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東京高等裁判所 昭和45年(う)2639号 判決 1971年2月02日

主文

本件控訴を棄却する。

当審における未決勾留日数のうち三〇日を原判決の刑に算入する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人小山隼太および被告人本人提出の各控訴趣意書に記載されたとおりであるから、これらを引用し、これに対し当裁判所は次のとおり判断する。

弁護人の控訴趣意第一、二点について

所論は、原判決が被告人において被害者の左乳房部に、いわゆるキスマークと称される、吸引による皮下出血を加えたことをもつて強姦致傷罪にいう傷害と解したことを非難するが、原審証人百瀬隆人、同A子の各供述によれば、本件の二個のいわゆるキスマークは、被害者の左乳房のやや上部にあるものは長さ約2.2センチメートル、幅の一番広いところ約1.2センチメートル、二個の乳房間のやや左よりにあるものは長さ約2.2センチメートル、幅の一番広いところ約0.2センチメートルの楕円形もしくは偏平状の各吸引性皮下出血で、通例のキスマークであれば四日ないし一週間で消退するのに、この場合は一〇日間もかかつたことが認められるのであるから、本件のキスマークは、相当に強度の皮下出血であつたというべきであつて、人体の生活機能に障害を与え、その健康状態を不良に変更したものであることは明らかであり、また被害者本人がこれを自覚せず、一般の日常生活において看過するごとき軽微なものであつたともいえない。従つて原判決が右のキスマークをもつて強姦致傷罪にいう傷害に当たるとしたのは正当であつて、所論は採用することができない。

次に所論は、右キスマークは姦淫行為とは別に独立した行為によつてつけられたものであるから、強姦致傷罪を構成するものではないと主張するが、強姦致傷罪における傷害は、姦淫行為自体または強姦の手段たる暴行脅迫行為によつて生じたものに限らず、強姦行為に随伴する行為によつて発生したものをも含むと解すべきところ、原判決挙示の関係証拠並びに当審における事実取調の結果によれば、被告人は第一回目の姦淫が行なわれてから、暫く時間をおいた後に、被害者に畏怖の状態がつついている情況のもとで第二回目の姦淫がはじまる直前に、自己の性欲を昂進させるためしいて本件のキスマークをつけたことが認められるから、右の傷害は第二回目の姦淫行為に随伴する行為によつて生じたものというべく、原判決がこれに強姦致傷罪の擬律をしたのは正当である。

従つて論旨は、すべて採用することができない。<以下省略>(中野次雄 寺尾正二 藤野英一)

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