大判例

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東京高等裁判所 昭和44年(ネ)2950号 判決 1974年10月21日

控訴人(付帯被控訴人)

五明延男

右訴訟代理人

横田真一

被控訴人(付帯控訴人)

福田三雄

右訴訟代理人

相沢岩雄

被控訴人(付帯控訴人)

長野市

右代表者市長

柳原正之

右訴訟代理人

宮沢増三郎

主文

本件控訴を棄却する。

被控訴人らの付帯控訴をいずれも棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とし、付帯控訴に関する費用は、被控訴人らの負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。被控訴人らの請求を棄却する。控訴人に対し、被控訴人らは原判決添付土地目録記載の土地が被控訴人の所有であることを確認する。被控訴人福田は控訴人に対し右目録のうち(一)(二)の土地上に存在する同建物目録記載の建物を収去して、右土地を明け渡し、かつ、昭和三七年七月一日以降明渡しずみに至るまで一か月坪当り三〇円の割合による損害金を支払え。被控訴人長野市は控訴人に対し、右土地目録の(三)の土地上の物件を収去して右土地を明け渡し、かつ、昭和三七年七月一日以降明渡しずみに至るまで、一か月坪当り金二〇円の割合による損害金を支払え。訴訟費用は、第一、二審とも、被控訴人らの負担とする。」との判決ならびに仮執行の宣言を求め、後記の被控訴人らの付帯控訴につき付帯控訴棄却の判決を求めた。

被控訴代理人両名は、主文第一項同旨の判決を求め、付帯控訴として、「原判決中被控訴人ら勝訴部分を除き、その余を取り消す。控訴人は被控訴人福田の代位申請に基づき長浜久二、長浜行定、長浜治子、長浜礼次、長浜靖久、長浜和子、長浜正和のため(持分は長浜久二が三分の一、その余は九分の一あて)前記土地目録の(一)(二)の土地につき売買による所有権移転登記手続をせよ。控訴人は被控訴人長野市の代位申請に基づき長浜久二、長浜行定、長浜治子、長浜礼次、長浜靖久、長浜和子、長浜正和のため(持分は長浜久二が三分の一、その余は九分の一あて)前記土地目録の(三)の土地につき売買による所有権移転登記手続をせよ。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張、証拠関係は、次のとおり付加訂正するほかは、原判決の事実欄に記載のとおりであるから、これを引用する。

控訴代理人は、

一、本件各土地は農地であり、農地法の制約に違反する行為は不法行為であり、被控訴人らの占有は犯罪行為であるから、時効取得の要件を充足しない。

二、被控訴人福田が本件各土地の占有をはじめた当時、右土地が控訴人の所有であることを同被控訴人は知つていたものである。このことは、右土地が控訴人の名義で登記されていることを同被控訴人は知つており、昭和三二年六月以降同被控訴人は控訴人の代理人細井今朝男と右土地の所有権移転登記につき折衝し、名義書換料として一〇万円の支払を申し出ていること等からみて明らかである。

三、仮に同被控訴人が右土地の所有権が控訴人にあることを知つていたものでないとしても、同被控訴人は右土地を自主占有するにつき過失があつたものである。すなわち、不動産の売買にあたつてはその所有権につき登記簿の閲覧ないし土地台帳の確認等をなすべきであるのに、同被控訴人は長浜次良吉の言を信じて同人に所有権があるものと考えたのであり、右閲覧、確認の手続をとらなかつたのであるから、右土地が長浜次良吉の所有であると信じてこれより買い受け、右土地を占有しはじめた同被控訴人の占有には、そのはじめにおいて過失があるというべきである。

と陳述した。

原判決四枚目表九行目の「ところ」を「ところで」と訂正し、同七枚目表八行目の「その旨」を「被告の所有である旨」と訂正する。

<証拠略>

理由

一当裁判所は、当審における新たな主張を加えて本件全資料を検討した結果、被控訴人らの控訴人に対する本訴請求は原判決の認容した限度において理由があり、控訴人の被控訴人らに対する反訴請求は理由がないと判断するが、その理由の詳細は次のとおり訂正付加するほかは、原判決の理由欄に記載のとおりであるから、これを引用する。

二原判決九枚目表九行目の「原告福田三雄」の次に「(第一、二審)」、同行目の「尋問の結果」の次に「第二審の証人窪田盛治の証言、同証言により真正に成立したと認められる甲第一三号証」を各加える。

同裏一〇行目の「同神戸頼長」「同大瀬知男」、同一一行目の「原告福田三雄」の次にそれぞれ「(第一、二審)」、同行目の「被告」の次に「(第一、二審、ただし各一部)」、同行目の「尋問の結果」の次に「第二審の証人加藤栄の証言」を各加える。

同一〇枚目裏一行目の「地目」の前に「登記簿上の」を加え、同一一枚目裏三行目の「右の認定」の前に「右認定に反する第一、二審の控訴本人尋問の結果の各一部は措信せず、第二審の細井今朝男の証言は右認定を左右するものではなく、その他には」を加える。

同一二枚目表三行目の「取得したものというべく」の次に「(昭和四〇年一月以降控訴人が本件各土地の公租公課((固定資産税))を納付しだしたことは前記のとおりであるが、この事実は被控訴人福田ないし松代町の前記時効取得を否定する理由にならないことはいうまでもない。)」を加える。

三<証拠>を総合すれば、本件各土地に隣接する前記同番の二および九の農地の買収・売渡の手続を中心になつて推進した当時の松代町農地委員会の会長窪田盛治は、本件各土地およびこれに隣接する右同番の二および九等につき一筆調査を行なつたが、その調査の結果、本件各土地および同番の二および九は、長浜次良吉が登記簿上の名義人である控訴人から既に買い受けて所有権を取得したものであると関係人等に対する調査に基づいて判断した。そして、長浜次良吉からこれらの土地を自己名義に所有権移転登記をすることにつき相談されたので、右同番の二および九の土地は当時なお現況農地であつたためこれを国が買収して現に耕作していた長浜次良吉に売り渡すことにより同人に特別の手続により所有権移転登記をすることとし、本件各土地は登記簿上は地目が畑(農地)であつたが、現況は工場敷地(宅地)と認められたため、長浜次良吉に対し農地委員会が現況証明書を交付するからこれにより通常の手続により所有権移転登記手続をするよう指示した。そして、被控訴人福田から、本件各土地を買い受けるにつき、登記名義が控訴人になつているが、これらの土地が同人から訴外長浜次良吉に売却され同訴外人の所有であるかにつき聞かれた際にも、同委員長は、右調査結果に基づき、同訴外人の所有であることに間違いない旨答え、また、松代町が控訴人福田から本件各土地のうち前記(三)の土地(原判決添付土地目録(三)の土地)を買い受ける際にも、同町から、登記名義人が控訴人であることから真実の所有者につき問合せがされたとき、右の事情を松代町町長にも説明し納得させたものである。本件各土地は登記簿上地目が畑であつたばかりでなく、その当時の現況宅地部分についても農業施設の付帯施設として付帯買収ができない状態でもなかつたので、同農地委員会としてはその所有権の帰属関係等についてもかなり詳細に調査したものであることが認められる。

なるほど、所有名義について登記の真否を確かめない限り、たとえ善意でこれを取得しても過失なく占有をはじめたということはできない(大判大正五年三月二四日民録二二輯六五七頁)ものというべきであるが、被控訴人福田は本件各土地を訴外長浜次良吉から買い受けるにつき登記簿上の記載を確かめたものと推認されることは、前記認定事実から明らかであり、それ故に、登記簿上の名義人と真実の所有者との関係につき、当時一筆調査により真実を把握していると思われる管轄の農地委員会の委員長に直接確かめ、その結果、本件各土地の所有権は同訴外人にあるとの明確な回答を得、かつ本件各土地の所有権が長浜次良吉ではなく控訴人にある等ということをいう者はいなかつたので、当時控訴人の所在が知れなかつたため、控訴人に直接照会して確認することができない状態にあったため、これが照会等の手続を経ないまま、本件各土地の所有権は訴外長浜次良吉にあるものと信じ、同訴外人から買い受けて昭和二七年三月四日から所有者として占有をはじめたものであることは、前記認定事実から明らかである。

以上のような事情のもとにおいては、被控訴人福田が昭和二七年三月四日本件各土地の占有をはじめた当時自己の所有と信じたことにつき善意でかつ過失がなかつたものというべきである。従つて、この点に関する前記事実欄の三の控訴人の主張は理由がなく、採用できない。

また、本件各土地は前記認定の事実からみて、昭和二七年三月四日当時においても現況農地ではなかつたものと推認されるから、農地法ないし旧自作農創設特別措置法の適用される農地であることを前提とする控訴人の前記事実欄の一の主張も、その余の点について判断するまでもなく理由がなく、採用できない。

被控訴人福田は昭和二七年三月四日本件各土地を長浜次良吉から買い受けることにより自己の所有になつたと信じて右土地の占有をはじめたものであることは前認定のとおりでみるから、これと異なる事実を前提とする前記事実欄の二の控訴人の主張も理由がなく、採用できない。

四そうすれば、被控訴人らの控訴人に対する本訴請求を前記一に記載した限度で認容し、控訴人の被控訴人らに対する反訴請求を棄却した原判決は相当で、控訴人の控訴および被控訴人らの各付帯控訴はいずれも理由がないから、これを棄却すべきである。そこで、訴訟費用の負担につき、民訴法九五条、八九条、九三条を適用し、主文のとおり判決する。

(満田文彦 真船孝允 鈴木重信)

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