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東京高等裁判所 昭和44年(ネ)544号 判決 1969年12月19日

控訴人・附帯被控訴人・被告 日本トラツク株式会社 外一名

訴訟代理人 輿石睦 外二名

被控訴人・附帯控訴人・原告 登石保 外一名

訴訟代理人 小木貞一

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  原判決中「原告らのその余の請求をいずれも棄却する。」との部分を取消す。

三  附帯被控訴人(控訴人)らは、各自、附帯控訴人(被控訴人)登石保に対し金三七万円および内金三一万円に対する昭和四〇年一二月三一日以降その支払ずみまで、附帯控訴人(被控訴人)登石由喜子に対し金三五万九、二〇〇円および内金三一万円に対する同年同月同日以降その支払ずみまでそれぞれ年五分の割合による金員を支払え。

四  訴訟費用は第一、二審を通じ全部控訴人(附帯被控訴人)らの負担とする。

五  本判決第三項は仮に執行することができる。

事実

控訴人(附帯被控訴人。以下単に控訴人という。)ら訴訟代理人は、「原判決中控訴人ら敗訴の部分を取消す。被控訴人(附帯控訴人。以下単に被控訴人という。)らの請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決および附帯控訴につき附帯控訴棄却の判決を求め、被控訴人ら訴訟代理人は、控訴棄却の判決および附帯控訴につき主文第二ないし第四項同旨の判決ならびに仮執行の宣言を求めた。

当事者双方の主張は、左に記載するほかは原判決事実欄の記載と同一であるから、右記載をここに引用する。

一  原判決の訂正

原判決第四丁裏四行目「逸失利益の原価」とあるのを、「逸失利益の現価」と訂正する。

二  控訴人らの主張

被控訴人ら訴訟代理人は、原判決事実摘示の本訴請求原因のうち、四損害および五結論の欄記載の主張を次のとおり変更すると述べた。

(損害について)

(一)  入院治療費

被控訴人登石保(以下被控訴人保という。)は被害者登石登(以下登という。)を鈴木病院に入院させ、治療費として同病院に四万四、〇三〇円を支払い同額の損害を蒙つた。

(二)  葬儀関係費

被控訴人保は登の葬儀関係費として一二万九、六八五円を支出し、同額の損害を蒙つた。

(三)  登の失つた得べかりし利益

登は昭和三二年九月一九日生まれの当時満五年九か月の健康な男子で、本件事故にあわなければ、第一〇回生命表上満五才の男子の平均余命である六二・四五年程度生存しえて一定の収入を得たであろうと考えられる。

そして同人は満二〇才に達した頃から六〇才に達する頃までの四〇年間、全産業労働者の男子一人当り一カ年の平均給与額である四八万六、五〇〇円程度の収入を得、続けたであろうと考えられる。ところで同人の生活費としては、右収入の五割程度と考えるのが相当であるのでこれを控除すると、同人が得たであろう年間純益は二四万三、二五〇円となるところ、同人は本件事故によりこれを失つてしまつた。そこで右金額を基礎にして、ホフマン式(複式・年別)計算法により年五分の割合による中間利息を控除して同人の死亡時における現価を求めると三七四万円となり、同人は同額の損害を蒙つたことになる。

(四)  被控訴人らの相続

被控訴人らは登の父母として、登の死亡により右(三)の逸失利益三七四万円の各二分の一に相当する一八七万円宛の損害賠償請求権を相続により承継した。

(五)  被控訴人らの慰藉料

登が本件事故によつて死亡したことによる子の親としての被控訴人らの精神的苦痛に対する慰謝料としては各八五万円が相当である。

(六)  登の養育費等および受領ずみの自賠責保険金の控除

被控訴人らは登の死亡により少くとも登が二〇才に達するまでの生活費、養育費六二万(総額からホフマン式により中間利息を控除して算出した現価)の支出を免れたことになるから、被控訴人らの損害額からその二分の一にあたる各三一万円を控除すべきである。 また、被控訴人らは自賠責保険金各二五万円を受領しているのでこれを被控訴人らの損害に充当する。

そうすると、被控訴人保は、前記(一)、(二)、(四)および(五)の金額を合算した二八九万三、七一五円から前記三一万円と二五万円の合計五六万円を控除した二三三万三、七一五円の、また被控訴人登石由喜子(以下被控訴人由喜子という。)は、前記(四)および(五)の金額を合算した二七二万円から右五六万円を控除した二一六万円の各損害賠償請求権を有することとなる。

(七)  弁護士費用

1 被控訴人保 四六万二、四〇〇円

2 同 由喜子 四三万五、二〇〇円

(結論について)

よつて、控訴人日本トラツク株式会社(以下控訴人日本トラツクという。)に対し自賠法第三条により、控訴人猪股誠(以下控訴人猪股という。)に対し民法第七〇九条により、被控訴人保は弁護士費用を除く損害二三三万三、七一五円の内金二〇四万三、七四一円および弁護士費用四六万二、四〇〇円の内金三二万円の合計二三六万三、七四一円と右二〇四万三、七四一円に対する、本件訴状が控訴人らに送達された日の翌日である昭和四〇年一二月三一日以降その支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の、被控訴人由喜子は弁護士費用を除く損害二一六万円の内金一八七万二六円および弁護士費用四三万五、二〇〇円の内金二九万九、二〇〇円の合計二一六万九、二二六円と、右一八七万二六円に対する、同年同月同日以降その支払ずみまで右同様の遅延損害金の各支払を求めて本訴におよんだものであるところ、原判決は、被控訴人保の請求については、弁護士費用を除く損害額二〇四万三、七四一円の内金一七三万三、七四一円とこれに対する遅延損害金および弁護士費用三二万円の内金二六万円の限度で認容し、被控訴人由喜子の請求については、弁護士費用を除く損害額一八七万二六円の内金一五六万二六円とこれに対する遅延損害金および弁護士費用二九万九、二〇〇円の内金二五万円の限度で認容した。そこで、本件附帯控訴においては、原判決において請求を棄却された部分、すなわち被控訴人保は、弁護士費用を除く損害額三一万円とこれに対する年五分の割合による遅延損害金ならびに弁護士費用六万円の支払を、被控訴人由喜子は、弁護士費用を除く損害額三一万円とこれに対する年五分の割合による遅延損害金ならびに弁護士費用四万九、二〇〇円の支払をさらに求めるものである。

三  控訴人らの主張

控訴人ら訴訟代理人は、「道路交通法第一〇条第一項には、『歩行者は、歩道と車道の区別のない道路においては、道路の右側端に寄つて通行しなければならない。』と規定されているところ、本件道路は歩道と車道の区別のない道路であるにもかかわらず、登は道路左側を通行していたのであるから、その点に過失があり、また、被控訴人らは、登の親権者としての注意監督を怠り、幼児たる登を一人で外出歩行させた点に過失があるから、仮に控訴人らに損害賠償の義務があるとしても、損害賠償額の算定においては、右過失が考慮されるべきである。」と述べた。

四、証拠関係<省略>

理由

一  (加害車両の認定)

本件事故の被害者登を轢過した加害車両が控訴人猪股運転の大型貨物自動車(登録番号品一い八六一号、以下甲車という。)であるか否かの点については、当裁判所も原判決同様これを肯定すべきものと考える。すなわち、当事者間に争いのない、被控訴人ら主張の日時、その主張の場所を控訴人猪股運転の甲車が走行した事実および登が死亡した事実に、原判決挙示にかゝる、甲第一五ないし第一八号証、同第二一ないし第二四号証、同第二六ないし第三一号証、同第三三号証、原審証人近藤健、同相沢朋子、同工藤祐子、同御園弘美の各証言ならびに原審における控訴人猪股誠本人尋問の結果を総合すれば、「昭和三八年六月二六日午後五時二〇分頃、東京都江東区深川佐賀町一丁目二四番地先道路(以下本件道路という。)において、控訴人猪股が、その運転する甲車を、折から本件道路左側を甲車と同方向に向つて歩いていた登に接触させ、同人をその場に転倒させて轢過した結果同人を死亡するにいたらしめた。」ことを認めるに充分である。これに対し控訴人らは、甲車が、本件事故の頃本件道路を走行した状況を記録したタコグラフチヤート(乙第一号証)の解析結果を主たる根拠として、甲車は本件事故の頃本件道路を通過したが、事故発生地点先の今津タバコ店前で買物のため一時停車しているから、原審証人近藤健らの目撃した車両は甲車ではないと主張して前記認定を極力争うが、原判決挙示の乙第二ないし第六号証、原審証人八木春尚の証言(第一、二回)ならびに原審における鑑定人大久保柔彦の鑑定の結果(鑑定書および鑑定人調書第一、二回)によれば、タコグラフチヤートの解析、なかんづく近距離計測においては必然的に誤差を伴い、実測値と計測値の百分比誤差は控訴人らの主張するごとくプラスマイマス一〇パーセント以内であるとはいいきれず、タコグラフ解析の結果によつて得られる、走行開始後最初に停車するまでの走行距離五三四米が、実測値六四五米の佐賀町交差点手前のガソリンスタンド前(原審証人近藤健らの証言によつて推定される甲車停車地点)ではなくして、実測値四八七米の今津タバコ店前(控訴人ら主張の停車地点)であると断定しがたい以上、控訴人らの立証によつては、いまだ、甲車が本件加害車両であるとする前記認定は左右されないものである。

しかして右認定の詳細は原判決理由第一項と同一であるから、その一部を左のとおり訂正のうえ、右理由の記載をここに引用する。

原判決の訂正

(一)  原判決第一〇丁表末行冒頭に、「前出甲第二九・三〇号証に、」と加入する。

(二)  同第一二丁表五行目と六行目の間に、「成立に争いのない甲第一八号証および証人相沢朋子の証言によれば次の事実が認められる。」と加入する。

(三)  同第一四丁裏末行に、「甲第二七・二八号証」とあるのを、「甲第二七号証」と訂正する。

(四)  同第一五丁表末行に、「前出甲第二六号、第二九号証」とあるのを、「成立に争いのない甲第二六号証、前出甲第二九号証」と訂正する。

(五)  同第一六丁表一、二行目に、「なお、この四回目の走行時に甲車の助手席には作業服を着用しタオルを首にかけた訴外小川が同乗しており」とあるのを、「なお、この四回目の走行時に甲車の助手席には訴外小川が同乗しており」と訂正する。

(六)  同第一六丁表九行目に、「前出甲第一九号証、第二四号証」とあるのを、「各成立に争いのない甲第一九号証第二四号証」と訂正する。

(七)  同第一九丁裏六行目に、「甲第二五号証」とあるのを「成立に争いのない甲第二五号証」と訂正する。

(八)  同第二二丁裏九行目に、「乙第五号証によれば、」とあるのを、「各成立に争いのない乙第五、六号証によれば、」と訂正する。

(九)  同第二九丁表第五、六行目に、「乙第二号証および乙第五号証」とあるのを「乙第三号証および乙第六号証」と訂正する。

(十)  同第二九丁裏三行目および六行目の各「乙第五号証」を、「乙第六号証」と訂正する。

(十一)  原判決添付の別表<1>および<2>に、「乙第五号証」とあるのを、「乙第六号証」と訂正する。

二  (控訴人らの責任)

控訴人日本トラツクが自賠法第三条により、控訴人猪股が民法第七〇九条により、それぞれ、被控訴人らの蒙つた損害を賠償する責任のあることは、原判決理由第二、三項に記載のとおりであるからこれを引用する。

三  (損害)

被控訴人ら主張の損害のうち、弁護士費用を除く損害に関する判断、すなわち、入院治療費、葬儀関係費、登の失つた得べかりし利益、被控訴人らの相続、被控訴人らが支出を免れた登の養育費、教育費等および就労可能年限以降の生活費に関する控訴人らの抗弁、被控訴人らの慰藉料、保険金の受領および充当についての判断は、原判決理由第四項(一)ないし(三)、(五)ないし(八)(ただし、(五)については、原判決第三六丁表二行目ないし四行目に「従つて、この範囲内である原告ら主張の損害額各一二七万〇、〇二六円に対する賠償請求権を肯認することができる。」とある部分を除く。)と同一であるから原判決の右説示をここに引用する。

そうすると、被控訴人保については入院治療費、葬儀関係費、得べかりし利益の相続分、慰藉料を合算した二八九万三、七一五円から支出を免れた養育費等および受領ずみの保険金の合計五六万円を控除した二三三万三、七一五円が、被控訴人由喜子については相続した得べかりし利益と慰藉料を合算した二七二万円から被控訴人保についてと同じく五六万円を控除した二一六万円がその各損害額となるものといえる。

四  (過失相殺)

既に認定のとおり、登は本件道路の(佐賀町交差点に向つて)左側を同交差点方面へ向けて歩行中、背後から同人に接近した甲車に接触轢過されたものであること、轢過された登が転倒していた地点は道路左側側端から約二・七米の場所であること、本件事故当時、訴外御園弘美(当時六才)が同石橋一とともに本件道路東側すなわち登の歩行していた側を登と反対方向に歩行していたが甲車に接触していないことからすれば、本件事故発生の直前、登ができるかぎり道路の側端に寄つて歩行するか、甲車が背後から接近するのを予知して避譲すれば本件事故を避け得たこと換言すれば登の右不注意が本件事故の一因をなしていることが推定される。もつとも、被害者の過失を斟酌して過失相殺をするについては、当該被害者において事故当時行為の責任を弁識するに足る知能を具えていることまでは必要としないものの、右被害者が事理を弁識するに足る知能を具えていることは必要であると解されるので、この点につき検討するに、登は、昭和三三年九月一八日生まれで、事故当時満五才九カ月の健康な男児であつたことは既に認定したとおりであり、前出甲第一〇号証、成立に争いのない同第二〇号証および原審における被控訴人登石由喜子本人尋問の結果によれば、登は、当時幼稚園児で、事故当日は保護者等に伴われず一人で歯科医へ通院していたし、本件事故遭遇後運び込まれた病院において「自分は道路の端を歩いていたのに轢かれた、自分は悪くないのだ。」と繰り返えし主張していたという事実が認められるのであつて、右事実よりすれば、当時、登は交通の危険を弁識しこれに従つて行動する能力を具えていたものと認めることができる。しかして、本件事故が、甲車を運転していた控訴人猪股の前方不注視という自動車運転者としての基本的な注意義務の懈怠によつて発生したものであることに鑑みるとき、前記登の過失の程度は、被控訴人らの前記損害につき、その一〇パーセントを減ずべき程度であると考えられる。(なお、本件のごとき事故の場合においては、被害者である登自身の過失が斟酌される以上、登の監護義務者たる被控訴人らの過失の有無を審究すべき必要は存しない。)

とすれば、過失相殺の結果、被控訴人保の損害額は二一〇万三四四円、被控訴人由喜子の損害額は一九四万四、〇〇〇円となるところ、被控訴人らの本訴請求中、弁護士費用を除く損害の賠償請求額はいずれも右の範囲内であるから、被控訴人保の二〇四万三、七四一円の請求額および被控訴人由喜子の一八七万二六円の請求額はいずれもこれを認容することができる。

五、(弁護士費用)

成立に争いのない甲第三六号証および原審における被控訴人登石由喜子本人尋問の結果によれば、控訴人らが被控訴人らに対する本件損害賠償債務を任意に履行しないので、被控訴人らは、被控訴人らの訴訟代理人となつた小木貞一弁護士に訴訟の提起と追行を委任し、依頼の目的を達したとき、被控訴人ら主張のとおりの金額の報酬金を支払うべき債務を負つたことが認められ、本件事案が事実上、法律上の問題点を多く包含し、訴訟代理人の活発な訴訟活動を必要としたことおよび前記認定損害額その他本件にあらわれた一切の事情を考慮すると、右の報酬金額のうち、被控訴人保については三二万円、同由喜子については三〇万円が本件事故と相当因果関係にある弁護士費用として被控訴人らの損害にあたるとみるのを相当とする。

よつて、被控訴人らの本訴請求中、弁護士費用に関しては、被控訴人保についてはその請求額である三二万円を、被控訴人由喜子についても右認定額の範囲内である二九万九、二〇〇円の請求額をそれぞれ認容することができる。

六  (結論)

以上よりすれば、控訴人ら各自に対し、被控訴人保において前四、五項の認容額合計二三六万三、七四一円およびそのうち弁護士費用を除いた分につき、被控訴人由喜子において右同様の認容額合計二一六万九、二二六円およびそのうち弁護士費用を除いた分につき、それぞれ、控訴人らに本件訴状が送達された日の翌日であること記録上明らかな昭和四〇年一二月三一日から右各支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める本訴請求は全部これを正当として認容すべきである。

よつて、原判決中被控訴人らの本訴請求の一部を認容した部分の取消を求める控訴人らの本件控訴は理由なきものとして棄却すべく、原判決中本訴請求の一部を棄却した部分を取消して本訴請求中右棄却部分に相当する部分(いずれも控訴人ら各自に対し、被控訴人保において三七万円およびそのうち三一万円に対する昭和四〇年一二月三一日以降その支払ずみまで、被控訴人由喜子において三五万九、二〇〇円およびそのうち三一万円に対する同年同月同日以降その支払ずみまでそれぞれ年五分の割合による金員の支払を求める部分)の認容を求める被控訴人らの本件附帯控訴は理由があるからこれを容れることとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九六条、第八九条、第九三条第一項本文を、仮執行の宣言につき同法第一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 古山宏 裁判官 川添万夫 裁判官 秋元隆男)

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