分の割合による遅延損害金の支払い義務があるものというべく、従って控訴会社に対し右金員の支払いを求める被控訴会社の本訴請求は理由があるから、これを認容すべきである。

よって、右と同旨の原判決は相当であって、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとして、民事訴訟法第三八四条第一項第九五条第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 豊水道祐 裁判官 小林定人 野田愛子)

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