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東京高等裁判所 昭和46年(ラ)658号 決定 1972年2月10日

抗告人 木村和夫こと木村昭夫

相手方 成田敏夫

主文

本件抗告を棄却する。

理由

抗告代理人は「原決定を取消す。相手方の申立はこれを却下する。」との決定を求めた。

抗告人の抗告理由は別紙記載のとおりである。

抗告理由の要旨は、(一)抗告人と相手方との間の本件土地に関する賃貸借契約には増改築禁止の特約は存在しないところ、借地法により増改築の許可を求めることができるのは借地契約に「増改築ヲ制限スル旨ノ借地条件ガ存スル場合」のみであるから、相手方の本件申立は申立の要件を欠き、(二)また本件土地については抗告人においてこれが明渡を求める正当な理由があるのであるからこれを引続き賃貸することを前提として建物の増築を許可した原決定は不当であるというにある。

本件全資料によつても、抗告人と相手方との間の本件土地に関する賃貸借契約に増改築禁止の特約があつたものと認めることはできないが、増改築禁止の特約がなければ常にいかなる増改築も借地人のために許されるというものではなくその増改築の能否が当該賃貸借契約の趣旨または残存賃貸期間の長短等契約関係の態様の如何に係る場合もあり得るから、増改築禁止の特約のない場合にも増改築の能否に関し賃貸人と賃借人との間に紛議が惹起されることが予測できるところであり従つて、借地法八条の二第二項の「増改築ヲ制限スル旨ノ借地条件ガ存スル場合」とは、契約にその旨の借地条件の存する場合のみならず、現に当事者の一方が相手方の増改築の請求に対してこれに応せず当事者間に紛議が生じた場合をも包含するものと解するのを相当とする。ところで、抗告人が相手方の増築の請求に対してこれに応せず当事者間に紛議を生じていることは本件の経過に徴して明らかであるから、抗告人の右(一)の主張は理由がなく、また本件全疎明をもつてしても抗告人に本件土地の明渡を求める正当理由があるとは認められないから抗告人の右(二)の主張も理由がない。

してみれば、抗告人の本件抗告は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 菅野啓蔵 渡辺忠之 中平健吉)

(別紙)抗告理由

(一) 抗告人所有の埼玉県鴻巣市加美二丁目弐〇六壱番地、宅地四一六・五二平方メートル(以下本件土地という)については、抗告人と被抗告人の間に建物所有を目的とする賃貸借契約が存在しているが、この契約には、増改築禁止の特約は存しない。

(二) しかるに、原決定は本件改築については許可することが相当であるとしている。

借地法第八条の二第二項は「増改築を制限する旨の借地条件が存する場合」であつて、原決定の挙示した被抗告人の職業(被服加工業)、建物の耐用年数、周囲の環境から改築を相当とすることのみで、改築許可の事由とすることはできない。のみならず、別紙第二目録記載の建物(改築)は、被服加工の場所もなく、現在に於て、被抗告人方は同加工業を廃業し、被抗告人は近隣のアサヒ紙工工場に通勤している状況である。

(三) 抗告人は、被抗告人に対して、抗告人の製麺業のため、地続きの本件土地を使用すること、並びにこれに相当する近く(徒歩約五分)の土地の宅地へ移ることを再三申入れて居るに拘らず、正当の理由もなく、被抗告人がこの申入れを拒絶しているものである。

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