大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和47年(行ケ)12号 判決 1973年6月29日

原告

ザ・シンガー・カンパニー

右代表者

エリオット・イー・ボース

右訴訟代理人弁理士

蕚経夫

菅野中

被告

特許庁長官

三宅幸夫

右指定代理人

渡辺清秀

外一名

主文

原告の請求は、棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

この判決に対する上告のための附加期間を九十日とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

原告訴訟代理人は、「特許庁が、昭和四六年八月二七日、同庁昭和四二年審判第七、四〇五号事件についてした審決は、取り消す。訴訟費用は、被告の負担とする。」との判決を求め、被告指定代理人は、本案前の申立として、「本件訴は、却下する。訴訟費用は、原告の負担とする。」との判決を、本案につき、主文第一、二項同旨の判決を求めた。

第二  請求の原因

原告訴訟代理人は、本訴請求の原因として、次のとおり述べた。

一  特許庁における手続の経緯

ジエネラル・プレシジヨン・システムス・インコーポレイテツド(以下「ジエネラル・プレシジヨン」という。)は、昭和四〇年一二月一三日、「TELEPULSE」の欧文字をローマン書体で横書きしてなる商標につき、商標法施行令別表第一一類遠隔測定制御機械器具、電子応用機械器具その他本類に属する商品(後に「電気的および電子応用の遠隔測定制御機械器具」に補正)を指定商品として商標登録出願をしたところ、昭和四二年八月八日拒絶査定を受けたので、同年一〇月一三日、これに対する審判を請求し、昭和四二年審判第七、四〇五号事件として審理されたが、昭和四六年八月二七日、「本件審判の請求は、成り立たない。」旨の審決があり、その謄本は同年一〇月一六日請求人代理人弁理士曾我道照に送達された(出訴期間として三か月附加)。なお、審判手続係属中の一九六八年(昭和四三年)九月二七日、ジエネラル・プレシジョンは、その商号をシンガー・ジェネラル・プレシジヨン・インコーポレイテツドと変更し、さらに一九七一年(昭和四六年)七月二日、原告に吸収合併され、原告は、本件審決後の昭和四七年三月二九日、その旨特許庁長官に届け出た。

二  本件審決理由の要旨

本願商標の構成および指定商品は、前記のとおりであるところ、本願商標を構成する「TELEPULSE」の文字中「TELE」の文字は「遠い」「遠距離の」の意味を有する接頭辞として使用され、しかも、電気業界においては、telecontrolled substation(遠隔制御変電所)、telemeter(遠隔計器、遠隔指示器)、telemetering(遠隔測定)等の用例にみるとおり普通に使用されているものであり、また、「PULSE」の欧文字は「継続時間の短かい電圧または電流の波形」を指称するものとして普通に使用されていることは顕著な事実である。しかして、本願商標の指定商品である電気的および電子応用の遠隔測定制御機械器具には、ある情報をパルス信号に変えて遠方へ送り、そこで測定制御用情報として用いる遠隔処理方式によるものがあることは明らかであるから、上記のような意味で熟知された技術用語である「TELE」と「PULSE」の両語を結合してなる「TELEPULSE」の文字は、格別の事情のない限り、これを指定商品(電気的および電子応用の遠隔測定制御機械器具)との関係においてみると、該商品が、ある情報をパルス信号に変えて遠方へ送り、そこで測定制御用情報としての機能を果たす処理方式であることを記述した意味に理解し、認識させるに止まるにすぎないといわなければならない。したがつて、本願商標は、これを上記のような指定商品に使用するときは、該商品の品質(性能)を示したものであり、需要者が何人の業務にかかる商品であるかを認識することのできないものと認められるし、また、本願商標をパルス信号以外のアナログ量を用いる遠隔通信処理方式による測定制御機械器具に使用するときは、商品の品質(性能)につき誤認を生じさせるおそれがあるものと認められるから、本願商標は、商標法第三条第一項第三号および第四条第一項第一六号の規定に該当し、登録を受けることができない。

三  本件審決を取り消すべき事由

<略>

第三  被告の答弁

被告指定代理人は、答弁として、次のとおり述べた。

一  本案前の抗弁

本件に関する特許庁における手続の経緯が原告主張のとおりであること、および原告主張の各年月日に、本件審判請求人ジエネラル・プレシジヨンが商号を変更し、次いで、原告会社に吸収合併され、特許庁長官にその旨の届出がされたことは、いずれも認めるが、本件訴は、当初弁理士蕚優美、同蕚経夫、同菅野中が代理権限がないにかかわらず代理人となり、原告の表示をジエネラル・プレシジヨンとして提起したものであり、昭和四七年四月二一日付訴状訂正申立書により右代理人等は適法な代理権に基づき、原告の表示をザ・シンガー・カンパニーと訂正したものであるが、右原告の表示の訂正は新たな訴の提起とみるべきであり、その訂正は、出訴期間経過後にされたものであるから、本件訴は不適法な訴として却下されるべきである。

なお、原告代理人らは、昭和四七年五月二一日付でジエネラル・プレシジヨンの特許管理人弁理士曾我道照の復代理人に選任された旨の委任状を追完したが、すでにそれ以前に、前記訴状の訂正によりジエネラル・プレシジヨンの名においてする訴は消滅に帰したから、これを適法化するものではない。のみならず、昭和四七年三月二九日、特許庁長官宛に本願商標登録出願人名義変更届(一般承継)が提出され、弁理士曾我道照はジエネラル・プレシジヨンの特許管理人たる地位を喪失するに至つたものであり、したがつて、その後同人が前記代理人らを復代理人に選任しても、特許管理人でない者のした復代理人の選任行為として追認の効力を生ずるはずはなく、これにより本件訴が適法となるものではない。

<以下略>

理由

第一本案前の抗弁について

被告は、本件訴は不適法であり却下されるべき旨主張するが、本件に関する特許庁における手続の経緯および原告主張の各年月日に本件審判請求人ジエネラル・プレシジヨンが商号をシンガー・ジエネラル・プレシジヨン・インコーポレイテツドと変更し、次いで原告に吸収合併され、特許庁長官へその旨の届出がされたことは当事者間に争いがないところ、一件記録によると、本件審判請求人ジエネラル・プレシジヨンの審判手続における代理人弁理士曾我道照は商標法第七七条第二項の規定により準用される特許法第八条の本件に関する特許管理人であり、かつ、同条第二項により本件審決を不服とする訴訟につき本人を代理する権限を有するから、審判係属中前示のとおり合併がされた場合においても、審判手続の中断はもとより本件審決謄本の送達による手続の中断をも生ずることなく、出訴期間はその謄本の送達のあつた日から進行するものと解すべきところ、本件訴は当初右の出訴期間内に無権代理人である弁理士蕚優美、同蕚経夫、同菅野中が原告名をジエネラル・プレシジヨンと表示して提起し、その後、出訴期間経過後の昭和四七年四月二一日受付の訴状訂正申立書をもつて原告の表示をザ・シンガー・カンパニーと訂正するとともに、前記各弁理士を本件に関する特許法第八条の代理人に選任する旨の一九七二年三月一三日付同会社代表者名義の委任状を提出したものであることが認められ、叙上の事実によると、本件訴の当初の原告ジエネラル・プレシジヨンは、訴提起当時(昭和四七年二月一五日)、すでに表示訂正後の原告ザ・シンガー・カンパニーに吸収合併されていたものであるから、本件訴状において原告名をジエネラル・プレシジヨンとしたのは、本来ザ・シンガー・カンパニーとすべきものを誤つて表示したものであることは客観的に明らかなものと認められ、したがつて、本件訴は当初から表示訂正後の原告ザ・シンガー・カンパニーにより提起されたものとみるを相当とすべく、また、訴提起当時訴訟代理人蕚優美外二名が無権代理人であつたとしても、その後、表示訂正後の原告ザ・シンガー・カンパニーにおいて同代理人等を特許管理人に選任し、同代理人等のした本件訴の提起その他の従前の訴訟行為を追認したものとみるを相当とするから、本件訴は当初に遡つて適法なものというべく、したがつて、被告の本案前の主張は理由がないものというべきである。

第二本案について

(争いのない事実)

一本願商標の構成および指定商品ならびに本件審決理由の要旨が原告主張のとおりであることは、当事者間に争いがない。

(本件審決を取り消すべき事由の有無について)

二本件審決の認定判断は、以下に説示するとおり、正当であり、原告の主張はすべて理由がないものというほかない。

1  原告は、本願商標が指定商品との関係において使用するとき、商品の品質を表示するとの本件審決の認定判断は誤りである旨主張するが、本願商標「TELEPULSE」中「TELE」が「遠い」「遠距離の」の意味を有する接頭辞として用いられること、および「PULSE」が「継続時間の短かい電圧または電流の波形」または「電波、音響等の瞬間的波動(振動)」を意味する語として一般に業界において普通に使用されている事実は、原告の認めるところであり、この事実に成立に争いのない乙第一号証の一ないし四により明らかな遠隔測定の一方法としてパルス周波数方式が一般に利用されている事実を総合すると、「TELE」と「PULSE」の二語を結合した本願商標をその指定商品である「電気的および電子応用の遠隔測定制御機械器具」との関係においてみるとき、需要者、取引者は、単に「遠方から送られるパルス信号」という字義どおりの意味に本願商標を理解するだけに止まらず、その商品のすべてが「パルス周波数による遠隔測定方式を採用した遠隔測定制御機械器具」であるものと直感し、認識するものとみるのが相当であり、この認定を覆すに足る資料はない。したがつて、本願商標は、指定商品の品質を表示するものであり、特別顕著性を欠くものといわざるをえない。原告は、パルス信号の利用分野が広範囲であることや、「TELEPULSE」の語が新造語であることから、叙上のように指定商品の品質を表示するものといいえない旨主張するけれども、この主張は前段説示に照らし、採用するに由なく、また、原告は既登録例を挙げ、これらの事例からも、本願商標は特別顕著性を有する旨主張するが、商標の登録適格性の有無は各商標につき個別的に判断すべき性質のものであるから、前説示のとおり、本願商標が指定商品の品質を表示するもので特別顕著性を欠く以上は、登録要件を具備しないことは明らかであり、原告主張の既登録例の存在も叙上認定を覆すに足る資料といい難い。

2  原告は、本願商標は使用による特別顕著性を有する旨主張する。しかし、仮に原告主張のとおりとするも、本請商標の指定商品である「電気的および電子応用の遠隔測定制御機械器具」には、パルス信号以外の信号を用いる遠隔通信処理方式による測定制機械器具を含むことは明らかであり、この種商品に本願商標を使用するときは、需要者、取引者をして該商品がパルス信号を用いる遠隔通信処理方式によるものと誤認せしめ、商品の品質に誤認を生じさせるおそれがあることは看易いところといわなければならない。したがつて、本願商標は、商標法第四条第一項第一六号に該当し、登録適格を欠くものといわざるをえない。

(むすび)

三叙上のとおりであるから、その主張の点に判断を誤つた違法のあることを理由に本件審決の取消を求める原告の本訴請求は、理由がないものというほかない。よつて、これを棄却することとし、訴訟費用の負担等につき行政事件訴訟法第七条ならびに民事訴訟法第八九条および第一五八条第二項の規定を適用して、主文のとおり判決する。

(三宅正雄 武居二郎 友納治夫)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例