大判例

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東京高等裁判所 昭和45年(ネ)1706号 判決 1971年5月27日

控訴人 真木清左衛門

被控訴人 国

訴訟代理人 叶和夫 外一名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決を取消す。原判決添付別紙物件目録記載の杉立木について控訴人が所有権を有することを確認する。被控訴人は控訴人が右杉立木を伐採、製材及び搬出するのを妨害してはならない。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張及び証拠の関係は、控訴代理人が当審において、原判決二枚目裏一一行目の「その総材積の一〇分の七を」の次に「便宜の区画において」と加え、同五枚目表一行目を「抗弁一の事実は認めるが、その後斉藤太助は同立木((イ)(ロ)(ハ)区域内の立木を含む)を秋田換材合資会社に転売し、控訴人は明治四一年一〇月ごろ右会社の解散に当つて、同立木全部を買戻しその所有権を回復したものである。二の事実は否認する」と訂正し、甲第八号証を提出し、被控訴人代理人が当審において、原判決一三枚目表五行目を「再抗弁は否認ないし争う」を訂正し、控訴人の当審における主張の訂正には異議がある、仮りに右異議が認められないとすれば、右主張事実は否認すると述べ、甲第八号証の成立を認めると陳述したほかは、原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。

理由

控訴人の先々代真木小左衛門(以下小左衛門という)が明治三七年中国有土地森林原野下戻法(昭和三二年法律第九九号。以下「下戻法」という)に基づき、農商務大臣を相手方として行政裁判所に秋田県仙北郡長信田村(現在の太田村)大字太田字真木沢国有林中小字袖川に生立する杉立木を三官七民の割合をもつて下戻すべき請求訴訟を提起し、同裁判所が同三九年六月一九日小左衛門の右請求を全部認容する判決をし、右判決が確定して、小左衛門がこれによつて真木沢国有林中小字袖川に生立する杉立木について、一〇分の七の持分を有する共有権を取得したこと、そこで当時の農商務大臣は控訴人主張の日控訴人主張のとおりの「達」をなし、これを受けた秋田大林区署長は管下の六郷小林区署長に対し、真木沢国有林中小字袖川に生立する杉立木の毎木調査をした上、その総材積の一〇分の七を小左衛門に引渡すべきことを命じたこと、六郷小林区署長は小字袖川と思われる区域内の杉立木を調査したところ、杉立木一〇一〇五本、材積約一〇一九七立方メートルであつたので、その一〇の七として、小左衛門に対し原判決添付図面の「朝日沢」から「袖川沢」にいたる沢筋の東側部分(右図面(9) 区域)及び「オツアエ沢」「キタキ沢」区域に生立している杉立木合計六六四七本、材積約七〇八一立方メートルを引渡したこと、しかしその後右両区域内の杉立木だけでは袖川の杉立木の一〇の七に足りず、しかも「オツアエ沢」「キタキ沢」区域は小字袖川に含まれないことが判明したので、六郷小林区署長はすでに引渡しずみの(9) 区域はそのままとし、その余の区域の杉立木の引渡を撤回し、それにかえて「二ツ山沢」区域の杉立木を引渡したことは当事者間に争いなく、<証拠省略>によると、小左衛門は明治三七年中行政裁判所に対し、本件杉立木は同人の祖先真木清左衛門が旧秋田藩庁の許可をえて自生していたものを培養し、もしくはあらたに自費をもつて植栽したもので、天明五年(西暦一七八五年)中成木の上は半官半民の割合で分収することに定められ、その後文化年中に三官七官の割合に改定された旨の各事実を主張して本件杉立木の下戻を訴求した結果、右下戻判決をうるにいたつたことが認められる。

被控訴人は、小左衛門に引渡された杉立木の区域が前記争いないところのほか原判決事実摘示における控訴人主張のとおりであること、これになお杉立木が現存することは争うが、仮に小左衛門に引渡された杉立木が控訴人主張の(a)(イ)、(ロ)、(ハ)区域の杉立木であり、今日なお現存するとしても、右杉立木はその搬出期間である明治四二年五月二〇日の経過により、被控訴人の所有に帰したと主張するので、まず被控訴人の右抗弁について検討する。

下戻法第一条によると、地租改正または社寺上地処分により官有に編入されて国有に属した土地森林原野もしくは立木竹は、その処分当時これにつき所有または分収の事実があつた者がその下戻の申請をすることができ、同法第四条第一項によれば、下戻を受けた者はその下戻により所有または分収の権利を取得することになつているから、従前土地森林立木等につき所有の事実があつた者は下戻によつてそのものの所有権を、分収の事実があつた者は下戻によつてそのものの分収の権利を取得することになると解せられる。そうすると前記事実によれば、小左衛門は本件杉立木について下戻法第四条第一項に基づき、三官七民すなわち同人に一〇分の七の割合による収益をもたらす分収の権利を取得したものというべく、その結果本件杉立木は旧国有林野法(明治三二年法律第八五号。以下旧法という)第一九条第二項により部分林とみなされ、旧法及び旧国有林野部分林規則(明治三二年勅令第三六二号。以下旧規則という)の適用を受けることになるが、旧規則第一一条及び第一二条第二項によると、部分林の収益は樹木売払代金をもつて分収するのが原則であるけれども、国の分収すべき樹木を保存する必要のあるときは材積をもつて分収するときは造林者は大林区署長の指定した期間内にその分収樹木の搬出を終えなければならない、とされている。前記争いのない事実によると、秋田大林区署長は明治三九年中控訴人主張の農商務大臣の「達」に基づき、管内の六郷小林区署長に対し杉立木の毎木調査の上、その材積の一〇分の七を小左衛門に引渡すべき旨を命じ、小林区署長はその結果杉立木を小左衛門に引渡したというのであるから、これは部分林たる本件杉立木の分収方法について、材積をもつて分収する方法を選択してこれを行つたものと認めることができる。

右に関連し、控訴人は本件杉立木には旧規則第二二条による部分林の存続期間が定められなかつたことを理由に、本件杉立木はみなし部分林ではなく、また小左衛門は右杉立木につき直接持分一〇分の七の共有権を取得したのであつて、右材積の引渡は共有の分割に外ならず、これについては旧規則の適用を受けず、従つて旧規則によつて分収権を取得したのではないという。しかし、下戻により部分林となつた杉立木が、その樹令等を考慮するとすでに伐採搬出の時期に来ていると認める場合には、存続期間を定めることなくただちに材積をもつて分収することも旧法及び旧規則の適用上許されるものと解するところ、前記<証拠省略>によると、本件杉立木は天明五年中成木の上は半官半民の割合で分収することに定められていたことが認められるから、明治三九年当時一二〇年余を経過しすでに伐採の時期に来ていたため、国が下戻判決を受けて間もなく、本件杉立木の材積の一〇分の七を小左衛門に引渡したのは、右杉立木の樹令等を考慮し、ただちに材積をもつて分収するのが相当であり、これにつき存続期間を定める必要がないとしたためと思われる。すると本件杉立木は旧法にいうみなし部分林であり、従つて小左衛門が右杉立木について材積の一〇分の七の引渡を受けたのは、まさしく部分林の収益分収であるということができ、これと異なる控訴人の主張は採用できない。

秋田大林区署長が本件杉立木を小左衛門に引渡すに際し、分収樹木の搬出期間を引渡の日(明治三九年一一月二〇日)から満二年六月と指定したことは、控訴人の明らかに争わないところであるからこれを自白したものとみなすところ、旧規則第一二条第二項、第一三条によれば、造林者が大林区署長の指定した期間内に分収樹木の搬出を終らないときは、その搬出未了の樹木は国の所有に帰することとされているから、本件杉立木中搬出未了のものが残存するとしても、それは右明治三九年一一月二〇日から起算し満二年六月を経過するに伴い、被控訴人の所有に帰したものといわなければならない。

控訴人は旧規則が旧法第二三条の準用する同法第一八条第三項の委任による勅令であり、同条項が勅令に委任した事項は部分林設定の方法及び造林者に無償で譲与すべき林野産物に関することに限られ、部分林の分収樹木の所有権の帰属に関する事項を含まないのに、旧規則第一二条、第一三条は旧法の委任しない分収樹木の所有権の没収を規定するもので、その効力を有しない旨主張する。

しかし、この点は当裁判所もまた控訴人の右主張には賛成しがたいとするものであつて、その理由は次に附加するもののほか、この点に関する原判決の説示と同様であるから、該部分(原判決一八枚目表六行目から同二〇枚目裏三行目まで)を引用する。

旧法における部分林に関する直接の規定は第一九条から第二三条までの僅々五カ条に過ぎず、この中で同法は国が国有林野に造林者との契約で部分林を設けることができること、法令、慣行又は其の他の理由により、部分林とみなすものの存すること、部分林における樹木の共有及び持分の定め、その存続期間及びこれが更新等の基本事項を定め、かつ部分林の樹木が国と造林者との共有であることを前提としながら民法第二五六条による一方的請求による分割の自由を制限しており、最後に旧法第二三条を置き、同法第一八条第二項及び第三項を準用するとしたものであることは明らかであるから、右委任の範囲はある程度広範囲に及ぶとしても、これは旧法の予想するところといわなければならない。しかして右準用の結果は条文のたてまえ上は一応右に引用した原判決の判示するとおり「国有林野に部分林が設けられた場合には、その造林者に林野産物を譲与することができる。部分林設定の方法および造林者に譲与すべき部分林の林野産物に関する規定は勅令をもつて定める。」となるものと解するのが相当である。けれども、準用である以上、国有林野の受託者と部分林における造林者との性質上の差違から来る変形は当然であり、受諾者に譲与すべき林野産物の概念と、部分林の造林者に取得せしめる林野産物の概念とが同一でなければならないことはないのであり、その意味で本件におけるが如く、材積をもつて分収することをうべきことについて規定するとともに造林者にこれにつき搬出すべき義務を課し、その搬出期間及びその延長、その不履行のさいの不利益の設定等を勅令(旧規則)に規定したとしても、なんら旧法の委任の範囲を越えるということをえないのである。これを実質的にみても、被控訴人国は部分林の樹木の共有者である反面、樹木の生立する土地の所有者でもあるところ、右規定は部分林の樹木を分収伐採した後の土地の利用、主として次の植林の点を考慮し、樹木について伐採期限を定め、その期限内に樹木の伐採を完了しない場合には、搬出未了の樹木の所有権は被控訴人に帰することとしてその土地の効用を高めることに役立たしめるところに意味があるのであつて、このことは一般に伐採のための立木売買において、契約当事者間に同趣旨の特約がかわされる取引界の実情にもそうゆえんであり、これを不当とすることはできない。これを要するに旧規則第一二条、第一三条は結局旧法第二三条の準用する同法第一八条第三項の委任によるものと解することを前提とするはなんら不当でないから、この点の控訴人の右主張は、失当である。

控訴人は右規定が有効であるとすれば、立木竹について下戻により所有権を取得した場合と分収権を取得した場合とで、その取得した権利の帰すうに不均衡が生ずるという。しかし下戻によつて国有林野上の立木竹の所有権を取得したとしてもその一事によつて、当然に当該土地の使用権を取得したとするのは疑問であり、これを立木竹のまま所有を継続するには別途に通常土地使用の正権原を取得しなければならないのであり、必らずしも実質的に不均衡とはいえず、しかも<証拠省略>に弁論の全趣旨をあわせれば、従来立木竹の所有者と被控訴人との間においては、通常搬出期間を定め、期間中にこれを搬出しないときは、その所有権を放棄したものとみなす旨の取りきめを結んで処理していたことが認められ、右処理は旧規則第一二条、第一三条の趣旨と合致するので、実際問題としても控訴人主張のとおりの不均衡を生ずることはなかつたものということができる。

最後に控訴人主張の再抗弁は、農商務大臣が本件杉立木について部分林の存続期間を定めなかつたことを理由とするものであるところ、本件のようにすでに伐期の到来した部分林について同大臣が右期間を定めずただちに材積をもつて分収することとしたこと及びそのことは旧法、旧規則の適用上何ら違法でないことはさきに述べたとおりである本件においては、控訴人の右再抗弁は理由がない。

すると本件杉立木は搬出期間の経過により被控訴人にその所有権が帰属するにいたつた旨の被控訴人の抗弁は理由があるから、控訴人の本訴請求はその余の点について判断するまでもなく、失当というほかない。

よつてこれを理由のないものとして棄却すべく、これと同旨の原判決は相当で、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第九五条、第八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 浅沼武 岡本元夫 田畑常彦)

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