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東京高等裁判所 昭和44年(く)484号 決定 1969年12月26日

主文

一、原決定を取り消す。

二、被告人○○○○の保釈を許す。

三、保証金額は金五拾万円とする。右保証金額のうち金拾万円は××××の差し出した保証書を以てこれに代えることを許可する。

四、被告人の住居を東京都○区○○○○丁目○番地××××方に制限する。

五、召喚を受けたときは、必らず定められた日時に出頭しなければならない(出頭できない正当な理由があれば、前もって、その理由を明らかにして、届け出なければならない)。

六、逃げかくれたり、証拠隠滅と思われる行為をしてはならない。

七、三日以上の旅行をする場合には、前もって裁判所に申し出て許しを受けなければならない。

理由

本件抗告の趣意は、検察官畠山惇の抗告及び裁判の執行停止申立書並びに抗告理由補充書に記載されたとおりであるからこれを引用する。

所論は、要するに被告事件は集団犯行であって、その証拠としては共犯者、目撃者たる学生、大学教職員等の証言が主要な証拠となるところ、被告人は三派全学連のうち全共闘会議の議長として多数学生を指導していた者で、今尚影響力の大きい者であるが、原審審理の情況は今日まで三回の公判において漸く検察官の冒頭陳述を終わり、証拠調の請求が行なわれたに止まって、それに対する被告人、弁護人の意見も陳述されていない段階であり、この段階で被告人の保釈を許すときは証人らに圧力を加えるおそれもあり、また被告人は本件犯行後所在をくらまし、漸く昭和四四年三月一二日逮捕されるに至ったものであって、保釈を許された場合には新たな犯行をなすため逃走するおそれもあり、公判期日の出頭も十分な保証がないから原決定が被告人の保釈を許可したのは相当でないというのである。

よって本件抗告事件記録、本案事件記録および勾留関係記録を調査すると、被告事件は、昭和四三年九月四日、東京地方裁判所の仮処分の決定に基づいて警察部隊が日本大学経済学部校舎の占拠を解こうとしたのに対し数十名の学生が共謀の上激しく抵抗し、よってその際警察部隊に死傷者を生じさせるに至ったという事案であって他に起訴されている者もある一連の事件である。原審は、これまで三回の公判を開いているが未だ個々の証拠調は開始されるに至らず、今後警察官のほか教職員、学生等多数の証人尋問が必要とされるであろうことを考えると、右被告事件における被告人の地位から見て被告人はこれら教職員、学生の証言に何らかの影響力を有しないとは保し難い。また被告人は約半年の間逃走をつづけ、その間全共闘系の学生に種々の影響を与えていたことが窺われ、今後もそれら活動のため公判の出廷を怠り、更には逃走するおそれもないとはいえない。被告人の父は○○県に居住し、被告人の公判出頭の確保につき監督の能力が十分あるとはいえない。本件の事案の規模、被告人の果した役等割からみると未だ勾留が不当に長いともいい難い。してみると原決定が現段階において原決定のような条件の下で本件保釈を許可したのは相当でないと思料される。本件抗告は理由がある。

よって刑事訴訟法第四二六条第二項により原決定を取り消した上更に審按するに被告人は今日まで三回の公判期日に出頭しており、また今後も公判に出廷することを誓約した書面及び今後公判を通じて自己の主張を明らかにしたい旨の書面を提出しており、また叔父に当る東京都○区○○○○丁目○番地××××、弁護人後藤昌次郎、同田賀秀一の身柄引受書も提出されたことであるので、主文三乃至七項記載の条件の下に保釈を許可するのが相当と認められるので主文のとおり決定する。

(裁判長判事 遠藤吉彦 判事 青柳文雄 菅間英男)

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